不思議で不愉快で
後輩くんはひた走る
私はひたすら周回する
走るという意味においてはそこになんの違いもないはず
もはや肌寒い
どういう気候変動なのか
カミサマがこっちを誘導しようとしているならその思惑をぶち破ればいい
正面が厚いなら正面突破すればいい
単純だがこれが正しい回答だ
立ちはだかるシントを殴り蹴り飛ばしながら前へ前へと駆ける
力がなければ話にもならないが幸いにも俺にはある
始まりは借り物の力でしか無かったが今は俺の力だ
最短ルートだっていう路地を直進する
道路が狭いからか巨人は複数同時には入って来れないようだ
【シドォォウゥゥクン】と叫びながらこちらに掴みかかってくる腕を飛び越え胴に右脚の鉤爪を突き立て引き裂く
すかさず身を翻し今傷ついた部分を尻尾で殴打する
更にそのまま身体を回し傷口に左腕の鉤爪を突き入れ慣性のままに真横に振るうと中に取り込まれていた人が足元に零れ落ちる
巨人がガクンと膝を落とす
これシントなのかそれとも別の何かなのかどうにも判断付かんな
路地を駆け抜けていると先輩に頰をつつかれる
「後輩くん、ボクを抱えたまま無茶な動きをするのはやめたまえ。目が回る」
そんな場合なんですかね
それならと降ろそうとするとしがみついてきた
『あの?』
「ボクをここで降ろして置いてきぼりにするつもりかい?それはダメだよ。後輩くんはボクの所有物なんだからボクのことを最優先にしないと」
げぇっ、この状況で面倒なこと言い始めたぞこのヒト
『いや、こいつら突破して直進するつもりなんですから仕方ないでしょう。でも駅までこいつら引き連れて行って大丈夫なんですかね』
殴り飛ばしながら返事をする
「ボクを優先するんだ。だっておかしいじゃないか後輩くんはボクの物なのにボクに酷いことするなんて間違えているよ。こっちを見ろ間違えるな」
あれ?聞いていない?
意外に強い力で顔を先輩に向けさせられた
目が赤みがかっているように見える
そして異様なほどギラギラしている、絶対ヤバいだろコレ
なんとか落ち着けないと色々と危うい
『先輩いいですか?俺はそもそもこの街に来たくなかったんです。先輩がこの街に来たいと言うから最優先にしたんです』
「ボクが最優先?ほんとうに?後輩くんはボクの物のままかい?」
お、これか?この方向なら会話できるか?
近づいて来た巨人を尻尾で叩いて牽制し鉤爪で引き裂く
脆いおかげで一体なら何とかなっているが急いだ方がよさそうだな、どんどん集まって来てやがる
『そうです、先輩が最優先ですよ。でないとここまで一緒に来ないでしょう?それにこの街が気になるから色々と調べていたんですよね?まだ調べている途中じゃないですか。駅に着けばこちらで調べ切れていないこととかきっと聞けますよ』
「肯定しないのはボクの物ではないからかい?」
うわぁ、そっちかそっちなのか
めんどくせぇなこのヒト
躊躇していると先輩の瞳孔がスッと蛇みたいな縦割れの目に変わった
何ですかそれ、カッコいいですね
というか肯定しないとダメなの?マジで?学友が居るのに!?
次の巨人を蹴り飛ばしながら思い馳せる
俺の大学生活詰んだなと
『そうですよ先輩、俺は竜胆椿は先輩の所有物です』
「そうかぁ、後輩くんはボクだけの物なんだね、ふふふ」
ご機嫌になった先輩を見てホッしたらいいのかゾッとしたらいいのか
もしかして先輩の目的って俺の言質を取ることだったりしませんよね、不安だ
とりあえず獅堂に声をかけようとそちらを向く
獅堂のやつは両手が光っていた
その手で掴まれたシントがゆっくりと崩れ落ちていた
え?
お前も影響受けないのかとか色々あるがそもそも何でお前光ってるの?お前までもヒトの部類だったの?
「さあ、ボクだけの後輩くん駅に行くよ。この路地を抜ければもう駅近くだからね。ふふふ」
あれ?これ先輩ヤバいままなのでは?
『あ、もうそんなとこまで来ていたんですね。獅堂!一気に行くぞ!』
獅堂がなんとも言えない顔でこっちに来る
聞こえていたんですね、すみません先輩が
みんなには黙っていてくれると嬉しいです
あとその光るのはいったい?それも後なのか?
路地を抜けると不思議なぐらいシントが居なかった
いつのまにか巨人の姿も見えない、どうなっているんだ?
駅前に人が集まっているので近づいて行く
「あれぇ?先輩?なんでトカゲ?あっ!獅堂先輩!こっちですぅ!お願いしたらぁバリケードとかいらないみたいですぅ!」
可愛らしい声で喋るクマがいた
情報量多すぎない?
ご拝読ありがとうございます
この先輩面倒だと思った?大丈夫まだ余力を残している
フルネーム判明した後輩くんこと竜胆椿くん
先輩以外が椿ちゃんと呼ぶと噛まれます、気をつけて
光るのはあれよ?ヒーローだから、ね?
ほら光の速度で動いたりさ、ヒーローだし
そしてクマー
後輩で女の子のクマー
獅堂くんと同じく元PC枠ですよ
いよいよ変人と変人による攻略が始まる