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17/22

Case 17:Don't stop fly!

 かくして、愛莉は音楽人生の進退を賭けた、ミュージックフェスティバル参加を隆太達に打ち明けた。






 しかし、隆太もあきらも、音楽をどう作り、どう奏でるべきなのかは、さっぱりであった。これまでに幾度となくバンドを組んでは歌を歌ったり、楽器を演奏したりしてきた。しかし、それでも、名うてのバンドには到底及ばない力。





 水泳の道がある隆太とあきらにとっては、音楽を切り捨てたいというのが本音ではあった。特に隆太は、これからは五輪選手の選抜選手権大会など、立ち向かわねばならない舞台と、鍛えねばならない身体がある。されとて、親友である愛莉の気持ちを見捨てるわけにもいかず、重い腰を上げるかのように、参加を了承した。











 だが、愛莉も自分たちの実力不足を常々悩んでいた。





 「…私達って…、しょせん、ただの、音楽好きな友達同士…なのかなぁ…。」





 あきらは、少し言葉に迷いつつ…





 「た、確かにそれは、、、そうかもしれないな…。いや、そう見られているのかも…な。以前、長野のバンドの、フェミレイトに敗れた時だって、あのメンバーですら、入選できなかったんだ。それを思えば、僕らがやっている音楽ってのは、あの時言われたように、教科書通りの演奏だってこと、認めるほかないよな…」











 沈黙が漂う秋の午後。





 誰も、何と声をかければいいのか、わからなかった。











 「ゆ、友加里がいてくれたなら…なぁ…。」





 隆太が、何気なく放ったその言葉、愛莉は強く反応した。








 「うん、でも友加里はきっと、自分らしい音楽があって、それが、私達の思うそれとは違うんだよ。…けど、実力のあるアーティストなんだから、今回だけでもいいわ。何とか、力を借りたいわ…。」





 「…。。。」











 「あ、ごめんね二人とも…。あたしは、栞ともう一度話し合って、どんな音楽でフェスティバルに出るのか相談するわ。二人は、、、無理のない範囲で楽器の練習とかしてて。…ううん。いいの。…だって、音楽バンド組みたいってのは、ただの私の事情っていうか、わがままだからね。お金ばかりかかって、実にならないのは、あたしの力不足なのはわかってるんだよ…。だから、これを最後のライブにしちゃってもいい。みんなに、迷惑かけられない…。」





 「あ、愛莉っ…!!」








 愛莉は、がくっと肩を落としながら、実家へ帰った。残された隆太とあきらも、間が持たず、そのまま家に帰った。








 その日の夜。隆太は思い切って、友加里にこのことをメールで話した。友加里はちょうど、修学旅行の後でヒマな期間だと思われるので、話だけでも聞いてもらおうという、彼なりの配慮だった。








 すると、隆太のケータイが鳴った。友加里が電話をかけてきたのだった。








 「もしもし…友加里…?あの…」











 事情を説明するが早いか、友加里は、淡々と隆太に話を始めた。








 「そうだね。愛莉のために、何かしてあげたいよね。私だって愛莉は親友だし…。けれど、その、フェスティバルとかコンテストで賞をとるってことになれば、やっぱり、バンドとして”特徴的な何か”が、必ずなきゃならないのよ。言っちゃなんだけど、以前、フェミレイトの一員として私があなた達の演奏と歌を聴いたけど、”やらされてる感”がハンパなかったわよ。そんなんじゃ審査員どころか、観客だってあくびしながら寝ちゃうわよ。」





 「…じゃ、じゃあ…どうしろと…?」














 「うん。私ね、この間修学旅行で、イギリスに行ってきたんだよ。もちろん、現地ではいろいろな音楽を耳にしたよ。でも、一番印象に残ったのは、実は、”ヘビーメタルロック”だったの。あれって、まさに魂の叫びって感じでしょ!とにかく、我を忘れて叫ぶように歌って、激しい演奏をして、一曲にエネルギーの全てをぶつけるっていう、あの感じ、忘れられないわぁ…」





 「なるほどね…。でも僕達は、ヘビメタとかって顔じゃないし…」





 「こらぁ!隆太!!それがアンタらのダメなところだって言いたいの!!やってもいないうちから、どうして無理だのできないだのって決めちゃうのよ!!型にはまったバンドの姿なんて、私にしてみれば御免だわよ。時には型を無視して、良い意味で、愛莉のバンドらしくない感じを出してみせるのよ!!」





 「つ…つまり、ヘビメタで勝負しろってこと…??」





 「ま、私に言わせればそうね。高校生ってロック歌う人多いけど、大体が、男子じゃん。私も愛莉も、何気に激しい歌って得意だわよ。それでね、邦楽を激しく歌うだけじゃ特徴ないって思われるから、洋楽っぽく、全編英語の歌詞で歌うの。これなら、バンドとしても大人に見られるだろうし、他のバンドにはない、いい特徴を見せつけられそうだって思う。」








 「…でも、僕らは英語得意じゃないし…譜面だって書けないよ…」








 友加里は、呆れた顔をしつつも、こう言った。








 「あんたなぁ!死んじゃったあんたの親友に、水泳しか能がない石頭な人間ですってことを訴えたいのか!?確かに一つの物事に打ち込むのはいいだろうけど、あんただって音楽は嫌いじゃないでしょう?だったら、ちょっとは頑張ってみようって言葉、出ないわけぇ?」





 「そ、、、そんなわけじゃ…」











 「ねぇ、ここは私も協力するから、みんなで頑張ろうよ。揉めてても何も始まらないわ。まず、歌詞はあんたが日本語で書いてみて。それで、私のお姉ちゃんが、海外への留学経験あるから、、、何とか頼んで英訳してもらって…、スコア(楽譜)は、愛莉と栞にお願いするとして…、隆太とあきらは、それぞれの担当の楽器をできる限り練習することね。」





 「う、うん…」








 私の学校ね、実は、秋休みってのがあるの。ごく短い間だけなんだけど、その間は、みんなのところへ行って練習もできるし、フェスティバルにも参加できるわ。確かに愛莉にしてみれば、音楽を奪われるか否かで気が気じゃないはずだわ。彼女のことを見てあげつつも、頑張ってあげて。これは私からもお願い。」





 「あ、ああ。わかった!」











 友加里の思いがけない言葉で、急にやる気が起こってきた隆太。このことを愛莉達にも話し、一同は、それまで挑んだことのなかった「ヘビメタ」に挑戦することになった。











 しかし練習は難儀した。大きな音を出すため、音楽スタジオを借りねばならないが、そのための時間や資金も限られている。仮の状態の譜面を参考に、各々が楽器を演奏したが、爆音という名の雑音しか流れない。





 愛莉「おいおい!!ただバカぢからで弾けばいいってもんじゃねぇよ!!」





 あきら「わかってるって!!いちいちなんだよ!!文句ばっかり一人前で偉そうに…!!」





 隆太「まま、、、待った待った!!もめたってしょうがないじゃないか…。それよりも、今は、、、」





 栞「そうね。今は…、みんなの息を合わせることが大事だろうね。」





 友加里「そうそう。一見無造作に弾いているようなヘビメタも、ちゃーんと音楽の基礎を踏んで演奏されているんだからね。その第一歩はやっぱり、みんなの息を合わせることだわよ。愛莉…?」











 愛莉「うん…そうだよね。ホント、ごめん…。」











 そして気を取り直し、練習を続けた。











 数日後、何とか、演奏する楽曲が出来上がった。友加里の姉の、由美が一肌脱いでくれたおかげで、なかなか叙情的な歌になっているようだった。





 全編、英語の歌詞だが、これは間違っても授業で教科書を読むような「棒読み」ではいけない。





 そこで、ボーカルを担当する友加里と愛莉は、動画サイトで様々な洋楽をかたっぱしから聴いた。そして、歌詞の英語がどのように発音されているか、見様見真似ではあるが、少しずつ学び取っていった。











 月日の流れは早く、気が付けばフェスティバルまで、あと1週間という時になった。





 隆太は、自分たちの演奏を見に来てほしいと、恋人(だと思っている)の涼子や、姉の流美、義兄の愛希にも声をかけた。岩手県で開催されるイベントなので、その気になれば日帰りも可能だったが、隆太達は1日早く現地入りすることにした。





 最後の最後まで、入念な調整が必要そうだ。ましてや今回は、演奏したことのない「ヘビメタ」に挑む。観客や審査員がどう反応するか、全く想像がつかない。





 不安は強くメンバーみんなの心を包んだが、一方で、ここまで頑張ってきたことや、叫びたい心の鬱憤を爆発させるチャンスでもある。もう、躊躇いはいらない。みんなは、お互いにその気持ちが一つであることを、アイコンタクトで確かめ合った。











 そして、偶然にも愛莉達のバンド”あいりぃらば~ずばんど♪”の泊まったホテルに、長野を拠点として活躍する強豪バンド「フェミレイト」の姿もあった。ロビーにて、フェミレイトのリーダーの、ユズキと、愛莉が急遽、談話に耽った。





 ユズキ「あ、、、あら!!何という!!」





 愛莉「こ、こちらこそ。。。まさか、同じホテルだったとは…。と言いますか、あなた方も参加されるのですね…」





 ユズキ「当然ですよ。音楽の祭典とあっては黙っていられるわけがありませんからね。」





 愛莉「あ、あの…何といいますか…、、、私達も、あれから一生懸命頑張りました。でも、フェミレイトの皆様を超えることはできないかもしれません。どうぞ、下手だったら盛大に笑ってやってください…」











 するとユズキは、愛莉の肩をそっと叩いてこう話した。











 「笑うものですか…。あなた達の真面目に音楽に向き合う姿は本物です。前回は、たまたま実力が出せなかっただけですよ。同じ音楽へ情熱を燃やす人間として、たとえ、上手下手があったとしても、決して笑わないのが一流バンドへの心得です。むしろ、今度は私達が、あなた達に笑われる番かもしれませんよ?」





 「あ、いや…そういうんじゃ…。あ、でも、あれから、私達も必死に頑張ってきました。ど、どうか、明日の演奏と歌を、聴いてください!」








 ユズキは、その言葉に優しい笑顔を返した。

















 そしてフェスティバル当日。会場は、様々な出場者であふれかえっていた。しかし今日は何かが違う。愛莉達が、他のバンドにやたらと視線を集めさせるのであった。





 それもそのはず。愛莉達は、ヘビメタ曲を演奏するために、衣装やメイクまで、かなり派手で奇抜な姿をしていたからだ。





 一部の者は、「あいつら何考えてんの?」といった嘲笑の声を聞こえよがしに話す者もいたが、メンバーのみんなは暗黙の了解で、そういった言葉には一切耳を貸さないことにしていた。





 「音楽を聴いてもらえれば、私達の真価をわかってもらえるだろう」





 それをポリシーに、緊張で胸が張り裂けそうになりつつも、他の演奏者の楽曲を耳にしながら、出番に合わせて士気を高めていた。








 今回も「フェミレイト」が先手となった。彼女たちは、得意としているアップテンポで重厚なサウンドと、少し物悲しい歌詞を情感込めて歌うという、無難な選曲とパフォーマンスを選択したようだった。





 演奏が終わると、大拍手が巻き起こっていたが、愛莉達もこれに負けじと、自らの魂を歌わねばならない。











 そして、いよいよ…











 司会者「続いての参加者は、青森からお越しの高校生バンド、あいりぃらば~ずばんど♪の皆様です!」





 愛莉「み、、、み、、、みなさま、、、その、、、今日は、、、わわわ私達あいりぃらば~ずばんどの…」





 大観衆を目の前にカチカチの愛莉。舞台の袖からあきらがウインクした。





 (愛莉!平常心だ!客なんていないと思っていいんだ!!)





 愛莉は、気を取り直し、マイクに向かって話した。





 「今日の歌は、私達の魂の咆哮です。火山よりも激しく燃える、私達の想いを受け止めてください!!」








 では、、、








 あいりぃらば~ずばんど♪で、「Don't stop fly」



Lyrics: Ryuta Ono Vocal: Airi Orihata Guitar: Yukari Asakura / Shiori Megumino



(作詞:小野隆太 ボーカル:織畑愛莉 ギター:浅倉友加里・恵野栞)


Base: Ryuta Ono Drums: Akira Hiiragi


(ベース:小野隆太 ドラムス:柊あきら)








What’s the justice! What’s the affection!


(何が正義だ! 何が愛情だ!)


You do not understand my painful feelings.


(お前は私の痛む気持ちを何もわかってない。)


The heart is withered like a wilderness.


(心は荒野のごとく枯れ果てて…)


There is no one looking out there.


(そこに誰も見向きもしない。)


Is not it a regret?


(悔しくないのか?)


Is not it annoying?


(腹立たしくないのか?)


I live my life in vain ...


(がむしゃらに生きてきた私の人生が…)


Only one error caused all gears to go crazy.


(たった一つのエラーで、全ての歯車が狂ってしまった。)


Already, no one believes!


(もう、誰も信じるものか!)


I am not afraid of losing anymore!


(もう、失うことを恐れやしないさ!)


Even if all the existence becomes my enemy.


(あらゆるものが私の敵に回ったとしても)


I believe only in my way.


(私は私の道だけを信じていくだけさ。)


Come on, please fool me.


(さあ、笑いなさい。)


Mock up my folly.


(私の愚行を嘲笑しなさい。)


Surely you will not understand.


(きっとあなたにはわからないでしょう。)


You do not know the meaning that I hurt and live even if I cry.


(私が傷つき涙してでも生きていく意味を、あなたはわからないだろう。)




But I keep flying.  But I keep flying.


(でも私は飛び続けるんだ。でも私は飛び続けるんだ。)


Break a narrow bird cage and paint the future in the sky of freedom!


(狭い鳥籠を破壊して、大空に自由を描くんだ!)


You don’t understand somewhere.


(お前なんかにはわかるまい。)


Someday, from this scar, seven shining wings will grow.


(いつの日かこの傷跡から、七色に輝く翼が生えるのさ。)


He who chases a dream is beautiful.


(夢を追う者は美しい。)


Those who chase a dream are shining.


(夢を追う者は輝いている。)


And I have important friends.


(そして、私には大切な友達がいる。)


A firm bond is more evident than diamonds.


(ダイヤよりも固い絆がその証なのさ。)


That's right. The scars of pain have not disappeared ...


(そうさ。傷跡の痛みは消えなくたって…)


I have an obligation to enjoy happiness and freedom!


(私には自由と幸せを謳歌する義務があるんだ。)


Gotta stay fly! Gotta stay fly!


(飛び続けろ!飛び続けろ!)


What’s the storm! What’s the cold!


(何が嵐だ!何が寒さだ!)


The more I lose such things, my spirit is not brittle!


(私の心は、そんなものに負けるようなものじゃない!)


It's my enemy if you're struggling!


(向かってくるなら私の敵だ!)


It will be a dazzling gemstone than anyone else!


(誰よりも眩しく輝く宝石に私はなってみせるのさ!)


Because.


(だから…)


Gotta stay fly! Gotta stay fly!


(飛び続けろ! 飛び続けろ!)


Gotta stay fly! Gotta stay fly!


(飛び続けろ! 飛び続けろ!)


Gotta stay fly! Gotta stay fly!


(飛び続けろ! 飛び続けろ!)


Wherever...


(どこまでも…)




 全ては出し尽くした。






 全ては燃え尽きた。





 激しい歌と激しい伴奏の中、彼らは、心に宿る全ての気持ちを惜しみなく歌い上げた。














 観客席には流美や涼子がいた。今回披露された曲の意外さに驚きを隠せない様子だった。





 涼子「うぉーーー!!まさかのロックかー!ちょっと幼い感じあるけどかっこいいなー♪」





 流美「ま、、、まじか、、、弟に、あんな一面があったとかお姉ちゃんはショックだよー…」





 愛希「いいな!この”男泣き”的な歌詞と歌い方が、ロックってもんだよな。…あ、歌ったのは愛莉だったっけ。。。」











 愛莉達は気が付いていなかったが、会場の観客は総立ちで、激しいパフォーマンスを交えて歌う愛莉に絶賛の嵐だった。





 そして、歌われた曲の意外性も含め、かつてのライバル「フェミレイト」も、心の中では”お手上げ”状態だった。











 そして、彼らが舞台袖へ引き上げようと思ったその時だった…











 「アンコール!! アンコール!! アンコール!!」











 …まさかの、アンコールが巻き起こった。





 突然の事態に愛莉はもちろん、司会者、運営者も驚いたが、ここは、期待に応えずしてどうする!ということで、もう一度、この歌を歌ったのだった。





 今度は愛莉達も、会場の盛り上がりに溶け込んでいる。バンドのみんなだけじゃなく、聴いている観客も、何百何千という人間が、自分の歌と音に酔い痴れている。





 それは、愛莉が今まで感じたことのない「恍惚」であった。それまでの「歌うだけで精一杯」という印象の「あいりぃらば~ずばんど♪」とは明らかに違う、意表を突いた一曲に誰もが驚愕し、そして共に心を燃やした。











 そして、表彰式の時間となった。気になる順位は、何と全バンド中、2位という快挙を得た。





 惜しくもトップとはならなかったが、100組近いバンドや歌手が出場する中で得たこの順位、どれだけの価値があるかは、説明など不要だった。











 満面の笑みで準優勝のトロフィーを受け取る、リーダーの愛莉。その手にずしりと来るトロフィーの重さは、それまでの人生の中で得た、どんなものよりも重く、そして感激できるものだった。





 メンバーである隆太達も、銀メダルを授かった。思い切ってヘビメタを演奏してみた価値はあった。いや、団結して頑張った甲斐があった…と言うべきだろうか。





 愛莉は、激しく涙して喜んだ。無論、この結果を受けて、観客だった涼子らも抱き合って飛び跳ねた。





 やがて愛莉は、両親から音楽の道をあきらめることの撤回と、更なる音楽への精進を言い渡されることであろう。

















 控室に戻ると、ちょうど、「フェミレイト」の面々と鉢合わせした。





 愛莉「あ、みなさん…」





 ユズキ「すごいわ愛莉ちゃん…。感動したわ。会場を沸騰させてしまうなんて、私達でもめったにありえないことだわ…。私達は今回、8位という結果に甘んずることになったけれど、それ以上に、愛莉ちゃんたちの成長を感じることができて、すっごく、実のあるフェスティバルだったわ。私達も負けていられませんね。お互い、いい音楽を奏で続けましょうね!!」





 愛莉「はいっ!!」








 その後、フェミレイトの面々はバスに乗って会場を後にした。











 隆太達も、思わぬ大勝利に心が動揺していた。





 しかし、手にしたメダルの重さは、それまでの苦労の結晶。





 特に隆太は、優香の笑顔を思い浮かべながら、「やったよ…!ありがとう!」と、心の中で何度も何度も叫んでいた。











 この夜は、涼子たちの提案で急遽、祝勝パーティーを開くこととなった。





 とは言っても、予算が限られているため、小規模な飲食店で、安い焼き肉を食べる程度であった。





 けれど、みんなにとって、それが最高の味であったことに、間違いはなかった。





 「なぁ隆太!このこと、一生の思い出になるよな!」





 「あきら!もちろんじゃないか!忘れろって方が無理だよ!」





 「あはははは…!!」











 宴が静まる頃には、外は美しい星空の広がる夜になっていた。メンバーはそれぞれ、寝床に戻り、また明日からは「日常」に戻る。





 でも、しばらくの間は、今回の勝利の味に酔っていても、いいだろう…。





 これで愛莉の音楽活動が終わったわけではないのだから。むしろ、始まったのだ。





 果てなき長い旅が。愛莉達の、音楽を求める旅は、いままさに、本当の意味で始まりを迎えたと言えるだろう。














 そして冬休み。隆太は、雪の降るとある墓地にいた。





 そう。天国の優香に、この吉報を報告するために…。





 本当ならあの後すぐにでも駆け付けたかったが、期末テストなどがあり、このタイミングとなってしまった。











 雪の降る底冷えの厳しい、冬の夕暮れだったが、ふと見上げた空には、一瞬、優香の笑顔が見えたような気がした。





 「あなたならできます!」





 その言葉は、水泳のみならず、人生で挑むあらゆる試練や挑戦に対して言えるものだろう。





 隆太は、3年生になる今年、水泳の世界だけでもありとあらゆる苦難が待っている。





 大阪にある、「セントドルフィンスポーツ大学」という、オリンピック選手を数々輩出してきた名門校に、特待生として招かれる見込みだ。





 そのためには、まだ立ち向かわねばならない壁がある。しかし隆太はもう、決して物怖じしない覚悟が、心の中に芽生えていた。





 「向かってくるなら僕の敵!」














 これからは、そんな気持ちで挑まないと、すぐに高い地位から転げ落ちるだろう。





 気を引き締めて、冬場でも水泳の鍛錬を忘れなかった。











 そして、ちょうどバレンタインデーの頃…





 隆太のケータイに、涼子からのメールが届いた。








 内容は、2月14日に一緒に食事をしましょう…といったものだったが…











 末文には…











 「必ず来てね。これが二人で過ごす、最後の時間になっちゃうかもしれないから…」














 隆太の胸の高鳴りは、あの日のフェスティバルで感じた時よりも激しく、抑えても抑えきれないものとなって、その日を迎えることになった。













 -つづく-







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