47.実験をします
セルディはレオネルに案内してもらい、食糧庫にやって来た。
サイロンと夫人も興味があったのか、一緒に付いてきている。
もう暗いし、報告は明日すると説得してみたが、二人ともこのままでは気になって眠れないらしい。レオネルにも助けを求めたが、二人は言っても聞くような人間じゃないから諦めろと言われてしまった。
そうして、護衛を大量に引きつれて食糧庫を目指すおかしな団体が出来上がった。
「件の小麦粉があるのはここだ」
料理に使う事が出来ないと言われた小麦粉の入った麻袋は、大きな食糧庫の一番奥に、他の食材で隠すように置かれていた。
食糧庫は窓のない造りになっており、水の魔石と風の魔石が使われていて冷やされた風が扉から少し漏れている。
冬になるとここに大量の氷を入れて、夏にも氷が使えるようにするのだとレオネルが説明してくれた。
「わぁ、涼しいー」
実際に中に入ってみるとセルディは初めて経験する大型の食糧庫の涼しさに感動した。
前世でいうクーラーの効いた部屋のようだ。
この温度を保つのにどれだけのお金が使われているんだろうか、なんてことを考えてしまったセルディは今はそれどころじゃない、と頭を振った。
「えっと、中を見てもいい……でしょうか?」
セルディはレオネルに問おうと思ったが、ここはこの領の最高権力者に聞くべきじゃないか、と思い直し、夫人に問いかけてみる。
夫人は泣いて赤くなった目を隠すように伏せながら、お好きになさって、と言ってくれた。
「あ、こんな狭い場所じゃ見にくい、ですよね。誰か、これを一袋外に……」
「まかせろ」
「レオネル様、私達が運びますよ!?」
「そうですよ! ああ、隊服に粉が!!」
「いいっていいって。気にするな、洗えば落ちる」
セルディでは引きずってでも持てそうにない重さの袋を軽々と持ち上げたレオネルは、護衛達の手を片手を振ってどけさせると、食糧庫の外に出た。そのままなるべく拓けた場所にその袋を下ろす。
「レオネル様ありがとうございます!」
「どういたしまして。それで、開けるのか?」
「はい、お願いします」
レオネルは袋の口にきつく結ばれていた縄をナイフで切って開けた。
中を覗いてみれば、パッと見ではわからないものの、少し色の悪い粉が入っているのがわかる。
セルディはそのまま手触りも確認するために、手を粉に近づける。
「待て」
その手を、レオネルに止められた。
「毒の可能性もあるだろうが、気軽に触ろうとするんじゃない」
「あ、ごめんなさい……」
触って何かが起きる可能性なんて微塵も考えていなかったセルディが素直に謝ると、レオネルは護衛の一人に手袋を借りて、セルディに渡してくれた。口には夕食時に使っていたナプキンを覆うように付けてくれる。
「ありがとうございます!」
布越しにお礼を言ってから手袋を嵌め、今度こそと意気込んで小麦粉を片手で掬った。
反対の手で掬った粉を抓んで擦ってみる。
「混ざりものとは聞いていたが、これは何が混ざってるんだ……? 砂……か?」
「多分、なんですけど、魔石の粉じゃないかな、と……」
自分のマントで口元を覆いながら聞いてきたレオネルの問いに、セルディは自分の考えを述べた。
「なんだと?」
「あの、誰かテーブルと小さい鍋、あと蝋燭と鍋を上から覆える袋と……えーっと、ストロー……はないか、細長い筒ってあります?」
「少々お待ちください」
さっと動いてくれたのは執事のバードンだった。
(っていうかいたんだ!! 気配がなかった……)
バードンはすぐに言った物を集めてくれた。
細長い筒は火吹き筒だった。
それは前世の記憶にある竹ではなく、金属で作られた細いものだ。
(これなら出来そう……)
セルディはテーブルに鍋を置くと小麦粉を鍋の中に少量入れ。
中央に火を点けた蝋燭を立ててから紙袋で覆った。
その紙袋に穴を開け、火吹き筒の先が小麦粉に向くように狙いを定める。
「えっと、みなさん! 念のためテーブルから離れて下さい!」
前世の記憶では火は上空に巻き上げられるはずなのだが、魔石混じりの小麦粉でどんな威力が出るかはわからない。
量はかなり少ないとはいえ、危険は減らすべきである。
セルディの指示に従ってテーブルの周りから人は離れたが、レオネルはセルディに近寄ってきた。
「あ、レオネル様も離れて……」
「おい、何をするんだ?」
暗くてよく見えないが、眉間に皺が寄っている気がする。
セルディはもごもごと口を動かした。
「えーっと、少し、そのぉ、実験を……」
「俺がやる。どうすればいいんだ?」
言われると思った。
セルディはどう言えばいいか悩むも、結局言いくるめる言葉は思いつかず、正直に話す事にした。
小麦粉に息を吹きかけると、爆発するかもしれないと……。
その話を聞き終えたレオネルは溜め息を吐く。
「そんな危険な事、尚更やらせる訳にはいかないだろう。ジュード、セルディの盾になっとけ」
「はっ」
さっと現れたジュードが、レオネルの指示に従ってセルディを小脇に抱え、テーブルから離れた。
全部自分がやる気満々だったセルディはジュードが現れた事だけでなく、レオネルの指示に素直に従っている事にも驚く。
「え、ジュードさん!? なんでレオネル様の言う事を素直に聞いてるの!?」
「まぁまぁ、嬢ちゃんもこっちに避難しとけって」
そのまま他のダムド家の護衛に囲まれ、セルディは動けなくなる。
人の間からなんとか見ると、レオネルがセルディの設置した火吹き筒に口を当てるところだった。
そして、レオネルが息を思い切り吹いた瞬間。
――ボンッ!!
「うわ!!」
一瞬明るくなるほどの炎の爆発。
すぐさまジュードがセルディの前に立ったため、レオネルがどうなったかわからなかった。
「レオネル様は大丈夫ですか!?」
「あ、ああ、大丈夫そうだ……」
ジュードの言葉に少しはホッとしたが、自分で確認しなければ信用出来ない。
セルディはジュードの横から無理やり顔を出した。
「レオネル様!!」
そこには、風圧によって転げたのであろうレオネルが、尻餅をついたまま呆然としている。
薄暗くてよく見えないが、ちょっと焦げたのかもしれない。
「レオネル様! 大丈夫ですか!?」
レオネルの傍に駆け寄ったセルディは、テーブルに視線を釘付けにしたままのレオネルの顔を覗き込んだ。
レオネルは視界を遮られた事により、ようやく視線をセルディへと移す。
「セルディ……。さっきのは……、なんだ?」
「粉塵爆発です」
前世でも、大量の死者を出した事もあると言われる爆発。
セルディはこの爆発が、ダムド領を崩壊させた一因だと考えた。




