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生存戦略、始めます 前

 舞台は剣と魔法のファンタジー世界。

 恋愛シミュレーション、ストラテジー系ロールプレイングゲーム、『蒼穹のラビリンス』。

 選択肢によって千差万別にストーリーと結末が変わっていき、恋愛シミュレーションと銘打たれているのか疑うほどにストラテジーの要素が作りこまれた、コアなファンに好まれ支持された結果、何作もシリーズを出したゲームでもある。


 とかく。この世界には大きくわけて二つの人類種がいる。

 人ならざるものと血を混ぜ合わせた者たち――魔性と、そうではないただの人間。

 その二つが交わり、しかし決裂した世界。

 人間たちが魔性の優位性を妬み、引きずり降ろさんと画策し――ついには、世界を巻き込み全面戦争にまで発展してしまった世界で。

 歴代の主人公たちは世界の影にある陰謀を打ち砕き、再び魔性と人とを繋がんとする物語。


 そして、魔性の世界を統治するのはエーデルヴァルト帝国が皇帝、エルンスト=カーティス・フォン・ツェントルム・エーデルヴァルト。

 すなわち、ローザリンデ=アーデルハイト・フォン・ジルヴェスター・ツェントルムの従兄であり、生まれながらにローザリンデの将来の伴侶と定められたひとである。


 しかし、エルンストとローザリンデは結ばれない。

 歪められた教義を信奉せしマリーア教団の思惑によって、ローザリンデは皇太子妃の儀式を受ける前に洗脳され、皇族としての名を捨ててアーデルハイト・ジルヴェスターとして生き。

 エルンストを人に仇成す者として狂わせるためだけに、彼女は命を落としてしまうのだ。

 かつて、世界を創った竜神と交わったとされるエーデルヴァルトの先祖は現代に至るまで長命で、思慮深く、温厚な性質である。

 種族は違えど同じ人の姿を持つ者らを統べるに博識で、代々麗しき姿を持つ彼らは尊ばれたのだ。

 しかし、百年、二百年ならばまだよかった。

 時を重ねて五百、千を超えて幾瀬と続いていく内に。

 変わらぬ権力の椅子に座るものらを押し除け上に立ちたいと野望を抱いたものらがいた。

 その者たちは雌伏を重ね、やがては世界で信奉されていた宗教を乗っ取り。マリーア教団として国を作った。

 エーデルヴァルトはこれを拒まなかった。

 争いがなければそれで良いと歓迎さえしてしまったのだ。


 けれども、国境とは何を持ってして生まれるのか。

 歴史を紐解けば容易なるものも、当時のエーデルヴァルトたちは気が付かなかった。

 温厚なる彼らは争いを嫌悪し、遠ざけてすらいたからだろう。

 争いがあるからこそ生まれる境界線であることに気が付いたのは、魔性と人が決裂する寸前。

 奇しくも、人間の一生よりも長く。

 何代もの人々が妄執の末に作り上げた奸計が、魔性たちの頂点に立つ皇族の姫君、ローザリンデを取り込んでしまったことによる――。


 ゆえに彼女はいくつもの呼び名がある。

 虚構の皇女。

 哀れなる戦姫。

 永久凍土(エルンスト)に春を呼ぶ、至上の青薔薇(りそうのおとめ)


 ――なんてものに、代わってしまったのだ。


 まさか自分が、という思いが強かった。科学で照明できないことはない……とまでは言わないが、神秘という神秘は解明されつつあり、人工知能に仕事を奪われるとまで言わせたご時世に。

 死んだら生まれ変わるだなんてことが物語の、作りだされた話の中でしかない空想だとさえ思っていたのだ。

 そしてそれを読んで楽しむ側であったはずの自分が、と。

 にわかには信じがたいことであるのだが。

 体感的には一時間も経っていない、人違いで刺されて殺されるわけのわからない体験よりもよほど生命の危機を感じて仕方なかった。


(嘘だと言ってよ、バー……うん。これ以上はいけない)


 現実逃避を試みようが、痛む肺はそのままであるし、火傷を負ってもいたのだろう。

 ちりちりとした鈍痛が冷たい風にさらされ、あちこちが沁みて思考に波を打たせる。

 これが現実のものであるのだと、ローザリンデに成り代わった自分に訴えかけるのだ。

 それで、どうすれば良いだろうか。

 状況的にはどう考えても、先ほどまでプレイしていただろうゲームのものに相違ないだろう。

 であればこそ、成り代わってしまっただろうキャラが問題だった。

 自身で開拓したルートも攻略サイトも公式本でも、ローザリンデはシナリオ開始時点でほぼ死んでいる。

 作中で唯一生きていたのはマリーア教団の総本山を壊滅させる第三作の裏側にある外伝。

 だがそれも、最終的に教団が悪事を暴かれた口封じと『魔王』を誕生させるための贄としてローザリンデを亡き者にしているため当てにはならない。


(システム的に必ず処理されてる……けれど、どこかに(バグ)はあるはず……)


 完璧なシステムはない。

 限りなくそれに近づけ、装うことはできても。

 それを示唆するのは、最重要キャラであるはずのお兄様(エルンスト)に相手がいないからだ。

 シリーズを通して、攻略できないキャラには必ず相手がいた。

 稀に相手がいても攻略できるキャラもいるにはいるのであるが……お兄様(エルンスト)だけは未だに結ばれる相手がいないのだ。


(……それがわかるかもしれなかったのが、新作だったのに。ああ、本当に、最後までプレイできなかったのが悔しい……!)


 嘆いていても仕方がない。

 それに、見つけたかもしれなかった。

 真っ先に排除してしまいたい可能性でもあるのだけれど。

 どのような因果か運命か、それとも神様のいたずらか。

 どちらせよ関わり合いになりたくないレベルだが、それに関わってしまったがゆえに、こうして二度目を生きているのだ。

 これを喜ばずしてなんとする。

 与えられた機会を棒にふるうには、未練がありすぎた。


 ――二度と、手に入らないものも充分あるだろうけれど。



(推しが愛する人と幸せになっているのを眺めていたい人生だったなぁ……)


 背に腹はかえられない。

 恋に恋する歳は過ぎ去っていたし、推しは好きだが付き合いたいとは微塵も思っていなかったのだが。

 推しを幸せにできる人物が、ローザリンデ(わたし)しかいないのが事実である。

 どのシリーズでもエルンストとローザリンデは決別していた。

 だからここでお兄様を拒絶すれば待っているのはどうあがいても最終的に行き着くエンドはタイムリミット付きのバッド・エンド。

 つまるところは、もう一度死に行くことに他ならない。

 生き残る道はおそらくただ一つ。


 ――お兄様と、結婚するしかない。


 それが後に起こることが確定していた、世界を巻き込んでの全面戦争を回避するための策となるのであれば、喜んで受け入れよう。

 公共の利益のために、喜んで死……ねなかった。

 名探偵は紙面の上だけで活躍するに限る。


 さあ。生存戦略、しましょうか。


 口を抑えていた手をゆっくり外して、言葉を紡ぐ。

 薔薇(ローザリンデ)は捨てない。

 英雄(アーデルハイト)にもならない。

 敬愛するお兄様と一緒に、同じ場所へと帰るために!



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