最終話 さらば、ゴブリン先生!?
最後は、ジャレス視点
冒険者学校は、資金を打ち切られることもなく、存続が決まった。
市民たちの署名活動により、まだまだ必要性があると証明されたからである。
発起人は、マノンがバイトをしている宿屋の主人だそうだ。
「お前ら、スマン!」
開口一番、ジャレスはクラスの生徒たちに頭を下げる。
「確かにオレ様は、お前らを退学させるために雇われた」
クラス内がザワザワと騒ぎ出した。
「オレ様は、学校内の不正を明らかにする調査員として、この学園に赴任してきただけなんだ。ついでにいうと、お前らが冒険者に値するかどうかという審査も行っていた」
生徒たちの反応は様々である。襟を正す者、ジャレスに疑惑の視線を送る者。
マノンやエステルも、複雑そうな顔をしていた。
「おまけに、オレ様は砂礫公でもない。ただ単に、砂礫公を目指していたゴブリンだ。一応、魔神結晶は持っているが、使ったことはなかった」
なくても生きていけるように、鍛錬はしたが。
それでも、生徒たちを欺いていたのは事実である。
「そんなオレ様から、お前らに言うべきことを報告する」
深呼吸を一つして、生徒たちに告げた。
「オレ様は今日まで、お前らの動向を見てきた。ハッキリ言う。お前らは全然優秀じゃない。学術的には最低クラスだ!」
シンと静まりかえる。
ジャレスは、教壇に腰掛けた。
「リード、お前はイキっているだけで剣術がおぼつかねえ。イヴォン、お前は頭でっかちで知識だけで動こうとする。ネリー。お前は好奇心だけで動きすぎ! モニク、お前はもっと自分を主張しろ!」
ジャレスは次々と、生徒たちにダメ出しをしていく。
「エステル、お前は……全体的に幼い!」
「なによ! 同じくらいチビなアンタに言われたくないわ!」
「それにマノン……お前は、自分に自信がなさすぎる! 世界を救ったんだぞ。もっと堂々としろ!」
「はい。担任」
ここまで話して、ジャレスは一息入れた。
「まったくもって、お前らはなってない! 全然、なってない!」
コホン、とジャレスは咳払いをする。
「けどな、お前らはスゲーよ!」
途端、生徒たちが我に返ったかのように顔を上げた。
「考えてもみろ。お前ら、魔神の軍勢をたったこれだけの人数で退けたんだぜ。ウスターシュの援護があったからって、そこまでいかねえよ!」
ジャレスもあのときは、犠牲者の一人や二人くらいでることは覚悟していたのだ。
けが人は多かったが、生徒は誰一人として欠けていない。
「イヴォンがヒドラにやられたときは、申し訳ない気持ちになったさ。守れなかったって。オレは最低なヤロウだなって。やっぱり人間と関わるんじゃなかったってな!」
名指しされて、イヴォンが頬をかく。
「お前らには冒険者として、絶対に必要な要素が備わっている。それはな、人の気持ちを考えることだ。こればっかりは、どんな優秀な先生でも、正しく教えられないんだよ」
ジャレスだってそうだ。自分で気づくしかない。
「みんながそれぞれ、互いを気遣い、手を取り合って、困難に立ち向かってきた」
マノンが立ち向かってくれなければ、ジャレスは魔族に負けていただろう。
ネリーは、我が身に危険が降りかかったときでも、決してモニクを傷つけなかった。
冒険を下に見ていたイヴォンが、身を犠牲にしてネリーを守ったときは、感心したモノだ。
エステルはマノンに対し、常に等身大で見守り続けている。
上から目線でマノンを指摘したりはしない。背中で考えを伝えるタイプだ。
もちろん他の生徒にだって、いいところが多い。
彼らを見ながら、ジャレスは考えを改めていた。
「オレ様はちゃんと、ウスターシュに進言してきた。ただ、受理されるかは分からない。スマン。オレ様が魔王城を明け渡して、そこで授業を受けさせることだって提案した。けど、お前らが欲しいのはそういうことじゃねえんだよな?」
ジャレスが言うと、生徒は寂しさを顔にだす。
「担任、やっぱり辞めちゃうの?」
「騙していたのは事実だしな。不正していた奴らも全員とっ捕まったし、お役御免さ」
生徒たちに何もしてやれない悔しさに、唇を噛みしめる。
「オレ様の力及ばず、申し訳ない」
再度、ジャレスは頭をさせる。床を見るのも、もう何度目だろう。
「担任の、うそつき」
うつむいていると、マノンの言葉が突き刺さった。
マノンが席を立ち、ジャレスの前に立つ。
「ああ、何でも罵ってく……れ?」
ジャレスは、マノンに抱きしめられた。
「担任、ありがとう」
マノンの笑顔に、侮蔑の様子はない。優しさで満ちあふれていた。
一瞬、ジャレスは呆れられたのかと思った。
だが、すぐにその考えをふり払う。
マノンは、そんな残酷な少女ではない。
「まったく、あたしたちがいないとダメね、担任って」
微笑みながら、エステルも冗談を言う。
「そうだそうだ。俺たちが面倒見てやらねえとな」
リードが生意気な口を叩く。
「僕らには、まだ先生のお知恵が必要です。これからも、よろしくお願いしますよ。担任」
イヴォンが、メガネを整える。
他の生徒たちからも、励まし混じりの軽口が飛んできた。
「お前ら、怒ってねえのか? オレ様は、正式な魔王じゃねえんだぜ?」
状況が飲み込めないジャレスは、マノンに問いかける。
「怒ってるよ」
マノンは首を振った。
「けど、わたしたちが怒ってるのは、担任がスパイだったからじゃない。担任が嘘ついていたこと。わたしたちのことをちゃんと見ていたのは、本当だったんだよね?」
いかにも、マノンらしい怒り方だ。
「まあ、そう、かな?」
「もっとハッキリ言って」
煮え切らない態度がマズかったのか、さらにマノンから責められる。
「オレ様が干渉しなくたって、十分やっていけるくらいだってのは分かったぜ」
マノンは首を振った。
「わたしは、近衛兵のお仕事を、断った」
マノンの発言に、ジャレスは驚きを隠せない。
Sランク以上の働きをしたというのに。
「マジか? 女王陛下のご命令だぜ? 一生安泰だ」
「断ったって懲罰を受けるわけじゃない」
確かに、近衛兵のお仕事は誇り高い。でも、マノンが守りたいのは、困っている人たちだ。
「女王陛下は、色んな人が助けている。でも、わたしじゃないと助けられない人だって、きっといるから」
ここまで、マノンは考えていた。
マノンだって、出世したいと思っていたのだが。
「結構な額がもらえるぜ?」
「生活に困らないくらいあれば、ちょうどいい」
結構マノンもお嬢様だったはずだが、随分と庶民的な言葉を言う。
「冒険者は、安定なんて望めないんだぜ」
「わたしがやりたいのは、人々を救うこと。人々が潤えば、自分たちの生活も保障される。王様だけを守っていても、他の民が苦しんでいるなら、それは王様を助けているとは言えない」
マノンにだって、強かな一面があるのだ。
「そもそも、あたしが戦乙女を目指していたのも、王様だけを守る兵隊で終わりたくないんだって気づいたの。ママに勝ちたいってのもあるんだけど」
エステルが付け加えた。
何を言っても言い負かされそうだ。
「あなたの負けです。ジャレス・ボウ・ヘイウッド。あなたはココでは魔王でも、砂礫公でもない。ただの担任なのです。それでいいではありませんか」
最後に、副担任のオデットがトドメを刺す。
「わたしは、まだまだ担任から色々と教わりたい。鍛えて欲しい」
生徒たちから懇願され、ジャレスは頭をかく。モニョモニョと呪文を唱え始める。
瞬間、生徒全員のイスが折れた。
イスの脚が折られ、生徒たちが床にズッコケる。
「あんた、何すんのよ!」
怒ったエステルが、真っ先に立ち上がった。
「まったく、お前らどうしようもねえな!」
ジャレスは窓枠に足を乗せる。
「しゃーねえなぁ。じゃあ、また追いかけっこするか!」
振り返った後、ジャレスは窓から飛び降りた。
「あんたは! やっぱりアンタって最低だわ! 浄化して上げるから覚悟なさい!」
エステルが、ランチャーを持って追いかけてくる。
「ギャハハハハーッ!」
ジャレスはグラウンドを駆け回った。
「待ってセンセ! ゴーレムじゃ追いつけないよ! えーいこうなったら、フワッフーッ!」
しんがりにいるネリーが、ゴーレムを巨大化させて押しつぶそうとする。
かろうじて、ジャレスはゴーレムの手をかわす。
「担任」
気がつくと、マノンがすぐそこまで迫っていた。
「絶対、あなたに追いついてみせるから」
決意を秘めたマノンの言葉を、ジャレスは紳士に受け止める。だが、すぐに元のおどけた顔に戻した。
「ギャハッ! 一〇年早いんだよ!」
まだ、力の差で追いつかれるわけにはいかない。
彼らには自分よりさらに高みを目指して欲しいから。
今から、楽しみだ。
完
ゴブせん コンセプト
「なろう・ラノベに出てくるジャンル 全部載せ」
ジャレス:オッサンと少女モノ主人公
マノン:最弱無敗系主人公
エステル:(親の方が)追放されたヒロイン。本人ツンデレヒロイン。
オデット:やれやれ系主人公
セラフィマ:悪役令嬢系ヒロイン
ネリー:謎部活系主人公
イヴォン:内政チート系主人公
リード:飯テロ系主人公
モニク:生産職系主人公
それを無理なく全てできるジャンルが「学園モノ」だった。




