Case 13:Shark and Mermaid
真夏を思わせるような暑い6月を過ごしていた隆太。音楽バンドの件もひとまず一段落し、彼は自らの本業である、水泳の練習に勤しんでいた。
同じころ、彼の親友(友達以上恋人未満?)である優香も、休みを返上しての猛特訓に励んでいた。その様子は何やらただ事ではなさそうである。少し労いの声をかけようか…と思っても、彼女の鬼気迫る表情を見てしまうと、尻込みしてしまうのであった。
他の部員に聞けば、優香は来月、福島県で開催される、全国高校生水泳選手権に出場するとのこと。当然ながら、そこでは仇敵である「サーベルシャーク」こと、水島奈美とも対峙する。現在、二人は水泳界でも若手のホープとして着目されている存在で、この大会ではじき出された結果次第で、彼女達の人生が左右される可能性もあるのだそうな。
優香にしてみれば、幼い頃から自らの意志で水泳に励んで来ただけに、そこで名声を上げ、友達や両親を喜ばせてやりたいのだという。
そして、優香は3年生なので、この大会への参加を最後に、部活から引退することになる。泣いても笑っても、高校生活最後の闘いとなる可能性は大きい。
隆太は自らの練習の傍ら、闘志を燃やす優香がとても勇ましく思えた。いずれ自分でも、そのような活躍をお披露目させたい…。良き先輩として、良き友として、彼女は一つの「目標」にも思えていた。
大会本番の迫ったある日、隆太はどうしても優香と話がしたかったため、早々に練習を切り上げ、夕焼けの射し込む学校の玄関で彼女を待っていた。
優香が練習を終えて出て来たのは、午後8時を過ぎてのことだった。それまで隆太は、ひたすらもどかしい時間を過ごしたが、いまはそんなことよりも、何か、彼女に声をかけたい…。
「お…小野君…!?こんな時間まで私を待っていたとか…!?」
「は、はい…。優香さん、実は僕、試合に行かれる前に、少しだけでもお話しておきたいことがあって…」
少し涙ぐんでいた隆太を見て、優香は軽く彼の手を握り、人気の無い公園へと歩いた。
「優香さん…。この大会が終わったら、どうするんですか…?」
「ど、どうするって…。どうもこうも、私には、水泳という道しか、まともに生きられる世界がないんですよ。ライバルに勝つこともそうですが、何より大事なのは、悔しくない青春を味わうことですよ。」
「悔しくない青春…ですか…。」
「たとえ、試合には敗れてもそれはそれでいいんです。ですが、やれるだけのことをやらずに敗れたのでは、どうしてあの時、全力を出さなかったんだ!って、きっと悔やむでしょう。私、それだけは嫌なんです。勝っても負けても、全てが自分のせいにできるようにしたいんです。」
隆太は少し、ピリっとした何かを感じた。つい先日まで優香との間にあった、煮え切らない恋人のような甘い感覚は無く、いちアスリートとして、闘魂を込める彼女が、とても偉大な存在に思えた。
「優香さん。…あの、、、どうか、ご健闘をお祈りします!大切な恋人…あ、いや、、、親友が、そんな大舞台に立つなんて、何だか信じられないですが…」
「クスッ…。小野君は知らないかもしれませんが、この、青い森高校から国体選手が出た例は、創立70年の歴史の中でも、未だにないんですよ。水泳の強豪校として一部では有名ですが、そんなことでは母校の名折れでしょう。私は、無理かもしれないと思っていても、ずっと、国体やオリンピック選手を目指すつもりで頑張ってきました。そう。あなた自身にも、何か強い可能性を感じたのですよ。だから、私はあえてあなたに近づいたんです。」
「…。。。そ、それって…」
美しい星空の下で、二人はなかなか目を合わせられずに話をしていた。
「あなたには、第二の私になってほしいのですよ。」
「!!??…ええっ!?…それって…!?」
「ええ、そうですよ。あなたにも、私と同じ道を辿ってもらいたいですよ。必ずできますとも!あなたの努力と技術を更に磨いていけば、不可能な話ではありませんわ。」
「いや…ぁ…、そんなこと言われても…」
「自信がないとでも言いたいんですか…?」
刹那、優香の表情がきつくなった。
「小野君!!どうしてあなたは自分の未来に貪欲じゃないんですか!!あなたが恐れているのは、大会で敗れることたった一つじゃないのですか?だとしたら私はそれを、決して許すわけにはいきませんわ!!友達としても、恋人(仮)としても…」
「はい…。た、ただ僕は、、、自分のことが自分でもわからなくて…」
優香はおもむろに立ち上がった。そしてこう言って、公園を立ち去った。
「あなたも、遠からず自分を知ることになると思いますよ。いまはただ、己の未熟さゆえに、色々なことが眠ったままなんですよ。それがいつか目覚めたら、あなたは、誰よりも美しく輝く宝石になれるはずですよ。」
隆太はその言葉を、胸に深く刻み込んだ。
まだこれといって大きな水泳大会には出ていない隆太。それは、校風的に男子よりも女子の方が戦力となっているという事情もあるが、やはり自分の気持ちが、水泳としっかり結びついていないためだろう。
帰りの電車の中で、ひたすら自問自答を繰り返した。
「僕は…、、、このままでいいのだろうか…。本当に、このまま卒業を迎えて、後悔しない青春と言えるだろうか…?」
そして、ついに大会当日である土曜日となった。優香は個人で出場するため、単身、福島へ出発していた。
胸騒ぎの抑えきれない隆太は、たまたま家に来ていた姉、流美にこう言った。
「お姉ちゃん!!お願い!!お金貸して!! お願い!!今すぐ!!絶対返すからさ…!!」
「は、、、はぁ…!?!?何言ってるの隆太ぁ!?お金必要だとか何の冗談よ…!?ま!まさかあんた、女の子妊娠させちゃったとか言うんじゃ…」
「ちっ、違う違う!!実は…」
隆太は、流美に事情を話した。親友が福島で開催されている水泳大会に出場するので、何としても応援に駆け付けたいこと。そのために、新幹線代が大きくかかること…などなど。
流美は、せがまれた勢いもあるが、彼の純真さを信じて、やや渋々ながらも、交通費を貸してやった。
「…確か夕方近くだったよな…優香さんの出る試合…。間に合うといいんだけど…」
夢中で電車に飛び乗り、福島の試合会場へと飛んでいく隆太。頭の中は優香に対する想いでいっぱいで、身支度もろくに済んでいないまま、ただただ会場へ向かうことだけを考えていた。
…そして、何とか優香の出場する試合の直前に会場へ着くことができた。プールサイドに控えている選手を見ると、男子も女子も、自分とは体躯そのものも違えば、気迫、表情、雰囲気…、何もかも”異質”であった。
「こ、これがガチの試合ってやつかぁ…。」
隆太は、眼前で繰り広げられるハイレベルな競技の様子を、呆然とした表情で見つめていた。
自分は果たして、このような人間になれるのだろうか…。
そんな不安も過ぎったが、プールは既に、女子の決勝戦の準備が行われていた。
第3レーンに優香が立ち、第7レーンに奈美が立つ。お互いにチラチラと目線を合わせ、勝負への意気込みを否応なく感じさせられた。
「優香さーーーん!!頑張って!!負けるなーーー!!!!」
「ええっ…!?…小野君…!?な、なんでここに彼が…!?」
優香は、オーディエンスにいた隆太に驚いていた。まさか自分のために福島まで駆けつけたなんて、思いもしなかったから…。
「…ありがとう。私、あなたの意気込みに感服しましたわ。」
一瞬、涙をこぼした優香。それもそこそこに、飛び込み台の上に立ち、号砲が鳴った。
試合は予想通り、優香と奈美の一騎打ちになっていた。前半から全力で飛ばす優香に対し、奈美は緩急をつけた独特の泳法で、じりじりと優香にプレッシャーを与えて行った。もちろん他のレーンの選手だって、二人にとってはライバルなのだが、もはや彼女達にその姿は見えていないようだった。
一瞬の息の乱れすら許されないような戦いが続く。キックターン、ブレスのタイミング、そして、ペースの維持…。血のにじむような特訓を経て来た優香は、宿敵「サーベルシャーク」を引き離した。だが、その「サーベルシャーク」とて、彼女に比肩する努力を重ねて来た。お互い互角の状態で、最後のターンを迎えた。
「優香さーーーん!!がんばれーーー!!負けるなーーー!!ファイトーーー!!ファイトーーー!!」
隆太は、声が枯れそうになるほど叫んだ。ずっと優香の練習の様子を見て来ただけに、この戦いで負けて欲しくはない。そして、親友として、フィニッシュの瞬間を見届けたい。その思いは、無意識のうちに彼女への応援の声となって喉から突き出た。
奈美「や、、、やるわね…!!でもおしまいよ。」
何と、ラスト数メートル付近で、奈美が得意の猛チャージを仕掛けて来た。これまで数知れぬ選手が、「鮫の餌食となった」と表現する、奈美特有の「食い付く」泳ぎが発揮された。
優香も体力的にきつい。しかし、ここで追われる展開になることは予測済みだった。だからこそ、最後まで力の続く泳ぎを徹底して練習してきた。二人の距離はぐんぐん縮まるが、ゴールはあとわずか。
隆太は、心臓がはちきれそうな気持ちで戦いを見つめていた。手はガッチリと祈りの形を組み、ディスプレイに着順が出る瞬間を、眩暈がしそうな思いで待っていた。
そしてフィニッシュのタッチが…!!
両者共に同時に思えた。二人の泳ぎは、まさに「死闘」だったから…。
恐る恐る、電光掲示板を見ると、そこには…
1着、水島奈美 2着、小砂川優香 3着…
「そ、、、そんな、、、ウソ、、、だろ…??」
タイムを見ると、奈美と優香の差はわずか0.13秒という際どいものであった。あまりの接戦ゆえに、ビデオ判定も行われたが、結果は、覆ることはなかった。
隆太は、思わず大粒の涙をこぼし、その場にうずくまった。
…かくして、優香はこの大舞台で、2位という順位に甘んずることになった。しかし一方で、優勝したはずの奈美の表情もなぜかさえなかった。それもそのはず。奈美としては、ここまで自らに食いつかれたことは初めて。結果的に僅差で逃げ切ったものの、この様子では、次に対峙した時、勝利はない…。そう思ったからである。
やがて、控室から出て来た優香のもとに、隆太が駆け寄った。
「優香さん…あの…、、、」
「小野君…。ごめんなさいね…。せっかくこんな遠くまで応援に来て頂いたのに、不甲斐ない結果を見せることになっちゃって…」
「そ、、、そんなことないです!!僕は、とても素晴らしい試合を観ることができました!何だか、自分も、自信を持つことができたようです。」
サーベルシャークとの戦いには敗れたものの、どこか表情は、ホッとしたような優香を見て、隆太も心の緊張が少しほどけた。
「さて、地元に帰ったらまた練習ですね。部活としての水泳は一区切りですが、在学中にはまだ試合に参加しますから、そこで気持ちも新たに、勝てる泳ぎを披露する他ないですよね。」
「は、はい、、、そうですね。。。」
優香は、深く落ち込んでいるかと思いきや、予想外に穏やかで、それは何か、一つのしがらみから解放されたかのようでもあった。
「ま、”部活として”参加しているうちは、負けて学ぶのが人生ってものでしょ。」
…次は秋に大きな規模の大会があるらしい。そこではまた、二人の想像を絶する戦いが繰り広げられるだろう。隆太は、ガッチリと優香の手を握り、お疲れ様!!と、明るい声をかけた。
「あらあらあら…こんなところで北国のマーメイドさんが、王子様を連れてデートですかぁ~?隅に置けませんねぇ~」
何と、あろうことか、この一部始終を、サーベルシャークこと奈美に、見られてしまっていた。
隆太「ま、、、まずい…。これは言い訳出来ないよな…。でも、彼氏だって言ったら、色んな意味で話がおかしくなるよな…?」
すると優香はこう言った。
「ええ、まぁ、人魚が王子様とデートできるのも、こういう場所じゃないと人目につきますからねぇ。ところでどうです?お腹も減りましたから、これから3人で何か食べに行きませんか?」
「えっ!?…わ、わわ私が男子と食事ですか…!?そ、その、、、恥ずかしながら、、、私は男子と食事をしたことが、、、一度もなくて…」
奈美は、急に顔を赤らめて、隆太を意識した。
戸惑う隆太に、優香はこう言った。
「小野君。実はですね、奈美さんとは、プライベートでは仲良しなんですよ。フツーの友達なんですよ。あなたは知らないでしょうけれど、毎日のようにLINEやってますし、年に何度かこうしてご一緒した時は、食事やお買い物に出掛けるのが恒例となっていたんですよ。」
「そ、、、そうだったの…ですか…!?」
奈美「え、、、ええ、、、まぁ、、、そうなんですよ。。。だ、、、だって本気で険悪だったら、試合にだって身が入らないでしょう。あ、あと私は女子高の人間なので、男子と口を利く機会がないので、そこんとこよろしく…です。。。」
隆太は、二人の意外な仲を知り、少し笑顔になった。
そして3人は、食べ放題の焼肉屋に入った。そこではお互いの身の周りの話や、ファッション、恋人の話まで多岐にわたる会話が交わされ、和気藹々としたムードを感じ取れた。
奈美にとっても、思わぬ形で男子と初めて食事の席を共にしたことは、有る意味、意外な収穫だったに違いない。
その後、奈美は自宅へと帰った。優香が「次に会う時に勝利はないわよ!」というと、奈美は「うっさいわね!返り討ちにしてくれるわよ!」と返す。だが、不思議とその会話には穏やかさがあって、妙に心が和んだ。
高校を卒業したら、二人はスポーツを専門的に学習できる大学へ進学し、そこで、オリンピック出場を狙う方針だという。
きっと二人のことだ。プールではライバルでも、プール以外では親友同士。この先も上手く付き合っていけるだろう。
「ところで小野君?帰りは何で帰るんですか?もう新幹線はありませんよ?」
「えっ…うそっ…!?!?し、しまったーーー!!」
「しまったーーー!!って、あなたまさか、ホテルも帰りの交通のことも考えずに来ちゃったとか…!?」
「…、、、あたりです。。。」
優香は悩んだ。これで自分が泊まるホテルに連れて行こうものなら、確実に危ない話に発展する。されとて、異郷の地に親友を置き去りにすることもまた、できなかった。
悩んだ末に隆太は、姉の流美に電話をかけて事情を話し、どうするべきか聞いた。
「…ったくーあんたはなぁーーー!!お金だけあっても帰る乗り物がなきゃしょうがないでしょー!!ホントにあんたってバカなんだからぁ!!」
「そ、、、それはあとでじっくり聞くからさ、今はどうしたらいいか…」
「うーん、そうねぇ…。あ、そうそう。あたし、今日は実家戻ってたじゃん。つまり、ダンナ(愛希)が仙台に出張してて、家が空っぽになるからそうしてたんだよ。たしか今夜、ダンナが夜に仕事終わったら車でこっちに帰るって言ってたから、今から連絡すれば間に合うかもしれないわ。」
「お願い!お姉ちゃん!愛希さんに連絡してみて…!お願い!」
「うん…一応…ね。」
…幸いにして、愛希は仕事を終えた直後に連絡を受けたため、遠回りにはなるが、福島まで一度南下して隆太を乗せて、その足で青森へ帰ることにした。愛希が福島に到着するまで時間があったため、優香はこんなことを言った。
「ねぇ、お兄さんがここへ来るまでの間、2時間ぐらいですけれど、私達、ガチのカレカノになってみませんか?」
「ええっ…!?そ、それってなに…!?」
「いえ大したことじゃありませんよ。さっき奈美さんに言われたでしょ?人魚と王子様だって。私、人生で確固とした彼氏がいたことがないんですよ。いまでも、あなたとは基本、親友同士でしょう?だったら、たとえ1時間か2時間であっても、人生の中に”彼氏がいた事があった”って言えるようにしたいんですよ。後悔しない青春のためにも…ね。」
隆太は、涼子や友加里のことが脳裏を過ぎったが、優香の懇願を無視できず、黙って頷いた。
そして、少し夜の更けた街を、恋人つなぎで歩いた。
「いいですねぇ~。ロマンチックですねぇ~。地元じゃ、誰に見つかるかヒヤヒヤして、こんなことはできないですよね~」
「あ、、、あの優香さん、、、ほ、、、ホントに僕なんかで…」
「何を言ってるんですか。あなたじゃなければ、他に誰に頼めというのですか?」
そして、アーケード街の中にあるファーストフード店で食事をしたり、安価ではあるが思い出の品に…と、お揃いのキーホルダーを買ったり、プリクラの撮影をしたり、恋人らしいことは思いつくこと全てを実行した。
「優香さん…僕、何だか、嬉しいです。」
「私もですよ。ありがとう。私のわがままを叶えてくれて…。あなたが私ではない恋人と結ばれてしまっても、私は全力であなたを応援して、祝福しますからね。」
「は、はぁ…、どうも…」
時間限定の恋仲…。
かつて、友加里と3年間限定の恋愛をしていたことが、嫌でも心に蘇る。
今回は、3年どころか2時間限定。
でも、彼女はとても嬉しそうだった。
水泳の練習に明け暮れて、まともに誰かと恋愛することもできなかっただろうから…。
やがて、待ち合わせ場所に愛希の車が到着し、時間限定の恋仲は、終わりを迎えた。
まずは、隆太が自分のやらかした失態を詫び、優香も、(あくまでも友達として)一緒に詫びた。
「まぁまぁ二人とも、そんなに心配しないで。むしろ、俺が役に立てたんだったら良かったよ。あ、隆太君、眠かったらずっと寝てても構わないからな。」
「あ、ありがとうございます…」
そして、隆太と優香は、手を振りながらお互いを見送った。優香は数日後に青森に戻るが、その頃にはもう、彼女がプールに立つことは、ないだろう。
3年生は、まもなく部活を離れてしまう。優香にとって今回の試合は、敗れはしたが良い経験になっただろう。
そんなことを愛希に話しながら、車は夜の高速道を青森へ向けて快走した。
「ははwwいいなぁww俺にはそういうロマンチックな話は無縁でね…(笑)一度でもそんな経験してみたかったけど、ずっと資格試験のことばっかりやってたからなぁ…。」
「ぼ、僕、何だか愛莉さんに申し訳なくて…。愛莉さんも、水泳選手目指してたのに、、、事故で…」
一瞬、愛希の表情が曇ったが、それでもすぐに顔色を戻し…
「心配すんなって。あいつはあいつで、今を楽しんでいるから大丈夫さ。人生至る所に青山ありって言うだろ?愛莉はそういう意味でも、まだ自分の青山ってのが見つかっていないだけさ。いや、兄としての俺から見れば、音楽の道でピッタリ合ってるって気がするんだけどなぁ…」
「ええ…、僕もそう…思います。」
「ま、それが愛莉にとって本当に歩みたい未来なのか、それとも別な進路があるのか…。答えはあいつただ一人が知ってるってわけだよな…」
隆太は、愛莉がバンドを組んだ理由を知った時、一つが人助け(栞を貧困から脱出させたい)であり、もう一つが、自分の破れた夢の代替手段だったことを思い出した。
音楽は嫌いではなかっただろうが、どれだけ歯痒い思いをしてきたかが、改めて心に染みた。
深夜の高速道は単調なので、隆太は眠くなり助手席で居眠りしていた。愛希も少し疲労が出て来たため、サービスエリアで休憩しつつ、急がない帰り道としていた。
そんな夜更けのことだった。突然、隆太のスマホが鳴り響いた。メールの着信だったのだが、それは何と、友加里からのものだった。
「おっと隆太君?ひょっとして、カノジョからのデートのお誘いかい?(笑)」
「あ、、、いや、、、そんなんじゃ…」
ちょっぴり愛希に茶化されたが、久々に受け取る友加里からのメール。恐る恐る開いてみると、こんなことが書かれていた。
「隆太、おひさ~♪ 夏休み、お盆の前後1週間だけ帰るからよろ~♪
…あとこれマジでお願い。もう一度だけ、恋愛、してくれないかな?」
隆太は胸騒ぎが抑えきれなくなり、眠いはずの夜のドライブを、ほとんど眠らず青森へと戻ったのであった。
-つづく-




