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11/22

Case 11:チーム”フェミレイト”

 高校生になって二度目の春を迎えた隆太達。






 1年生の時は、何かと新しい出会いや出来事に奔走させられていたものだったが、進級してみれば、また一つ新たな世界が広がる喜びも感じられつつあった。





 隆太は2年生になる際、商業系高校ゆえに「特進コース」への進級も打診された。成績の平均値が高めだったため、更なる資格取得とステップアップを…というのが担任の先生の提案だったが、彼はあえてそちらへは進まず、水泳に打ち込みたいという理由で、一般コースにて2年生を迎えた。親友の田所君も一緒のクラスとなり、喜びは二倍、不安は半分。そんな学校生活になっていきそうだった。一方で、愛莉達と組むことになった音楽バンドへの興味も、若干ながら湧いていたが、彼にはまだ、扱える楽器がなかった。それを少し憂いに思いつつも、1日1日を大切に生きていた。





 ただし、あきらはあえて「茨の道」を選んだ。彼の学校では、水泳をはじめとしたスポーツを極めて行くための特別コースがある。野球部、サッカー部、バレー部、バスケットボール部etc...にもあるが、将来の活躍を得るための特訓の日々が待っている。


 数学や物理といった小難しい勉強が苦手なあきらにとって、自分らしさを発揮できるもっともらしいコースだったため、そちらへの進学を所望して、晴れてその願いは叶った。しかし2年生以降はひたすら、水泳を生活の一部としなければならない。


 単純な「泳ぎ」だけではなく、競泳、水球、人命救助のノウハウに至るまで徹底的に叩き込まれる。あきらは進級前、先輩から色々な話を聞いていたため、初めはこのコースへの進級を躊躇っていた。


 「3日学校を休んだら退学」とか、「ハードな練習で体を壊す」とか、「先輩後輩の礼儀もうるさくなる…」などなど。





 だが、愛莉と描いた未来像は、自分が水泳のインストラクターとなって、彼女との生活を支える柱になること。そして愛莉自身にも、再び「泳ぐ」感激を教えること。





 ここで夢に背を向けたらウソだろう…。





 あきらはそう思い、辛いことだがやり抜くことを決意した。











 愛莉もまた、普通に2年生に進級した。愛莉は理数系が苦手らしく、一時期は、数学や理科の単位を落とす懸念があったが、何とか持ち前の根性でテストを突破した。親からは「音楽のやりすぎだ!」と叱責されたこともあったが、反面、愛莉らしい才能の開花も予想されるため、あえて両親は、彼女の「平均以下」な成績を咎めなかった。





 そして友加里はというと…





 彼女もまた、しっかりと2年生になった。しかし、彼女には少しだけ、違った日常があるのだった…。











 2年生になって少ししてから、栞から愛莉にLINEが届いた。それは、6月に行われる「高校生音楽コンテスト」への出場の打診だった。





 栞「このコンテストも、以前みたいな感じでいいみたいだよ。創作音楽を一曲書いて、会場で演奏して…、賞に入れば音楽事務所がサポーターになってくれて、一気にメジャーデビューも夢じゃないってさ!!」





 愛莉「そ、それはすごいけど…、そんなにうまくいくかなぁ…?」





 栞「大丈夫っ!以前、私達はちゃんと公のコンテストで認められたでしょう。それを自信にまた頑張ろうよ!みんなでそれぞれの役目を頑張って、力を合わせれば夢は夢じゃなくなるって!!」





 愛莉「そうかもね。頑張ろう!! 早速、隆太にも声かけてみるから…」











 隆太は再び、作詞の依頼を受けることになった。親友の愛莉のため。いや、彼女一人ではなく、自分を見てくれている、みんなのため。





 彼は、首をヨコに振るわけには、いかなかった。











 ある日のことだった。





 愛莉の学校では、休み時間に、多くの生徒らがスマホで「ある動画」を見ているようになっていた。





 愛莉は、少し学校内では話のできる女子に、何の動画かを尋ねてみた。








 「ねぇ?それって何の動画なの?ユーチューバーか何か?」





 「え?…ううん。。。愛莉は知らないかもしれないけど、いま、日本中で注目されている女子高生バンド”フェミレイト”よ。」





 「えっ … … … !?」








 愛莉は、その女子生徒の見ていた動画を一緒に見せてもらった。すると、その”フェミレイト”と名乗るガールズバンドの奏でる楽曲は、愛莉を強く感動させつつも、何かとてつもない、大きな壁が迫って来たかのような、複雑な心境を抱かせた。








 「これって…??…もしかして、今度の大会にも出るのかな…?」





 「あれ?愛莉知らないの? 今や”フェミレイト”は、色んな音楽イベントで賞という賞を総なめにしてるのよ。確かに実力が段違いで、高校生とは思えないほどだし、動画サイトでも、最近再生回数がガンガン伸びてる…。」











 愛莉は、家に帰ってから”フェミレイト”について調べた。すると、彼女達のブログにたどり着き、簡単なプロフィールを閲覧できた。








 フェミレイトとは、”女のらしさ”を意味する”フェミニン”と、”祝福”を意味する”セレブレイト”を掛け合わせた造語。それは率直に「女の子達に祝福を」という意味を込めてあるようだ。





 動画サイトで公開されている楽曲がいくつか載っていた。恐る恐る再生してみると、確かに、高校生が演奏している、作曲したとは思えないほど美麗でダイナミックで、涙を誘ったり、狂おしいまでに熱情を奮い立たせるような曲だったり…。





 メンバーは現在、長野県を拠点として女子4人が在籍中。そしてその一人ひとりがそれぞれの役割を持っていて、技術面、完成度共に、愛莉の度肝を抜くには十分であった。





 作詞担当のナナコは、語彙力の豊富さに加え、心理学、現象学、形而上学等、様々な学問の履修に勤しみ、様々な立場にある様々な人、モノ等の感性を、絶妙なワードチョイスにて詩に仕立て上げている。





 作曲担当のユズキは、自身でギターを弾く傍ら、バロック音楽からデステクノまで、幅広い音楽ジャンルを会得してきた。また絶対音感の持ち主でもあり、即興で簡単な曲を作るのが得意でもあり、趣味でもあるらしい。





 ドラムス担当のユイカは、2歳の頃から音楽ひと筋の環境で育ってきた。BPMの早い楽曲も、見る人間の目が追い付かないほど素早く、かつ、正確な動作で演奏を成し遂げる。一部では「鬼才」呼ばわりされており、将来を嘱望されている存在である。





 キーボード担当のナツは、時にバンドが、DTMの打ち込みによる作曲による音楽発表の際、マスタリングなどの技術面でのサポートを任せられている。彼女もまた打鍵技術は随一で、バンド結成前は全国規模のピアノコンクールへ何度も出場したという。








 





 …愛莉は、不安でならなかった。





 彼女らの音楽を動画サイトで何度も聴いていた。それは純粋に、音楽の美しさに惚れてこそなのだが、一方で、彼女達”フェミレイト”の前に、一体どれだけのバンドグループが散っていったことか…。





 それは想像に難くない。











 だが、やるしかないようだ。











 栞と愛莉は、かつてのスイチョコの由真が斡旋してくれた音楽スタジオで、週に1~2回、音楽の演奏を練習した。…とは言っても、まだ発表する曲は未完成なので、既存の曲を演奏するのだが、栞もやはり、フェミレイトの脅威は否応なく脳裏を過ぎる…。





 ある日の練習の時、栞は何度演奏してもコードのミスなどが目立ち、まともに一曲演奏できない状況に陥っていた。





 そして、愛莉は一瞬栞を「何やってんのよ!!」と怒鳴りそうになったが、自分だって、フェミレイトが掲げて来る曲に勝る作品を書けないと、演奏できないと、勝算はないだろう。それを思うと、今は大切なメンバーの失敗を責めている余裕はないのだった。











 「ありがとう。愛莉…。ごめん。グズングズン。。。だめだね、、、あたし。。。こんなんじゃ…」





 「何言ってるんだよ。栞!あんたが最初に、出ようって言ってくれたんじゃん。今から諦めたら何も残らないわよ…!」








 去年はお互いを知らないということもあり、何かと相手のミスを責めることが多かったが、これからはそんなことをする暇があったら、お互い励まし合おう…と、バンドの中で暗黙の了解があった。











 やがて、隆太が愛莉の書いた譜面に歌詞をつけたと、手紙で彼女の寮にそれが送られてきた。





 その「詩」の完成度が高いか低いかは、今の愛莉にはわからなかったが、それよりも問題なのは、バンドのメンバーの数だった。





 現状の「あいりぃらば~ずばんど♪」は、栞と愛莉の2名しかメンバーがいない。隆太を正式に加入させたかった。ただし、彼はあまり楽器を上手く扱えない。今から大会の日までに熟練させることのできる楽器を見つけて、愛莉が手取り足取り教えていく他ないようだった。愛莉は自腹で交通費を出して、週末に青森へ戻った。そしてそこで、隆太にキーボードを演奏させようというのだった。











 「んあーーー!!隆太違う違う!!黒鍵はその指じゃねぇーーー!!」





 「なんだよぉ!こんなの指がついていくわけないじゃんかー!!」





 「いいから黙って弾いて! はい!”ド” ”レ” ”ミ” ”ファ” …」








 


 半ば押し付けられたかのようなキーボードを、隆太はおもむろに投げ捨てた。そしてこう言った。








 「愛莉!!どうせ僕なんて、音を奏でるなんてできない人間なのさ。僕に無理して頼んだり演奏させたりするよりも、もっとふさわしい人見つけた方がよっぽど早いじゃん!!第一、僕はこんなに押し付けられて演奏するなんて嫌だからね!!」





 「隆太ぁ!!今は隆太がいないとメンバーが揃わないのよぉ…!頼むからもっと頑張ってよぉ…!」





 「そんな無茶言わないでよ!僕は流石に万能選手じゃないんだ。出来ることもあれば、出来ないことだってあるさ。これが1年2年ってかけて練習していくっていうんならまだわかるけど、あと1か月半くらいでマスターしろだなんて、、、無茶ぶりもいいとこだよ。」





 「…それはわかってるわよぉ。隆太ぁ? ごめん。怒らせちゃったこと謝るよ…。でもお願い!私達は真剣なの!」





 「…うん。でもさ、、、何で、そんなに、出場したり賞を獲ったりすることにこんなに大慌てなんだよ?」





 「えっ…、、、そ、、、それは…。。。」











 愛莉も栞も、痛いところを突かれた。





 目の前にあるチャンスは何一つ逃すまいと思うがあまり、付け焼刃的に練習したりさせたりする意味の無さも、何となく気づいた。





 ましてや、フェミレイトという強豪チームの存在も、彼女達の焦りに拍車をかけていた。








 隆太はこう言った。





 「敵を倒したかったら敵を知れ…って言葉あるようにさ、まずは、その”フェミレイト”っていうバンドの、どこがどんなふうにすごいのか、知るべきだと思わないの?」





 





 愛莉は、少し戸惑ったが…





 「うん、そうだね。もっとじっくりと、相手に勝るところ、見つけないとね。」








 隆太「それもそうだけど、僕は思うんだ。音楽は何も、必ずしも人に評価されないといけないのかなぁ…ってさ。…つまり、音楽って、人の心情とか風景とか、社会の批判とか皮肉とか…色んな表情とか個性とかがあるわけで…、それを、世界に一つしかないバンドが演奏する上で、自分達の特徴として表現しようって思わないの?」





 愛莉「…。。。」





 隆太「だってさ、確かに賞を獲ることは大事かもしれない。…けど、そう思えば、ただ勢いに任せただけの曲とか、見え見えのお世辞みたいなフレーズで審査する人に媚びるようなことをしたら、それって個性を大事にする音楽バンドじゃないって思うよ。」





 栞「…。。。」





 隆太「僕等はまだ高校生だから、世の中のこと、知らないことばっかりだし、、、フェミレイトの人達は、たまたま、人と違う生き方をしてきて、そういう人が集まっただけかもしれない。だとしたら、僕等にしかできない表現も、大事にした方がいいんじゃない?中学3年間、友加里とあきらと、愛莉と過ごしてきたし、今はそれに加えて、栞さんもいる。僕にだって新しい友達ができて、今までになかった時間を過ごしているつもりだよ。だからさ…---」





 「---評価されるかされないかは、まずは置いといて、いま、僕等が表現したいことって何かってこと、探さないといけないんじゃないかな…?それが一番大事だと思う。。。」











 栞は少し俯いたが、隆太にこう言った。





 「ありがとう。隆太くん。…でも、気持ちはわかったけど、私は、悠長にそんな自分探しとか、演奏の練習とかをしている余裕は、あまりないの。私は家族を支えるためにも、音楽が収入になるならそこから少しでも学費とかに充てたいし、一回でもおおく、場を踏んでおきたいの。たとえそれが失敗に終わったっていいわよ。…でも、そう思ってはいても、勝つための曲を演奏したいっていうのは、否定できない本音でしょう?」





 


 隆太は困惑した表情を浮かべた。





 少し考え込んだが、一つ、ある決心をしたようだった。








 「ごめん。いまの僕じゃ、とてもじゃないけどバンドの力にはなれそうにないよ。むしろ、足を引っ張るだけだ。…けど、代わりに、、、友加里に、頼んでみることにするよ。勿論、引き受けてくれる可能性低いけど…。友加里なら、、、音楽の道そのものだから…」








 愛莉にしても、もし友加里がバンドに加わってくれるなら心強いことこの上ない。





 しかし、友加里は自分達のバンドに対して、理解を示してくれるだろうか…?





 隆太の説得次第かもしれないが、何だか自分達とは一線を画す、独自の音楽道を進んでいる友加里だ。





 親友の頼みとは言え、引き受けてくれる確率は低いだろう…。











 隆太はある夜、こっそりとメールを友加里に送った。もちろん、愛莉達の経緯を話して、彼女達のバンドに力を貸してほしい---という旨の内容だ。





 メールはあまりしないでほしい…という彼女からの謹告をあえて無視しての、隆太なりの勇気ある行動のつもりだった。





 参加の可否以前に、余計なことをするな!と、怒鳴られてしまっても文句は言えない。














 すると、思いがけず返事はすぐに来た。





 「ごめん隆太…。その話、いまは引き受けられない。。。だって、私もその音楽大会に出ることになってて、バンドの一員になることが決まっているのよ…。一人が二つ以上のバンドに参加しちゃいけない決まりになってるから…。悪いけど、隆太、何とか、愛莉達の力になってあげて!あきらだって、頼めば何かやれるのかも…。あ、もちろん、男子がバンドにいてもダメなわけじゃないからね。」








 メールは妙に短く終わっていた。





 隆太にしてみれば、頼みの綱だった友加里に断られてしまい、一瞬、目の前が真っ暗になった。





 だが、男として、ここで根性を見せるのも勇気だろう。





 そう思って隆太は、あきらにも声をかけて参加を促した。愛莉には、恥を忍んで楽器の弾き方をイチから教わる覚悟で頭を下げた。





 男子二人が女子に頭を下げる様子など、決して格好のいいものではなかったが、いまは体裁を気にしている場合ではなさそうだ。











 一時の技術として消えるかもしれないが、真剣な眼差しで楽器の演奏、バックコーラス等を練習した。





 気が付けばもう大会まで1週間という時間まで時が流れていたが、若さゆえか、二人とも、上達は思いの他早かった。











 そして、幾何かの不安を払拭しきれないまま、大会当日を迎えた。深夜バスで東京に入り、会場となるホールの待合室で仮眠をとっていたら、次第に参加者であるバンドグループが集まって来た。











 そして、隆太一行は、偶然目の前に座ったグループに、やや空々しかったが挨拶をした。








 「は、、、はじめまして…! 僕達、青森の方から来た”あいりぃらば~ずばんど♪”という…」





 …言うが早いか、そのバンドのリーダーだという女子生徒が、自らのグループの自己紹介をはじめた。











 はじめまして。私達は長野を拠点として活動している高校生バンド”フェミレイト”です。











 隆太達は一瞬、心臓が止まったかと思った。まさか、最も敵対意識を持っている優勝候補のバンドと話をすることになるなんて…。











 しかもだ。





 彼らの驚愕はこの程度では終わらなかった。














 「こ、、、こんにちは…みんな…。。。」











 「えっ…!?!?ゆ、ゆ、友加里ぃ…!?!?」














 何と、”フェミレイト”のメンバーの一員に、友加里がいたのだ…。














 「お前…何でそっちに…??」











 「うん…。臨時のバンド人員なんだ。。。ごめんねみんな。今日だけは、かたき同士だね。。。」














 まさかの「ライバル」として再会した友加里。





 彼女は一体、どんな気持ちで、どんな曲を披露するのか…?





 友加里を倒すことができれば、愛莉のバンドの名声は上がるが、そうなると友加里の想いや友情はどうなる…??





 一方で友加里に「倒されたら」 … ? 











 この一級品バンドから、鼻で笑われるかもしれない。無論、友加里もその一員だから、彼女からも…??

















 様々な想いが交錯したが、音楽大会は幕開けを迎えた。





 そして、それぞれが、それぞれの想いを、思いのたけを、曲に託して響かせるのであった…。















 -つづく-





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