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【二部開始】転生令嬢は推しキャラのために…!!  作者: 森ノ宮明
第一部 王都で

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73/120

73.認識します


(間に合ってよかった……)


 セルディは厩舎で安堵の息を吐いた。

 もしレオネルが何も気づかずに帰宅しようとして、落馬するような事になったら死んでいたかもしれない。


(そんなこと、絶対にさせない……!!)


 セルディの中で、前世の自分と思考が重なった。

 今までの虫食い状態だった記憶がパズルのピースを埋めるかのように次々と繋がっていく。

 夢で見ていた光景も、今ならはっきりと思い出せる。


 ――そう、あれは実写の映画だった。


 前世の自分は、ようやく実写化した侵攻編の第一部を見た次の日に、車に轢かれて死んでしまった。

 轢かれた瞬間、視点が一回転した事まで思い出したが、幸いな事に痛みまでは覚えていない。

 そこまで思い出した時、セルディの胸にふと、ひとつの疑念が浮かんだ。

 もしかして、この世界は自分が死ぬ直前に見ている夢なのかもしれないと思った。


 死の一秒前に見る、長く、都合の良い夢なのでは、と……。


「セルディ?」

「あ、はい……」

「針は取ったが、バーニーには乗れない。何か食わされている可能性もあるからな」


 バーニーは知らない相手から食べたりしない、と言いたげに鼻を鳴らしているが、用心は確かにした方が良いだろう。

 セルディはぼんやりする頭で頷いた。


「……大丈夫か?」

「え?」

「いや、突然元気がなくなったからな……」


 心配気な顔をしたレオネルが、顔をセルディへと近づけた。

 突然近づいた距離に、セルディは目を大きく見開く。


「え……、うぇええ!?」

「熱はなさそうだな」


 一瞬口づけかと淡い期待をしてしまったが、額と額を合わせての熱を測る行為でも、セルディの顔は一気に赤くなった。

 そんなセルディを見てレオネルは笑う。


「なんだ、元気だな。何か気になる事でもあったのか?」

「い、いえ! ナンデモナイ、です!」

「そうか、とりあえず行くぞ」


 そしてまたセルディをさっと持ち上げる。

 再びの子供抱きだ。


「ええ!? またですか!?」

「この方が速い」


 レオネルはさっさと歩き出した。

 仕方なくセルディはレオネルの首に腕を回す。


(レオネル様は、実写で見た俳優さんよりもカッコいい……)


 そうだ、これが夢ならばこんな格好の良い人間を思い浮かべる事なんて出来るはずがない。

 カラドネル公爵なんていう存在が裏に居る設定なんて単なる会社員だった前世の自分が思いつけるとも思えない。


(やっぱりこれは現実!!)


 この腕の中の温もりも、全部、本物だ。

 セルディはぎゅっと抱きついた。

 その姿はどう見ても父親と娘だが、セルディは気にしない。


(レオネル様を私が守るんだ……!!)


 前世とか関係ない。この世界の、セルディ・フォードが、レオネルを守る。そのために全力を尽くそう。

 セルディが固く決意した時、レオネルが城門ではなく、別の建物に向かっている事に気付いた。


「あれ、帰り道はあっちじゃ……?」


 指さす方向には灯りが取り付けられている城門があるが、レオネルが向かっているのはどちらかというと城側だ。


「命が狙われているかもしれない状況で、何もせずに帰るのは不用心すぎるだろう……」


 呆れた様子で言われ、セルディはそれはそうだな。と納得する。


「こっちにあるのは第一と第二騎士団の詰所だ。夜間の襲撃に備えて待機してる奴らが居るだろうから、人員を少し借りよう。今日の夜勤担当は第一の団長だから期待は薄いが……」

「第一? 第二?」

「王城内を守護する騎士団が貴族の子息が多い第一、王城以外の王都を守護しているのが第二だ。第二は第一と違って平民の方が多い」

「はえー、そうだったんですね……」


 自国の事だというのに全然知らなかった。

 原作でも騎士団がいくつかの所属に別れているなんて話は出ていなかったと思う。

 だが、考えてみればそれはそうだ。

 前世セルディが働いていた会社もいくつもの部署に分けた方が効率的だった。騎士団だって同じだろう。


「ちなみに騎士団は第八まであるぞ」

「第八!」


 騎士団は騎士団という一つの組織だと思っていたセルディにとって八つという数字は多く感じる。


「第一はお城担当、第二は城下町担当。じゃあ第三からはどこを担当しているんですか?」


 セルディのふとした問いかけに、レオネルは丁寧に答えてくれた。

 どうやら第三から第六の騎士団は東西南北に分かれて災害が起きた場合の救助活動や、野盗などの討伐、誰かの領地で不正や反乱が発覚した場合の捕縛などの担当をしているらしい。

 残りの第七と第八は主に人手が不足している部隊の補佐や長丁場になった場合の交代要員で、現在第七は第二の補佐でポンプの警護を民間に任せるまでの繋ぎとして城下で警護にあたっているとか……。


「全然知りませんでした……」


 前世頼りの知識ばかりで、この世界の教養に欠ける自分を思い知る。

 落ち込みかけたセルディの背を、レオネルがそっと叩いた。


「フォード領に騎士団が派遣される機会は今までなかったしな。セルディが知らなくてもおかしくはない。所属を気にするのは騎士本人くらいで、国民的には自分たちを守ってくれる騎士達は総じて騎士団という認識だ」


 だから気にするな、と微笑むレオネルに、セルディは少し気持ちを持ち直した。


「所属を気にするって……第一が一番偉い、とか?」


 冗談を言ったつもりのセルディだったが、レオネルはふっと嘲るような笑みを浮かべる。


「ま、そうだな。実際は単なる役割の違いしかないんだが、王城に入れる身分で選ばれた貴族の坊ちゃんが多い第一は、自分達が騎士の中で最上だと勘違いしているやつが多い」


 どうやらレオネルは第一騎士団とは仲が悪いらしい。


「人、貸して貰えるでしょうか……」


 心配げな表情で尋ねるセルディを、レオネルは立ち止まって強く抱きしめた。

 レオネルの体温がセルディの身体を包み込む。


「……お前は俺が守るから安心しろ」


 突然の抱擁にセルディが動揺する暇もなく、レオネルは少し足を速めて歩き出した。


「あれ、近衛の隊長さんじゃないすか」


 到着した詰所から最初に出てきたのは、だらしのなさそうな雰囲気の男だった。


「夜間にすまない。第一の団長はいるか」

「あー。今呼んで貰ってくるんで、ちょっと待っててくださいっす」


 そうして扉の中に戻って行った男に、セルディは不安になる。


「あの人、騎士様ですよね?」

「言いたいことはわかるが、貴族が減った今の騎士団は平民の方が多い。口調はあれでも丁寧な方だ」


 まさかの事実。

 でも言われてみれば前王弟のせいで貴族がだいぶ減ってしまったのだから、そうなっても仕方ない。


「慣れれば素直でわかりやすいから問題ない。そっちよりも第一の騎士団長がな……」

「第一の団長さんとそんなに仲が悪いんですか?」


 セルディが問いかけると同時に、扉が勢いよく開いた。


「近衛隊長がなんの用事だ、この忙しい時に!」


 最初から喧嘩腰の態度に、セルディもポカンと口を開けてしまう。

 この団長も平民なのだろうかと思わず思ってしまったが、第一は主に貴族だと聞いたし、服装も先ほどの騎士とは違って綺麗すぎるほど綺麗なので貴族なのだろう。


「すまないが、帰宅時に夜襲を受ける可能性があると判断したため、人員を借りたい」

「夜襲?」

「そうだ。何人か貸してくれないか」

「ふん……」


 第一の騎士団長は鼻を鳴らすと、レオネルの腕の中に居るセルディに気付いた。そしてじろじろと不躾な目線を送ってくる。

 レオネルはその視線から遮るように、セルディの頭を肩口へと抑え込んだ。


「はっ……、まさかそのちっこいのが早馬が持ってきた手紙の差出人か? 道理で早馬なんか使って手紙を送ってくるわけだ。子供じゃないか」

「貸せるのか、貸せないのか」


 レオネルは質問には答えず、苛立たし気に問い返した。

 しかし、騎士団長はその問いには答えず、嘲るような笑みを浮かべる。


「はっはっは、お前も可哀想なやつだな! いや、もしかして幼女趣味だったのか? だから今まで恋人がいなかったんだな! 今度の夜会で俺がみんなに教えてや」


 騎士団長の身体が台詞の途中で鈍い音と共に途切れた。

 静まった気配に、セルディが恐る恐る顔を向けると、扉の中まで吹き飛んで倒れている騎士団長がいる。


「下種になり下がりやがって……」

「ひぇ……」


 ドスの利いた声に、セルディは震えあがった。

 レオネルは諦めて踵を返す。


「あいつは交代させた方が良いと陛下に伝えておく。今日は気を付けながら帰るぞ。襲われると決まっている訳ではないからな」

「え、あの、近衛の人に頼むとかは……」

「近衛は陛下を守るための組織だ。俺を守るためのものじゃない」


 レオネルはきっぱりと言い切り、足を城門へと向けた。

 セルディは不安だったが、こればかりはどうしようもない。


「閣下! 馬はどうされました?」

「鐙に細工がされていた」

「なんだって!?」

「今からでも応援を呼んできましょうか」


 レオネルの言葉に驚いた護衛のサットンとラムが慌てて進言するが、レオネルはセルディを抱いたままさっさと馬車に乗り込んだ。


「いや、お前らに危険が及ぶかもしれん。心もとないが、この人数で急いで帰るぞ」

「ハッ!!」


 そのままセルディは膝の上に乗せられる。


「え?」

「行ってくれ!!」

「はい!」

「え?」


 レオネルに抱き込まれるような形になったセルディは、馬車が動き出しても膝の上から降りることは出来なかった。


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