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魔王、なぜか冒険者学校の先生になって、英雄の子孫を鍛え直す  作者: 椎名 富比路
第一章 ゴブリン先生は 嵐を巻き起こす
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担任、本領発揮

マノンの視点に

「手加減しなくていいぜ。全力全開!」


 担任が、手首を指でバシバシ叩く。


 制服に付いているカフスを操作しろとジェスチャーをしているのだ。

 なんと、担任は「制服を解けと」合図を送っていた。


「後悔してもしらねえぞ、おっさん!」


 リードが、制服のカフスに手をかける。


 制服が、レザーアーマーへと「戻った」。


 冒険者学校では、生徒たちの鎧や武器などの私物を制服に「変換」している。

 魔法石でできたカフスを操作すれば、元の武具防具へと戻るのだ。

 こうして、自身の潜在能力を魔法石に押さえ込み、力をセーブする訓練も、カリキュラムに含まれている。


「アメーヌ冒険者学校トップクラスであるオレの剣さばきで、その首をはねてやるぜ!」


 担任の首めがけて、リードが三日月刀を横に薙ぐ。


 腕力ならオークにすら負けないリードの剣が、直角に打ち上げられた。担任が、魔法銃で振り払ったのである。


「冗談だろ、銃身でカウンターなんてよ!」


 自信満々だったリードの表情に、焦りの色が浮かぶ。


 魔法を用いる際に利用する触媒は、杖が主力だ。

 攻撃、治癒、補助、探索とバランスがいい。


 反面、武器を触媒にする場合は、魔法を武器としてのみ扱う。その代わり、威力は杖より高い。

 魔法銃は射撃に特化しているだけに、物理攻撃に対してはもろいはずだ。


 担任の装備は、射撃だけでなく打撃武器としても使えるのだろう。それだけ高い技術が、あの中には用いられているようだ。


 リードだって、決して弱くない。太刀筋は正確で、並のモンスターならたやすく斬り捨てるだろう。


 単に、担任の動きが速すぎるのだ。

 いくらリードが攻撃しても、担任に一太刀も浴びせられない。


 唖然とするリードのみぞおちに、担任の銃口が突き刺さった。

 引き金に手をかけていない。

 打撃である。


「ばかな、オレが負ける?」


 鉄すら通さないワイバーンの鱗で作られた鎧が、容易く破壊された。

 便意をガマンするような顔になって、リードは退場することに。


「んだよ情けねえな」


 クラスメイトの一人が、リードを罵った。


「無理無理! 早すぎだってのあのヤロウ!」


 腹を押さえながら、リードは悔しがる。


「何モンなんだ、あいつ」


 座り込んで、リードは担任を睨む。

 

 確かに、担任の強さは、自分たちの知るゴブリンとは格が違う。

 リードも、手合わせした相手の力量が分からないほど、バカではない。きっと担任の強さを体感したはずだ。


 マノンは少しだけ、担任の強さを誇らく思った。


「オラオラ、ドンドンかかってきやがれ!」


 手を叩きながら、担任が生徒を挑発した。


「ふざけやがって!」


 三人がかりで、生徒たちが襲いかかる。斧使いのドワーフ女子がリーダーだ。

 間にエミールが弓を構え、魔術師の少女が後衛で二人に筋力増強の術式を送り込む。


「油断しないでエミール!」


 エステルの呼びかけに、エミールはウインクで応えた。すぐに担任に向き直る。


「アタイの斧を、リードの剣と同じに思わないことね!」


 ドワーフの少女が、両手持ちの斧を片手で軽々と操った。

 男子にも劣らない腕力・筋力特化はドワーフの初期能力である。加えて補助魔法だ。どれだけの力量か。


 結果は分からなかった。

 担任が少女の懐に飛び込んで、アゴを蹴り上げてしまったからだ。


「当たらなきゃ意味がねえ」

 

 アゴを砕かれた少女が、あさっての方角を見つめながら夢の中へ。

 

 いつの間にか、エミールが矢を放っていた。

 

 だが担任は冷静に、魔法銃で矢を撃ち落とす。


「おい、そこのパーカー!」


 なぜか、担任がドワーフ少女の後方にいる、パーカーを着た少女に声をかけた。


「補助魔法なんてヤワな魔法なんて必要ねえ。お前さんの全力を使いな!」


 挑発を受けると、魔術師の少女はニッと笑う。パチンと、指を鳴らした。


 学校がグラグラと動き出す。なんと、壁の一部がひとりでに蠢き出した。

 レンガの影が人の形に剥がれる。

 教室の壁に、ストーンゴーレムが潜んでいた。


 リーダー格のドワーフ女子生徒が起き上がる。


「ネリー、そのゴーレムを使ってアタイをカバーしな! もう一度アタイの斧をこのクソ教師に――」


 言いかけて、女ドワーフの意識が吹っ飛んだ。

 ゴーレムのビンタによって。

 女ドワーフは地面でバウンドし、再び夢の世界へ。


「うっるっさいなぁ。クソはテメエだろーが。中途半端なドワーフのくせして粋がって命令してんじゃねーよ」


 ネリーと呼ばれた少女が、パーカーのフードを脱いだ。


「オイラは『錬金術師(アルケミスト)』志望のネリー・グディエ。人間より人形を操るのが得意な孤高(ぼっち)好き!」


 丸メガネの少女が姿を現す。

 桃色の髪、額に二本の角を生やした美人だ。


 彼女の素顔など、誰も見たことがなかった。


「いやー、アタイ学校なんてバカの行くところっしょって思ってた。前任者の『はい三人組つくってー』なんて拘束魔法のせいで、どれだけオイラが退屈していたか。人と合わせるのって面倒だっつーの! 一人で研究する方が有意義!」


 前担任の計らいを、ネリーは束縛魔法呼ばわりである。


「その点、アンタは面白そう!」


 ネリーは色の違う小型ペンを六本、両手の指に挟んだ。


 魔法石を使った、お箸サイズの杖である。

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