【第2話】放課後
私の身体は歓喜に打ち震えていた。
「ヴノスさま、奇遇ですわね!」
級友と約束していたカフェにて。
入店直後、カウンター席に座る愛しの方を見つけてすぐに声をかけた。
「話しかけるな」
「意外ですわ、ヴノスさまもこういった場でお茶を嗜まれるのですね!」
「うるさい、黙れ」
「はい! それではごゆっくり」
淑女の礼をひとつ残して、そそくさと級友のもとに舞い戻る。
「素晴らしい偶然ですわ! 奇跡です! もしやエラトマさまは幸運を運ぶ青い鳥でございますか!?」
「鳥じゃねぇ! 私は断じて鳥じゃねぇ! せめて魚にしてくれ頼むから!」
大の鳥嫌いである級友の必死な様子に私は言葉を訂正し、そして礼を言った。
「私の幸運の青い魚さま、またとない幸運をありがとうございます!」
「はいはい」
ようやく席に着き、メニュー表を開く。
トップを飾るラテアートのイラストに、私は目を輝かせた。
「まあ、猫のラテアート! 魚もありますわ!」
「んー、私はこの知恵の実デザインにするかな」
「魚にしますわ。ふふ、幸運の魚さまにひたすら感謝です」
「スィーは魚より猫が好きだろうに」
「良いのです。猫は、また次の機会にいたします」
「じゃあそのときもスィーの奢りだな」
「はい!」
級友とのティータイムはとても楽しかった。
家族のこと、学院のこと────恋愛のこと。たくさんのことを話した。
「スィーは家族に恵まれ過ぎたな」
級友はどこか眩しげに私を見た。
「だから、私やあんなのに惹かれちまった」
「あんなの?」
「悪いことは言わない、なんて私の言うことじゃないが……まあ、級友のヨシミで忠告しといてやるよ」
笑ってなどいない、弧を描く糸目を薄らと開いて彼女は言った。
「君のそれは、愛情じゃない。自分の首を締めあげる前に、早いところ手放すべきだ」