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マリッジがブルーのようです。

 ――極致魔法を使ってみたい。


 そんな野望のような目標のようなものを実践し始めてから、日を追うごとに。

 エルンストから受けた支援は、最初に与えられた場所どころか人材まで増え始めて密度を増した。

 その頃には試したい新しいことや、見出したものについて検証したいことが降り積もって一山が築かれてしまうほど。

 エルンストから受けた命により、忙しくしていたディアナの手が漸く空いたのを見計らって。

 既にまとめ役のようになっていたユルゲンと共に、ローザリンデの元へと集まった人たちに適宜作業を割り振ってくれている。

 ローザリンデでなくてもできることは積極的にやってもらって、こちらの手を空けないと新しいことなんてできない。

 大変助かる支援を振り返ればわかる。

 エルンストは恐らく、ローザリンデが陥ってしまうだろう状況を見越していたのだろう。


 流石はおにいさま。


 湧き上がる賛辞と共に、組み立てた理論と実験結果を持って簡単な道具製作を始めたところ。

 忙しいエルンストに代わり、様子を見に来ていたフェリクスの目に留まったらしく、いくつか持って行っていかせて欲しいとお願いされたので頷いている。

 ここに来たユルゲン以外の新しい魔術師たちはもうできることであったし、実験替わりに離宮の一部で使い始めてもいたので見本以外の何物でもない。

 すぐに作れることもあったし、エルンストの側近中の側近だとゲーム知識で知っていたので拒む理由もなかったので。

 そうこうしているうちにまた幾日か経った。技術は日進月歩と言うが、それでもまだ、ローザリンデがやっていることは基礎に過ぎない。

 好き勝手、手足のように扱うにはまだ時間が足りていない。

 そんな中へフェリクス他、数人の事務官が離宮へとやってきて、ユルゲンと魔術師たちに話を聞いている。

 ローザリンデには少しだけ挨拶を受けたが、ディアナから続きをして構わないことを受けてそのまま作業に戻っていた。

 何かに突き動かされるように、なんてよく言ったもので。とにかくやってしまわなければ、と思っていたのは確かだ。


「姫殿下、お時間をよろしいでしょうか?」

「えーと……はい、大丈夫です」


 どれくらい作業に没頭していたのか。

 時計を探して――時間の概念は前世と変わりないので助かっている――、ぐるりと短針が一回りはしていたらしい。

 終わりかけていた手元の作業を最後までやりきり、声が掛かった方へと顔を向けた。

 声をかけたのはユルゲンではなくフェリクスのほうであるようで、どこか緊張した面持ちであるのに内心首を傾げる。


「ありがとう存じます」

「いえ」


 応じる姿勢を見せたからだろう。

 控えていたらしいディアナがフェリクスとローザリンデとの間に簡易のテーブルを用意し、お茶を淹れてくれる。

 作業中はハーブティーを好むのだが、流石に好き嫌いが分かれる。

 好みに付き合わせるのも悪いので、こういった際には大体紅茶が出される。

 この世界にも紅茶の概念があって何よりだ。


「いくつか拝見させて頂いておりますが、どれも素晴らしいものでした。特に明かりを一斉につける魔法……それに、自分がどのような属性に向いているかどうかを判別する道具には驚かされました」

「……わたしの魔法がどうにも規模が大きいようなので、小さく発動させるための試みです。属性は……わかったほうが便利だと思いましたので」


 使用できる属性が発動しないとわからない、と聞いたときは唖然としたものだ。

 暴発するレベルでも一度でできてしまうツェントルムのような規格外とは違い、発動できるまでに訓練が必要なのだと知ったのもその時だ。

 適性のない魔法を延々と発動させる訓練をするなどどんな苦行だと言うのだろう。

 想像だけで効率の悪さに絶句してしまうのも仕方ないだろう。

 まあそんな話を聞いてしまったので、ゲームや冒険ものの物語でよくあるような、ステータス鑑定道具をイメージして。

 簡易ではあるが、魔法適性をみるためもあり属性を知るための装置を作ってみたのだ。

 既に判別している六属性と、それには分類できない属性を判別させるものを用意した。

 ゲーム内の話ではあるが、時間にまつわる概念の魔法が存在しているのを覚えていたのでそうした。

 時間、というもの以外にもあるかもしれない。


 とかく、そうしたものを判別、分類できればやれることはより一層増えるはずだ。

 ついでにどのくらいの魔力の強さ――発動の速さとでもよべる発火力と、威力の大きさを察知するメモリのようなものも一緒につけたので、それなりのものにはできただろう。


「なるほど。……殿下から、姫殿下はこのままお好きなように、と言付かっております」

「ありがとう存じます」

「私どもからも。それよりも……この技術、本当にこちらで預かっても?」

「はい。この環境はおにいさまに頂いたものです。すべては、おにいさまの良いように」


 兄、と慕うエルンスト。

 前世の時からの推しキャラである彼から、数日前に告げられたことを思い出す。

 青天の霹靂、とでも言えば良いのだろうか。まだ猶予があると思っていたことが違うものであったのだと、知った日のことを。


「……ローザリンデ。結婚を、早めようと思う」

「!」

「もう少し待つつもりだったが……あんなことがあったばかりだから」


 いつもの朝ではなく晩餐で切り出されたのは、誰にも邪魔をされないためだろう。

 「すまない」。そう、言葉にならない苦笑を浮かべながら、エルンストが告げた。

 それまではローザリンデが十六になったときにあげる婚姻で。

 そうであるはずだったものが早まった理由なんて明白にすぎる。

 搦め手を使ってきた相手だ。

 それも、巨大な組織として国に対抗しうる手段をもった者たちが、自分が大切にしているものに手を出した――。

 その衝撃はいかほどのものだったのか。ローザリンデには推し量ることもできない。


「……はい。おにいさま。いえ……もう、おにいさまとは呼べなくなってしまいますね……」

「いいんだ。お前にそれくらいの時間は与えられる……。城内に限ってはしまうが、好きに呼ぶといい」


 結婚する。

 それを目指さないといけないはずなのに、どこか遠い出来事のように感じて、現実みを覚えないでいる。

 それをエルンストは気が付いているのだろう。

 優しい提案がどこまでも胸に痛い。

 その代わりとは言わない。

 打算的な行動だとも思う。


 いま、ここにいるローザリンデが信じられるものが、かつての自分が積み上げてきた技術だけだ。

 だからこそ、目に見える実績を積み上げて、彼にふさわしいと思いたいのかもしれない。

 前世ならいざ知らず。

 まだ十二歳になったばかりの子供でしかない自分が、彼に釣りあいを取れているのだと。


「――必ずや、殿下と、姫殿下の御為に」


 最上級の礼をしてくれるフェリクスに微笑みで返す。

 かつての彼と同様に、今世の彼もエルンストのためにやってくれるだろう。

 そう信じるに足るものが彼にはある。

 連れていた部下たちと共に下がっていくのを見送っても、覚えた憂鬱は晴らせない。

 未だに兄としか呼べないでいる自分の優柔不断さに呆れてしまう。

 このまま続けても、物にはならないだろう。割り切って切り上げてしまうのも、良い仕事をするためには必要なことだ。

 仕事ではなく趣味の範疇であるが。

 おそらく、そう間違っていないだろう。

 仕事をしている、という安心感を持っていたいのだから。


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