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【二部開始】転生令嬢は推しキャラのために…!!  作者: 森ノ宮明
第二部 王都から

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24.魔石研究所へ行きます 前編


 グレニアンとの謁見から二日後。

 レオネルが半休を貰えた今日、突然ではあったが魔石研究所に行くことになった。

 思ったよりも早く予定が決まったのには理由がある。

 王都の生活水の問題は水汲みポンプでギリギリなんとかなったとはいえ、依然として水の魔石は高いまま。

 このまま高騰が続けば、結局国民からの不満は高まる。

 一度便利な水の魔石というものに依存してしまうと、不便だった頃に戻るのは難しい。

 新しい魔力溜まりでも見つかれば魔石の採取量次第では改善の可能性はあるだろうが、国王がそんな博打を打つわけにもいかない。

 そこで、グレニアンはフォーナットが研究を進めていた、前世でいうところの省エネ魔道具に目を付けた。

 それによって消費魔石の数が減れば、比例して少しずつ魔石の量も増えるだろうと考えたのだ。

 グレニアンは一刻も早く省エネ魔道具が欲しい。

 そのため、セルディ達にフォーナットの説得を依頼したという事だった。


「ここが魔石研究所!」


 魔石研究所はセルディが思っていたよりも王城に近く、ダムド家タウンハウスからは馬車で半刻ほどの場所にあった。

 レオネルに補助して貰いながら馬車から降りたセルディは、目を輝かせて初めて見る魔石研究所を凝視した。

 三階建てのベージュ色をした石造りの建物。

 窓はたくさんあるものの、細長く、外からでは中を見る事が出来ないくらい高い位置にある。

 前世の知識ありきで見ると、古い美術館か、博物館のようにも見えた。


「くくっ。セルディ、チエリーが睨んでるぞ」

「ハッ」


 慌てて口を押えるが、後ろで今日の護衛を担当しているジュードの手を借りて馬車を降りてくるチエリーの目は物言いたげだ。


「こほん。レオネル様、行きましょう」

「ぶふっ」


 後ろからジュードの噴き出す声が聞こえるが、無視だ、無視。

 ダムド家の御者、クリストフに軽く手を振って別れを告げてから、レオネルのエスコートで建物に向かった。


「許可証を」


 入り口に近づくと、目つきの鋭い二人の門衛が扉の前に立ちはだかる。

 レオネルが懐に仕舞っていた許可証を見せると、すぐに中に入れてくれたが、それでも視線は鋭いままだった。


(これぞ関係者以外立ち入り禁止の施設って感じ!)


 前世でもこんな場所に来た記憶のないセルディは、テンションが上がってしまう。

 研究所は中も豪華だ。

 床はピカピカの大理石。

 天井にはシャンデリアまで付いている。

 まるでホテルの受付のようだとセルディは思った。


「レオネル・ダムドだ。フォーナット・カンパーニに会いに来たんだが」

「はい! お話は伺っておりました。こちらへどうぞ」


 レオネルが入り口付近にいる若い警備員に声をかけて用件を伝えると、警備員は背筋を伸ばして敬礼し、フォーナットのいる部屋までの案内を請け負ってくれた。

 その警備員の後ろを、レオネル、セルディ、チエリー、ジュードの四人で進む。

 ヤニクはダムド家のタウンハウスに到着してから、姿を見ていない。


(ヤニクも薄情よね! 私に一言言ってから護衛から外れればいいのに!)


 セルディは思い出して苛立ちに目が据わった。

 タウンハウスに到着し、一人になった時に何度か呼びかけたのだが、反応がなかった。

 心配になってレオネルに相談したら、今は別件で調べ物をしているとか……。

 レオネルからもセルディと話すように言ったが、ヤニクは聞く耳を持たなかったらしい。


(実は怒ってるの!? だから謝罪を受けてくれないの!?)


 セルディの中にあったヤニクへの罪悪感はどんどん理不尽な怒りに変換されていた。


(次に会ったら絶対に一言言ってやるんだから!)


 そんな事を思いながら歩く事数分。

 警備員は金色のネームプレートの嵌った茶色の扉の前で止まった。

 ネームプレートには読みやすいカリグラフィーでフォーナット・カンパーニと彫られている。


「こちらがフォーナット様の研究室です。少々お待ち下さい」


 警備員は扉を一度ノックして声をかけ、二度ノックして声をかけ、三度ノックし……ようとしてやめた。


「ゴホン……、失礼致します」


 そして一言そう言った後、扉を開けた。


「フォーナット様!! お客様ですよ!!」


 突然の大声に、セルディはビクリと身体を震わせる。


「変わり者だとは聞いていたが、こういうタイプか……」


 一方レオネルは、頭が痛いとばかりにこめかみを押さえてぼそりと呟いた。

 警備員は慣れた様子で室内に入っていく。


「フォーナット様! 起きて下さい!」

「んあ~? また陛下からの使者~? 僕は例の人に会うまではぜぇったい働かないから~」

「そのご要望の方を連れてきて下さったんですよ!」

「え~?」


 警備員に抱えられるようにやってきたのは、ぼさぼさの白金の髪に青い目、そしてぶかぶかの白衣を着た、若い……若すぎる男の子だった。


「え……?」


 確かに物語でもフォーナットは若き天才と呼ばれていた。

 今から五年くらい後でも若き天才と呼ばれているなら、どれだけ高く見積もっても二十代後半くらいかな、と考えてはいたのだが……。


(どう見ても私と同じか、少し上くらい……よね?)


 隣を窺って見ると、レオネルも驚いているので、まさかここまで若いとは知らなかったのだろう。

 フォーナットはまずレオネルを見て、それからセルディを見て、チエリーとジュードを見た。

 そしてブツブツと呟き出す。


「うーん……、わざわざ王族が連れてきたのなら今度こそ間違いない? でもなぁ……」

「フォーナット様、ブツブツ言ってないで部屋に入れて下さい。失礼ですよ」

「はぁぁ……、わかったよ……。王族サマだしね……」


 王族に対してめちゃくちゃ失礼。

 セルディはこうも明け透けに物を言う目の前の男の子に慄いた。


(この子、不敬罪が適応されてもおかしくないこと言ってるー!!)


 レオネルだけではなく、グレニアンに対してもこうだったりするんだろうか……。

 いや、国王陛下になんて王族であるレオネル以上にそう簡単に会えるはずがないので、機会はないと思うのだが……。

 アレンダークの従兄弟とは聞いていたが、神経が太すぎて心配になる。


「えっと、適当に座って」

「……座る?」


 座るスペースはどこに……。

 警備員と共に入った部屋は……、散らかっていた。

 ゴミが散乱しているという訳ではなく、本や書類が多すぎるのだ。

 机の上だけでなく、椅子の上や床の上にまで本や書類が積まれている。

 これぞ前世の漫画で見た想像通りの研究者の部屋、という感じだが、廊下までが綺麗だった分、衝撃は大きい。

 これではチエリーやジュードは入れなさそうだと判断し、二人には廊下で待ってもらう事になった。

 その間にも警備員は奥の方まで歩いて行き、フォーナットに説教をしている。


「フォーナット様、部屋は適度に片付けて下さいと言っているじゃないですか! 火事が起きたらどうするんです!?」

「そのうち片付けるって。えっと、ほら、こうしたら二人くらいは座れるよ」

「はぁ……」


 警備員に溜め息を吐かれながら、フォーナットは雑に書類が置かれていた二人掛けのソファの上を片付け、その書類を適当な本の上に積みなおしている。

 セルディは自分も前世でやったことあるなぁ、なんて考えながらレオネルと共にソファに腰を下ろした。

 フォーナットも自分用に一人掛けの椅子の上を片付けると、引きずってセルディ達の傍に置き、その上に座る。


「それで、君が発明者なの?」


 挨拶もしないままされる、フォーナットからのこちらを見定めるような問いかけ。

 セルディは疑われても仕方がないと思いながら頷いた。


「えっと、まぁ、一応……?」

「ふーん……」


 ジロジロと見られて居心地が悪い。

 視線をどこへ向ければいいのかわからずにうろつかせていると、フォーナットはおもむろに口を開いた。


「……君が提案した浄水場なんだけどさぁ」

「はい!」


 気合を入れて返事をしたセルディを意に介さず、フォーナットは一枚の書類をセルディに見せた。

 そこにはセルディが思い出せる限り書いた浄水場の設備に関する説明が載っていた。

 前世の自分が小学生だった時に遠足で浄水場に行き、そこで教わった話を思い出しながら書いたものだ。

 この世界で再現できるかはわからないまま書いたが、書類にはフォーナットが追加で沢山のメモを書き込んでおり、実現に向けての努力の跡が窺えた。


「このろ過装置の部分はわかるよ、これで水が綺麗になるのも、実験したからわかった。でもそれより前の炭とか魔石の砂を使ったヤツはなんのためなの?」

「あー……、炭は消臭効果とか有害物質を吸収する効果があるので水質改善に役に立っていて、魔石の砂は……えっと、水の中には目では見えないくらいの微生物が存在してるのは……」

「知ってる」


 父母に聞いた時は知らないようだったので、あっさり頷いたフォーナットにセルディは驚く。

 セルディ自身は彫金師のレイドが貴族相手の細かい装飾の作業用にと持っていた、ものすごく高い顕微鏡を借りて実験をしたので知っているが、まさかフォーナットも知っているとは思わなかった。


(あの時はレイドがお願いだから壊さないでね! って涙目で叫んでたっけ……)


 哀れなレイドの姿を思い出して遠い目をしているセルディに、フォーナットが続きを促す。


「それで?」

「私も実験してて気づいたんですけど、なんと火の魔石の砂には殺菌効果があるんですよ!」

「……へぇ」

「他の魔石の砂でも試したんですけど、一番効果的だったのが火の魔石の砂だったんです!」


 セルディはフォード領で、魔石の砂で何かできないかと廃棄される砂を集めて実験を行っていた。

 当時はお金を稼ぐためになりふり構っていなかったため、出来る事はなんでも試していたのだ。

 火の魔石の砂による殺菌効果はその副産物である。


「不思議ですよねぇ、砂なんて捨てるばっかりだと思っていたんですけど、混ざりのない火の魔石の砂を加熱して、それを水に入れた時の殺菌効果はすごかったです!」


 ただ、殺菌効果にも限度はあって、水と砂の割合が二十倍を超えると効果がなくなってしまうし、殺菌後にコップに入れて一週間放置した水は腐った。

 どこまで効果があるのか、どうすれば持続させる事が出来るのか、量を増やさないと出来ないような作業はセルディの細腕では無理だった……。

 大量の火の魔石の砂を手に入れられる伝手もない。

 それで、この実験結果を浄水場へと利用する事を思い付き、レオネルへと放り投げた訳だ。

 セルディは興奮のまま、そう話した。

 そして、静まり返る室内。


(あれ……?)


 セルディは首を傾げた。


「……セルディ、お前後で説教だ」

「え!!」


 レオネルが、小さな声で囁くように言う。

 どうして説教なのかと目を白黒させている間に、フォーナットは勢いよく立ち上がった。


「セルディ嬢は最高です! 僕の婚約者になってくれませんか!?」

「へ!?」


 なんでそんな話に!? ていうか挨拶もしてないのに何勝手に名前を呼んでるんです!?

 セルディが更なる混乱に目を回しそうになっていると――。


「……あ?」


 低く押し殺した声が、セルディの隣から聞こえてきた。


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