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【二部開始】転生令嬢は推しキャラのために…!!  作者: 森ノ宮明
第二部 フォード領から

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08.火の魔石の採取場に行きます


 フォード家の屋敷のある町から海側に向かって馬車で約五時間。

 火の魔石の採取場は、嘆きの洞窟のあった村に設営されている。


「セルディお嬢様じゃねぇか、いらっしゃい!」

「まぁ、セルディお嬢様。ゆっくりしていって下さいね」


 以前来た時は少し陰鬱な気配が漂っていた村は、今ではたくさんの採取作業員と騎士が溢れ、宿や飯場が増えた事により、明るい雰囲気に包まれていた。


「お嬢様は領民から慕われているのですね」

「小さな領なので、みんな家族みたいなものです……」


 セルディの正面に座り、笑みを浮かべているのは南の商人アーキムだ。

 チエリーはセルディの隣でアーキムを警戒して一挙手一投足を監視しているし、アーキムの隣に座っているのは護衛のジュードで、アーキムが何かしようものならすぐに行動に移せるようにと思っているのか、道中一言も言葉を発していない。

 この状況では、セルディがアーキムの話し相手になるしかなかった。


「しかし火山がないのに火の魔石が取れる事があるんですねぇ」

「そ、そうですね。私もびっくりです」


 どうにかセルディから情報を聞き出そうとしている気がする。

 セルディは不要な事を言わないよう、言葉に気を付けて話さねばならず、村に到着したばかりだというのに既に疲労困憊だ。

 どうしてこうなってしまったのか……。

 セルディは遠い目をしてここに来る事になった経緯を思い返した。


***


「火の魔石の管理中の事故……?」


 祖父母達から聞いた話を父にすれば、父は眉を寄せ、考え込んだ。


「セルディに何か思い当たる事はあるか?」

「うーん、私は今まで一度も現場を見た事ないし……」


 魔石に関してのセルディの知識はないに等しい。

 前世に魔石なんてものは存在しない上、現世での貧乏暮らしでは魔石なんて沢山手に入れられる状況じゃなかった。

 水の魔石は生活に根付いていたのでよく見かけたが、火の魔石なんて前世でいうところのライターくらいのものしか見たことがなかったのだ。

 ダムド領での事件で、砂になった魔石にも魔力を伝達する力は残っており、小さな火の魔力で大きな粉塵爆発を引き起こす事はわかったものの、危険性といえば考えつくのはそのくらいで、魔石は人の魔力程度では種火しか出ないのだから、加工前の石ころにしか見えない原石がどう危険なのかはさっぱりわからない。


「そうか……。となるとやはり一度話を聞くしかないが、南の商人か……」

「あなた、火の魔石については国王陛下からもお話を聞かないと決められないわ」

「そうだが……」


 管理中に起きたと言われる事故の詳細な情報があれば緊急性をグレニアン陛下に申告できるが、まずそこを調べるところから、となると時間が足りない。

 今この時にも何かが起きるのでは、と考えると父が不安に思うのはわかる。

 粉塵爆発のような爆発が起きる可能性もあるのだ。


「とりあえず陛下に手紙を書こう。セルディ、あとはこちらで相談するから部屋に戻っていなさい。しばらくは部屋から出ないように」


 父の言葉にセルディは返事を躊躇った。

 結論を聞いてからにしないと、気になって眠れないかもしれない。

 だが、留まる事を母は許してくれなかった。


「セルディ?」

「はい! ……失礼致します」


 動こうとしないセルディに、母の鋭い視線が飛ぶ。

 セルディは慌てて背筋を伸ばすと、カーテシーをしてから部屋から出て、チエリーを連れて自分の部屋に戻った。


「はぁ……」

「溜め息を吐くと幸せが逃げると仰っていませんでしたか?」

「でもこんな状況溜め息しか出ないでしょー!」


 チエリーの言葉に、セルディは叫びながらベッドに飛び込んだ。

 セルディだって出来れば吐きたくはない。

 でもあの商人が来てから、セルディは屋敷から出る事は禁止され、今回の事で部屋からも出ないように言われてしまった。

 ヤニクにも謝りたいというのに、南の商人の視線がどこにあるかわからない状況では呼ぶことも出来ない。

 セルディの不満は溜まっていた。


「お嬢様の安全のためには仕方ありません」

「それはそうなんだけどぉ……」


 自分の重要性がかなり高まっている事はセルディだって自覚している。

 アデルトハイム王国で初めての火の魔石が取れる領地としてフォード家への注目度があがった上、反乱後初めての王族の婚約者になった少女としてセルディの名前も有名になった。

 今回の事でグレニアン陛下の婚約者になるにはフォード家以上の功績を手に入れなければいけない、と解釈した貴族も多く、年頃の未婚の娘を持つ貴族達がどうにか手柄を得ようと四苦八苦しているとも聞く。

 どんな不測の事態が起きるかわからない中、安易に動こうとは思わないが、セルディの心は複雑だった。


「気持ちが安らぐハーブティーをお入れ致します」

「アリガトウ……」


 そうして渋々ベッドから立ち上がり、チエリーが入れてくれたお茶を飲んでいると――。


「嬢ちゃん!!」


 ジュードがノックもせずに部屋に飛び込んできた。


「うわ! び、びっくりしたぁ……」


 突然開いた扉に、カップを落としそうになったがなんとか堪える。

 扉の方を見れば、知らない間にチエリーがジュードの前に立ちはだかっていた。


「ジュード様、何があったのですか?」

「あの南の商人が台所にいた……」

「えぇ?」


 なんでそんなところに?

 セルディは首を傾げる。


「嬢ちゃん、忘れたのか!? あんたあそこで火の魔石の実験してただろ!!」

「あ」


 すっかり忘れていた。


「そうだと思ったよ! ああ、クソっ、俺が片付けておけばよかった……!」

「……お嬢様?」


 頭を抱えたジュードと、冷たい視線のチエリー。

 セルディは慌てて口を開いた。


「いや、新しいレシピをシエロに教えてる時にちょっと思いついて……」


 村で初めての加工された火の魔石が届いた日のこと。

 サンプルとして届けられた小粒のルビーのような石は台所で使う用として数粒持ち込まれていた。

 いつものように空き時間にシエロに前世で食べた料理の再現を頼んでいた時にそれに気づき、セルディはふと、前世でいうところの電磁調理器の事を思い出した。

 火の魔石で単純に火を出せば飛び火などの危険性があるが、電磁調理器のような物が出来れば火傷の心配はあれど、火事の心配は減るのでは、と考えたのだ。

 風の魔石では火が出る、水の魔石なら温かくなるだけ、ならば、小さな水の魔石を大きな魔石で囲う様に設置した魔道具ならどうだろう?

 火袋というカイロのような魔道具があるのだから、それより熱ければ料理を温めたりできるのでは――。

 そんなセルディのちょっとした思い付きで作った魔道具擬き。

 スープを低温で温めるのに丁度いいとシエロから絶賛されはしたが、その後の事は料理作りが楽しくてすっかり忘れていた。


「ジュード様、台所では火気の危険があるので自分が護衛を担当すると仰いましたよね?」

「面目ない……」


 ジュードって護衛だったんだ……。

 いつも一緒に仲良くつまみ食いをしていたので、護衛をされている気がしていなかった。

 一人になれない生活の中のいい息抜きだと思っていた。


「過ぎた事は仕方ありませんが……、まさかその魔道具を作ったのがセルディお嬢様だと気付かれたのですか?」

「恐らく……」

「恐らく?」

「シエロは何も喋ってねぇよ、奴隷が貴族の客人と話が出来る訳ねぇだろ?」

「そこを逆手に取られましたか……」

「え、どういうこと?」


 ジュードとチエリーの話の意味がわからない。

 どう逆手に取られると言うのか。


「お嬢様は普通にシエロと会話をしていらっしゃいますが、基本的に奴隷は貴族と会話なんて出来ません」

「うん、それはさすがに知ってるけど……」

「フォード領には奴隷がいないので知らなかったかもしれませんが、奴隷は主人が現れた場合は平伏して声掛けを待つものです」

「そういえば……」


 シエロも最初そうやって挨拶をしてきた。

 セルディが申し訳ない気持ちになるからやめて欲しいとお願いし、何度も会話を繰り返す事で仲良くなったが、本来あの距離で会話をする事はおかしい事なのだとチエリーは話す。


「トニアンも居たが、あいつは商人を止められるほど口は上手くねぇ。急いで当主を呼びに行ったが、商人は平然とゴドルード様にこの魔道具はなんなのかと質問していたらしい」


 トニアンとはシエロを監視している騎士の名前。

 無口で身体を動かす事の方が好きな彼があのアーキムを止められる訳がない。

 シエロはトニアンがいない間も平伏したまま、アーキムを監視していたそうだ。

 そしてその魔道具がキャンベル商会で開発中の試作品だと父が話すと、アーキムは「これもですか、なるほど……」と呟いていたと……。


「え、でもそれだけじゃ私が作ったなんてわからないでしょ?」

「そもそも、嬢ちゃんはアーキムがただの商人だと思うか?」

(……それはちょっと思わないかも)


 セルディが無言になると、ジュードは頷いた。


「俺も同じだ。シルラーン国のどっかの権力者の犬である可能性が高いと思ってる。そんなヤツがお嬢ちゃんの周りを嗅ぎまわってんだぞ? どう考えたって狙いは嬢ちゃんだろうが」


 セルディは唸るしかない。


「むぅ……、じゃあどうすればいいの?」

「これはもうさっさとお帰り頂くしかねぇだろ」

「どうやって?」


 セルディの疑問に、ジュードは真剣な表情で言った。


「お前が先代様方を説得すんだよ」

「説得って言われても、火の魔石の問題が解決しないと……」

「それだ」


 それとは……?

 目を瞬かせたセルディに、ジュードの顔がぐっと近づく。


「火の魔石の話なんていつかバレるんだからよ、さっさと見せちまえばいいんだよ」

「ええええ!?」

「ジュード様、それはさすがに……」

「ここにずっと居座られる方が危険だろ。うちの一番の宝は嬢ちゃんなんだぞ?」


 宝って、そんな大層なものではないような気が。

 セルディの内心を知ってか知らずか、チエリーは無言でセルディを見つめてきた。


「……そうですね。わかりました、私の方でも当主様達を説得しましょう」

「よし。そうと決まればさっさと終わらすぞ!」

「えー?」


 どうしてそんな話になったのかわからないまま、こうしてセルディはアーキムと共に火の魔石の採取場に行くことになったのだった。


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