夢なんて持つな!?
「考えても見ろ。オレ様って魔王じゃん? 魔王って職業があるとして、どんな仕事をしているかって想像できるか?」
「で、できません」
「だろ?」
魔王という仕事は割と大変である。
武器支給ひとつとっても帳簿が必要だ。
要塞やらを動かすにしても、燃料費などの代金がいる。
城の兵力、彼らを食わせる食費、彼らの家族にも、給付金を支払わなければならない。
意外と頭を使う仕事だ。
これらを話すと、イヴォンは納得した。
「大変なんですね」と返してくる。
「質問を変えるぜ。お前がピアニストになりたいって考えるとする。一〇〇〇年前の子が、音楽家になりたいって思ってもよ、ピアノなんてあったと思うか?」
しばらく思考した後、イヴォンは首を振った。
「そうなんだよ。じゃあよ、何も知らねえガキが、天文学者とか、航海士になりたいって考えると思うか?」
「思わないというか、そんな職業があることすら知らないでしょうね。航海士と言っても、せいぜい猟師か、あるいは海賊くらいのイメージしか沸かないのでは?」
「それなんだよ! 知らねえの! で、大人になるだろ? なくなってる職業があるんだよ。新しくできた職業もあるよな」
様々な戦を経て、鎧は様変わりしていき、白兵用から騎馬用の装備へと変わっている。
魔法を銃で撃ち出すことだって、ごくごく最近の技術だ。
魔族の台頭していた時代に対応し、戦士職のほとんどが魔法も習う。
魔力を武器に付与するためだ。
「昔は前衛と後衛、ってハッキリ分かれていたんだが、今や臨機応変さの方が求められている。昔気質の奴らはドンドン時代後れになってきちまってさ。飲んだくれてる。働く場を与えてやれば、一番働くんだけどな」
吟遊詩人の楽器も、バリエーションが増えている。
ピアノをマンデリン状に小さくして担ぐなんて、誰も想像が付かなかった。
だが、魔法は不可能を可能にしたのである。
「知ってるか? マノンの故郷には『力士』って職業があるんだぜ? オーク並みの男たちが裸でぶつかり合う武闘家職なんだよ。そんな仕事があるなんて、子どものうちから分かるかよ、って話さ」
「なるほど」
「だから、学がないウチはひったすら勉強して、世間の仕組みを知る。お前らは最初から知識や経験が低い。だからそれを積み上げていく。その上で、大人になったら今まで培ってきたモノを活かせばいい。お前さんに合う職業を、お前さんなりに探してみな。未熟なウチから視野を狭めて急ぐことはねえさ」
「僕に、見つけられるでしょうか?」
まだ、少年は不安があるらしい。
「保証はできねえ。道のりは厳しいが、自分で選んだ分だけ実りもデカイ。適職なんてのは、なるべくしてなるもんだ。エステルがそうだよな? あいつは冒険者以外になろうという考えすらない。だからあれだけ強いんだ。ガキはよ、今このときに夢中になっていることに集中する方がいいんだよ」
「あなたも、魔王になるべくしてなったのですか?」
「オレ様はこれから探すのよ。教師なんて柄じゃねえってのによ」
ジャレスは視線をそらす。
「魔王と呼ばれる人物でも、悩むことはあるのですね」
何か達観したような表情を見せ、イヴォンは席を立つ。
「分かりました。やってみます」




