【第4話】悪巧み
「なぁんだ、もうばれたのか。案外早かったな?」
翌日登校すると、ニヤニヤと嗤う級友に出迎えられた。
「もう、意地悪ですわ!」
「そりゃそうだよ。なんたって私は《悪》だからね」
常日頃からたびたびそう嘯くそれは、彼女の口癖だ。
「こんなのに気に入られちまって、スィーは可哀想だなぁ」
ケラケラと嘲笑う。
馬鹿にされていると分かっているのだが、不思議と不快に思わなかった。
「それで? これからどうする?」
「……悩んでおりますの。だって肝心の相手が『分からない』だなんておっしゃるのですもの。なんだか考えるのも馬鹿らしくて」
「へぇ……『分からない』ねぇ?」
何やら物知り顔で級友はひとつ頷いた。
「よし。親愛なるスィエラの為に、このエラトマが婚約者さまの代わりに慰めてやろう。しばらく【暇】を出してやる。感謝して私に甘えると良い」
「まぁ……!」
横柄で傲慢な言葉遣いで級友が言い放ったそれに、私の心は浅ましく揺れた。
ああ、やっぱりこの人には敵わない。
「ありがとうございますエラトマさま! 大好きですわ!」
揺れて揺らいだ心に従って溢れた感謝の意を伝えると、眩しそうに顔を歪める。
「────はいはい。お礼は奢りでな」
いつもと同じ返しの言葉の中に、諦観が混じっている気がした。
エラトマさまは孤児だ。
私のお母さまは戦争で親を失った戦争孤児だったけれど、エラトマさまはこの平和な時代に口減らしのために教会へと捨てられた。
「悲しくはない。悲しんでいる場合ではない。憐れみを向けられるのであれば、私は自分の目的の為にそれらを利用する。それだけのことさ」
言外に、私のことも利用してやると宣告された。
私は、そんなエラトマさまに尊敬の念を抱いた。
────なんて、強いお人なのだろう!
心から。そう、心から。
この人に仕えたいと思ったのだ。
私は男爵令嬢で、彼女は孤児という立ち位置などどうでも良かった。
もし彼女が男であったのなら、きっと惚れていた。
「エラトマさま、どうか私をご利用なさって」
興奮極まってそう言った私を、エラトマさまはせせら笑っていた。
その嘲笑の笑みにさえときめいた。
「それなら、君の婚約者さまを利用させてもらおうかな」
その一言で始まったのだ。
婚約者に媚を売る娘。浅ましく愚かで鈍感な娘。自分の愛に酔いしれる娘。
────私ではない【誰か】を演じる、くだらない茶番劇が。