33.食堂で報告します
食堂へと到着し、いつもの席へと腰をかけると、すぐに食事が運ばれた。
今日のメインはローストビーフ。
お腹の空いていたセルディは食前の挨拶もそこそこに、食事に手を出した。
(このポテトサラダ、美味しい!)
どうもセルディが教えたマヨネーズが使われているようなのだが、ポテトサラダにしては舌触りがまろやかで、クリーミーさはフォード家で食べたものとは桁違い。
(生クリームとか使ってそう……)
さすが公爵家に認められたシェフ。食材の組み合わせが上手だ。
セルディが舌鼓を打っていると、レオネルがワインを一口飲んだ後、口を開いた。
「……今日は、他に何か困った事は起きなかったか?」
「困った事……? あ……」
その問いかけに思い出したのは、ヴィオレッタの事。
相変わらずセルディを王族の婚約者だと認めていなさそうな様子と、身に付けられた黄色の宝石……。
「何かあったのか?」
レオネルが空になったワイングラスを置き、眉間に皺を寄せてセルディを見つめる。
その目はセルディの些細な変化を見逃すまいとしているようだった。
あまりにも強い視線にセルディは一瞬口籠ったが、話さないという選択肢を選べるはずもなく、恐る恐る口を開く。
「実は……、その……、ルベラーシ伯爵未亡人が……」
「は?」
レオネルはその名前がここで出てくるとは思ってもいなかったのだろう、口を開けて固まってしまった。
「偶然出会って、話しかけられたんですけど……。茶会の趣旨を理解しているのか、みたいな事を聞かれ……。レオネル様に止められない程度の関係なのね、というような事を……」
「ぁあ?」
レオネルの眉間にがっつり皺が入るが、表情的には困惑の方が強いように見える。
レオネルはヴィオレッタが自分に声をかけて来たのは、別の貴族との縁を求めているからだと思っているようだが、喧嘩を売られたセルディはそうは思わない。
ヴィオレッタはレオネルに未練がある。
そして、彼女はセルディのような子供に自分が負けるはずがないと思っている。
(今更だけど、なんだかムカムカしてきた……)
セルディはまだ子供だし、胸だってない。
身長は伸びてはいるが、ようやく年相応に見えるくらいになっただけで、高くもない。
ヴィオレッタは美人で、スタイルもよくて、巨乳で……。
性格だって、強気な女性が好きなら許容範囲だろう。
レオネルに執着していたニーニアと違って、彼女から恐怖は感じないし、セルディへの殺意もない。
だからこそ、純粋に嫉妬をしてしまうのかもしれない。
「ルベラーシ伯爵未亡人が、レオネルは他の男と自分が話すのを嫌がってた、って言ってたんですけど、本当ですか?」
「いや、記憶にねぇな……」
「え?」
即答だった。
バッサリ言い切るレオネルに、今度はセルディが目を瞬かせる。
「……待てよ。もしかしてアレか?」
少し考え込む仕草をした後、レオネルが何かを思い出したように呟いた。
セルディは思わず前のめりになる。
「あれ?」
「学生時代、俺に対抗意識を抱いてるヤツが居てな……。そいつと夜会で会話しているのを見た時に、アイツとは話しをするな、と言ったような気は……」
どうやらその人も末端だが王族の一人で、同い年のレオネルをライバル視していたらしい。
「結局ヤツはヴィオレッタの夫になったが、アイツもこんな早くに死ぬとは思ってなかっただろうな」
「うわぁ……」
泥沼。この話で昼ドラが出来そうだと思った。
しかしそうなると、ヴィオレッタが主人公の場合レオネルと再婚する事になってしまう。
それは嫌だ。
そんなセルディの考えも知らず、レオネルは他の可能性も考え始める。
だが、思いつかなかったらしい。
あっけらかんと言った。
「それくらいじゃないか?」
そこに嫉妬の感情は見当たらない。
セルディはホッとした。
「そうですよね、レオネル様が嫉妬する訳ないですよね」
――パキッ
「ん?」
突然聞こえた軽い音に、セルディは首を傾げた。
謎の沈黙の中、よくよくレオネルの周囲を見れば、レオネルが持っていたワイングラスにヒビが入っている。
「レオネル様!? 手は大丈夫ですか!?」
慌てて駆け寄り、レオネルの手からワイングラスを取ろうとすると、レオネルがその手を持ち上げた。
「待て、危ないだろ。ジャーノン」
「はい」
従僕のジャーノンがさっと近づき、トレイをレオネルに差し出す。
レオネルはその上にひび割れたワイングラスを置くと、手は布巾で軽く拭いた。
セルディはすかさずその手を両手で掴む。
「よかったぁ、怪我はなさそうですね」
「あれぐらいで怪我なんてしないから安心しろ。していても擦り傷なんてすぐ治る」
レオネルはそう言って苦笑しているが、心配なものは心配だ。
「強い事は知ってますけど、私はレオネル様に擦り傷一つでも付いてたら心配します」
「そう、か」
何やら口籠っているレオネルに、セルディはそろそろヤニクの事を相談してもいいかな、とレオネルの片手を握ったまま口を開いた。
「そういえば、ヤニクの事なんですけど」
「ん? ヤニクがどうかしたのか?」
「ニックにまた私の護衛をして欲しくて!」
「……なんでだ?」
セルディはどうしてもヤニクに怯えてしまう事を話し、チエリーから教わったトラウマ克服法の事をレオネルに話した。
ヤニクをニックとしてセルディの護衛にしたら、セルディはニックに夢と同じ動作をさせるつもりだ。
そうすればヤニクがセルディを害するはずがないと心と身体で理解できる気がした。
「つまりなんだ、四六時中一緒に居れば慣れるんじゃないかと?」
「はい!」
「……却下だ」
「ええええ!」
まさかの却下。
セルディはあまりの衝撃に、レオネルの手を離した。




