21.推しキャラは警戒する 後編
「はー、そりゃまた面倒っすねぇ」
話を聞き終えたヤニクは顔を顰めた。
レオネルも同じ気持ちだったため、重く頷く。
「てっきりシルラーンの工作員かと思っていたんだが……」
「俺もそう思ってたっす」
南の商人が来た時にカザンサ侯爵家の家令がフォード領の採掘場に現れるなんて、出来過ぎている。
カザンサで活動していた工作員が商人と何かしらの接触をするために現れたとばかり思っていたのだが……。
「家令に付けた影は何か言ってるんすか?」
「俺達がここに来るのを知った後、コソコソとどこかに手紙を送っていたようだ。手紙が届く前に先回りしたんだが、そこには誰もいなかった」
「そりゃもう撤退されてるっすねぇ……。ブルーノっていうおっさんはそこまで頭がよさそうには見えなかったっすけど」
「なんだお前、ブルーノを見た事あるのか?」
「以前の雇い主の命令で何回かやり取りしてたっすからねぇ」
「あぁ!?」
今までそんな話を聞いた事がなかったレオネルは瞬時に間合いを詰めると、ヤニクの胸ぐらを掴み上げた。
「いや、俺がこっち側に付いた時にはもうあのおっさんは失脚してたじゃないっすか! そもそもあのおっさんがやってたのなんて賄賂を受け取ってカラドネル公爵に魔石を横流ししてたくらいっすよ!」
ヤニクは両手を上げて降参のポーズを取っているが、レオネルは嘘を吐いていないか見定めるためにヤニクの一挙手一投足を見つめる。
「魔石? おい、その魔石ってまさか火と風じゃねぇだろうな」
「そうっすけど? ……うぐぐぐぐ!!」
レオネルは胸倉を掴んだまま、ヤニクの身体を持ち上げた。
「カラドネル領が扱ってた魔石とダムド領で使われた魔石の質が合ってねぇと思ったら……」
「くるっ、くるしいっすぅう!」
全然苦しくなさそうな声を聞き、レオネルはあっさり手を離す。
ヤニクはそのまま床へと落下したが、足音は軽い。
その足音だけでも、ヤニクの身体能力の高さが窺える。
(これで中身がもう少しまともならなぁ……)
レオネルは溜め息を吐いた。
「ったく、他に隠してる事はないな?」
「隠してたつもりはないっすよぉ、証拠のないもんの話をしても意味がないと思っただけっす」
「はぁ……」
首を擦りながら言い訳をするヤニクに、仕方がないとレオネルは再び溜め息を吐く。
確かに、仲間になる契約をしたとはいえ闇ギルドとの契約は成ったばかり、証拠がなければ信じる事は出来なかっただろう。
間違ってはいない……。いない――が、なんだか釈然としない。
「それ以外はないんだな?」
「今回の件に関してはないと思うっす」
「他の件ならあるって事か……?」
眉間に皺を寄せるが、ヤニクは答えるつもりがないようで肩を竦めている。
今のところ教えるつもりがないのだろう。
(さすがにセルディに危険がありそうな話を秘密にはしない……と思いたい)
もしもの時は今度こそ叩き斬るしかない。なんて事を考えた後、レオネルは魔石の件について集中して考え始めた。
「火と風の魔石の横流し、か……」
魔石に関してはどの国も厳しく管理をしている。
輸出や輸入だけではなく、どこにどれだけの量を売買したのかも管理されている。
魔石専用の管理局もあるくらいだ。
王弟の反乱時には一時その機能が停止し、行方のわからない魔石が大量に増えた。
カラドネル公爵がダムド領を壊すために魔石を使ったのはその魔石だと検討は付けていたが、その魔石の所持者がブルーノだったとは……。
「金に汚いヤツらしいな……」
そうとわかれば捕まえる大義名分は出来た。
北国との防衛の要であるダムド家を崩壊させる手伝いをしたのだ、国家反逆罪を適用される可能性は十分にある。
証拠がヤニクの証言のみというのは手痛いが、孫娘と王族の婚姻の可能性が微塵もない事を理解させれば、さすがのブルーノも愚かな夢を諦めるだろう。
「よし、とにかく確保が先だな。侯爵にも頼んだが、闇ギルドの方でも探してくれるか?」
「伝えとくっす~」
今はとりあえずこれでいいだろう。
明日には侯爵領を発って首都へと向かう事になる。
ダムド家のタウンハウスの守りは厳重のため、セルディの身の安全はもっと確かなものになるだろう。
「……それで、お前はセルディと話さなくていいのか?」
レオネルとしては今のままでも何も問題はないように思えるが、セルディはニックの存在を気にしている。
ここまでの道中もチラチラとニックを見ては溜め息を吐いていた。
憂いを取り除けるのなら取り除いてやりたい。
そう思っての問いかけだったが、ヤニクはレオネルを見てにやりと笑った。
「いやぁ、お嬢サマ可愛いっすよねぇ~」
その言葉にレオネルの手が再びヤニクへと伸びたが、ヤニクは今度は避けた。
「大好きなあんたと話してても俺と二人きりになれないかって機会を探ってるお嬢サマを見てると、こう、ゾクゾクしちゃってぇ……っ!」
今度は拳を振るうが、それも後ずさって避けられる。思ったよりも素早い。
「冗談っすよ、ジョーダン!」
「その気持ちの悪い笑いをやめろ」
「はぁ、男の嫉妬は見苦しいっすね~」
相変わらずイラつく男だ。
レオネルが腰元の剣に視線をやったのがわかったのか、ヤニクは慌てて言葉を続けた。
「あー。本気で言うと、今はやめとこうって判断すねぇ」
「どういうことだ?」
「嫌われてはいないっぽいんすけど、俺に怯えてるみたいなんすよ」
「ああ、なんか突然手が怖くなったって言ってたな」
「あんたを襲った時の事でも思い出したのかと思ったんすけど、なーんか違う気がするんすよねぇ」
ヤニクがセルディの影になり、守るようになってすでに半年は経っている。
その間に何かが起きたとは聞いていないし、セルディの様子からしても拒絶したくてしている訳ではなさそうだった。
「で、今じゃないならいつ話すつもりなんだ?」
「そのタイミングを図ってるんすよ」
「だから、そのタイミングってやつはいつなんだよ」
避けているわけじゃないニックの様子にセルディも安心はしているだろうが、自分以外の人間をセルディが四六時中気にしているという状況は気に入らない。
だが、レオネルの機嫌悪そうな様子を見ても、ヤニクは考えを変えるつもりはなさそうだった。
「王都に居る間にはなんとかするっすよ~」
飄々としたその答えに、レオネルは眉を顰める。
「はぁ……。やっぱりお前の事は気に入らねぇ……」
「それはお互い様っすねぇ」
一瞬の睨み合いの後、ヤニクはニックの仮面を被り、敬礼をした。
「それでは、セルディ嬢の警護に戻らせて頂きます」
レオネルは部屋から出るヤニクを何も言わずに見送った。
(あいつの代わりになる影がいれば解雇してやるのになぁ……)
内心そんな事を思いながら。




