鏡よカガミ
不思議に思ったり初めて見た物は直ぐに口に入れてしまう
そういう子どもっていますよね
駅前に人がたくさん集まっている
皆一様に不安と不満を表情に出している
そんな人々に説明している奴がいた、あれは瀬尾か?
あいつあんな真面目な顔もできるんだな
「えーと、現状ではここがこの街で一番安全ッス。食料品の備蓄がたくさんあって水は駅のが使えるっス。生活用品も届く予定ッス。もしこの街を離れるつもりなら列車が到着する前に申し出て欲しいッス。次は明日の朝の5時頃に到着予定ッス。希望者は順番にはこの街から脱出してもらうッス」
朝5時か、俺はそれまでに終わらせたいな
無理なんだろうが
「構内に入る前にチェックが必要ッス。何かあるかもしれないので協力して欲しいッス。後から解ってもどうしようもないかもしれないッス」
聴衆は聞いているようで聞いていないように見える
「帰りたい」「もう嫌だ」「おかあさーん」「俺が何をしたってんだ」「デカいのがいるんだって!」「どなたかこの写真の娘を知りませんか」「あの怪物ってカミサマなの?」「シントがいきなり襲いかかって来て」「もう終わりだ」「お前達が何かしたんじゃないのか!」「うわ動画上がってる」「家に帰して」「何言っているんだ、街中駆けずり回って助けてくれたのはこの人達だろ!」「SNSで騒ぎになってるぞ」「ここから出せ!」「この街を離れても行く場所ないよ」「突然生えてきたんだ」「カミサマなんて信用するから」「ニュースには取り上げられてないって」
瀬尾のやつ必要なことを言うだけ言ってしまうつもりか
聞いてなかったのはお前らみたいな
「聞くッス。この街を出たいのに行く場所が無い人には統合政府が仮設住宅を用意する予定ッス。それまでの宿泊先の料金も統合政府が持つッス。あと正直に言うとみんな脱出して欲しいッス。今のところはこちらに協力してくれているカミサマの干渉力が優っているから安全ッス。けど向こうのカミサマが少しずつ力を増しているッス。俺はいつかこの状況が悪い方に傾くと思っているッス。俺も脱出したいッス」
怒号と悲鳴が飛び交う
当たり前だ正直に言い過ぎてはいないか瀬尾よ
今なら目立たずに構内に入れそうだがどうするか
「向こうに補足へ言ってくるよ。愛染が先輩達を案内してくれるかい。情報と交渉次第で民間協力者になってくれる可能性があることを伝えて欲しい」
「獅堂先輩が案内でわたしがこっちでいいんじゃないですかぁ。獅堂先輩の方が竜胆先輩達について詳しいんですからぁ」
「ならそれで、任せたよ愛染。先輩、竜胆行こうかまとめ役がいます」
『たぶんカミサマもいるんだよなぁ?だから愛染に任せようとした。今の状況で別のカミサマともめたくないから。お前はそれでいいのか?』
「危害を加えてくるか人に悪意を持っていないならこちらから敵対することはしない。鏡移すカミサマはどちらでもない。それで納得している」
不満ありありじゃねーか
『お前がそれでいいならいいんじゃねぇの。で、チェックは俺達も必要なんだよな?』
「ああ念のためにね。と言ってもシントと殴り合って何ともなってない竜胆に問題はないと思う。先輩は……どうなんだろう」
『俺以上に大丈夫だと思うぜ。それと前にここのカミサマの鏡を先輩が割って齧った可能性あるんだが大丈夫だろうか』
え?何を言っているんだと言わんばかりの顔をする獅堂
解る、俺もアレ見たときに思わず『何してるんすか』と言ってしまったし
それに対する答えが「甘くて美味しいよ、後輩くんもどうだい」だったからな
齧ってみたら口の中がえらいことになってな
先輩はやっぱりまともじゃ無いなと思ったもんだ
ご拝読ありがとうございます
普通の人はそんなものを食べない
でも先輩はとりあえず食べる
ヒト(暫定)なので
鏡移すカミサマは先輩に対して色々思うことがあります
人と交流できるほどに自らの意思を持つので