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【二部開始】転生令嬢は推しキャラのために…!!  作者: 森ノ宮明
第二部 王都から

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23.陛下に謁見します


 王都に到着してから一週間後。

 セルディはグレニアンと謁見をしていた。


「久しいな、セルディ嬢」

「お久しぶりでございます、グレニアン陛下」


 謁見の予定があると聞かされてから、必死で磨き上げたカーテシーを披露した。


「少し見ない間に綺麗になったな」

「ありがとう存じます」


 お世辞をありがとうございます!

 セルディは軽く微笑んで礼を言うと、薦められるままに席に着いた。

 前回は父と一緒に案内された豪華な客室に、レオネルと一緒に座る。

 同行できない父の代わり、レオネルがセルディの保護者の役割をしてくれているようだ。


 セルディを追いかけて王都へやってくるはずだった両親は、何かトラブルがあったようで、伝言役としてジュードがやってきた。

 火の魔石でのトラブルが起きたのかと心配したが、どうやら危険があるようなトラブルではないらしい。

 手紙には慌てるような事件ではないが、フォード領から離れるわけにはいかなくなった。と父の筆跡で書いてあったので、セルディは少し心配しながらも了承と寒くなってきたので身体に気を付けるようにと返事を書いた。

 返事はキャンベル商会経由で送ってもらう事になったため、ジュードはそのままセルディの護衛に戻り、今は扉の横でチエリーと並んで待機している。


「レオネル、三年後が楽しみだな」

「陛下、早く用件を仰って下さい」


 悪戯な笑みを浮かべたグレニアンの言葉を、レオネルがすげなく躱す。

 セルディはまた三年後かぁ、と内心思いながらも、笑みを保ち続けた。


「はぁ、つまらんやつめ……。セルディ嬢、ではまずは魔石に関しての書類を受け取りたい」

「かしこまりました。チエリー」

「はい」


 チエリーを呼ぶと、父が手紙と共に預けてくれた魔石に関しての書類と共にグレニアンの侍従に手渡す。

 書類は侍従からグレニアンへと渡り、グレニアンは書類を一枚ずつ丁寧に捲って中を確認した。


「思ったよりも採取量が多いな」

「期待に応えられたようで幸いです」

「ふっ、セルディ嬢は言葉も綺麗になったな」

「……レオネル様の婚約者として恥ずかしくないよう、日々精進しております」


 グレニアンの言葉に、セルディは必死で笑みを繕いながら返す。

 貴族の勉強をしたからわかる。

 一年前の自分の行いがどれだけ不敬だったのかという事が……。


(恥ずかしい! でも今も気を張っておかないと被った猫が取れそうなの! グレニアン陛下、勘弁して下さい!!)


 内心でそんな悲鳴をあげていたセルディは、握っていた手をレオネルに軽く叩かれて、慌ててレオネルの方に視線を向けた。

 レオネルは心配するな、と言わんばかりに優しい笑みを浮かべている。

 セルディはその笑みを見て、少し力を抜いた。


「陛下、あまり私の婚約者を苛めないで頂きたい」

「あー、わかったわかった。わかったからお前もその敬語をやめろ。気持ちが悪い……」


 レオネルは書類を机の上に置き、セルディにも気軽に話すようにと言う。

 そう言われてもすぐに切り替えられる訳もない。

 セルディはとりあえずの愛想笑いを浮かべた。


「ほら、セルディ嬢の好きなクッキーだぞ」


 食べろ、と言わんばかりに小皿を差し出される。

 国王陛下に勧められれば食べるしかない。

 セルディはちらり、とレオネルを見て頷くのを確認した後、一枚を手に取ってかじった。


(はぁー、やっぱりここのクッキーが一番美味しい……。ダムド家のクッキーも、シエロのクッキーも美味しかったけど、王城のクッキーはバターがたっぷり使ってあって本当に美味しい……)


 恍惚……。

 セルディは目の前のグレニアンの事を一瞬忘れて、クッキーの味を堪能してしまった。


「はははっ! セルディ嬢に変わりがないようで安心した」


 グレニアンの笑いに、セルディは正気に戻ると、顔を真っ赤にして俯いた。


(や、やられたー!! グレニアンってば悪戯っ子が過ぎるよぉ! 闇堕ちしてない姿に安心はしてるけど!!)


 レオネルもグレニアンの行動に頭が痛いとばかりに額を押さえている。


「グレニアン……」

「ははは、悪かった。まぁ、ここには身内しかいないのだから、不敬だなんだと気にするなという事だ」


 王族同士仲良くしよう、という事だろう。

 よくよく考えればレオネルと結婚した場合はグレニアンとも親戚になるのだ。

 少しずつ距離感を覚えなければいけない。


「それで、セルディ嬢に頼みがあるのだが」

「あ、はい。なんでございましょうか」

「固い」

「……えっと、なんで……すか?」

「ああ、そのくらいの気安さでいい」


 満足げな微笑みに、セルディは頬を引き攣らせる。


(いやー! 難しい! オンとオフの切り替えが難しすぎる!!)

「……セルディ、無理はしなくていいからな」


 猫を被り続けていたいセルディの内心を察したレオネルがそう言ってくれるが、親しい親族がいなくなってしまったグレニアンの姿を物語で知っているセルディとしてはグレニアンの好きなようにしてあげたい気持ちがあった。


(身内が遠い存在っていうのは、寂しいもんね……)


 この大きな城で、今も一人王族の区画で生活をしているグレニアン。

 レオネルも居なくなり、ただ目を閉じるだけの空間となってしまった寝室の描写は、思い出すと涙が出そうになるほどだ。


「いえ、私、がんばりますっ」

「お、おう、そうか……」


 セルディはこれも主人公のため、と気合を入れた。


「あはは、セルディ嬢はレオネルよりも話がわかるな」

「はぁ……、公私は混同しないようにしろよ……?」

「はい!」

「いや、セルディに言った訳じゃないんだが……」


 レオネルは項を擦りながら苦笑した。


「それで、セルディに頼みってのはなんだ?」

「ああ。セルディ嬢には一度、魔石研究所を訪問して欲しくてな」

「魔石研究所を?」


 魔石研究所は、大抵どこの国にも存在する期間で、名前の通り、魔石を研究する施設である。

 新しい魔導具の安全性を検証する場所もここで、基本的に関係者以外立ち入りは禁じられている場所でもある。


「……浄水場の件か?」

「その通りだ」


 少し考えた後、レオネルが口にしたのは浄水場。

 グレニアンもあっさりと頷くが、セルディには何がなんだかわからない。

 セルディはただ水の魔石を使わなくても、川の水などが飲み水として使用できるようになればいいと考え、ろ過装置の提案をしただけなのだが。


「何か問題がありましたか?」

「どうやら発明者に会いたいと研究員が駄々をこねているらしくてな……」

「ええ……?」


 理由が酷い。

 セルディはあからさまに顔を顰めてしまった。

 グレニアンもセルディの気持ちはわかっているのか、申し訳なさそうだ。


「担当している男は天才なんだが、相当な変人でなぁ……」

「機密だとは伝えたんだろう?」

「当たり前だ。だが、会って話をしないとわからない部分があると言って聞かなくてな……」


 相当苦労しているのだろう。

 グレニアンも困っている。


「えっと、その方のお名前は?」

「フォーナット・カンパーニ」

「……カンパーニ?」


 セルディはその名前に聞き覚えがあった。

 そう、前世で読んだ物語の中にあった名前……。


(カンパーニに乾杯! とか言ってお酒を飲んで……。いや、そこはいらない情報だわ……。えっと、確か、若き魔道具作りの天才で、侵攻編でグレニアンに頼まれて火の魔石を使った武器を作った人物……)


 グレニアンはその武器を北国の反乱軍へと横流しして、北の王を討った。

 そんな物語の重要な登場人物が魔石研究所で働いているとは……。


「ああ、ギレン侯爵家の親類だ。カンパーニ家は今は男爵だが、フォーナットの功績次第では子爵になる」

「ってことはアレンダークの従兄弟か」

「そうだ。発明者に会うまで働かないと職務放棄しているらしい」


 まさかのストライキ!

 なんでそこまで……。


「あいつには王城からも色々な魔道具の改良を頼んでいるんだ。だから……」


 国王陛下にここまでの事をさせるなんて、研究者は本当にすごい、とセルディは思った。

 天才らしいし、恐らく芸術家肌なのだろう。

 セルディとしても、彼には是非とも火の魔石を使った武器を制作してもらわなくてはならない。

 今のところ反乱編は起きずに終わったようだが、まだ侵攻編のフラグは残されている。

 もしものために、必要な物は用意しておかなくては……。


「わかりました! 私でお役に立てるかはわかりませんが!」


 そう拳を握って使命感に燃えるセルディだったが――。


「駄目だ」

「え!!」


 レオネルにはすげなく却下された。


「セルディが行く必要などない。誰か適当なヤツを発明者だと偽って行かせろ」

「それも試したんだが……」


 どうやら失敗したようだ。


「……二時間」

「はぁ……、一日だ……」

「お前、長い休暇を取ったばかりだろう! 四時間……」

「……なら半日にしろ。これ以上は無理だ」

「わかった! その代わり夜勤には入ってもらうからな」

「仕方がない……」


 話が纏まったらしい。

 レオネルは眉間に皺を寄せながら頷いた。


「という訳だ、セルディ嬢。日にちは追って連絡をさせて貰う」

「は、はぁ、わかりました……」

「いくら護衛がいても、今の情勢では保護者同伴じゃないと不安なのは確かだからな」


 うんうん、と頷いているグレニアンにセルディも察した。


「えっと、レオネル様とお出かけですか?」

「デートには相応しくない場所だけどな」


 レオネルは肩を竦めてそう言うが、セルディはレオネルと出掛けられるだけで嬉しい。


「そんなことないです! レオネル様と一緒に行けるの、嬉しいです!」


 心の底から喜んでいるセルディの様子に、レオネルも微笑みを浮かべてくれる。

 レオネルと一緒なら、どんな場所だろうが天国である。

 それに――。


(これってある意味聖地巡礼の一つでは!?)


 一般人では入る事の出来ない魔石研究所……。

 その中を見る事が出来るなんて……。

 セルディは胸を高鳴らせる。


「レオネル様、楽しみですね!」

「……これはレオネルも落ちる訳だ」


 ぼそりと呟かれたグレニアンの言葉は、喜びに浮かれるセルディの耳には届かなかった。


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