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【二部開始】転生令嬢は推しキャラのために…!!  作者: 森ノ宮明
第二部 フォード領から

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05.説明をします


「どういう事なんだそれは……」

「父上、水汲み用ポンプの設計図を王家に献上したのは私なのです……」


 呆然とするガフィード祖父に困った様子の父が答えると、ジョーイ祖父が驚きの声を上げた。


「あのポンプは婿殿が作ったんか!? シルラーンでもキャンベル商会で作っとるのならこちらにも寄越せと言う馬鹿貴族がおったが……」

「それで、その貴族を親父はどうしたんだよ」

「んなもん、貴方様は今のアデルトハイム王国とお取引が出来る立場にいらっしゃる方なのですか? と聞いたら怒鳴り散らして逃げよったわ」


 伯父の問いかけにカッカッカ、と笑って返すジョーイ祖父にセルディは震えた。

 フォード家先代領主のガフォード祖父が傍にいるとはいえ、ジョーイ祖父は生粋の平民なのに肝が太すぎる。


「お父様ったら……」

「ジョーイお祖父様が無事で本当によかった……」

「そうね……」


 溜め息を吐く母も心境は同じだったらしい、セルディの言葉に頷いた。

 だが、ここで終わらないのが母である。


「お父様、今でも貴族に目を付けられたら遠方に逃げればいいと思っていらっしゃるのでしょうけど、キャンベル家はもはや貴族家に名を連ねたのです。セルディのためにも身を慎んで下さいませ」

「むぅ……」


 娘である母の言葉にさすがのジョーイ祖父も笑い声を収めた。


「ポンプによる功績や、魔石のこともあり、フォード領は伯爵領に陞爵されました。しかし我が家は元は貧乏な子爵。大きな後ろ盾がなければ即潰されてしまうでしょう。既に断った話ではありますが、ポンプが広まり始めた段階でカザンサ侯爵からも婚約の打診がありました」

「ぁあ!? 我がキャンベル家の血筋に婚約の打診なんぞするとは、あの青二才めぇ……」


 ジョーイ祖父がカザンサ侯爵領からフォード領に移住する時に揉めた話はセルディも知っているが、ジョーイ祖父がそこまで怒るような話だったのだろうか……。

 セルディが隣の母にこっそり何があったのか問いかけると、母は遠い目をしながら話してくれた。


「あの時は……、前カザンサ侯爵様からは相場の倍以上の高額な移住許可料の請求がありましたわね……」


 頭角を現し始めていたジョーイ祖父を繋ぎとめるためだったのだろう。

 家族に加えて従業員を含めたすべての支払いが終わらない限り他領に移住することはまかりならん、と役所の人間から言われたらしく、一か月ほどジョーイ祖父は抗議のために役所を何度も行き来していたようだ。

 だが領主である侯爵様からの命令だ。抗議が通るはずもなく……。

 結局、そのカザンサ侯爵の行いは負けん気の強い祖父に火をつけ、思惑とは反対の効果を出した。


「お父様は従業員分のお金もすべて支払って飛び出すように移住しましたが、付き合わされた私達はいつ不敬罪が適応されるかと暫く心配していましたわ……」

「わー……」

「ですが、貴族が自領の利益を優先することは悪い事ではありません。その後、フォード子爵に嫁入りした私達に不当な要求をする事もありませんでした。私個人としては貴族として受け入れて頂いた恩すらあると思っています」


 ここまで聞くと、父と母がセルディとカザンサ侯爵家の婚約に対して最初見合いくらいなら、と引き受けようとしたのもわかる。

 今まで世話になっていた領地に不義理をして出てきた上、上位貴族なのに下位貴族であるフォード家を不当に貶めたりもしなかったのだから、どんなに年齢差があっても見合いくらいはと思うだろう。

 その婚約が利益だけを目的とした不良債権の押し付けだったと気づいてからは、その気持ちは薄れたようだが。


「ゴホン。とにかく、侯爵家からの婚約をお断りする手続きなどを手伝って頂いたこともありますし、その他様々な事柄において格別な配慮を賜っているのです。二人の相性もいいのですから、私達が口を出せる話ではありません」


 父は最終的にそう締めくくった。


「だが、公爵家の次男殿とセルディは一回り程年が離れていなかったか? 何も次男殿でなくとも……」

「そうじゃそうじゃ!」


 祖父達の言葉に、セルディは思わず立ち上がった。


「私はレオネル様じゃないと嫌です!!」


 セルディの心からの叫びが部屋に響いた。

 一瞬にして静まり返った部屋に、じわじわと恥ずかしさがもたげてくる。

 助けを求めて辺りを見渡せば、伯父が笑いを堪えて口元を手で覆っている事に気づき、セルディは顔を真っ赤に染めると、勢いよく腰を下ろした。


「セルディはレオネル様に一目惚れしたんだもんなぁ?」

「伯父様はううううるさいです……っ!」


 席が近ければ太ももを抓ってやるのにそれが出来ない悔しさに、セルディは声を荒らげる。

 母に宥めるように背中を叩かれるが、赤くなった顔はすぐには元に戻らない。

 そんなセルディの様子に、祖父母達は顔を見合わせてから頷いた。


「……そうか。セルディが納得しているのであれば私に異論はない」

「私もよ。おめでとうセルディ」

「しゃーないのぉ……」

「お祖父様達……、ありがとう……」


 セルディは赤い顔のまま喜びに頬を緩め、母もよかったわね、と言ってくれる。

 本当によかった。

 渋々でも受け入れてくれたジョーイ祖父の様子に、セルディは安堵の息を吐いた。


「ちなみに婚約に関して誓約書は作ったんじゃろうな?」

「え?」


 婚約に関しての誓約書?

 そんなもの作った覚えがない。

 セルディは目を瞬かせた。


「作っとらんのか! もしもの事を考えて誓約書は大事じゃぞ。商人にとって契約書は神の言葉に等しい!」

「義父殿、相手は王族ですから……」

「婿殿は黙っとれい!」


 ジョーイ祖父の一喝に、父は口を閉じる。


「アーキム、誓約書を作る紙は準備できるかの?」

「おまかせ下さい」


 今まで静かに控えていた商人のアーキムが頭を下げ、にっこりと微笑んだ。


「とびきり上等な品質のものを取り寄せさせて頂きます」

「うむ。羊皮紙はアデルトハイムよりもシルラーンの方が質がいいからのぉ」


 満足げに頷く祖父に、セルディは再度声を荒らげる。


「ちょ、ちょっと! ジョーイお祖父様、失礼な事は書いちゃダメだからね!?」

「なぁーに、心配せずとも常識的な事だけじゃ。もしもの事があるのが貴族じゃからの」

「むむむ……」


 にやにや笑いながら言われても納得出来ないが、否定出来る材料もないセルディは父と同じく黙るしかない。

 レオネルならそんなことはしない、と確信があるが、情勢次第では何が起こるかわからないのが貴族社会である。

 レオネルと会った事も話した事もない祖父母達を納得させるにはレオネルに実際に会ってもらうしかないだろうが……。


(忙しいレオネル様にフォード領まで来て貰うようお願いするなんて無理……!)


 セルディの表情を見たガフィード祖父は宥めるように声をかける。


「私が見ているから大丈夫だ」

「私も暴走しないように注意しておきますからね」

「ガフィードお祖父様……、アリアお祖母様……」


 セルディが二人の言葉に、でも止めてくれないんだ……。と思っている中、ジョーイ祖父だけはやる気満々に立ち上がって拳を上げた。


「わしらが作った誓約書に署名出来ない男となんぞ結婚させんぞぉ!」


 暴走するジョーイ祖父に、伯父は楽しそうに笑い、父は困り、母は頭痛を堪えるように額に手を当てている。


(……せめてお父様達としっかり確認しよう)


 セルディはそう思いしながら、どのような項目を入れるかの話し合いを始める祖父母達を戦々恐々と眺めた。


ここまで読んで頂き、ありがとうございます!

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