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相談者 リード・レーゼンビー

「アメーヌは特にひどくてな。なまじ平和だから、ナメている冒険者の卵が多い」



 魔王がいた当時、アメーヌは激戦区だった。

 魔王城と国境を隔ててだったから。



 しかし、魔王の脅威が去った今は、その反動がひどい。

 最も平和な地域となってしまい、アメーヌの冒険者レベルは、すっかり地に落ちてしまっている。

 比較的安全なはずの森林モンスターさえ、駆除し切れていない有様だ。

 依頼書はちゃんとギルドに張ってあったのに。


「だから、オレ様みたいなイレギュラーを入れて、新参に活を入れてやってくれって、学長のウスターシュに頼まれた」


「ウスターシュ校長が、自分でトラブル対処に行くっていう案は?」


「それこそ、若手が鍛えられんし儲からねえ。『もう全部あいつ一人でいいんじゃないかな?』の典型パターンだ。今やどれだけの老齢冒険者が、若手の尻拭いをしているか」


 冒険者学校の存在が危ぶまれて、当然である。

 学業だけやっていれば、冒険者登録ができてしまう。

 そんな状態で、立派な冒険者など生まれるわけがない。


 昔はそれでもよかった。

 死と隣り合わせの世界で、冒険者志望者も腕が立ち、モチベーションも高かったから。


 今は違う。意識が高いのは学長だけだ。

 この間出会った女性の教師でさえ、知識のみの頭でっかちだった。

 実戦経験のない人に、命を守る方法を教えさせるとは。


 魔王が暴れていた時代を経験している世代が出張っているせいだ。

 若手を育成するくらいなら、自分たちが出向いた方が早いから。

 それで、さらに後世の質が下がる。


「戦争すりゃ、アメーヌはすぐに負けるだろうな」

 まあ、生徒相手に愚痴っていてもしょうがない。


 リード・レーゼンビーの目的は、金儲けだ。

 ここはひとつ、金を稼ぐ手段を講じようではないか。




「お前、副業やれ」




「は?」



「リザードマンったって、戦士職だけが取り柄じゃねえ。ベテランが満足するような武具が作れる種族だ、っていうじゃねえか」

 ジャレスは手元の資料を漁る。


 リザードマンの特徴が載っていた。

 彼らは、モンスターの生体部品を加工する技術に卓越しているとか。

 金属を扱うドワーフやノームとは、別の意味で器用らしい。


「その技術を活かして名を上げるんだよ。腰の剣だって飾りじゃねえだろ?」


「おうさ。よく見抜いたな。これはヤイバガイっていう貝を削って、磨いて鍛えた逸品なんだぜ」

 言いながら、リードは刀をブンブン振り回す。


「分かったから、剣を教室で振り回すな」

 ジャレスがリードをなだめた。

「そんな薄い貝を割らずに加工できる技術は、商売にもきっと役に立つ。試してみな」


「戦闘職が、他の稼ぎ口をする時代なんだな」

 リードの言い方には、若干の情けなさが含まれている。



「冒険者が副業を持って何が悪い? 今は、何が起きるか分からん。手に職を持っていて損はないぜ」


「分かった。考えてみるよ」

 そう言って、リードは帰って行く。


 わずかながら自信をつけたようだ。

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