14.推しキャラは動く 後編
本日二回目の更新です
「ふっ、王族にここまで吹っ掛ける人間も珍しい」
受け取った誓約書に書かれた内容を確認したレオネルは笑いながら素直な感想を零した。
国家予算にも等しい金額はレオネルを怯ませるためだけのものだろう。
平民だからこそ出来る暴挙だ。
何か言う仕草を見せた段階で出す書類を間違えたと言う事も出来るし、最悪不敬罪だと責められても、ものを知らないからこんな金額を出したのだと言い訳も出来る。
(ここまで堂々とされると逆に信頼されている気もするがな)
この誓約書には、セルディの将来を案ずる気持ちしか見られない。
逆を言えば、これにサインさえすればセルディとの婚約に関しての障害は消えるという事……。
最後まで読み終えたレオネルはその書類に、レオネルが不義や不当な行いを為した場合における婚約破棄または解消した際のセルディへの補償についてしか明記されていない事を確認し、あっさりとサインをした。
「レオネル殿、よろしいので……?」
ゴドルードの問いかけに、レオネルは軽く頷く。
国の問題で解消する可能性もあるのではとゴドルードは考えているのだろうが、王家の呪いの事を考えればそれはあり得ない。
「婚約を解消する予定はない。同様に、婚姻後の離縁もない。これは陛下も認められた婚姻と心得よ」
レオネルの王族としての言葉にセルディの祖父母達は息を飲んだ。
ゴドルードやシンシア夫人にはこの婚約が王家主導によるものだと説明してあったが、詳しく話せる内容ではないため言えなかったのだろう。
「セルディは……、私の孫は、幸せになれますでしょうか?」
ここにきて、ようやくジョーイが不安げな顔をした。
レオネルがただの貴族の子息であれば、どうにでも出来たかもしれないが、国が絡んでくるならば話が変わるからだろう。
仮令隣国に逃げようとも逃げられないとようやく気付いたのだ。
「安心しろ。セルディにはすでに剣に誓っている」
「まぁ……!」
苦笑気味のレオネルの言葉に色めき立ったのはアリア夫人だった。
頬を染めている様子からして、その意味を知っているのだろう。
「うふふ、とても安心致しました」
ジョーイ達は首を傾げているが、意味は後でアリア夫人が教えるだろう。
レオネルは気恥ずかしさを隠すように咳払いを一つすると、ゴドルードに再度向き直った。
「ゴドルード、アーキムが隣国の貴族であることがわかったため、セルディは王都にて保護をする事になった」
「……承知致しました」
親として欲望渦巻く王都に置いておくのは不安だろうが、フォード家が客人としてアーキムを世話している今、セルディと引き離すにはこうするしかない。
「私達も出来たらついて行ってやりたいのですが……」
「こちらのタウンハウスに滞在するのは構わないが、フォード領の管理はどうする?」
「先代が戻ってきておりますので、一時的に頼もうかと」
ゴドルードの視線を受けたガフィードは仕方なさそうに頷いている。
そうであればレオネルとしては義両親となる二人を受け入れる事に異論はない。
「そうであれば私は義両親となるお二方を歓迎させて頂きます」
微笑みながら口調を丁寧に戻すと、ゴドルードもシンシア夫人も少し引きつった笑みを返す。
先ほどまでの空気からの違いに困惑しているのだろうが、レオネルは公私は分けたい性分のため、慣れてもらうしかない。
「……ところで、セルディはどこに?」
セルディが居ればこの雰囲気もよくなるだろう。
そう思っての問いかけだったのだが――。
「その……、実は、セルディはアーキム殿と魔石の採取場に……」
「はっ!?」
このタイミングでかよ!!
立ち上がってそう叫びそうになった口をレオネルは無理やり閉じる。
「……セルディは合流次第、私の権限で王都へと連れていきます。フォード伯爵達は後からお出で下さい。その際に護衛を連れる事をお忘れないように」
「承知致しました」
荒れそうになる口調を気合で抑え込んだレオネルは、ゴドルードの言葉を聞き終えると足早に部屋から出てセルディの元へと向かった。
***
「という訳で、明日には出発だ。セルディは誘拐されないよう、今日はこの部屋から出ずにしっかり休んでおけよ」
レオネルはここに来るまでのやり取りを思い出して気持ちを切り合えると、ソファから立ち上がった。
名残惜しいが、アーキムの動向を監視ついでにフォード領の情報収集をしなければならない。
未だ北国の関与は疑われている。
新しく入った住人がいないかなど、ここで気にしておくべき事は多数あった。
「はい!」
片手を上げて、いい子の返事をするセルディの頭をレオネルは思わず撫でる。すると、次の瞬間には照れてはにかんだ笑みを浮かべる。
(あー……、行きたくねぇなぁ……)
レオネルはそう思いながら部屋から出た。
「ずるいっす」
部屋の外には予想通り、ヤニクが立っていた。
「何がだ」
「俺もお嬢サマとお喋りしたいっすぅ~!」
「あー、ハイハイ……」
周囲をうろつくアーキムによって、中々セルディと話せなかったらしいヤニクは不満気に唇を尖らせている。
だがそれをレオネルに言われても困る。
「それで、仲は取り持ってくれるんすか?」
「はぁー……」
ヤニクからの上目遣いに、レオネルは辟易とした溜め息を吐いた。
レオネルとしてはヤニクの礼などいらないのだが、話し合いはしておいた方がいいだろう。
セルディとの間にわだかまりがあるようであればヤニクとは別の影の護衛を付ける事も考えなければならない。
レオネルは諦めて口を開いた。
「……セルディは王都で一時保護することになった。お前は一旦通常の護衛として俺の下に付け」
そうすれば自然とセルディと話す機会も増えるだろう。
レオネルの命令に、ヤニクはにやりと笑みを浮かべた。
そして次の瞬間にはその笑みを消し、胸に拳を当てて騎士の礼をする。
「ハッ、レオネル閣下の部下として働かせて頂きます」
いつものだらしない雰囲気とは違う、堅実そうな雰囲気を醸し出すヤニクに、レオネルは問うた。
「それで、お前の事だ。俺の前に顔を出したということは、他にも報告があるんだろ?」
その確信を持った問いかけに、ヤニクは再度口元を笑みの形へと変えた。




