Case 20:Fatality
隆太は、青白い霧に包まれて、そこがどこであるか説明もできぬ場所に佇んでいた。
少しすると、かすかに霧が晴れ、目の前に、髪の長い誰かがいる。
隆太は声をかけようと、その少女へと駆け寄る…。
…しかし、彼が近づけば近づくほど、彼女は遠のく。
一体、誰だろうか…。どう頑張っても、彼女の顔は見ることができない。
だが、その容姿は、あの「小砂川優香」に、あまりにもそっくりであった。
「優香さん…なの? ねぇ、お願いだよ!何か言ってよ!!」
「…。。。あなたは、、、お帰りください。。。」
「ねぇ、優香さんなんでしょ? 僕だよ!隆太だよ! 僕も、そっちへ連れて行ってよ!」
「…それはできないわ…。きみには、やり残したことが多すぎるんだから…。」
「まっ…!!待って待って…待ってくれぇぇぇっ…!!!!」
…息を切らして走る隆太だが、あっという間に「彼女」の姿を見失った。そしてあたりに立ち込める霧は一層濃くなり、やがて、隆太は意識がなくなった。
「うああああっ…!!!!」
「お、、、おい…?大丈夫か?」
ここは病室。隆太は、急性骨髄性白血病が見つかり、すでに3か月以上、入院生活を余儀なくされていた。
「ゆ…夢だったのか…。くっ…!!まだ死なせてくれないのか…!!!!」
「な、何言ってやがる…!! それにしても大丈夫か? 随分とうなされていたようだったが…」
ベッドの横には、隆太の親友、あきらがいた。
隆太が入院して以来、彼の友だった者が代わる代わる見舞いに訪れるようになっていた。
隆太は、毎晩のように、夢に「小砂川優香と思しき女性」が出てくることを話した。そして、何度彼女に接近しようとしても、決して近づくことも、顔を見ることもできないことも。
容態は決して安定してはいない。抗がん剤の影響で体はボロボロになりつつあり、骨髄移植のためのドナーも現時点では見つかっていない。
この病気のために、隆太の聖ドルフィン大学への特待生進学はフイになってしまった。
また、長期間の入院となるため、高校も、留年を余儀なくされる。
友のみんなに後れを取り、なおかつ、水泳での活躍という夢までもを奪われたショックで、生きる希望を失いつつあった。
「僕も、いっそのこと優香さんのところへ…」
「りゅ、隆太!!ばかなことを言うな!!そんなに死に急ぐ場合じゃないだろ!! ちゃんと治療すりゃあ治るんだ。命さえあれば、少し人に後れを取っても、ちゃんと夢は叶うさ! あきらめるんじゃねぇ!!」
隆太は、そっと、あきらの手を握った。
「ところで、あきら…? ドナー登録の呼びかけ、どうだった?」
あきらは、少し曇った表情で、その問いに答えるしかなかった。
「隆太…、それなんだけどな…。お前が、傷つくことを恐れて、俺は言えなかったんだ。でも、実際にあったことを言わせてもらうよ。」
「もちろん、俺の親友がこういう病気であることは、俺のクラスメイトとか、水泳部の部員とか、親戚とかにも話したさ。…でもな…、、、」
「ドナーになりますって言ってくれたのは、何十人ものうちの、わずか3~4人程度だったんだ。なんでだよ!って聞いたら、そんなどこの誰とも知らない人のために、検査や何やらの苦痛に耐えるのは嫌だとか、自分の体の中にあるものを、知らない人に移植するなんて気持ち悪いとか…、、、下手すりゃ、自分だけええかっこすな!って陰口叩きやがる!!…ったく!!どいつもこいつも薄情な奴らばっかりだった!!」
「でも隆太、、、俺はあきらめないよ。たとえ、お前のHLAの一致の確率が、1万分の1だとか、途方もない数字だったとしても、ゼロじゃない限り、俺はその無謀な賭けにも勝てるって信じてる。そうでなくても、時間さえかければちゃんと治るってお医者さんが言ってた。また一緒に泳げる日は必ず来る!それまでは、みんなで支えて行こうって、愛莉たちと決めたんだよ。」
「あ、、、あきらぁ…」
思わず涙をこぼしそうになった隆太。すると、あきらはおもむろに病室の外へ顔を向けて…
「そこのお嬢さん!恥ずかしがってないで”元カレ”に一言お見舞いの声をかけたらいかがですか?」
隆太「なな…っ…!?」
実は、あきらに連れられて、友加里が見舞いに訪れていた。気が付けばもう夏休み。友加里は、多忙である高校生活をあえて無視して、隆太のもとへと駆け付けたのだった。本当は、友加里は最近になって、両想いになりつつある異性ができて、隆太にそのことを打ち明けたいと思っていたのだが、とてもではないが、そんな状況ではない。
「う、、、うっさいなぁあきら…!!言われなくったってちゃんと…」
…しかし、多数の機械や点滴を繋がれて、少し痩せ細り、抗がん剤の副作用で髪が抜けたため、頭に包帯を巻いている姿は、つい先日まで、元気に話をしていた親友であることを疑わせるかのようであった。
「うわぁぁぁぁぁん…隆太ぁ!!隆太ぁ!! いやだ!! いやだよぉ…!! こんなになっちゃって…!! 死ぬなんて絶対嫌だぁ!! 隆太てめぇ!! あたし達を置いていくとかマジでふざけんなぁぁぁぁ…、、、わぁぁぁぁん・・・・・・・・」
友加里の涙は本物だった。
思わず、あきらももらい泣きしてしまった。親友が、命の危機に晒されている現実を前に、心の動揺を隠しきれるわけがなかった。
友加里「隆太!!あたしもドナー登録してきたよ!!一致するかどうかわかんないけど、絶対治せよ!!あたしも色んな人に声かけるから!!隆太!!絶対約束だよ!!生き延びることだけを考えて!! とにかく、あたし…あたし…、、、うわぁぁぁぁぁん…」
「…ありがとう。友加里…。ごめんね。僕が、体が弱いばっかりに、みんなに心配かけちゃって…。」
隆太は語った。
自分は、生まれつき体が弱く、生後間もない頃から、大きな病気を繰り返し、その都度、生死の境をさ迷ったこと。そして、両親はその虚弱体質を克服させるべく、彼を水泳の道へ送り出したことなど。
水泳を始めてからは、大病もなく順調に成長してきたと思われていたが、ここに至り、まさかの白血病。
両親も姉も、常に絶望の念を隣り合わせに、日々を過ごさねばならないことも話した。
あきら「あ、そうだ!忘れるとこだったよ。これ、、、流美さんから預かってたんだ。お守りみたいだけど…」
隆太「えっ…お姉ちゃんから…?」
あきら「うん。実は、お前のお姉さん、お前が入院してから毎朝、村の神社にお参りに行ってるんだよ。とにかく、弟が助かるまでは一日も欠かさないつもりだって…。このお守りは、その神社でもらってきたものらしいんだ。愛希さんも、ドナー登録の呼びかけに、ブログとかツイッターを使っているそうだ。」
隆太「くっ…、、、お姉ちゃん…。。。うううっ…。。。」
あきらがふと、テーブルに目をやると、そこには手紙が何枚かあった。
1枚は、隆太の親友である、田所くんからのもの。田所くんは、3年生になった時、家庭の事情で転校してしまった。そのため、一時は音信不通となっていたが、隆太の水泳での活躍から、白血病の発覚を聞かされ、激励の手紙を送ってくれたのである。また、手紙の最後には、ほんの1行程度であったが、彼の恋人である、杉町さんからのメッセージも添えられていた。
もう1枚は、福島のサーベルシャークこと、水島奈美からのもの。文面には、「よもや、あなたまでが水泳を離れることになるなんて…」といった、失意の念が多数綴られていた。
隆太は、なかなか返事を書けないことを気にしていたが、あきらに、「きっとこの状況をわかってもらえてるさ…」と諭され、病気がある程度まで回復したら、その報告をしようと心に決めた。
友加里「ところで、隆太? 家族とか親戚に、ドナーとして一致する人って、いなかったの? 普通は、両親とかきょうだいなら、高い確率で一致するって聞いたけど…」
隆太は重い口調で話した。当然ながらそれは真っ先に行ったことだが、残念ながら、完全な一致は得られなかったことを…。
幸い、重篤な状態とは言えない現状なので、時間さえかければ治る見込みはある。しかし、隆太本人は、ひたすら苦しい思いをして、いつ解放されるとも知れない闘病生活の先が見えないことに、絶望の気持ちを抱えつつあった。
友加里は、その気持ちを受け止め、やさしく、彼の手を握った。
しばらくすると、病室に二人の女性が訪れた。
ともに親友の、織畑愛莉と、恵野栞だった。もちろん、隆太の見舞いが目的だったが、二人は、どうしても伝えたい話があるとして、あえて二人揃ってここを訪れた。
愛莉「隆太…?具合はどう? …って、辛いよね…。うん…。わかるよ…。私達もドナー登録したんだけど、残念ながら一致はしないみたい…。そういう面では力になってあげられないのが心苦しいんだけど、別な意味で、隆太を助けたいって思って…ね。栞…」
栞「隆太くん。私達今度、かつての”スイートショコラガーデン”のみんなを集めて、大々的なライブをやることにしたの。大先輩の由真さんがバンドをけん引してくれるっていうし、昔、バンドメンバーだった麻衣子さんとかも、この日のために集まってくれるんだって。」
愛莉「そ、それでね、このライブで集まった収益金は、全部、隆太の治療費のために寄付するって決めたんだよ。」
隆太「な、なんだって!? そ、そんなこと、、、いくらなんでも…」
愛莉は、隆太の言葉をあえて続けさせないように、矢継ぎ早に話を続けた。
「うん。実は以前、隆太のご両親にこのこと話してあったの。でも治療費は心配しなくていいって言われてはいたんだけど、やっぱり、お金の面は避けては通れないでしょ…。今までは、バンドの活動のために隆太にいっぱいいっぱい、助けてもらったわ。だから今度は、私達が隆太を助ける番だと思って…。いま、私も栞も、そして、由真さんも、ライブのチケットを買ってもらうことに力を注いでいるわ。で、今のところ、順調にお客さんに来てもらえる予想でいるの。みんな、隆太がまた、水泳で活躍できる日を信じているんだよ。だから、隆太…、、、絶対、あきらめないで…。」
隆太は、こらえきれずに大泣きした。
「うわぁぁぁぁぁん…、、、、、、、」
栞「大丈夫だよ。ほら、隆太くんの先輩の女子が言ってたでしょ。あなたならできます!って。水泳のことだけじゃなく、病気の克服だって同じだよ。」
あきら「そうだよ!な!向かってくるなら俺の敵!病魔だって隆太の根性には絶対勝てねぇって!! 時間がかかったとしても、俺は信じてる…。またお前と一緒に泳げる時、ライバル同士になれる時のこと…。」
友加里「そうだよ!隆太…。きっと、この試練を乗り越えた先には、嬉しいことが待っているよ。私達は、どんなことでも力になるならそれを惜しまないよ!きっと、涼子さんも同じことを言うと思うわ。」
愛莉「ファイトだよ!!隆太!! 後でライブの様子、動画で配信する予定だから、見せに来るわ。私達のライブの成功、祈っててもらえると嬉しいな…。」
隆太は、おだやかな笑顔になった。そして、みんなと握手を交わした。
そして、友加里も加わっての「スイートショコラガーデン再結成・スペシャルライブ」の日が訪れた。
一度は解散したバンドだが、隆太の危機を知った元メンバーが、音楽で彼を救おうと、この日だけでも…と、団結した。
会場に入った友加里たち。久々に会うメンバーとのよもやま話も早々に、ライブのリハーサルにとりかかった。
すると、そこへ一人の女性が現れた。
「お久しぶりですね。大変勝手ではございますが、私達も、サプライズゲストとして参加させて頂きたく思いますわ。」
…そう言ってきたのは、何と、かつてライバルとして闘ってきた長野県出身の女子バンド「フェミレイト」のリーダー、ユズキだった。
「私達も、隆太くんの病気のことを聞いて、黙ってはいられないと思ったのです。微力ながらでも、何か力になりたいと思いまして、みんなで話し合っていたんです。ちなみに、今日のライブは、わざわざ長野から青森まで駆けつけてくださっているファンも大勢いますよ。そんな情熱的なみなさんに、たっぷりアツい曲を届けて、隆太くんへのエールを授かりましょうね!!」
「はいっ!!ありがとうございます!!」
愛莉達は、思いがけないフェミレイトの参戦に、強い希望を感じた。
今日はいつもより大きなライブハウスが会場だ。チケットを買ってくれた観客が、座席の大半を埋め尽くしていた。愛莉もユズキも、めったにない状況に緊張の色を見せていたが、バンドが、いや、自分が成長することができたのも、強く支えてくれた隆太のおかげ。作詞の才能のない愛莉には、彼が不可欠だった。そして、彼がいたからこそ、今の自分がある…。
つまらない緊張は捨てて、今日はお互いのバンド、敵味方なしにして、全力で隆太への応援をすることを誓った。
幕が開き、それぞれのバンドのリーダーがMCを務めた。
元スイチョコのリーダー、小繋由真は、実はもう2児の母。「時の経つのは怖いねぇ…」などとジョークを交えつつも、今回のライブの、最大の目的を話した。
「…実は、私達のバンドの一員として活躍してくれた、小野隆太くんが、白血病で現在闘病生活中なのです。今日のライブの収益金は、すべて、彼の治療のために役立たせて頂きます。そして、どうか皆さんも、これまでバンドを支えてきて、これからも生きる権利のある彼を、そして、同じ病気と向き合っているすべての皆様を、応援してあげてください。よろしくお願いします!!」
それに続いて、フェミレイトのユズキも…
「私達は普段は、バンドとしてはライバル関係にあります。でも、今日だけは思いは一つです。一人の友を、命の危機から救いたいという一心で、皆さんに、心を込めて音楽をお届けさせて頂きます。皆さんの声援がそのまま彼への応援に繋がります!どうか、今宵は暑い夏に交じって燃え尽きえるつもりで盛り上がりましょう!!」
会場からは「オーーーッ!!!!」という大歓声とともに、拍手が沸き起こった。
そして、お互いにレパートリーとして持っている曲を、ジャンル不問で数々紹介した。
もちろん、この日のために書き下ろしたオリジナル曲もある。
数々の懐かしい音楽に観衆は最高潮の盛り上がりを見せていた。
2時間を超える、彼女達としては長大なライブとなったが、いよいよ、最後にお互いに用意した最新の曲を歌って、お開きという時になった。
まずは、スイートショコラガーデンの最新曲「CHIKAI(誓い)」
友加里と愛莉がボーカル件キーボード。栞とあきらはドラム、ギターをそれぞれ担当した。
♪ その想い 届かないと 涙した夜の空に 輝いていた星が綺麗だったと きみは 知っているでしょう ♪
♪ こんな夢 惜しくないと 捨ててしまおうとする君がいた だから僕は 叫び続けた それが 君の全てなのかと ♪
♪ いまは 立ち止まってもいい 未来は必ず待っているのさ そうさ君は 翼を広げ はばたけ! 無限の空へ ♪
♪ どんな悲しみも どんな苦しみも いつかは終わりが来るんだと つぶやいた私に君は瞼を閉ざし ♪
♪ そっと握った手のあたたかさ ずっと ずっと 信じているよ ♪
♪ さぁ 歩いてゆこう 青空は僕らを待っている ♪
♪ さぁ 前を向きましょう 青春ははじまったばかりだから ♪
♪ この地球で 僕は誓う きみとずっとずっと 生きていくよと… ♪
♪ 君の心に 私は誓う 心のダイヤが輝き 忘れないよと… ♪
愛莉達は、歌の後、深々と頭を下げた。客席からは惜しみない拍手が送られた。
思わず涙が噴き出た友加里と愛莉。胸の鼓動をおさえつつ、フェミレイトのメンバーの演奏に耳を傾けた。
ユズキ「…では、聴いてください。”フェミレイト”で、”Stand up against myself”」 (君自身に抗って立て!)
♪ Stand up! Yes, you only get excited! (立ち上がれ!そう 奮い立つのみさ!) ♪
♪ Being staggered, the future invisible future. (ズタズタにされ 先見えぬ未来) ♪
♪ But, there I am waiting. I am talking about you. (けれどそこで僕は 待っているよ君を) ♪
♪ Avoid the rain, beyond the wind, head to the future with the storm. (雨を避けて 風を超えて 嵐と共に未来へ向かおう) ♪
♪ Surely, you walk away, towards you. (きっと君は 歩き出すさ 君自身に向かって…) ♪
♪ You do not need to be afraid of anything that has come so far. (ここまで来れた君が 何を恐れる必要もないさ) ♪
♪ Scare the things that hinder the way you go! (行く手を阻むものは 蹴散らしてしまえばいいさ!) ♪
♪ Your precious hope and courage, I will never forget it. (君の大切な希望と勇気、僕は絶対忘れさせないよ) ♪
♪ That's right, you are a traveler of youth shining better than anyone! (そうさ! 君は誰よりも輝く青春の旅人さ!) ♪
♪ That's why I do not have to worry about it. You can live the way you believed. (だからもう ためらう必要はない 信じた道を生きろ!) ♪
♪ Hold a hope that will keep you out with a hot heart than the sun! (太陽よりも熱く燃えろ!希望を持て余してしまえ!) ♪
♪ That's right! Burn the youth! That's right! Burn the youth! (そうさ!青春を焼き尽くせ! そうさ!青春を焼き尽くせ!) ♪
♪ La...La...La... La...La...La... ♪
ライブは、大成功だった。
惜しみない歓声が、両バンドに送られて、閉幕となった。
翌日、愛莉達は隆太の病室へと駆け付けて、まだ編集すらしていないライブの様子を収めた動画を、スマホで彼に見せていた。
隆太は、感動のあまり大粒の涙を零した。愛莉達は、笑顔で涙をハンカチで拭き、彼に、フェミレイトのサプライズがあったこと、みんなが応援してくれたことを伝えた。
隆太は、改めて、笑顔を見せた。そして、小さな声で…
「みんな、、、ありがとう…」 と、優しい口調で話した。
それから、何日か経った。
隆太は、そのライブの感動を、今度見舞いに来た涼子に話そうとワクワクしていた。
だが一方で、ドナーが見つからないことへの悔しさと不安は、どうしても拭い去れなかった。
確率1万分の1の賭け。そんな大勝負に、自分ごとき人間が勝てるわけがない…。
虚しく、病室から見える空を呆然と眺める日々が続いていた。
だが、、、
そんなある日のことだった。
姉の流美が病室を訪ねて来た。そして、主治医の先生も一緒だった。
「なんだろう…??まさか、最悪の通告でもあるのか…??」
そんな心配が心を過った隆太だったが、流美はこう話した。
「隆太!!喜んで!! 見つかったの!! あんたとHLAが完全一致するドナーが見つかったのよ!!」
「ええっ…!?!?ほほほ、、、本当に!!??」
主治医「本当ですよ隆太くん。私もこのような奇跡を経験することは、医者になって以来、初めての経験です。あ、そうそう。今日はその、ドナーとなる方をこちらにお呼びしてあります。」
「どうぞ、お入りください。」
…その瞬間、隆太は、これが夢か現実か…?
自らの目を、ただただ疑うしかないのであった。
それもそのはず。
何と、その”ドナー”となった者とは、、、
隆太の恋人である「磯倉涼子」その者だったのだから…。
涼子「隆太くん…。どうやら、私が、”1万分の1”みたいなの。こんな奇跡、信じられないけど…、、、これで、しっかり病気、治るね。」
隆太は、言葉を失い、いま、目の前で何が起こっているのかすら、わからなくなった。
涼子は、隆太の手をとり、話した。
「さぁ、骨髄移植の手術、辛いかもしれないけど、お互い頑張ろう!! きみは絶対に負けない!! ファイトだよ!!」
「は、、、はいっ…!!!!」
その数日後、骨髄移植手術が決行された。長時間に及ぶ手術で、隆太の体力が懸念されたが、誰もが、彼の無事を信じて待った。
麻酔から覚めた隆太は、集中治療室のベッドに横になっていた。
酸素マスクなどを数々装着されているが、どうやら手術は、無事に成功したらしい。
ひとまず、現実の世界で目を覚ませたことに安堵した。
ふと、首を傾けると、同じくそこには、涼子の姿があった。
涼子も自分と同じく、酸素マスクや点滴を付けられている。
刹那、涼子と目線が合った。
すると涼子は、にこやかな表情を浮かべ、そっと、親指を立てて隆太にアピールした。
隆太も同じく、そっと、親指を立てて、涼子に返事をした…。
そして、ふと窓の外を見ると、空には、美しい花火が打ち上げられていた。
そういえば、今日はお祭りの日だった。みんなと見に行く約束は、果たせなかったけれど…
その花火は、まるで、手術の成功と、1万分の1という奇跡を祝福してくれているかのようだった…。
大輪の花火を見つめながら、隆太と涼子は、同じことを思っていた。
自分達が出会うことは、実は、必然の運命であったことを…。
-つづく-




