42.推しキャラは答え合わせをする
一度セルディをタウンハウスへ送った後、グレニアンに報告するため、レオネルはヤニクを馬車に引き入れ、城に向かった。
ヤニクはセルディの護衛をするのだと渋ったが、無理やり馬車に詰め込んだ。
レオネルはヤニクと話がしたかった。
馬車が走り出して数分後、レオネルは口を開いた。
「お前、わざと刺されただろう」
「えぇ? なんのことっすか?」
ヘラヘラ笑うヤニクに苛立つ。
レオネルは怒りを抑え、大きく息を吐きだしてから、話を続けた。
「お前ほどの腕を持つ人間なら、庇う前に相手を制圧出来たはずだ」
「買い被りすぎっすよぉ」
「お前、風の魔法師なんだろう?」
レオネルの確信をもった問いかけに、どこにそんな証拠があるのかと言いた気にヤニクは片眉を上げる。
剣技の速さ、投げナイフの正確さ、消された足音。
それらだけならば、技術力でなんとかなる事もある。
だが、以前不意打ちで持ち上げた時、持ち上げる時の重さに比べ、空中で維持している時の重さの方が軽く感じた事。
その時は気のせいだと思っていたが、ヤニクが魔法師だと判明した今、あれは風の魔法師ならば可能だと気づいたのだ。
「……で、お前はどのくらいの時間、身体を浮かせていられるんだ?」
「いや、いやいやいや、なーに考えてるんすか? さすがに海を渡ったりは出来ないっすからね!?」
レオネルの真剣な問いかけに、ヤニクが大袈裟に手と首を横に振る。
これは本気で焦っている顔だ。
自身の考えが見透かされた事がわかり、レオネルは舌打ちをした。
「浮かせられるのなんて出来て数分っすよ! 魔法師なんだと思ってるんすか!」
知っている。
魔法師は確かに珍しい存在だが、万能な存在でもない事は。
騎士団の中にも一人、火の魔法師がいる。
そいつは身体が丈夫だからと騎士になったが、火の魔法師として出来る事と言えば、指先に灯るくらいの火を出せるだけだ。
野営の時に火の魔石や火打石を使う事なく火を付けられる点では重宝しているが、人の魔力の消費は魔石よりも大きいため、何度も使うと疲れるとも言っていた。
ヤニクほどの使い手ならばまた違うのかと思ったが、そうでもないらしい。
(さすがにシルラーン国への密入国は無理か……)
アデルトハイム王国からシルラーン国の間にある海を、船なしで渡れるのならばいけるのでは、と考えたのだが、どうやら諦めるしかなさそうだ。
「こえぇ……」
ヤニクは自身の身体を抱きしめ、身震いしている。
「そもそもセルディお嬢サマから離れる気はないっすからね!?」
そんな事を叫ぶヤニクを、レオネルは半目で見た。
だから、離れさせるために任務を与えてやろうと思ったとは口に出さない。
「お前が大人しくしているのなら、セルディから引き離すつもりはなかったんだがなぁ……」
レオネルはヤニクを睥睨した。
「なんのことっすか?」
「ノーマン、あいつが報告にあったカザンサ侯爵家の家令だろう? あの男が狂信者だと気付いたのは、フォード領での情報収集でか?」
その指摘に、ヤニクは惚けて肩を竦めた。
レオネルは眉間に深い皺を刻む。
「……ヴィオレッタを脅したのは、結局ブルーノだったのか?」
「あ、それの報告は城にいる闇ギルドのメンバーからぁ」
「どうせお前も知ってるんだろうが、早く言え」
「……しょうがないっすねぇ。ノーマンが情報を仕入れて、前侯爵に入れ知恵したみたいっすよ」
「やはり事実だったのか……」
まさか、とは思っていたが、もしかして、とも思っていた。
「事故だったみたいっすけどね。階段で言い争って、足を滑らせた結果……」
ヤニクはその先は言わずに肩を竦めた。
レオネルは大きくため息を吐く。
大方、ヴィオレッタは次期ルベラーシ伯爵と遺産相続で揉めたのだろう。
子供がいない未亡人だ、実家の爵位も低いとくれば、足元を見られていたとしてもおかしくはない。
納得がいかないヴィオレッタは抗議したのだろう。
気の強い彼女の事だ、裁判をすると言ったに違いない。
「正直に話せばよかったのに、使用人を使って偽装なんてするから脅されるんすよ」
調べたところ、ルベラーシ伯爵領の後継者予定だった者は、馬車の事故で亡くなったことにされていた。
ヴィオレッタにとっての不運は、レオネルの元恋人という肩書きを持っていた事だろう。
その肩書きがなければノーマンに駒として使われる事はなかったかもしれない。
ヤニクの話の通りなら、ヴィオレッタはこれから厳しい取り調べを受ける事になる。
「始まりは火の魔石だろうな……」
「それ以外ないっすね」
恐らく、今回の事件の筋書きはこうだ。
フォード領で火の魔石が取れると聞いたシルラーン国が動き、長年スパイ活動をしていたフォード領の村人や、カザンサ侯爵家の家令になっていたノーマンに秘密裏に命令が下った。
フォード領と繋がりのあるアーキムも派遣され、フォード領で採れた火の魔石に関して、密輸の可能性がないか秘密裏に調査が行われたのだろう。
結果は白。
アーキムは穏健派だったため問題を起こす事はなかったが、イグナリス教の狂信者であったノーマンは信徒でもないフォード家が火の魔石を採取している事に激しい憎悪を抱いた。
国も穏健派のアーキムよりも熱心な信徒であるノーマンの方が使い勝手がよかったのだろう、カザンサ前侯爵であるブルーノを唆すよう命じた。
ノーマンはブルーノがフォード領の成功を妬んでいた事知っていたのだから、唆すのは容易だったに違いない。
ブルーノ自身は家令の情報を上手く使っていると思い込んでいただろうが、実質使われていたのはブルーノの方だったという訳だ。
そして、ノーマンに唆されるまま、ヴィオレッタを脅し、レオネルとセルディの関係に亀裂を入れる計画をした。
元恋人からのアプローチだ。
何かしら不和が生じると思われたのだろう。
しかし、結果としてヴィオレッタはレオネルの誘惑に失敗。
ノーマンは最後の手段として、セルディを誘拐した。
強引に婚約破棄させようとしたのだ。
レオネルとセルディの婚約が破棄されれば、和平のためと称してセルディに自国の貴族や王族を宛がう事も出来る……。
恐らく、ノーマンに指令を出し、レオネルとセルディの婚約破棄を目論んだ黒幕はシルラーン国にいる。
(俺がセルディを手放す事は万に一つもあり得ねぇのに、ご苦労なこった……)
レオネルが犯人を嘲るように笑う。
ノーマンのセルディを殺そうとした行動が黒幕の予定通りなのか、予定外なのかはまだ調査が必要だ。
他国で長年諜報をやるような人間が簡単に黒幕を吐くとは思えないが、セルディを怖がらせた代償を払わせなければならない。
「あー、怖い怖い……」
レオネルの殺気を感じ、ヤニクがそう呟くが、本気で怖がっている様子はない。
海を渡らせる計画を感じ取った時の方が怖がっていた気がする。
レオネルはつい出してしまった殺気を消し、ヤニクを観察するように見つめた。
「それで、お前は計画通りに刺され、満足する結果は得られたのか?」
返事はない。
にやりと笑う口が答えだった。
何故かはわからないが、この男はセルディに所有されたい欲がある。
今回の事でセルディはヤニクをチエリーやジュードと同じく、自分が守るべき家族と認識したようだった。
腹立たしいが、ヤニクにとって満足のいく結果だったに違いない。
ただ計算外があるとすれば――。
「まさか、お前が泣くとはなぁ……」
「は? はー!? 泣いてませんけどぉ!?」
狭い馬車の中、顔を赤らめながら立ち上がったヤニクを見て、レオネルは笑う。
この食えない男を泣かせる自分の婚約者は最強だと思いながら。
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