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魔王、なぜか冒険者学校の先生になって、英雄の子孫を鍛え直す  作者: 椎名 富比路
第四章 冒険者学園の闇

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真犯人は?

マノン視点

 マノンは、小屋らしき場所で目を覚ます。


 廃砦を改装した簡単な作りだ。


 学校を飛び出して、いつもの砦に向かおうとした。

 その道中で、セラフィマの父親が連れて行かれるのを目撃する。

 阻止しようとしたが、力及ばず自分も気を失ってしまったのだ。


 人数は一四人いる。冒険者の姿も。


 アーマニタが、中央に座ってワインの入ったグラスを傾けている。


 その隣には見覚えのある人物が。


「あなたは!? ブレトン先生」


 なんと、首魁は騎士団長のブレトンだった。

 アメーヌ冒険者学校の体育教師で、セラフィマの担任である。


「お目覚めか」


 マノンは飛びかかりかけた。

 しかし、縄で縛られていることを忘れ、つんのめってしまう。

 頬を床へ、したたかにうちつける。


「大丈夫かい?」


 隣で縛られているエルショフ理事長が、マノンに語りかけた。


 エルショフ理事長は、手足を縛られて翼に細工を施されている。

 やや疲労の色が見えた。が、ケガ一つしていないのが幸いか。

 とはいえ、完全な商売人である理事長に、戦闘能力はない。

 彼では、この場を制圧できないだろう。


「はい。なんとか。すいません。今すぐ助けます」

「いや、無駄なことはせんでいただきたい」

 

 ブレトンが、自身の剣で床を叩いた。


「騎士団長、どうしてこんなことを?」

「これは、祖父の仇だ。世界を救った我が先々代は、当時の王国によって処刑された! 必ず復讐してやる!」

「では、あなたは……?」

「ああ。ボクは、勇者フリアンの血を継ぐものだ」


 つまり、彼の祖父は担任……いや、担任の父親と共に世界を救ったというわけか。


「祖父である勇者フリアンは、力を持ちすぎた。戦いが終わった後も、勇者は国民から慕われていた。当時の国王よりもね」


 時の王は、ブレトンの祖父が国民の信頼を受けすぎたことにより、自分に取って代わられるのではと、恐れたのだ。

 処刑当時、国民たちも勇者を「国王に反旗を翻す逆賊」と、はやしたてていたという。


「もっとも、そんな国はアーマニタと共に滅ぼしたがね。王族も国民も、等しくアーマニタの毒に飲み込まれていった」

「どうしてそんな、むごたらしいことを?」

「眼の前で肉親がギロチンにかけけられる様を見れば、キミにも嫌でもわかるよ……」


 彼はアーマニタと組み、姓と身分を変えてアメーヌへ潜入した。

 次の標的である、ウスターシュを殺すために。


「あなたは騎士様でしょ? 世界の味方ではないのですか?」

「こんな世界など、守る価値などない。終わらない闘争。消えない偏見や恐怖。フリアンが生きていた頃と、何も変わらなかった。父は死ぬ覚悟で、この世界を守ったというのに!」


 ブレトンの言葉には、憎しみがこもっている。


「狙いは、女王陛下の命ですか?」

「あのような傀儡を排除したとて、首が入れ替わるだけ。この世界を変えるには、根本から正さねばならない。まずは、砂礫公のような矮小な魔王に依存している、この世界をな」

「担任は、王様を陰で操るような卑劣漢じゃない。むしろ、魔族と手を組んでいるあなたの方がよっぽど情けない」


 ブレトンは、好きなだけマノンに言わせた。

 マノンに怒りをぶつけるでもなく、暴力を振るってくるでもなく。


「ボクこそが、魔族を利用しているのだ。精霊がいれば、魔神結晶は浄化されてしまう。実験して確認したからな」

「実験? するとあなたが!」

「そうだ。世界樹を破壊し、精霊を弱らせるためだった。砂礫公などという、とんだ邪魔が入ったが」

「あの魔族はどうして、あなたに協力を?」


 いくら強い騎士だとはいえ、ブレトンは人間である。

 プライドを捨ててまで、魔族が人間と手を組むとは思えない。

 魔神の復活のためか?


「魔神結晶を取り込んで、自らが母体となって魔神を生み出すのだ。他の冒険者に力を与えながら、計画を練っていた」


 騎士団や冒険者の動きが鈍かったのは、これが原因か。

 複数の冒険者は、魔族に与していた。

 ブレトンが、情報をシャットアウトしていたのだろう。


「あなたのような弱虫に、冒険者は屈しない!」

「なんとでも言え。我々は目的を遂行するだけだ」


 他の冒険者も、ブレトンの意見にうなずいている。


「魔族に雇われて、冒険者と言えるの?」

「へん、どうせ世界は滅びるんだ。より強い組織に組みしたほうがいいってもんさ。テメエだって魔物なんかに勉強を教わっているじゃねえか。そんなテメエらに、オレたちのことが言えるか!」

「魔物にだって、教わることはある!」


 不自由ながら両足を動かして、マノンはその場にいた冒険者のスネを蹴った。


 冒険者がバランスを失い、転倒する。


「このアマ、ぶっ殺してやる!」


 目を血走らせながら、冒険者がナイフを取り出した。刃をマノンにちらつかせる。


 マノンは怯まない。下手に動けば殺されるだろう。

 だが、みすみす殺されたりはしない。


「やめな! 人質の意味がなくなる」


 アーマニタが、冒険者の手首をパラソルで叩いた。


 ナイフが床に転がっていく。


 マノンはナイフに視線が移った。

 どうにかして手元に。

 もぞもぞと動いて、そっとナイフを掴もうとする。


「バカな考えはよすんだ」


 だが、ブレトンもマノンの動きを察したようだ。床のナイフを拾い上げる。 


「で、こいつはどうする?」


 アーマニタが、マノンに視線を向けてきた。


「武器も取り上げている。たいした抵抗もできんさ。ただし殺すなよ。この娘がいれば、ウスターシュや砂礫公はうかつに手出しできん。それより問題はエルショフ理事長だ。金が手に入れば解放してやれ」 

「指示してんじゃねえよ、テメエ。金をちょうだいしたら、おっさんは始末する」


 冒険者の一人が、手持ちのナイフを弄ぶ。


「殺すなと言っているだろ」

「うるせえ、財団のせいでこうなってんだろうがよ! 世界の浄化のために死ね!」


 ブレトンと悪徳冒険者が、口論になる。


 アーマニタが、二人の間に割って入った。


「世界の平和に、犠牲はつきものさね」


 魔族の持つパラソルから、槍が突き出る。


 ジリジリと、アーマニタが理事長に歩み寄った。


 マノンが、理事長をかばう。


「いいねいいね。あんたには借りがあるから、あんたから始末するのもいいかね?」

「ボクの生徒に手を出すな!」

「うるさいね! こいつだって、アンタが憎む人間じゃないか! どうせ死ぬんだ。くたばる時間が早まるだけだろうがよ!」


 今度は、ブレトンとアーマニタが激しく言い争う。


「はいドーン!」


 床から、巨大な手が突き出た。その勢いで、天井をも突き破る。ゴーレムの腕だ。


 多くの冒険者が、ゴーレムの腕に殴られて吹っ飛ぶ。


「何事だい!」


 混乱気味のアーマニタが、床に開いた穴に注目する。


 穴から出てきたのは、エステルと副担任のオデットだ。


「邪魔が入ったね。だがいいわ。全員纏めて眠らせて、ヒドラの餌にしてやるわ!」


 アーマニタが、催眠ガスを噴射しようとパラソルを構えた。

 しかし、いくらスイッチを押してもガスが出てこない。


 マノンが、背後から、アーマニタのヒザを蹴り飛ばした。


 ガクン、とアーマニタが体勢を崩す。


「なんでキノコガスが出てこない?」


 アーマニタが、パラソルの先を確認する。

 わずかだが、先端が氷に覆われていた。


「縛られている間、わたしが何もしていないと思った?」



 気づかれない程の冷気を発動させ、マノンはパラソルの噴射口だけ凍らせていたのだ。



「おのれ!」

「そうはいかないわよ!」


 パラソルが、エステルのブロードソードによって切り裂かれる。


 どういう技術か分からないが、リードとイヴォンが背景に紛れていた。

 解放したエルショフ理事長を連れ去る。


「冒険者だと? でもガキだ! やっちまえ!」


 ヤケを起こした冒険者たちが、武器を振り上げた。こちらへと向かってくる。


 鬼の形相となったエステルが、ランチャーにブロードソードを食わせた。


「あんたらに蘇生はナシよ! 浄焔セイクリッド・ブレイズ!」

「それはダメ!」


 マノンは、吹雪を発動させる。

 いくら怒りにまかせた攻撃だからと言って、友人を人殺しにはさせられない。


 エステルの放った火の鳥と、マノンの吹雪が合わさって、高温の水蒸気が発生した。

 ダメ押しで、セラフィマが鉄の扇で水蒸気を仰ぐ。


 蒸気が、冒険者たちの肌や呼吸器を容赦なく焼いた。


「ぎゃああああ!」


 威力を弱めるつもりが、さらに悪化する。

 大ヤケドを負った冒険者たちが、砦の外へと退散していく。


「やっちゃった……」

「よっしゃ! 結果オーライってやつ?」

 

 ネリーが、指を鳴らす。



 そのスキにリードたち二人が、エルショフ議長を連れて砦を脱出した。


 どさくさに紛れて、冒険者たちも逃げ出そうとする。


「あなた方は、絶対に逃がしません」

「やっちゃって、オデりん!」


 ネリーの作ったゴーレムが、岩を放り投げた。


 オデットは空中でキリモミをして、岩を砕く。

 粉々になった小石に磁力を載せる。


 弾丸と化した石つぶてが、冒険者たちに降り注ぐ。

 手足を打ち抜かれ、冒険者たちは身動きが取れなくなった。


「あとは、騎士団の仕事です。もっとも、リーダーはあのザマですが」


 オデットは、最後に残ったブレトンを睨む。


 全ての作戦をメチャクチャにされ、ブレトンは顔をしかめていた。


「やってくれるじゃないの、アンタたち!」


 もう一人、アーマニタもパラソルをへし折って怒り狂う。


「全員まとめてヒドラ穴に落ちな!」


 パラソルを捨てて、アーマニタは印を結んだ。


 アーマニタの周囲が光り出す。


「ヒドラ穴って?」

「あの魔族は、この砦の地下にある魔神結晶を取ろうとしていたようです。けれど、ヒドラに邪魔をされていました」


 オデットがそう教えてくれた。


 おそらく、不要になった人間をヒドラの巣に落とすか、「指示に従わなければヒドラにエサにする」とでも言って、協力者を脅していたのだろう。


 体長が一〇メートルもある大蛇が、地面を突き破って現れた。

 八本もの頭が、一斉にマノンたちを向く。


「アハハハハ! 腹が減っているところだろ? 女の肉を食って肥え太りな! その後、学校を襲ってみんな骨にしてやる」


 ヒドラを操っているアーマニタが、不気味に口角をつり上げる。


「エサになるのは、テメエだ!」


 ロープを手綱がわりにして、ヒドラを操縦している男がいた。


 担任だ。


「ぎゃははは! 死神様の登場だぜ!」

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