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転生令嬢は推しキャラのために…!!  作者: 森ノ宮明
第一部 はじまり
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05.光明を見出します


 美味しいお菓子を食べてすっかり元気になったセルディは、城を出て、父親と一緒にホテルへと戻ってきた。

 父はホテルの客室に付いた途端、セルディに備え付けの椅子へと座るように言う。


(これは叱られるかも……?)


 領地では叱るのは専ら母親が担当していたため父親に叱られた記憶はほとんどなかったのだが、母がいない今、セルディは父に叱られる可能性が高い。


(でも、今回は仕方がないよね……)


 母からのお叱りには逃げてばかりのセルディも、さすがに今回の事に関しては観念した。

 平民になる予定で色々計画を立てていたのに、それをすべてぶち壊したのだ。

 セルディは父の怒りを受け止める覚悟で、恐る恐る指示された椅子へと腰を下ろす。


「まったく、突然どうしてあんな事を言い出したんだ?」

「え、えへへ、あのね、やっぱりもう少し頑張りたいなーって思って」

「平民の方が生きやすそうだと言っていなかったか?」

「それは今でもそう思う! けど、その……、やっぱり、ね……」


 脳裏に本の文字だけではなく、実写の映画でも表現された凄惨な戦争の様子が浮かぶ。

 大事な麦畑が戦火に包まれ、馬車道に村人がうつ伏せになって倒れたまま死んでいる姿も……。


(領地が火の海になるかもしれないから、なんて言えないわよね……)


 セルディは言葉を濁し俯いた。なんて説明すればいいかわからなかったのだ。

 そんなセルディの様子に、父は仕方がないなと苦笑混じりに呟いた。


「それならせめて、自分が言った言葉には責任を取らないとな」

「えっ」


 聞こえてきた優しい声にセルディが勢いよく顔を上げると、そこには叱る気などこれっぽっちもなさそうな様子の父の顔があった。


「……いいの?」


 なんてことをしたんだと怒られると思っていた。

 事情があるとはいえ、父と母がした先祖代々守ってきた土地を手放すという決断は、長い時間をかけて深く悩み抜いた末の結論だったことを知っていたから。

 しかし父はセルディを頭ごなしに叱ったりなんてしなかった。


「ただし、何をするにもまずは大人に相談すること。いいな?」

「はい!」


 セルディは自分を応援してくれるゴドルードに感謝しながら、大きく頷く。


「それで、陛下に言ってた策とはなんだ?」

「あ、あれねー。えーっと、実は色々あるんだけど……」


 頭に浮かんでくるのは、女性が読んでいた漫画やアニメ、小説などで紹介されていたチートと呼ばれる知識の数々。


 けれど、この世界では物理法則が違う可能性があり、どれが実現可能なのか、どんな応用が出来るのかはさっぱりわからない。

 そもそもこの世界には魔力があり、限られた者だけとはいえ、魔法が使える人も居る。


 さらに言えば、エネルギー源は電気ではなく、魔石と呼ばれる火や水、風や光などの属性を持つ結晶だ。

 この魔石は魔力を使い切らなければリサイクル可能だが、その再生には火の魔力や水の魔力が豊富に溜まる場所に安置する必要がある。

 しかも、置いたところですぐに使えるようなものではない。

 水の魔石が豊富な我が国ですら、ほとんどが砂になるまで使い尽くされてしまうのが現実だった。


 そんな魔石を動力源にした冷蔵庫や水洗トイレがすでに存在しているこの世界では、そっち方面のチートをセルディが真似るのは難しいかもしれない。

 他のアプローチを考えるとなると、やっぱり自分の領地内で出来る何かが欲しいところだ。


「うーん……。ねぇ、お父さん!」

「何だ?」

「ズバリ、うちの領地で一番なんとかしたい問題って何!?」

「……そこからなのか」


 父は呆れたように額に手を当てた。

 しかし、この件に関してはセルディは悪くない。


「いや、だって、私、遊ぶばっかりだったじゃない! 家庭教師とか雇えるお金ないし、お父さんは領地の経営と金策で忙しいし、お母さんも内職とか家事とかで手一杯だったし!」

「確かにその通りだが」

「でしょ? だからとりあえず言ってみて!」


 なんでもいいんだから、早く!

 セルディの言葉に、ゴドルードはしばし考え込んだ。


「……そう、だな。まぁ手っ取り早く言えば金がない」


 ガクリ。

 そうだけど、そうじゃない。

 今度はセルディが呆れて項垂れた。


「それは知ってる……。そうじゃなくて、何かこうして欲しいとか、ないの?」

「こうして欲しいものと言われてもな……。とりあえず、フォード領は農作物の物納が主なのは知っているだろう? その大多数は保存の効く麦で、目玉となる特産品はない」


 麦はお金の目安にもなるくらいのありふれた作物で、価格の変動が少なく安定はしている。

 とはいえ、それだけで大きな収入を得るのは難しい。

 だからこそ、災害などの非常時に備えて貯蓄しておかないと、もしもの時に領主として必要な支出ができなくなってしまう。

 ……まぁ、何かしらの誤魔化しをしていれば話は別だが、父は愛国心に溢れているので、そんな不正をした事はない。


「やっぱり、うちの領地が誇れる特産品が必要って事ね……」

「そうだな。お前が陛下に言っていたように、それがあるかないかで収入は大きく変わってくるだろう。だが、我が領地は狭く、そのほとんどは麦畑だ。新しい何かを作るには土地も、時間も、資金も足りない」

「なるほどぉ……」


 セルディの頭の中には、麦畑で出来る新しい何かの構想が練られていた。

 麦で作るもので一番考えられるのは酒だが、工場を作る資金などないし、そういう初期投資が必要になる物は除外した方が良いだろう。

 次に思いつくのは小麦粉を使った何か。

 小麦粉といえばパンだ。柔らかいパンはこの世界にもあるが、前世のようにふっくらもちもちのパンはまだ存在していない気がするから、こっちの方面に手を伸ばしてもいいかもしれない。

 しかし、柔らかいパンは保存期間が短い。領地内で食べる分にはいいが、大きな収入にするのは領地自体の発展が不可欠だ。これも今は除外するべきだろう。


 あと思いつくのはうどんだが、こっちは味付けが問題だ。醤油が欲しいが、醤油は材料はわかるが、正確な作り方がわからないので、試行錯誤する時間が必要になる。


(うーん、いっそ食品から離れてみるとか?)


 セルディは領地の姿を思い出してみた。が、綺麗な麦畑しか思い浮かばない。

 もっと父の視察に同行するべきだったかもしれないと後悔するが、幼いセルディが一緒に行ったところで、足手まといにしかならなかっただろう。

 他に何かアイディアに繋がる物はないかとセルディは頭を悩ませた。


「うちって鉱山はない、よねぇ……?」

「そんなものがあったら子爵ではなく伯爵以上の地位の者が管理を任されただろうな」

「それもそっかぁ、でも山はあるよね?」

「あるにはあるが、あそこには木と獣しかいないぞ。茸くらいの山の幸はあるだろうが……」

「山の幸を無闇に取ったら獣がいなくなっちゃうからダメだよねぇ……。あ、でも……」


 その時、セルディはある事を思い出した。


『くっ、なんでこんなに罠がッ』

『わかりません!』

『やつら、こんな大量の火の魔石をどこから……』


 レオネルと藍色の髪をした副官が、煤を頬に付けながら罠が張り巡らされた山を二人で駆けているシーンだ。

 敵軍が張った罠は、ほとんどが火の魔石を使ったものだった。

 森の中で火の魔石を使うなんて、その後の事を全く考えていない卑劣な行為だと、レオネルが憤っていた。

 山火事になる前にと火を消しているうちに水の魔石が失われ、走るのがきつくなるほど疲労も溜まり、先を目指すか、一度戻るかの選択を迫られるのだ。


 実は敵国は、魔石なんてものを大量に戦争に使えるほど、魔石の産出量は多くない。

 ではどこから見つけたのかというと。


(たしか、あいつらは海で偶然見つけたって言ってた気がー……)


 フォード領の北西部は海に面しているが、海底は黒い岩がゴロゴロしているし、崖が高くて魚は取れないし、波も激しくて近づくのは危険で、更には大人から子供まで海にまつわる怖い話が伝わっているため近づく人もほとんど居ない。


 でも――。


「お父さん、火の魔石って、火山で取れたりするのよね?」

「ああ、そうだ。しかし我が国には火山はないぞ。火の魔石は南のシルラーン国からの輸入が主だな。その事で条約も結んでいる」

「それだ!!」


 セルディは勢いよく立ち上がった。

 そのあまりの勢いに、父はわずかに眉を動かし、目を瞬かせる。


「……なんだ?」

「うちには海底火山があったんだよ!」

「海底……、火山?」

「うちの領地で火の魔石が取れるかもしれない!!」

「どういう事だ……?」


 セルディは思いついた自分の考えを、意気揚々と語って聞かせた。

 地上だけじゃなく、海底にも火山があること。

 フォード領の海に転がっている黒い岩は溶岩が固まったものかもしれないこと。

 海に出れば溶岩とともに零れ落ちた魔石や魚が取れるかもしれないこと。


「海底に火山があるという話も信じがたいが、そんな場所から火の魔石なんてどうやって取るんだ……」

「うーん、とりあえず活火山なのかどうかの調査も必要よね……。で、でも、うちの国で火の魔石が取れるって話が出たら、輸入に頼る分が減るから、国も資金を出してくれるかもよ!?」

「それは、確かに取れたらそうなる可能性はあるが……」

「とにかく、海沿いを徹底的に調べてみようよ! 取れる場所がどこかにあるはず!」


 領民たちはあの海を恐れて近づこうとしないが、きちんと調べれば敵が上陸可能な場所が見つかるかもしれない。

 セルディは見え始めた光明に目を輝かせる。

 父はそんなセルディの話を半ば疑いながらも、領民たちに調査を命じる手紙を出した。



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