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5話 街に出かけよう


「僕もここで失礼します。本日はお誘いありがとうございます。ベンハルト先輩もまたね」

シエルも軽く挨拶をして、自分の保有する馬車に戻っていった。私達も、馬車に乗り込んだ。ベンハルト様は一緒に乗るのに遠慮していたが、両親が無理やり一緒の馬車に乗り込ませた。



「ラヴィ、少しおかしかったわ」

私は独り言を呟いた。

あの時のラヴェンティの表情が気になった。心配し、私まで不安な表情になった。



「どうかしましたか?フェオドーラ様」

「あ、いえ。ベンハルト様。本日はありがとうございます」

「いえ、何も起こらず何よりです」

「ベンハルト様がいらっしゃってとても心強かったですわ」

「シエルにラヴェンティ様、バルトロメイ様が揃っていたなら必要あったかわからないですが」

「パパは、ビシャモンがいないと強くないと思うのだけど」

「バルトロメイ様は管理司書であられますが、武装司書にも劣らない強さなのですよ」

「うそ!?」

「えっへん。パパは実はちょっとだけ偉いのだぞ」

いつも飄々としているお父様が意外すぎて、私の顎が外れそうだった。小さい頃はよく家にいることが多かったし、管理司書の中でも窓際族と言うやつかと思っていた。



「…伏せろ!」

その言葉と同時にお父様は私とお母様を抱きとめた。ベンハルト様はすぐさま反応し、魔力を増幅させ対応できるようにする。


数秒間、私たちはその状態のまま固まった。お父様は、『星を詠んだ』のだ。そして、数秒後に何か起こることを詠んだのだ。


馬車は揺れ、その数秒後、従者が倒れる音と、馬車が崩れていく音がした。馬車の天井が崩壊し、私たちに破片が飛んでくる。その時理解した。私たちは奇襲されているのだと。


「フェンリル!」

ベンハルト様の言葉とともに、銀色の美しい毛並みの巨大な狼が現れた。フェンリルと呼ばれた狼はお父様の襟を引っ張ろうとした。「バルトロメイ様は、そのまま二人を抱きとめてください」とベンハルト様は指示をし、引っ張りあげられたお父様に抱きかかえられている私たちは一瞬で馬車の頭上にでた。そのまま、フェンリルは垂直に飛び、私たちは3人引っ張られる形で空中にいる。下を見る余裕ができ、馬車が下に見えた瞬間、馬車は無数の槍で串刺しになった。


「ベンハルト様!」

私が叫ぶと、大きな銀色の狼が喉を鳴らした。「あいつはこの程度では死なぬ」と狼が喋った。

「ベンハルトくんの聖霊か。う〜ん。立派な聖霊を使役しているなぁ」

聖霊は、人の形だけではなく、狼といった動物の形を持つ。蟻の聖霊などもいる。


「パパ、お願い。ベンハルト様を助けて!」

非力な私は父に頼むことしかできなかった。


「そうだね、すまないがフェンリル。俺を降ろしてくれないか」

「否、あいつの命令でこのまま屋敷に返すように言われている。できない」

放物線の頂点になり、一瞬止まり、私たちはまた急降下をする。


急降下したまま私はもう一度頼む

「ダメです。彼を一人にしてはおけません!」

お父様は何かを考えたあと「わかった」といった。

「パパ、それだったら…!」

「俺たちはそのまま帰る。狙われているのはドーラだ、俺が今ドーラから離れる訳にはいかない。ビシャモンのいる屋敷にかえるべきだ」


「それだったら」


私は思いっきりお父様の腕を噛んだ。「しまった!」そう言った時はすでに時は遅く、私は串刺しの馬車に向かって急降下で落ちている。

「私が、ここに留まればパパは、ここにいるのでしょ!ならここにいるわ!」

落ちながら私は叫ぶ。



「アホなのか、うぬの娘は」

「アホです。フェンリルすまないが、俺も降ろしてくれ。エレーナを頼めるか?」

「あら、私も降りますわ。心配ですもの」

「アホなのか、うぬの妻は」

「あーもう!困りものだよ!ビシャモンを呼ぶ。エレーナは私とビシャモンの代わりに館を守ってくれ」

「かしこまりました。旦那様。アンズー。私を運んでください。」

獅子に羽の生えた風貌の聖霊をエレーナは出した。「この子可愛いけど、乗るとお尻が痛いのよね」と文句を言うと「お嬢勘弁して下さい」とアンズーと言われた聖霊は困り顔をした。アンズーの背中に飛び乗りエレーナは館に向かった。


「ああぁ!こうしている間にドーラが!」

最愛の娘が、下に急降下する。ビシャモンを読んでも数秒かかる。フェオドーラならちょっとした浮遊魔法はできるだろうが、それが咄嗟に出せるかが問題だ。「我も間に合わぬ」とフェンリルは諦めている。こちらがフェオドーラに浮遊魔法をかけるには射程範囲から離れている。娘が自身で出すしか道はなかった。


フェンリルとともに急降下し、射程範囲にフェオドーラが入るように手を伸ばす。ダメだと思った瞬間、フェオドーラは重力に逆らうように浮いた。助かったと、バルトロメイは安堵する。


そしてフェオドーラは、自分が浮いたことに()()()()していた。浮遊魔法をかけようと思っていたが、かける前に自分が浮いたのだ。つまりは、私以外の誰かが、私に浮遊魔法をかけたことになる。「えぇ!」とびっくりしている間に自分の体は思いもよらぬ方向に向かった。


もしかして、奇襲した賊にかけられたと言う可能性を察知した。自分の身を守らなければと、魔力を増幅させ、魔法を使う準備をした。


すると体は、覚えのある香りに包まれた。あ、バラの香り。これは……

「ラヴィ」

「お前はヴァカだ。底なしのバカだ」

ラヴェンティは私をお姫様抱っこと言われる形で抱きとめている。「それは否めないわ」と一応自分が考えなしの行動だったことを肯定する。

「でも何もなくて本当に良かった。お前で無事で、本当に…」

「でも、どうしてここに?」

「星詠みだ。お前が危険な目にあうってことだけわかって追いかけてきた」

お姫様抱っこのまま、ラヴェンティの首に回した腕を使って、ぎゅっと抱きしめる。ラヴェンティは咳払いをして、「お前がいなくなったら、婚約者を探すのめんどいしな」と付け加えた。

「素直じゃないわね」そう言って私は笑った。



「ちょっと、茶番は後です。狙われているのは理解しているのですか」

「ベンハルト様!ご無事で何よりです」

私は、ラヴェンティの腕からするりと抜け出し、ベンハルト様の元に向かった。腕からは血を流している。すぐさま私は治癒魔法をかけた。

「ベンハルト様、賊は?」

私が聞くとベンハルト様は怪訝な顔をする。

「攻撃を仕掛けてきたのはいいですけど、それ以降動きがありません。周囲を警戒しているのですが」



すると頭上から、お父様と、フェンリルが降りてきた。ビシャモンもお父様の隣にいた。

「君たちの茶番の間に片そうと思ったけど、もう何者かにやられていた」

「この一瞬で?」ベンハルト様は、もっと周囲を警戒する。そして、何かを察知し、手元にあったナイフでその方角にナイフを投げた。


すると暗闇から、仮面を被った道化師のような人がそこに立っていた。マントを羽織っており、仮面は不気味に笑った表情をしており、姿からは男なのか女なのかもわからない。道化師はナイフを床に落とした。


「警戒するでない。ワシは味方だ」


その道化師の不気味な風貌とは裏腹に、少女のような澄んだ声がその場に響いた。「ったく、坊は、本当に聖霊使いが荒いのう」とブツブツ文句を言っている。ベンハルト様は警戒を解かずに問いかけた、

「何者だ」

「見ての通り、聖霊じゃが?」

「誰のだ」

「言えぬ」

「『()()』」



その場がこおりついた。私は『何かを言わないと』という気持ちにかられる。


そう、今ベンハルト様は『言霊』を使った。

これは魔法の一種で、言葉に魔力をのせ、発する事でそのものをその言葉通りに服従させるという魔法だ。しかし、この魔法は少し複雑で、必ずしも誰にでも聞くわけではない。例えば、聖霊が主人に対して『言霊』は使えないし、魔力を弱い者が魔力を強い者、支配されている者が支配している者、には使えない。そして、真名を知っているとこの魔法は強く発揮する。


「ワシには『言霊』は効かんよ。ワシとお主では格が違いすぎる。…そもそも!命の恩人に向かって言霊を使うとはなんと無礼な者じゃ」

「お前がいなくても、俺だけで賊を倒せた」

「まぁ、確かにそうじゃが。というか、ワシは怪しい者ではない!」


「「………」」


「なんじゃ」

「どう見ても怪しい」

ベンハルト様は私たちの言葉を代弁した。本当にこの道化師は怪しい。そして、戦闘態勢を取ろうとする。

「やめておけ、小僧。あいつはお前のかなう相手じゃない。もちろんワシらが束になってもあいつには敵わない」と、フェンリルがベンハルト様を制した。

「利口な聖霊を持ったのう。この銀色狼に感謝せい。さ、ワシは目的も果たしたし帰るとするかのう」


「どうします?旦那様」

ビシャモンはお父様に指示を仰いだ。「敵ではない。放っておけ」と小声で返事をバルトロメイはする。


「そう言えば一人足らんな。あの小僧はどこ言ったのじゃ?あの黒髪の」

「シエルのこと…?」

わたしは思わず声を漏らした。「そうじゃ。シエルと呼ばれておったな。そやつ死んではおらぬよな?死んでおったらワシが坊にどやされる」

「シエルはこの場にはいませんでした」

「そうか、よかったわい!では達者でな」

そう言って道化師はこの場から一瞬で消えた。嵐のような瞬間だった。


「どうやら、今日ずっとあのピエロに付けられていたみたいだね」

お父様は肩をすくめた。そう、シエルを知っているということは今日ずっと付けられていたのだ。

「ベンハルトくん以外の武装司書の聖霊、ってわけでもないな」

「はい、フェンリルが俺を制するほど強い聖霊を持っている武装司書は知りません。それか隠し持っているかの二択です。しかもあのレベルを扱えるのは俺の知っている限り、司書隊ではレインホンド以外いません。多分、武装司書以外の誰かです」

「うーん。まぁ何となく想像できたけど悪い人じゃないし、いっか!」

「いいんですか!?」

「うん。味方だと思うよ。あの聖霊は。でも、味方でよかった。あれがドーラの命を狙う者だったら守りきれなかった」


私の命を狙う者?その言い方に何か引っかかった。私は命を狙われるようなことをしたのか?唯のエル様とのダンスで?

「お父様、私は命を狙われているのですか?」


お父様はしまったという顔をして私と向き合った。

「ごめん言うべきだったね。リュシルの信仰を担っているのは図書会ということは知っているね?」

「えぇ。もちろん」


リュシル信仰、宗教のようなものの運営や教会の役割をしているのは図書会である。リュシル信仰のあるものは図書会を神聖なものとしている。


「信仰者の中にはね、親光派と言われる、リュシル様を深く信仰し、その信仰がエル様まで及ぶ信仰派の人たちがいる」

「はい、存じております」


「今回、ダンスの件で脅迫文まで届いてしまったね、それは親光派の人たちの仕業だ。親光派の人たちは過激でね、エル様を汚すものは全て排除しようとする。シルメリア嬢がエル様とのご婚約が決まった時はこんな風によく命を狙われていた。だから、武装司書のルシオくんがことあるごとに護衛している。今回、ダンスの件でよくないゴシップが流れたね、それで親光派の人たちがフェオドーラを敵とみなしてしまったのだよ」


辻褄があった。私一人という小娘に、武装司書がついたこと。シルメリア様にずっと武装司書のルシオ様がついていること。今回のお出かけにお父様がラヴェンティとシエルを付き添わせたのも保険だった事が理解できた。


「そしてもう一つ知ってほしいことがある」

「はい、お父様」

「堅光派は知っているかい?」

「ええ」


堅光派は、リュシル様を絶対視している最近できた信仰派ということは知っていた。新光派から派生したもので、二つの違いやなぜ派生したかわかっていない。


「堅光派は元を辿れば新光派だが、決定的に違うことがある、それは生まれ変わりのエル様を信じるか信じないかだ」

「どういうことですか?」

「堅光派はね、リュシルを絶対視する故、リュシル以外を信仰しない。そして、生まれ変わりとされているエル様を、リュシルを名乗るまがい物として排除しようとしている」


全くその話は知らなかった。エル様は日々危険に身を晒されて生きてきたのだ。


「パパ、でも、どうしてその話を私に?」

「お前は知っておくべき人間だからだ」

「私が?なぜ?」

「ごめん、今は言えない。だが、必ず話すと約束する」

「わかった。信じて待ちます」

お父様は私に嘘をつくときもあるが、それは私のことを思って嘘をつくときだ。私のことを思っていることに変わりは無いのだ。



***********


私たちの馬車は大破してしまい、ラヴェンティの馬車で私たちは帰ることにした。


「ラヴェンティ、きてくれてありがとう。ベンハルト様もありがとうございます」

「フェオドーラ様がご無事で何よりです」

「ベンハルト様たちのおかげです。お怪我も追わせてしまいましたね、申し訳ありません」

「とんでもない。責務を果たしたまで。フェオドーラ様は治癒魔法が上手ですね。前よりも腕が丈夫になった気がします」

「司書の方に褒められるとお世辞でも嬉しいです」


馬車は大きく揺れる。私は隣にいるラヴェンティに寄っ掛かる形になる。

「わっ、ごめん」

また、ラヴェンティのバラの香水の香りがした。

「この香りは私を安心させるわ。小さい頃からずっと知っているからかしら」

「お前は昔からこの香りが好きだよな」

「そうね、ずっと昔から好きだわ」


すると、ラヴェンティは大きく息を吸った。そしてゆっくり吐いて、こちらに体を向けた。

「フェオドーラ、あの」

「どうしたの?改まって」

「これを、お前に」


そう言って小さい箱と少し重たい箱、二つを私に渡し、「開けて欲しい」と頼んだ。

私は、まず初めに小さい箱から丁寧に包みを開ける。箱の中には、小さい青い宝石をあしらったイヤリングがあった。

「素敵、ありがとう。私には勿体無いわ」

「勿体無くなんか…ねぇ」

ふとラヴェンティを見ると、真剣に、少しだけ頬を赤らめて、私をまっすぐに見つめていた。彼は本当に「勿体無くなんか無い」と言っているように聞こえた。


「ありがとう」

その言葉を素直に受け取った。

「シエルのアクセサリーには劣ると思うけど」と、ラヴェンティは言った。

「そんなこと言わないで、私にとってどちらも同じくらい価値のあるものよ。比べたりなんかできないわ」

「そうだな、お前ならそういうと思ったよ」

「一生大切にするわ。もう一つ開けていいかしら?」

「おう」

大きな方の箱を開けると、そこには私が前々から欲しいと言っていた小説が入っていた。


「覚えていてくれたのね」

「あぁ」

「ありがとう、その気持ちだけで嬉しいわ」

私は本をぎゅっと抱きしめた。ラヴェンティが私を想いながら買ってくれたことが嬉しかった。


「私、ラヴィの婚約者でよかった。ラヴィの婚約者はこんなにも幸せ者なのね」

「それは…」

「ん?」

「いや、その時になったら言う」

「ケチね、今でもいいじゃ無い」

「嫌だね」


私たちの会話をせき止めるように大きな咳払いが聞こえた。

「俺の存在を忘れてもらっては困る、二人とも」

「べ、ベンハルト様」

「二人が仲良くてよかった」

「それはどうも」

ラヴェンティはぶっきらぼうに返事をした。


「パパも忘れては困るよ」

「ごめんなさい、完全に失念していたわ」

「いや、失念って存在忘れちゃってる。もう、ドーラったら。いやぁ、でも、本命レース暫定一位はラヴェンティくんだね」


「いいえ」


「え!?」

「今日ずっと言おうと思っていたけど………私の本命はパパよ」

「ドーラぁ!もう渡さない、誰にも!…でも一つだけ約束してくれるかい?」

そう言って私をお父様は私を強く抱きしめた。


「うん」

「もう自ら危険な目にあおうとしないでくれる、と」

「…それは出来ないわ」

「ドーラ!」

「私は、お父様もラヴィもベンハルト様も大好き、好きな人が危険な目にあっているなら私はこれからずっと助け続け身を投じるわ……だから一緒に解決していくのじゃダメ?パパ」

「パパが頼りないかい?」

「違う、頼っているわ。パパ以上に頼り甲斐のある男性なんていない。でも、どんなに信頼していても私は助けたいと持ってしまう。本当に大好きなの、パパのことが、絶対に失うことだけはしたくないわ」


お父様はしばらく手を口元に当て考えた。私のこの()()()()()()の原因がわかっているからだ。


「わかったドーラがしたいようにすれば良い。俺は自分の限りを尽くして自分とドーラの身を守ると誓うよ、リュシルにかけてね」

「パパ…!」


私は薄ら涙を浮かべながらさらに強く抱きしめる。私が、父親離れするのはその先だ。


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