04.祖父母達に会います
セルディが落ち込みながらチエリーに続いて応接室へ入ると、そこには懐かしい祖父母と伯父ガルドの姿があった。
ヤニクへの罪悪感は残っているものの、四年ぶりの祖父母との再会はやはり嬉しい。
ヤニクとは後でちゃんと話そうと心に決め、セルディは足早に祖父母達に近づいた。
新しく作られた応接室を興味深そうに眺めていた祖父母達は、セルディに気づくと勢いよく立ち上がった。
「ジョーイお祖父様! ガフィードお祖父様! アリアお祖母様!」
「おお! セルディ!」
母方の祖父であるジョーイが伯父のガルドに似た顔で伯父と同じように手を広げた。
四年前よりも皺が増えただろうか、喜怒哀楽をはっきりと表情に出す陽気なジョーイ祖父。
足早に近づいたセルディはその腕に控えめに飛び込んだ。
ジョーイ祖父はその控えめな抱擁にがっかりした声を出す。
「なんじゃ、すっかり貴族のご令嬢になってしもうたのぉ」
「美人になったでしょ?」
以前と同じように勢いよく飛び込むにはセルディの身体も大きくなったし、上位貴族の令嬢がしてはいけない。
でも口調は崩した。
家族の間だけならチエリーも目を瞑ってくれるだろう。
「ま、親父も年だしな。今のセルディを受け止めるのは俺だけで十分だ」
「なんじゃとぉ!? わしはまだまだ現役じゃ!」
「いやいや、いい加減に年を考えろって……」
伯父と祖父が言い合う姿も懐かしい。
ようやく家族が揃った気がして、セルディは頬を緩める。
口喧嘩を始めた二人を放置して、母方の祖母であるアリアが近づいてきた。
母に似ている祖母、少し痩せただろうか、細い指に年月を感じる。
セルディは口喧嘩を続ける祖父の腕から祖母の元へと移動し、優しく抱き着いた。
「セルディ……、綺麗になって……」
「アリアお祖母様、会いたかったです……」
祖父達は元々旅行に行ったらいつ帰ってくるのかを知らせない性質だったが、四年も帰ってこないのは初めてだった。
両親が金策に駆けずり回る中、一人屋敷に放置されていた頃は祖父母を恋しがって泣いた日もあったが、反乱中の国に帰ってくるのは危険すぎたのだと今はわかる。
「みんなが無事でよかったわ……」
「お祖父様達も……っ」
祖母の涙にセルディの目も潤む。
子供だったセルディは毎日空腹を満たす事しか考えていなかったが、今思えば一歩間違えば処刑されていた可能性があったのだ。
祖父母達は心配で仕方がなかっただろう。
セルディも長く離れていた祖父母達が事故もなく元気で帰ってきてくれて本当によかったと思った。
「ごほん……」
低い咳払いに祖母の隣を見れば、そこには父方の祖父ガフィードが立っていた。
静かに手を広げて待つ祖父に、セルディは笑い、祖母の腕からまた移動する。
「ガフィードお祖父様、お帰りなさいませ」
「うむ、今帰った」
父と同じく表情筋の少ない祖父ガフィードの優しい声。
セルディは家族がようやく揃った事が嬉しくて、頑強な祖父の胸に頬を擦り寄せた。
「お父様達、再会の抱擁はそのあたりにしましょう。他のお客様もいらっしゃるんですよ」
母の言葉に、セルディは応接室に居るのが家族だけではないと初めて気づいた。
部屋の奥で両親の傍に立っているのは、褐色の肌に白長のシャツ、黒マントを羽織っている黒髪の男。
にこやかな表情をしてはいるが、皺の寄っていない衣服に男の神経質さが窺える。
セルディは背筋を伸ばした。
「おお、そうだったな。セルディ、こやつはアーキム。キャンベル商会のシルラーン国支部の支配人を任せておる」
「お初にお目にかかります。アーキムと申します」
丁寧に頭を下げたアーキムは、顔を上げるとセルディを観察するようにじっと見つめてくる。
「あ……、は、初めまして……。セルディ・フォードと申します」
ヤニクに見つめられた時とはまた別の居心地の悪さを感じながら、セルディはアーキムにカーテシーを披露した。
「セルディはすっかり淑女だな」
「恐れ入ります」
ガフィード祖父の褒め言葉にはにかんで礼を言うと、セルディは両親達に促され、席へと座った。
「で? 親父はシルラーン国支部なんていつ作ったんだよ。んな話初耳なんだが?」
知らないのはセルディだけかと思っていたが、どうやら両親も知らなかったようで、伯父の問いかけに頷いている。
祖父母達はお互いの顔をチラチラと見つめ合った後、代表としてジョーイ祖父が口を開いた。
「それがのお……」
どうやら祖父母達は四年前にアデルトハイム王国の南部に行った際、そのまま海を渡ってシルラーン国まで足を延ばしたらしい。
新しい商売のタネを探しての事だったが、まさかその後すぐに王弟が反乱を起こすとは思わなかった。
貴族の粛清が行われている事を知った時に、急いで帰ろうと思ったのだが……。
「銀行が使えなくなってしまってな……」
ガフィード祖父の困ったような声音に、当時の苦労が窺える。
アデルトハイム王国の貨幣も使えるかわからないような状況にまで追い込まれ、途方に暮れたと話した。
「ま、そこはわしがなんとかしたがな!」
ジョーイ祖父は貨幣価値の混乱の中、急いで手持ちの品を金に換え、当面の費用を捻出したらしい。
「この混乱がいつまで続くかもわからなかったの。ジョーイはそれならいっそここで商売をしようと言い出して……」
アリア祖母は困った男よね、と言いながら尊敬の眼差しでジョーイ祖父を見ている。
この二人は四年前も年中ラブラブだったが、それは今も健在のようだ。
「ジョーイには本当に助けられた」
貴族だったガフィード祖父にはない機転と行動力で、ジョーイは露店から始め、二年で店舗を手に入れるところまでやってのけたのだそう。
「さすが親父だと感心するが、それなら反乱が治まった時に連絡くらい寄越せや」
「いやー、その後は魔石の取引で揉めてたじゃろ? 物資のやりとりも禁止されてしまっててのぉ」
水の魔石の取引が戻っても、物流はすぐには戻せない。
手紙は現在も検閲がされており、出しはしたが、未だフォード領には届いておらず、今後届くかどうかもわからない状態だそう。
北のフォード領は知らなかったが、南部は未だ混乱が続いている状態らしい。
「今回戻って来られたのはギレン侯爵のお陰じゃ」
「ギレン侯爵の?」
父が軽く目を見開く。
ジョーイ祖父は先ほどまでの朗らかな雰囲気を鋭く変えて、父を見た。
「わしらがダムド公爵家に連なる者だという事で優先順位を上げてくれたんじゃよ」
「もう私達びっくりしちゃって……」
「で、どういう事なんだ?」
三人からの圧に、セルディも両親も、どう説明すればいいのかと頭を悩ませたが、空気を読まない男が一人残っていた。
「あー、セルディがダムド公爵家の次男坊と婚約しちまってなぁ」
「なんじゃとおおおおお!?」
ジョーイ祖父の叫びが、屋敷中に響き渡った。




