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Case 21(Final):Promise

 …かくして、死の憂き目にすらあった、白血病の隆太は、奇跡と言う他ない、「磯倉涼子」という、自らの恋人というドナーの登場によって、その危機を回避することに成功した。






 術後の経過は順調で、隆太は季節が秋から冬へと変わる頃、入院していた病院を去った。





 そして、家族と友の待つ家で、彼は盛大な祝福を受けた。辛き闘病生活を解放された喜びもあり、隆太は皆の笑顔を前に、思わず涙した。








 「み、、、みんな…。ありがとう…。」








 あきら「よかったな!これでまた、一緒に泳ぐチャンスが巡ってくるな!」





 隆太「ああ。…でも…、、、」





 あきら「でも…、、、何だい?」





 隆太「あーあ。これでもう、優香さんのところへは行けなくなっちゃったな…。」





 あきら「ばかやろう。生きろってことだよ!!」





 隆太「そうだよな…。夢の中で優香さん、何度も僕のこと、拒んでたからね…」











 その会話を聞いていた愛莉は、思い切って二人の間に入り話した。





 「けど、隆太が大変なのはこれからだろうね…。長い間休学しちゃったから、留年してもう1年、学校に通うんでしょう?自分だけ年上で、知らないクラスメイトとか先生とかと、上手く付き合っていけるかなぁ…。あたしだったら絶対無理だよ…。」











 一瞬、隆太の表情が曇ったが、それでも、愛莉を見つめてこう言った。








 「い、いいんだ…。べつに留年の理由が、成績不振とか素行不良とかじゃないんだから、きっと、新しいクラスのみんなはわかってくれるさ…。だって、命があるだけでも存分に感謝しないとね…。ついこの前までは…もう本当にだめだと思ってたんだもん…。」





 友加里が、さりげなく隆太の手を握って話した。











 「隆太…。ごめんね…。あたし達は、隆太を置いて先に卒業しちゃうことになるけれど…。でも、、、でも、、、あたし達は、ずっ友だかんね!!隆太が、、、隆太がこうして生きているってだけでも、あたしは…、、、グスッ…。。。」





 隆太は、そっと友加里の手を握り返し、話し始めた。








 


 「それは言わないお約束だよ。僕は、もう悔やまないさ。1万分の1の奇跡を勝ち取ったこと…、そして命があること…。それに比べたら、留年なんて小さいことに贅沢言ってる場合じゃないさ。なぁに、明日は明日の風が吹くってね。こうなったら、1年遅れたってそのぶん人より余分に青春味わってやろうって、心に決めたんだ。」








 あきら「隆太…。お前ってやつは…。。。見直したよ。俺だって、たとえ病気が理由だったとしても、留年なんて正直耐えられないさ。け、けれど、ホント、お前も変わったよな。中学に入った頃は、俺もお前も、頼りない男子だったけれど、いつの頃からか、お前は太い心を持つようになったよな。やっぱり、本当に、涼子さんを守りたいって気持ちが、そうさせてるんだろうな…」





 隆太「う、うん…まぁね…。涼子さんとは、たまたまプールで出会った、友達ってか、顔なじみ程度の存在だって思ってたけど…、実際は、僕の命の恩人…。こんな運命もあるのか…って、今でも信じられないでいるけれど…、僕は、ずっと、親切にしてくれる涼子さんに、恩返しがしたいんだ。歳は下だけど、僕は僕で、涼子さんを支えたい…。高校出て、しっかりと働けるようになったら、結婚を申し込むつもりなんだ…」





 一同「ええーーーっ…!?!?」














 …しかし、みんなはその発言を予測済みだった。





 ずっと仲の良かった隆太と涼子。二人が結ばれても、それは何ら不思議な話ではないだろう。





 友加里も、あきらも、愛莉も、まるで家族のように接してくれた涼子が、隆太と結婚するのはもはや確定事項だと思って疑わなかった。











 3人は、隆太にエールを送り、これからも友達であり続けることを誓うと、その日は隆太の家を後にした。











 やがて3月になった。





 隆太は自宅療養中。4月からはもう一度3年生を演じるため、学校に通うことになるが、そこにはもう、かつての友はいない。





 見ず知らずの面々ばかりが集う中、本当に自分の事情や内面を理解してもらえるか…?





 それは、強がって放った先ほどのセリフとは裏腹に、不安で仕方がないことだった。











 ふと、テレビをつけてみると、ニュースで、高校の卒業式の様子が流れていた。





 隆太の高校は映らなかったが、それぞれの卒業生が、卒業証書を授与される様子、仲間と記念写真を撮る様子、卒アルにメッセージを書きあう様子…。





 どれをとっても、それは本来、自分もいま体験するはずの物事だった。





 だが、避けては通れない「事故」があった。それゆえに、隆太は、ホゾを噛む思いでそんな「同級生」を見つめる他なかった。





 人生も長くなると、どこでどんな番狂わせがあっても不思議はない。…それは、小砂川優香の突然の死などで十分に理解していたつもりだが、自分の人生の歪みを正すことの難しさ、いや、なぜ自分がこんな思いを…!という、一抹の悔しさを、どうしても拭いきれずにいた。








 「春風に 友の背中を見送りて 我いま一度 学び舎へ往く」








 隆太は、ベッドの脇にあるメモ帳に、こんな短歌を一句記していた。




 4月が来た。






 あきらは、念願叶って大阪にあるスポーツの名門校「聖ドルフィン大学」への入学を果たした。ただし、残念ながら特待生入学は叶わず、普通に入試を受けて、合格を勝ち取ることによりその夢を実現させた。





 とは言え、あきらの母校、「秋田きりたんぽ高校」から、聖ドルフィン大学への進学を果たした先駆者はおらず、それだけでも十分、ヒーロー扱いで卒業したのだった。本人はあまり気が付いていなかったが、高校内で女子に人気が高く、卒業式の日には、下駄箱に大量のラブレターが入れられていたのだが、愛莉にバレることを危惧して、急遽、妹を学校に呼んで、それらを部屋に隠してもらうようお願いしたのは、さすがに隆太にも言えなかった。なお、あきらは妹の綾美に、彼氏がいることを知っていて、兄として複雑な心境を抱いていた。





 だが、遠くへ離れてしまうその日、その彼氏が駅へ見送りに来てくれた。口数こそ少なかったが、どうやら、芯はいい奴なようだ…。


 このまま、上手く付き合ってくれればいいのだが…。








 入学直後は、そんなことも含め、あきらと隆太は毎日LINEで会話することが当たり前になっていた。あきらも、遠く故郷を離れて一人暮らし。バイトしながら勉強、スポーツと多忙な日々となる。





 あきらは愛莉とも相思相愛なままである。当然ながら、大学を卒業したら彼女との未来の話も頻繁にした。





 できれば早く、入籍してしまいたい…。





 だけど、愛莉には愛莉の夢がある。











 愛莉は、音楽を専攻できる大学へと進学した。水泳への夢も捨てきれない彼女だったが、一番自分らしく輝けるのは、音楽というステージだろう。そう思った彼女は、必死の思いで勉強し、見事、受験で合格した。





 そして愛莉は、母校、「岩手わんこそば学園」を卒業後、そこで培った音楽の技術や知識を活かし、東京の音大へと進学した。





 友加里とは物理的な距離が近くなったため、週末ともなれば頻繁に東京見物に繰り出した二人だが、決まってその時出る話題は、お互いの恋人(彼氏)についてのことだった。








 「友加里は…、彼氏できたんだって…ね。」





 「うん。。。彼氏って言えるかどうかは、わかんないけど…、一応、付き合ってる男いるよ…。」











 「実はね愛莉…。アタシ、大学では声楽科を専攻してるけれど、本場の音楽を学ぶために、イギリスへ留学する話もあるんだよ…。その、彼氏とやらが、実はそっち方面に強い人でさ…、アタシが留学するなら、現地の知人を紹介して、ホームステイさせるって言ってくれたんだ。」





 「へぇー!すっごーい!! ってか、あたしなら英語話せないから無理だろうなー…」





 「うん。アタシもそこね。英語話す自信、あんまし、ない…。…だから、その彼に、音楽よりも先に、英会話教わってるわ…。あはは。。。」











 「愛莉…ところで、あきらとの…その…結婚とかって…??」





 「うん…。。。それね。お互いに話し合ってるんだけど…、、、とりあえず、学校出て、お互いに収入得られるようにならないと難しいかな…ってことになってる…。その気になればすぐにでも結婚できそうなんだけど…、生活していくための何たるかがないと…ね。。。」








 「そっか…。」








 「友加里ぃ?…隆太は、今頃、どうしてるかなぁ…?」








 友加里は、遠くの空を眺めながら、深いため息をついた。








 「ま、大丈夫じゃね?…あいつなら…。困った時はあたし達も力になるって言ってあるし、何より、大きな目標があるから、あいつだったら頑張れるって…。またみんなでバンド組んだり、海で泳いだり…。きっと、そういう日は来るって。」





 「うん。そうだよね。友加里…。」














 少し虚ろな春の風を感じた二人だが、離れ離れになった友を想う気持ちは、変わっていないようだった。














 そして隆太は、再び「3年生」となり、新たなクラスに編入した。





 当初は、留年したというだけで、後ろ指をさされるかと思いきや、それは杞憂であった。








 担任「あー、今日からこのクラスで一緒に勉強することになった、小野隆太君だ。彼は、世界で戦える水泳の技術を持っているのだが、残念なことに、去年、白血病に倒れて、命の危機を味わった。だが奇跡的にドナーが見つかって、今では普通に学校に通えるほどに回復した。もちろん小野の夢は、水泳選手となって故郷に錦を飾ることだ。我々にとっても、そんな選手が身近にいることは誇らしいだろうし、ともに応援してあげることが、一番の支えになるはずだ。小野は、水泳の活躍も、病魔との闘いも、決してあきらめない強い気持ちで向き合ってきた。病気に蝕まれたことは不幸な出来事だったが…、それでも、こうして人生をあきらめないで前を向く小野のことを、みんなでサポートしていこうじゃないか。」








 すると、教室には盛大な拍手が巻き起こった。そして隆太は、立ち上がり、「よろしくおねがいします!」と声をあげ、一礼した。




















 その後は病気の再発もなく、順調に学業に励んだ隆太。今はまだ、水泳の大舞台への再出発は見合わせられているが、いずれ、その夢に向かって歩くことを、いつも友に強く、強く語っていた。














 そして1年。隆太は、無事に、青い森高校を卒業した。さらに、時を同じくして、津軽本マグロ短期大学への入学の権利も獲得していた。ここでは、短い期間ではあるが、水泳の技術をさらに磨き、病気で封印していた泳力の回復から、世界に通用する選手に育つまで、みっちりと教育を受けることができる。


 


 実はこの学校への進学を提案したのは、他ならぬ、涼子だった。





 彼女は、卒業直後に隆太から、結婚してほしい…と、プロポーズを受けた。





 だが涼子はこう言った。








 「隆太くん…。前にも言ったでしょう?結婚するのは、君がなりたい自分になって、やりたいことをやってからにしようって…。もちろん、私もきみのこと、応援していくよ。どんなに辛い時だって、一緒にいられれば勇気も出るでしょう。確かにきみは、病気で思わぬ足踏みを余儀なくされて、いまは心がへこんでいるのかもしれないわ…。でもね、きみがそんなことで、大きな夢をあきらめちゃうなんてこと、ないと思う!頑張れば、きっとまた、大歓声のプールで泳ぐことができるようになるわ!」














 「…だから、これだけは私に約束して…。ちゃんと、結婚しても夢のために頑張れるってこと…。」





 「きみが追い続けた夢。きみに託されたみんなの夢。そして…、大きな困難を乗り越えてきたきみ…」





 「絶対に負けないで!そして、焦らないで! きみならできる! 時間がかかるというなら私も支えるわ。しっかり…ね!!」














 19歳の隆太のプロポーズは、一旦、断られてしまった。











 しかし、隆太は専門学校へ進学後、徐々に水泳の実力を取り戻し、やがて再び、世界を目指すことのできる逸材であると、世間から一目置かれる存在になっていった。





 専門学校を卒業する頃には、様々な企業から、入社の案内が届いていたが、彼はあえてそれを断った。








 「いえ。僕には僕が、支えていかねばならない大切な場所と存在があるのです。」























 そして、22歳の誕生日を迎えた隆太は、ある日、デートで涼子を夜の海辺に誘った時、こっそりと「エンゲージリング」を、彼女の薬指に差し込んだ…。





 隆太にとっては、大きな賭けのつもりだった。もう、立ち上る感情を抑えきれない。それに、涼子に認めてもらうためのことは、やれるだけやったつもりだ。後のことなど考えず、こうなったら、思いのたけを全部ぶつけてしまおうと思ったのだった。

















 「えっ…!?!?…りゅ…隆太くん…!?!?」








 「その…涼子!! 隆太って呼んでくれよ!! 僕は、、、涼子を守る!! 僕が守られたぶんを、全人生を捧げて守る!!」





 「…そして、、、僕が水泳でオリンピック選手になる夢を追い続けること、約束する…!!」











 「結婚…してください…!!!!」

















 








 涼子は、もう彼をじらすような真似をしても無駄だと思った。





 ここまで迫られて、もう結婚を先延ばしにする口実が尽きていた。





 それに、彼が自分にとっても「奇跡の相手」であることを、意識しないはずがなかった。




















 「ありがとう。私でよければ…どうぞよろしく…(*^-^*)♪」

















 空に満月の輝く海辺にて、強く強く抱き合い、互いに涙して永劫なる未来を歩むことを誓った。




















 その数日後。





 1枚のCDが、隆太のもとへと届いた。





 その中には、何と、友加里が作曲した彼への、祝福の歌が録音されていたのだった。





 声楽科へと進んだ友加里。まだ作曲も歌も、どこかおっかなびっくりな様子だったが、、、





 隆太の結婚を祝して、急遽、1曲の歌を作り上げた。





 涼子と隆太は、ふたりきりの部屋で、そのCDを再生して、友加里の想いと祝福を心の底から受け止めた。

















 「ずっとこの時を」





 ♪ ほら見てごらん あの日のアルバムを そこには笑顔のきみがいる ♪





 ♪ ほら見てごらん この空の果てを そこには君の未来がある ♪





 ♪ ぐちゃぐちゃに心かき回されて がむしゃらに歩みを速めて ♪





 ♪ それでも見てくれたきみが とっても とっても いじらしかったね ♪





 ♪ 素直になれなかったけれど きみはとっても暖かかったね ♪





 ♪ ダイヤのような固い心と ルビィのような眩しい光が ♪





 ♪ きみの心でずっとずっと 失われないであってほしいんだ ♪














 ♪ そうだよ! 旅はいま始まったんだ! ♪





 ♪ きみは新たなステージに立つ みんながうらやむ虹色のステージに ♪





 ♪ わたしはきみにエールを送るよ 夢をあきらめないきみが大好きなんだから ♪





 ♪ 何度悩んでもいい 何度くじけたっていい ♪





 ♪ すべてが僕らの明日になって すべてが僕らの力になって ♪





 ♪ 欲しい夢は全て手に入れてしまおうよ ♪








 


 ♪ ありがとう 僕らの青春の日々よ ♪





 ♪ ありがとう わたしの素敵な心友しんゆうよ ♪





 ♪ 旅立つきみの往く先に 幸せの雨が止まないことをずっと願ってる ♪





 ♪ いつか笑顔で語ろうね あの日の僕らは 夢を追う冒険者だったね…と ♪











 ♪ そう きみに 宇宙イチの幸せを… ♪





 ♪ そう きみが 宇宙で一番 好きだった ♪





 ♪ ずっとこの時を ずっとこのままに… ♪











 ♪ Forever your love... ♪





 ♪ Forever your love... ♪




















 …CDの再生をストップしたら、友加里との思い出が走馬灯のように蘇った隆太。中学の頃の、男勝りでグイグイ自分を引っ張る友加里は、正直言うと苦手なタイプだったかもしれない。





 でも、あの頃は友加里のことが好きだった。





 だけど、素直になれなくて、その恋は、物別れになってしまったけれど…











 いまは、みんなのおかげで、みんなが幸せを謳歌している…。











 青春時代に体験した何もかもは、そのどれ一つを欠かすことはできない、大切な未来への懸け橋だったのだ。




 そして、部屋から夕焼けの見える頃、隆太は涼子の手をつなぎ、こう言った。












 





 「涼子…。幸せになろうね…。」














 「うん。隆太もね…。」








 - Fin -








 ※このお話は、Case EX へ 続きます。

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