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【二部開始】転生令嬢は推しキャラのために…!!  作者: 森ノ宮明
第二部 王都から

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29.社交に挑戦します 中編


「ホラーではございませんわ!」

「そうなの?」


 そんなタイトルなのに?

 セルディの疑問に、アウレリアは白熱した様子で話し始めた。

 村娘に惚れた王様が結婚を持ち掛けるも、すでに結婚をしていたために村ごと燃やされた、とか。

 王族の一人が婚約者のいる貴族の令嬢を好きになって無理やり婚約者から奪った、とか。

 王女が惚れた男の気を引くために自殺騒動を引き起こした、とか。

 聞いていると、ヤンデレとかメンヘラ系の短編集のように思える。

 その騒動を起こすのは決まって王族だから『王家の呪い』というタイトルなのだろう。


(ってことは、その物語は短編と見せかけた続き物ってこと? うーん、面白そう……)


 ミステリーやサスペンス系の物語も好きなセルディは素直にそう思った。


「それで、なんでレリアはその話がそんなに気になるの?」

「なぜって、セルディは王族の婚約者ではございませんか……」


 薄っすら頬を染め、照れたような表情でそう言うアウレリアを見て、セルディは喜びで震えた。


(それは、私が心配だったからってこと!?)


 こんな美人の友達から、心配して貰えるなんて、素直に嬉しい。


「ふふ、ありがとう。でもレリア、レオネル様は大丈夫よ?」


 爽やか系なレオネルが狂気に走る姿なんて、セルディには想像もつかない。

 腕力ですべてを解決できる、と言う方が信じられる気がする。


「わかってはいるのです……。ですが、どうもこの話は過去本当にあった話も盛り込まれていて……」


 どうやらアウレリアは過去の王族が起こした騒動の歴史も知っていたため、王家の呪いが本当にあるのではないかと思ったらしい。

 でも、セルディは知っている。


「レリア、王族だから目立っただけで、平民の間でも同じような騒動はたっくさんあると思うよ」

「え?」


 そう、ヤンデレやメンヘラは王族だけの特権ではない。

 前世の自分は恋愛よりもオタ活重視で興味がなかったため、経験はないが、世の中にはたくさんの泥沼恋愛がある事は知っている。

 あれらは別に何かの呪いではなく、様々な要因が重なって起きるものだ。

 王族だから目立って本にまでされたけれど、平民でもあったはず。

 セルディはそう胸を張って説明した。


「そう……なんですの?」

「そうそう」


 確かに突然一目惚れされてストーカーされて、付き合ってくれないなら殺す、なんて脅されるのは恐怖でしかないが、セルディはちゃんとレオネルの事が好きだ。

 レオネルもセルディを大切にしてくれている。

 今後どうなるか、なんてわからないが、未来を勝手に想像して怖がる必要はない。


「そういう考え方もございますのね……」

「うん、だから安心して」


 そう微笑めば、アウレリアもホッとしたように笑みを浮かべた。


(うんうん、レリアは笑顔が一番だよ)


 セルディがアウレリアの顔を眺めてほっこりしていると、後ろから声が掛かった。


「あ、あの……、お話に加えさせて頂いてもよろしいでしょうか」


 テーブルの傍に控えめに立っていたのはフェルミエ伯爵家のマルセルだ。

 どうやら夫人は退室し、あとは子供達だけで、という事になったらしい。

 頬を染めながら、勇気を出して声をかけてきたマルセルの狙いはどう考えてもアウレリア……。

 セルディは微笑んで立ち上がった。


「あら、わたくしは少し席を外しますので、こちらにお座りになって」

「セルディ?」


 アウレリアが置いていかないでと言いたげな目線を送ってくるが、アウレリアは婚約者を探さなければいけないのだから、セルディが居たら邪魔だろう。

 カザンサ侯爵もそう思ったから招待状をアウレリアに渡したのだろうし……。

 主催者側のマルセルがアウレリアに何かするとも思えない。

 何より壁際に立つアウレリアの侍女が目を光らせてもいるのだから、セルディが少しの間いなくても大丈夫のはず。


(レリア、頑張って!)


 セルディはアウレリアにウィンクをして、壁際に立つチエリーの元へと向かった。


「チエリー、お手洗いに行くわ」

「かしこまりました」


 チエリーを連れ、特に用もないのに手洗い場へと行き、時間をかけてのんびりと身だしなみを整える。

 恋愛経験の乏しいセルディはどのくらい二人で話をさせてあげた方がいいか、なんてさっぱりわからない。


(戻る頃には相性くらいはわかる、よね?)


 あまり二人きりのままにさせるのも、アウレリアに悪い気がして、セルディはとりあえず外に出た。

 そこで、思いもよらない人物と出会う。


「あら、あなたは……」


 セルディの方に向かって歩いてきたのは、レオネルの元恋人、ヴィオレッタ・ルベラーシ伯爵未亡人。


(なーんで、この人がいるの!)


 セルディは心の中でそう叫びながら、立ち止まった。

 ヴィオレッタの装いは、以前見た紫のドレスと同じだ。今回は真珠ではなく、黄色の宝石が付けられた耳飾りとネックレスをしている。

 恐らくカザンサ侯爵領の宝石店で買ったものだと思うが、宝石の色が気に入らない。


(紫のドレスなら紫の宝石で合わせればいいのに……)


 あの時は真珠の耳飾りをしていたのだから、真珠のネックレスでもよかったとも思う。


(黄色……)


 それは、レオネルのアースアイの色の一つ。

 たまたまかもしれないが、なんだかそれが猛烈に嫌で、セルディはひくつきそうになる表情をなんとか堪えた。

 そんなセルディの内心を知ってか知らずか、ヴィオレッタはセルディの姿をじろじろと不躾に眺めた後、笑みを浮かべて簡易的な礼をした。


「ごきげんよう、セルディ様」


 無礼。

 セルディは目を細めてヴィオレッタを見る。

 この場合、ヴィオレッタはセルディに話しかけず、壁際に寄って道を譲るべきだ。

 更には、セルディから声をかけられるのを待つべきなのに、親し気に話しかけてきている。

 ツーアウト……。


(スリーアウトでチャンジする競技ってこの世界にもあるのかな……)


 若干遠い目になりながら、セルディはどうするか悩んだ。

 ヴィオレッタはどう考えてもセルディに喧嘩を売ってきている。

 しかし、それをわざわざ指摘して権力を誇示すれば、そこに難癖を付けてきそうな気もする。

 悩んでいる間に、後ろのチエリーが一歩前に出てきそうな気配を感じたセルディは、それを止めるように片手を上げ、ヴィオレッタに微笑んだ。


「……どうも、ルベラーシ伯爵未亡人」


 セルディは覚悟を決め、腹に力を入れて、背筋を伸ばした。


「まさかあなた様とこのような会で出会うとは……。レオネル様から止められなかったのですか?」


 子供達のお見合い会場に居るなんて王族の婚約者の自覚がないと言われている気がする。

 セルディは笑みのまま言葉を返した。


「もちろん、レオネル様からは許可を頂いていますわ」

「まぁ! 学生の頃はわたくしが他の男性と夜会で話すのも嫌がっていらっしゃったのに、大人になったのですね」


 嫌なマウントの取り方だ。

 過去のレオネルの話をされたところで、証明のしようがない。

 セルディは半目になってヴィオレッタを見つめた。

 ヴィオレッタはやけに楽しそうに話を続ける。


「フォード伯爵領を守るために婚約をした、という噂は本当の事のようですわね」

「……」

「火の魔石が見つかるなんて、本当に羨ましいですわ」


 火の魔石と引き換えにレオネルと婚約をしたと言いたいのだろう。

 実際はそんな事はないのだが、それをわざわざ言ってあげるほどセルディはヴィオレッタに優しく出来ない。

 黙っていても話を進めるヴィオレッタに、セルディはにっこりと笑った。


「そうですわね、フォード家は運命の神に寵愛されているようですわ」


 セルディとしても、レオネルと婚約まで出来た事は奇跡だと思っているので、そこに対して反論するつもりは微塵もない。

 だが、セルディも勉強している。


「ところで、ルベラーシ伯爵家の継承の儀はいつ行われますの?」

「え……?」

「前伯爵との間にお子様はいらっしゃられないようですし、ヴィオレッタ様は実家にお帰りになるのかしら」


 小首を傾げ、あたかも心配そうに頬に手を当てる。

 レオネルから、ヴィオレッタは元は男爵家の出だと聞いていた。しかも三女。

 お金の力で男爵家にまでなったが、その爵位は一代限りで、ヴィオレッタの父親が亡くなれば返上される。

 その事もあって、ヴィオレッタは華やかな貴族に執着していたようだ。

 男爵は三人の娘を上位貴族に嫁がせるためにかなりの額を使ったらしく、ジュレアムの反乱もあって現在は貴族年金でギリギリの生活をしていると聞く。

 実家に戻る事になれば、もう華やかな社交界に戻ってくることは出来ない事を、ヴィオレッタはわかっているのだろう。

 だから、レオネルと再婚しようと考えついたのかもしれない。

 以前は嫌がった辺境伯でも、平民になるよりはいいと考えたのだろうが……。


(レオネル様には私が居るから!)


 セルディは睨むようにヴィオレッタを見つめた。


「こ、このような場所で、無礼ですわ……っ」

「まぁ、失礼を致しました。ですが、ルベラーシ伯爵未亡人も爵位を継承する相手がいなくて大変でしょう? わたくしから国王陛下にお話致しましょうか?」


(いい加減にしないと、陛下に言ってすぐにでも実家に送り返して貰うから!)


 卑怯だと言われようが、セルディは伯父ガルドと一緒で、使えるものは猫でも使うタイプだ。

 グレニアンがその要請に応じてくれるかは別の話だが、話せる地位に居ることは間違いない。

 それをわかっているヴィオレッタは、さすがに口を噤んだ。


「……陛下の手を煩わせる必要はございませんわ。失礼致します」


 少し青い顔のまま、ヴィオレッタは手洗い場へと入って行った。


「ふぅ……。チエリー、今ので大丈夫だった?」

「あのような女性相手にセルディ様が何を言われたところで問題ございません」


 聞きたいのはそういう事じゃなんだけど……。

 辛辣な言葉に、チエリーも内心怒っていたのだという事はわかる。

 まぁ、チエリーが大丈夫と言うのなら大丈夫なのだろう。

 セルディはそう思ってダンスホールに向けて足を進める。


(それにしても、あの人すごい胸大きいよねぇ……。レオネル様も本当はああいうタイプが好きそう……)


 レオネルのような男の隣には、ああいうスタイルのいい女性が似合う気がする。


(私はあんなスタイルよくなれるのかなぁ……)


 自身のいまだ平らな胸を見つめ、溜め息を吐いた。

 レオネルへの愛の大きさで負けるつもりは毛頭ないが、そこだけはどうしても気になってしまう。


(やはり補正下着の開発を進めて少しでもボリュームを……)


 なんて事を考えていると……。


「あんなオバさんとまでやり合わないといけないなんて、王族の婚約者って大変だねぇ」

「えっ!」


 まさか誰かに聞かれていたとは思わず、振り返れば、そこにはタキシードを着た男の子――フォーナット・カンパーニが居た。


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