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2話 実家は最高

「実家は素晴らしいわ。ねぇ、リリィ」

「はい、お嬢様」

「噂なんて無縁だし、()()()()()もいないもの」

「はい、お嬢様」



私は、部屋着でベッドの上に大の字になって倒れ込んだ。侍女のリリィは、無愛想だが優しい女性で、私が小さい頃から世話をしてもらっている。私の意味のない言葉には「はい、お嬢様」としか答えないことを除けば、仕事ぶりはパーフェクトだ。


卒業プラムが終わり、学期修了した私は、長い夏休みに実家に帰っていた。リルケ魔法学園は全寮制のため、このような長期休みでしか実家に帰る機会がない。


ちなみに、あの卒業プラムの後、学園内では私とエル様の話で持ちきりだった。そしてその噂は学園内にはとどまらずに世間まで影響し、ゴシップ誌に載るほどだった。まさかこんな形でゴシップ誌デビューするとは思わなかった。『次期国王の愛人候補は、某名家の婚約者か!?』なんて見出しで私のモザイクかかったパパラッチ写真が写っていたのだ。それほど、シルメリア様一筋で、シルメリア様以外の女性と関わろうとしなかったエル様が私を誘ったのが衝撃だったのと、世間がゴシップに飢えていたため(多分これが大部分の理由)私が標的になってしまったのだ。


昨日なんて、街に出かけようとしたらパパラッチにつけられているし、視線が集まるでお買い物どころじゃなかった。あの日以来私の生活に平穏が訪れない。


もう少し、このゴシップがここまで有名になった話をしよう。世間がゴシップに飢えていたとうこともあるが、エル様は歴代の王子の中で最も有名であることも原因の一つだ。世間は、エル様の行動一つ一つに注目しているのだ。そしてその理由だが、『()()()()()()()()()()()()()()()()()』ということだ。


エル様が、リュシル様の生まれ変わりという話だが、それがわかったのはエル様が生まれる三ヶ月前、星詠み師が一斉に予知をした…「三ヶ月後に神子リュシルの生まれ変わりが、王子として生まれる」と。リュシル様は、魔力・知識・星詠みが秀でていたとの話はしたと思うが、魔力に関しては人の能力の範囲を超えていたのだ。一説によれば「数千人が束になってもリュシルには敵わない」と言われている。彼女は、一生涯を城内で過ごした。彼女の魔力に体が耐えられなかったためだ。彼女は体を保つために治癒魔法を受けながら生活していたのだ。そして、エル様が女王様の体から取り出された時、体が溶け出したと言われている。そう、彼の魔力に体が耐えられなかったのだ。そしてすぐさま治癒魔法をかけエル様の体を元どおりにした。その瞬間、国王は彼がリュシルの生まれ変わりだと確信した。そして国民に、リュシルの生まれ変わりが生まれたと高らかに宣言した。


この国はリュシル様を信仰している人が多く、国民は「リュシル様が生まれ変わった瞬間」と、歓喜に包まれた。国民のほとんどがエル様の行動を注目しているのだ。


リュシル様の信仰が厚い人は、エル様に対して過激擁護派もおり、あの騒動以来実家に脅迫文が送られてきたことがある。流石にお父様はそれに激怒し、国家憲兵に連絡しすぐに犯人が捕まった。


少し長くなったが、私とエル様のダンスがここまで騒がれた原因だ。


「んー!じっとしているのは性に合わないわね、リリィ、運動着を出してもらえる?」

「かしこまりました」

「ありがと。後、ビシャモンは今日おうちにいるかしら?」

「旦那様がいらっしゃるので、いると思います」


ビシャモンとはお父様の『眷属』で、『聖霊』である。



『聖霊』とは、肉体を持たないが魔力のある魂だけの存在である。聖霊は、基本的には肉体を持たないため普通の人間には見えない。しかし、例外的に見える聖霊がおり、人間と『眷属』の契約をしているか、膨大の魔力を保有できる聖霊だ。前者は、『眷属』の契約は、人間が聖霊の体現できる核として、また、人間が魔力を供給するという契約で、聖霊は契約した人間に従属することで体現する。後者は、体現する核として人間以外で体現しているもの(アクセサリーなど存在して触れられるモノ)と契約を交わし、自分の魔力だけで体現する。


聖霊が体現する、つまりは、肉体を得るためにはこの世に存在するものを核としなくてはいけないのが必要条件で、存在するには膨大の魔力が必要なため自分で賄うか、人間からもらうかの二択だ。


『眷属』とは、今説明した通り、従属する魔法契約の総称である。例えば、人間同士でも眷属の魔法契約は可能であり、この場合は、人間が主人である人間に使役される、という魔法契約になる。


ビシャモンはお父様を核として現在に肉体を得ている『聖霊』であり、お父様に使役される『眷属』でもあるのだ。


ちなみに、エル様も聖霊の姿を見せたことはないが、眷属として使役している。よく魔法の実技で姿は表していないものの聖霊が魔法を使っている場面を見たことがあった。ラヴェンティも聖霊と眷属の契約をしいる。私は、いまだに誰とも眷属の契約を交わしていない。


この国の神子でもある、リュシル様も聖霊を使役していたというのも有名だ。その聖霊は、『聖杯』と言われ今もこの国のどこかでリュシル様による封印魔法が永続的にかかったままらしい。一説によると選ばれたものでしか『聖杯』を解放することができないため封印されたままなのだ。




*******




「ビーシャーモーン!」

「お嬢!今日も元気ですなぁ」


ビシャモンは屈強な筋肉質のおじさんの風貌だ。ビシャモンは体術に関して特化している聖霊で、私は小さい頃から武道を教えてもらっている。


「組手しましょ、ビシャモン。手加減したら怒るから」

「ほほっ、お手柔らかに」

「お願いします!師匠」


ビシャモンと組手を始める。ものの数十秒で私は空を向く形で倒れている。何度も立ち上がっても、私はビシャモンによって倒されてしまう。


「あぁ!ビシャモン強すぎるよ」

「お嬢も大分強くなりましたよ。私が強いだけで」


ビシャモンは私の手を引っ張って私を起こした。


「ドーラ、俺とも組手するかい?」

「パパ!もちろん」


私とビシャモンとの組手を見ていたお父様は、シャツの袖をまくりながら歩いてきた。「久々の組手だ」と言いながら肩を回す。


お父様は、フォクスラークの碧と言われる瞳にアッシュブロンドの髪、つまりはフォクスラーク王家の血筋を引く。というのも、私のひいおじいちゃん(父のおじいちゃん)が先先代の国王なのだ。つまりは現国王とお父様はいとこ同士で私とエル様ははとこ同士である。私に受け継がれたのはお父様のフォクスラークの碧の瞳と元王女であるひいおばあちゃん譲りの亜麻色の髪だ。


父と組手をすると一瞬で、私は宙に浮いた。そして尻餅をつく。


「ビシャモン!手加減していたでしょ!?」

「ドーラ、パパの美しい武術には感想なしかい?」

「パパはいつも通りよ。それよりもビシャモン!手加減しないって言ったじゃない」

「えぇ〜それだけ」


ビシャモンよりもお父様が強いなんてありえないのだ。ビシャモンとでは数十秒でも組手が成立していたのに、私が一瞬でお父様にやられるということはビシャモンが手加減をしていたということになる。


「ドーラの武術はまだまだってことだよ。ビシャモンが手加減しないと組手が成り立たないのさ」

「悔しすぎる…」

「さ、パパと組手がちょうどいいよ。しようじゃないか」

「なんか悔しいけど、お願いします」


そういってお父様と組手をする。


「そういえば、エル様とダンスをしたんだって?」

「…うん」

「そうなのかぁ。愛人になるのかい?」

「愛人って!」


実の娘に言う言葉ですか!?お父様!

そして気を抜いたらまたお父様に一本取られた。


「四角関係だね、ドーラ。パパはドキドキしちゃうよ」

「パパがドキドキすることでは無いし、四角関係でも無いわ」

「パパもママと出会う前はいろんな色恋があったものだよ。でも思い返すと、どの女性も素敵だったが、俺にとってママが一番魅力的で一番愛している」


お父様お得意のお母様惚気の時間だ。その話が始まると永遠に語りかけてくる。


「そういえば、来週誕生日だね」

「えぇ、は?…うん」


いけない、いけない、うっかり自動相槌モードに入るところだった。


「誕生日は、今年もエル様の誕生日パーティに行くけどいいかい?」

「毎年のことだし構わないわ」


なんの縁なのか私とエル様の誕生日は一緒だ。なので、毎年私の誕生日は王族であるエル様優先で、王宮で開かれる誕生パーティに参加している。私の誕生パーティだが、一週間後とかに、私があまり派手なのを好まないので、ラヴェンティとシエルを呼んで家族と一緒にお食事をするだけで済ませている。


エル様と初めてあったのは、そのパーティだった。私たちが10歳の頃であった。私はエル様を見た瞬間、おとぎ話の王子様が絵本から出てきた!と思ったものだ。そして、エル様に開口一番「どこかであったことありますか?」と聞いてしまった。私はその時のことを覚えているが、そう()()()()()()()()()()気がしたのだ。両親はその時絶句したらしい、娘が王子相手にしかも神子の生まれ変わりと言われている少年に『口説き文句を』言ったのだから。エル様に笑い()()をさせるまで大爆笑をさせ、ことなきを得たが、私はそのあと数年そのことでシエルとお父様に弄られることになる。


「またエル様に口説き文句言わないでね」

「もう!パパったら。昔の話です、それは」

「あと、ドーラにプレゼントがあるんだ」


父は、指を鳴らして自分の手元に白いドレスを具現化させた。


「なかなかドレスを仕立ててあげられずにごめんな」


そう行って父はドレスを私に渡した。そのドレスは、白をベースの光沢がある生地にラメが施されている。光に当たると生地はキラキラと輝いていた。シンプルなデザインだが、それが生地の美しさを引き立てていた。こんな小娘でもわかるくらいにこのドレスは相当高かったのだろうと理解できる。


私はすぐさまお父様に抱きついた。

「パパぁ…。無理させてごめんなさい。私はパパとママがいればいいのに無理させて…」

「ドーラ、謝らないで。いつも我慢させているのに、こうやって俺たちを必要としてくれて嬉しいよ」

「我慢なんかしてないわ、本当よ。今の生活で満足しているの」

「ドーラは本当に優しい子だね。父親として鼻が高いよ」

「私もパパとママは自慢の両親よ」

「………本当にパパの子と思えないほどだ」

「パパ、そんな風に寂しいこと言わないで」

お父様をみると、すごく切なそうに私を見つめている。そんな私に一抹の不安が生まれる。


「ごめん」

「パパは謝ってばっかりじゃない」

なぜだが、お父様に突き放されそうな気がした。私はその分もっと強くお父様に抱きついた。


「これ以上なんて望まないから、お願いだから……離れていこうとしないで」

言うつもりのない本音が出てしまった。しまったと言う顔をしてしまう。お父様は私の表情をみて、優しく頭を撫でた。


「不安にさせてごめんな」


「ごほん」

「わぁ!ビシャモン」

「旦那様、可愛い一人娘を寂しがらせてはなりませんよ」

「いやぁ不甲斐ないなぁ」

「パパは世界一のパパよ」

「ドーラ…愛している。ドーラが良ければ、護衛をたくさんつけて街にでも出かけるかい?」

「パパと?行きたいわ!ママも誘わない?」

「そうだね、久々に家族で出かけようか」


私は、お父様と手を繋いで屋敷へと戻った。


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