36.古書店へ行きます
三日後。
レオネルの休みの日がやってきた。
天気は晴れ、太陽の光は暖かく、絶好のお出かけ日和だ。
セルディは朝からウキウキと出掛ける準備をしていた。
「チエリー、服はこれでいいかな?」
「はい、お似合いですよ」
頷くチエリーに、平民風の服を着たセルディがはにかみ微笑む。
ふと、窓の外に烏がいる事に気が付いた。
一瞬、ヤニクが飼っている伝書鳥かと思ったが、烏はセルディと目を合わせるとすぐに飛びだってしまった。
ヤニクはまだ帰ってきていない。
どうやらヤニクがいない間は他の影がセルディの護衛をしているようなのだが、その影達とヤニクのように顔を合わせた事はなく、やはりヤニクは少し変だったのだ。
またフォード領に居た頃のように、ヤニクとやり取りをしたい。
そう思う自分に、セルディは苦笑した。
(私にはヤニクが合ってるって事、かな)
早く帰ってくるといい。
(帰ってきたら、絶対にトラウマ克服に付き合ってもらうからね!)
そんな事を考えながら、セルディはお出かけ用のバッグを手に取り、レオネルの元へと歩き出した。
***
「ここが、古書店……」
アウレリアに教えられた古書店があったのは、物語の中にあるような薄暗い路地裏。
本屋の看板がなければ見過ごしてしまうそうな場所。
古い扉を開けてみれば鈴が鳴る。
中には店長の姿が見えないくらいの大量の棚と本。
窓すらも棚で埋まっているその店は、薄暗く、やや不気味にも見える。
「すごい……」
少しの恐怖と、お宝が眠っていそうな雰囲気に、セルディは目を輝かせた。
一体どんな物語が眠っているんだろう。
自分自身が物語の主人公にでもなったかのような気持ちで、セルディは古書店を見渡した。
そんなセルディの後ろから身体の大きなレオネルが身を屈めて中を覗き込む。
「本当にすごい量の本だな」
「ですよね! お宝があるかも!」
嬉しそうに両手を合わせたセルディにレオネルが微笑む。
「しかし、思った以上に路地が狭いな……」
レオネルは、店の外を見渡して眉を顰めた。
普段なら店の近くに馬車を置かせてもらうところだが、手前の路地すら馬車一台半くらいの幅しかなかった。
古書店が路地裏に入って数十歩の距離にあるとはいえ、他に馬車が来た場合に揉め事の元になる。
レオネルは仕方なく、御者のクリストフに少し馬車を走らせてくるように頼む事にしたようだ。
「セルディ、先に入って見ていていいぞ。すぐ戻る」
そう言ったレオネルは路地裏前に停めた馬車まで足早に向かっていく。
セルディはチエリーを連れ、レオネルの指示に従って古書店へと足を踏み入れた。
「わぁ……」
天井まで続く、本の山。
左右を本に囲まれた通路は、人が一人しか通れないくらい細く、レオネルのような大柄な男性は横向きで歩かないといけなさそうだ。
棚自体もかなり年季が入っており、強い衝撃で壊れてしまいそうな雰囲気がある。
(地震が来たらこの本の山で死にそう……)
そんな事を考えながら足を進めようとした時。
奥の暗がりに、人が立っているのが見えた。
質素な服を着ているが、あれは……。
「レリア?」
「セルディ、来たのね」
立ち読みをしていたのは、アウレリアだった。
「すごい偶然! レリアは新しい本を探しに来たの?」
「ええ……」
なんだかいつもより口数が少ない気がする。
セルディは首を傾げた。
「レリア、何かあったの?」
「……そんな事ありませんわ。セルディ、こちらに来て」
「え!?」
レリアは本を棚に返すと、セルディの近くへとやってきて、手首をぎゅっと握った。
そのまま奥へと引っ張られる。
「お嬢様!?」
チエリーが慌ててセルディを捕まえようと手を伸ばすも、そのチエリーをアウレリアの侍女が引き留めているのが見える。
「チエリー!? え、ちょっと、レリアどういう……!!」
アウレリアに引きずられるように引っ張られながら、セルディの脳裏に、ヤニクとしたやり取りが甦る。
『あのお嬢さんには注意した方がいいっす』
『……どのお嬢さん?』
『だから、カザンサ侯爵の娘っすよ〜』
まさか、アウレリアが……、本当に……?
信じたくない。
セルディは引きずられながらアウレリアに声をかけ続けた。
「レリア! レリアってば!!」
アウレリア越しに、裏口と思われる扉が開いているのが見える。
(このままじゃどこかに連れていかれちゃう!)
セルディが覚悟を決めてアウレリアを突き飛ばそうと勢いを付けると……。
「きゃあ!」
扉の影に立っていた護衛と思われる男にセルディはあっさり持ち上げられた。
「ちょ、ちょっと、レディに対して何を……!」
セルディの文句を聞かず、アウレリアとセルディは、用意されていたカザンサ侯爵家の馬車へと入れられた。
あっという間に走り出す馬車。
あまりの手際のよさに、これが計画された誘拐だと言う事がわかる。
セルディは愕然とした。
「レリア、なんでこんな事……」
「大丈夫ですからね、わたくしのお祖父様がセルディを『王家の呪い』から解放してくれますから」
「え……?」
よくよく見れば、アウレリアの顔は青ざめながらも、決意に溢れている。
セルディを害そうと思っているとはとても思えない。
ただ『王家の呪い』とやらからセルディを解放したいがために、こんな行動を取ったのだろう。
「……レリア、『王家の呪い』なんて御伽噺だって言ったでしょ?」
「いいえ! わたくしは見たの!」
「……何を?」
「王家の家系図を……」
「家系図?」
恐怖に目を開き、震えるアウレリアは、ずっと馬車の床を見ている。
セルディは震えるアウレリアの手に、手を重ねた。
「……レリア、話して。あなたは何を見たの?」
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