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【二部開始】転生令嬢は推しキャラのために…!!  作者: 森ノ宮明
第一部 ダムド領で

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39.推しキャラは抱きしめる


 レオネルがダムド家の屋敷に辿り着けたのは、お見合いパーティー当日の夜だった。

 ブルノーの事も心配だったが、兄とセルディの婚約話が進んでいないか、母がセルディを無理やり言いくるめていないか、馬を走らせながらそんな心配ばかりが頭に浮かんでいた。


 招待状もなしにブルノーのような男が公爵家に入れる訳がない。

 入ろうとしても正式な手続きを終えない限りは入る事は出来ないだろうと思っていたからだ。


 母が暴走していない事だけを祈りながら、レオネルが公爵家の門へと向かうと、なぜだか屋敷が騒がしい。

 レオネルは正門から離れる事の出来ずに屋敷の中を心配げに見つめている門兵に馬を預け、とりあえず騒ぎの元へと駆けつけた。


「何があった!」


 騒いでいたのは館の東側、使用人用の食堂がある場所だった。

 たくさんの兵と使用人が集まり、水の入った桶やバケツを手に持っている。


「レオネル様!? も、申し訳ありません! どうやら料理人が小火を起こしたようです! すでに消火は終えておりますが、あちこち煤だらけでして……」

「そうか……。怪我人はいないか?」

「小火を出してしまった料理人が少し火傷をしたくらいです」


 その言葉を聞いて安心した。

 ダムド領の建物は戦火を警戒した石造りのため他の場所に燃え移る可能性は低いが、火が危険な事には変わりはない。小火程度で済んでよかった。

 レオネルは内心安堵しながらも、それを表に出す事はせずに領主の息子の一人としてしっかり釘を刺した。


「その料理人には厳重注意をしておけ。それと、他に燃え移ったりしてないか念入りに確認しろよ」

「はっ!!」


 最低限の指示だけを出し、後は屋敷の警備を担当する者に任せて屋敷の中に入ると、中も何やら使用人達が動き回っていた。

 扉を開けて入ってきた相手にも気づかない様子に、嫌な予感を覚えたレオネルはメイドの一人に声をかける。


「どうした」

「あ、レオネル様! それが、行儀見習いのお嬢様が部屋に帰っておられないと……。侍女の方が急いで探すようにと仰られて。まだお小さいですから迷子にでもなられ」


 その言葉を聞き終える前に、レオネルは走り出した。


(ジュードめ!! 何をしていやがる!!)


 口の中で悪態を吐きながら、レオネルが向かったのは屋敷の西側だ。

 中央は人の行き来が激しく、東は小火騒ぎで人が集まっている。

 残る西は中央の客室が溢れた場合に使われる事が多く、今の時季はほとんどが空き部屋だ。誰かが隠れるには丁度良い場所だろう。

 だからこそ警備兵を多く配置する場所でもあるのだが、今はお見合いパーティーの客の警備と、小火騒ぎで人手が中央と東に集中してしまっているようだった。


(まさかあの小火は……)


 そんな嫌な予感を感じながら、レオネルは王都から付き従ってくれている部下と共に走った。


「レイナード! お前は一階から調べろ! 俺は三階から行く!」

「はっ!」


 階段の手前で指示を出し、レオネルは一人で駆け上がる。


(いくらなんでも人が居なさすぎるだろう! 俺が居ない間に警備が手薄になったんじゃないか!? あいつらめ、セルディが無事に見つかったら覚えておけよ……ッ!!)


 三階に辿り着けば、同じように考えただろうジュードが部屋を順に調べているところだった。


「ジュード!」

「レオネル!? お前、どうしてここに!!」

「そんな事は後回しだ! どこまで探した!」

「一階と二階には居なかった! あとはこの階だけだ!」

「よし、ついてこい!」


 レオネルは自分の勘に賭けた。

 防犯のためもあり、屋敷の客室はすべて鍵が付けられていない。敵に侵入されても立て籠もれないように扉も外側から引いて開けるタイプになっている。

 セルディを連れ去った相手がブルノーであるのなら、立て籠もれる部屋を探すなんて器用な事は出来ないだろう。時間を稼ぐためという短絡的な理由で、なるべく遠い部屋を選ぶと思った。


 レオネルはその賭けに勝った。


「セルディここか!!」


 甲高い悲鳴を聞き付け、レオネルが扉を開けると、そこには一人の少女をベッドに押さえ込む男女が居た。

 少女は見開いた瞳から涙を零し、絶望に表情を凍らせている。

 そんなセルディの姿を見たレオネルは、怒りに我を忘れた。


*****


「レオネル! やりすぎだ!」


 制止の声が部屋に響き、レオネルは意識を取り戻した。

 襟首を握りしめていた男の顔は血まみれで、女の方は一緒にセルディを探していたジュードが取り押さえ、自殺防止の猿轡を噛ませている。


「早く嬢ちゃんの方に行け!! この馬鹿!!」


 苛立ち混じりの言葉に慌ててセルディを見れば、セルディは体を小さく丸めてベッドの隅へと逃げていた。震える自分の身体を温めようとするかのように抱きしめている。


「セルディ……、遅くなって悪かった……」

「……っ」


 レオネルが声をかけながら近寄るが、まだ混乱しているのか、セルディは更に体を縮めて後ずさってしまう。

 その姿に少なくないショックを受けつつ、レオネルは怖がらせないようにとなるべくゆっくりと近づき、そっと、真綿で包むように震える身体を抱きしめた。


「大丈夫だ、セルディ。もう悪い奴らは捕まえた」

「ぁ……」

「もう怖い事は起きない。大丈夫だ」


 頭を肩へと寄りかからせ、何度も何度も背中を撫でる。


「れ、レオネル……さま?」

「ああ、俺だ。遅くなったが、助けに来たぞ」

「レオ、ネル、さま、レオネルさま……っ、レオネル様っ!! ぅ、うぁあああああん!!」


 糸が切れたように泣き出したセルディを、レオネルはずっと抱きしめ、撫で続けた。


「俺が傍にいる。もう二度とお前を怖い目に合わせたりしない。大丈夫だ……」


 肩口に押し付けられた頭に、こめかみに、何度もキスを贈る。

 レオネルは泣き続けるセルディに優しい声で言った。


「もしまた怖い事が起きても、何度でも俺が助けに来てやる」


 だから安心しろ。

 そう言って抱きしめ続け、いくらかの時間も経たない内に、セルディはパタリと静かになった。


「嬢ちゃんは寝ちまったか?」

「気絶に近いだろうがな……」


 小さな身体をゆっくりとレオネルが抱き上げる。

 そのまま落とさないように細心の注意をしながらベッドから降りると、別の階を調べさせていたレイナードがやってきた。


「ご無事でしたか……!」

「ああ、お前が一緒に来てくれて助かった」


 あの時、二手に分かれられなければ、セルディの心にはもっと深い傷が付けられていたかもしれない。


「レイナード、そこに転がってる馬鹿と女を地下牢にぶちこんでおけ。侵入経路はしっかりと吐かせろ」

「はっ」


 ジュードに抑え込まれているメイドの恰好をした女は、肺が圧迫されていて喋る事も出来ないが、強い目でレオネルを……いや、セルディを睨みつけていた。


(ブルノーの心配ではなく、捕縛した俺への憎しみでもなく、なんの責もないセルディへの憎しみを募らせるか……)


 レオネルは這い蹲っている女を冷めた目で見下してから、足音を立てずに部屋から出ていった。


「お嬢様っ!!」

「セルディは無事だ」


 途中で出会った執事の一人にセルディが見つかった事を伝え、セルディが割り当てられた中央の一番警備が整っている客室へと入ると、ソファに真っ青な顔で座っていたチエリーが立ち上がって駆けてきた。

 セルディの無事を伝えれば、安堵のあまりに腰が抜けたのか、よろよろと床へ両手を付く。

 マナーに厳しい彼女がここまでになるほどセルディを大切にしていることがわかり、レオネルは少しホッとした。


 セルディを部屋のベッドへと寝かせ、チエリーが起こさないように慎重に布団をかける。

 なんとなくセルディから離れがたかったレオネルは、普段なら捕縛した二名の尋問に当たるところを、そのまま部屋のソファへと腰を下ろした。

 チエリーはそんなレオネルに温かいお茶を入れてくれる。


「私が付いていながら、申し訳ございません……」

「いや、俺もまさか公爵家で拉致されるとは思いもしていなかった」


 今まで一度も破られた事がないからと、どこか気が緩んでいた可能性は否めない。


「相手はパール様の手の者だったのでしょうか……?」

「パール?」


 何故パールの名前が出てくるのかわからず、レオネルは眉間に皺を寄せる。

 兄にしつこく付きまとっていた、性格の悪い女。兄が邪険にすればするほど、お気に入りの玩具が手に入らなくて駄々を捏ねる子供のようになっていった。

 そんな女の名前が何故ここで出て来たのか。口が悪くならないように気を付けながら、チエリーに問いかけてみる。


「その……、どうやらサイロン様が……」


 レオネルは話を聞き、頭の血管が切れそうになった。


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