ウェイルス王国〜宿屋にて【憩いの泉】
ウェイルス王国の道中。俺達は魔物に遭遇した。
「なんですか?あの骨の隆起したうさぎは」
「あれは、ボーンラビットと言ってEランクのモンスターよ、突進攻撃に気をつけてね」
「わかりました」
「じゃあ、いくわよ!」
ボーンラビットがアルマに突進、すると見せかけてこっちに突進してきた。
「うわ!危ないな、わりと動きが素早い...そこっ!」
ボーンラビットの軽快な突進を避けながら反撃をする。
「「ドーン!」」
踏み込みの音が響き、拳の衝撃波がボーンラビットを襲う。ボーンラビットは地に倒れ、眼と耳そして鼻から血が滴る。
「やるわね。それにしてもすごい威力ね、どうしたらそんな威力出るのかしら?」
この子、魔力も使わずにこんな威力を出せるなんて。私の見込み以上ね。と、アルマはそう思っていた。
「この技は【極地翔拳】による特別な発力法で強力な威力を生み出しています」
【極地翔拳】は俺の家系に伝わる拳法だ。昔は【翔拳】と、華麗な動きからそう呼ばれていた。
この武術は元来、武器が手元に無い状況で、素早く新たな得物を入手することに重点を置いた、言わば繋ぎの武術。しかし、ある代で、武器の使用が認められない時期があった。その為、素手での戦闘技術が向上し、翔拳独自の発力方法、【放拳】が編み出された。翔拳の俊敏な立ち回りに、放拳を含めた素手での戦闘技術を取り入れ、それを新たに【翔拳】としていた。しかし、放拳の威力に驚嘆した人々が、極地まで飛翔するかの如く威力を持つ拳、【極地翔拳】と呼び始め、その代の当主は、【極地翔拳】と、そう名を改めた。
この技は、威力があるため、しっかりと足で踏ん張ってでいないといけないが、踏ん張るよりも、攻撃の瞬間に踏み込んだ方が、安定がするのだ。
例えるなら、立っている状態で壁を押すと、後ろに下がってしまうが、壁にタックルする場合は、足でしっかりと踏み込んでいるから、後ろに下がりにくくなる。そう言うことだ。
「そうなの?なんか難しそうね」
「えぇ、この発力法を習得するのに3年かかりました」
普通は5年くらいかかるらしいのだが、両親いわく特別な才能があるとのこと。
「あら、もう陽が落ちかけてるわね。しょうがないわ、今日はここで野営しましょう」
「はい」
〜〜〜
森の中なので薪用の小枝は、すぐに集め終わった。問題は火なのだが…大丈夫かもしれない。
「小枝集め終わりました。あとは火なんですが、火を起こす魔法はありますか?」
「もちろんよ、火だけじゃなく、雷だって起こせるわ。じゃあ、付けるわよ」
ボッ!
「どうもありがとうございます。それと食料なのですが、さっき狩ったボーンラビットの肉でいいですか?」
「えぇ、いいわよ。味付けは、これでお願いするわ」
そう言いながら、何も無い空間から、ソースのような、物を取り出した…。
「その魔法があれば、食料とか色々出せるんじゃ……」
「あ…ま、まぁ今日のところは…せ、せっかく狩ったから…ね?」
「確かにそうですね。でも、寝袋とかは出してもらます?地面でも平気ですが、できれば避けたいのです」
そう、俺は地に這う虫が本当に嫌いなのだ。幼い頃の修行の時でも、必ずと言っていいほど、寝袋を用意していた。
「わかったわ。よいしょっと、はい。これでいいかしら」
アルマが取り出したのは普通に売ってる感じの現代の寝袋だった。そうか女神だから別にこの世界に属しているわけじゃ無いのか。物も、俺の世界に合わせれくれているようだ。
「はい。ありがとうございます。あ、兎焼けましたよ」
兎の肉を千切り二人で分ける。
〜〜〜
「ごちそうさまでした。あの、度々悪いんですが、歯磨きありますか?」
「えぇ、あるわよ。ちょうど私も磨きたいと思っていたところよ」
食事を食べ終わり、歯磨きをして、寝る準備をする。
磨くのに必要なものも、アルマの魔法によって取り出した。便利すぎる。
「おやすみなさい、アルマさん」
「おやすみなさい、それとアルマでいいわ。フブキ」
「…おやすみなさい、アルマ」
〜〜〜〜〜〜
ー朝ー
俺は、起きてすぐにある事をしたくなった。……トイレだ。しかし、こんな森の中でするのかと思うと少し勇気がいる。そして今は、女の子の体だ、どうしようか…。
「あらフブキ、おはよう。早いのね」
「アルマさ、アルマおはよう御座います」
女の子の可愛い声が自分から発せられることの違和感に少し慣れてきた。…ふと横を見ると、アルマの寝癖がすごいことになっている…。
「どうしたの?」
「いえ、寝癖がすごいことになっているので」
「いつものことよ。ほらこうすれば」
と言い、頭を振ると、アルマの頭は昨日と同じ髪型に戻った。
「すごいです。魔法ってなんでもできるんですね」
「まぁ、私たちのは魔法とはちょっと違うけどね。ほら、あなたにもしてあげるわ。今使ったのは、髪を整えるとともに、洗浄機能もあるのよ。いくわよ、」
ふぁさ〜髪の毛が舞い上がり、ここち良い風が吹くと、全身が清められたような感覚になった。
やばい、大事な事を忘れていた。
「ありがとうございます。あ、あの、それと言いにくいのですが、トイレに行ってきても良いですか?」
「えぇ、いいわよ。一人で大丈夫?」
「大丈夫です」
そう言って、近くの茂みに行き、ズボンと下着を脱ぎしゃがみこんだ。
シャーー
…結構勢いよく出るんだな…。
「ふぅ、この感覚にも慣れなきゃいけないのか…」
スッキリして、何か吹くものは無いかとズボンのポケットに手を入れる、ティッシュのようなものががあった。普段使っているものより少し硬めのティッシュ。この世界の文明に合わせられているのか?そう思うほど、見た目が硬そうだった。
「これでいいか、はぁ」
覚悟を決め下に手をやる。触れたことの無い感触が手に伝わる。恥ずかしさを我慢しながら拭いていると、
ふと思う。風呂入ってた時に召喚?されたのに、なんで服を着てたのだろう。
「…まぁ、おおかた、自動的に服を着せるシステムがあるのだろう。…戻るか」
大事な所を拭いた紙を、別の紙に包み持って帰る。
「アルマに燃やしてもらおう、あと手も洗わせてもらうか」
野営地に戻ると、アルマは水と手ぬぐいを用意していた。気がきくな。
「ただいま戻りました」
「おかえり、で、どうだった?」
「どうだった?とは、なんですか?」
桶に貼られた水で手を洗いながら、疑問を述べた。
「何って、女の子の体になって初めてのトイレでしょ?あなたも男なら何かしら感想があるんじゃ無い?まぁ、いまは女の子のだけどね」
アルマは俺に手ぬぐいを渡しながら、ワクワクしたように聞く。
「そうですね、強いて言うなら…大事な所に毛がなかったです。いまは俺、いや、私は、17なのですが、同じ年齢の女の子なら生えてる気がするのですが、これって大丈夫なんですか?」
「あら、そうなの。まぁ、でも私は生えて無いけど、何も問題は無いわね。別にそんな気にすることじゃ無いと思うわ」
「そ、そうですか」
アルマ、俺が男ってこと忘れてないか?そんな、踏み入ったことを自分から話すなんて。うむ、だが問題は無いのか、ならよかった。
「では、出発しましょうか。昨日と同じ調子だと、どれくらいで着きますか?」
「そうね、お昼くらいには着くんじゃない?」
結構かかるな、ま、問題は無いだろう。
「じゃあ、しゅっぱ〜つ」
道具や寝袋はいつの間にかなくなっていた。
再びウェイルス王国目指して歩く。道中クラスDクラスBなんかのモンスターが出たが瞬殺だった。一番苦労したのはクラスAのモンスターだ、大して強くなかったが、咆哮が煩かった。それを一撃で倒すと、アルマは、「あなた、神の一族なんじゃ無いの?」と意味のわからんことを言ってきた。アルマだって、余裕で攻撃を避けてたじゃないか…。
というか、この森のモンスターのクラスあきらかに高くないか?と思って聞いてみると、「禁樹の森だから当たり前じゃない」と言われた。あきらかに封印されてる系の名前だ、なんてとこで野営をしてたんだ俺たちは、と思ったが、気にしないことにした。未知の情報に、そろそろ身が持たなくなりそうだったからだ。
歩いていると、腕や首筋に当たる髪の毛が気持ちいい、シルクのマントを羽織っているような、素晴らしい感覚に満足していた。「…悪くないな」
新しい感覚を堪能しているうちに、目的地に到着した。
ウェイルス王国だ!
〜〜〜
国に入るには正面門の検問を通らないといけないようだ、説明されなくてもなんとなくわかる。
「すごい活気ですね。門の外からも、街の騒音が聞こえてきますよ」
「私も実際に来たのは初めてね。上から見てたりしたんだけど、現地はやっぱ違うわね」
鐘の音や、人の声、馬車の音様々な音が入り混じって聞こえてくる。
「フブキ、まずは検問を通るために並ぶわよ」
「そうですね、いや〜すごい行列です。門を通るだけでも日が暮れそうです」
「心配ご無用、この国の検問は大陸1正確で素早いのよ、ほら、もうすぐ私たちの番よ」
一気に10人くらいの人が前に進んでいった。検問場は合計で5つぐらいあってそれぞれの時間も早い。
優秀だな。
「ほら、私達の番よ」
検問の係りの人が質問をする。
どのような目的で入国するのか、持ち物はどんなものか、名前、職業、その他色々聞かれた。
質問が終わり「問題ない」と言われ、魔法陣のようなものが書いてある木の板を渡された。
「いや〜、冷やっとしたわね〜特に最後の何もない時間は、怖かったわ」
「そうですね、何も悪いことをしてなくても、こういうのは緊張します」
ウェイルス王国での俺たちの立場をまとめるとこうだ。
国立ウェイルス魔法学院に入門する為に田舎からやってきた姉妹。アルマはなぜか緋ノ山アルマと名乗っていた。変な名前だなと、言われたが、「ハーフです」と言い切っていた。
ちなみに姉がアルマで妹が俺だ。
「一つ言いたいことがあるんですけど、いいですか?」
「なに?」
今夜の宿を探しながら、気になったことを聞く。
「お、私は学院に入学するなんて聞いてませんよ?」
「あれ、言ってなかったっけ?」
「言ってませんよ!で、入学するのはいいんですが、私はなにも知りませんよ?試験とかがあるのであれば、確実に落ちると思います」
「大丈夫よ、だってあなた、私が能力を覚醒した時から、この世界のあらゆる、魔法を使えるもの。もちろんその知識も完璧に記憶されているわ。魔力だって視覚できるのよ?」
「え!?」
衝撃の真実である。確かに覚醒(笑)を受けてから変な靄なんかが見えるようになったが、もしかしてそれが魔力というものだったのか?
「じゃ、じゃあ靄のようなものは魔力なんですか?」
「そうね、じゃあ、あそこの花にどんな魔力が宿ってるかわかる?」
アルマが道端に咲いてる花を指差して言った。少し慎重に見ていると、濃い歪みが、現れた、まるでガスのようなものだ、それを見た瞬間頭に言葉が浮かんできた。
「えっと、名前はモルトといい、質のいい魔力を少量含み、それを煎じて飲めば、魔力をごくわずか回復できる、で、あってますか?」
「正解よ、試験も問題を見たら、すぐわかるから、安心していいわ。…あ、ここの宿いいんじゃない?」
「あ、はい、そうですね。外見もなかなかですし、今日はここに泊まりましょう」
俺たちが泊まることになったのは、宿屋【憩いの泉】例えるなら、ドイツの家のような、宿だ。…うん、嫌いじゃない。
「こんにちわ〜ここの宿に泊まりたいんだけど」
「いらっしゃーい!これはまた可愛い嬢ちゃんが二人もいらっしゃった!ありがてぇな!うちは高級な宿屋じゃねぇが、親切、清潔、飯のうまさだけならどこにも負けねぇぞ!」
出迎えてくれたのは、俺の父さんよりは劣るが、かなりガタイのいい、冒険者でもしていたような、渋いおじさんだ。
「うーん、とりあえず3日間滞在するわ。部屋は1つとベットは2つね」
「おうよ!3日間で銀貨1枚と銅貨5枚だ」
「これでいいかしら」
アルマは巾着から、銀貨2枚出して、カウンターに置いた。
「じゃあ、銅貨5枚の釣りだな」
「お釣りはいいわ」
アルマはなぜかそういった。だが、すぐに察した。……一度言ってみたかったのか…。その証拠におじさんに見えないようにガッツポーズをしている。
「嬢ちゃん気前がいいな!じゃあこれは、ありがたくもらっておくぜ。そうだ、自己紹介するの忘れてたな。
俺の名前は《バルド》ってんだ。この宿の主人だ、よろしくな」
「アルマと言います。よろしくお願いします。」
「響、です。どうぞよろしく」
「あぁ!よろしくな、アルマちゃんにヒビキちゃん!じゃあ部屋に案内するぜ、ディーナ!お客さんを204に案内してくれ!」
「はーい!ただいま!」
店の奥から可愛らしい声が聞こえてきて、女の子が走ってきた。
「お待たせしました。お部屋にご案内します」
かなり可愛い子だった、年は…13くらだろう。
「うちの一人娘でなぁ!可愛いだろう、今月、魔法学院に入学するんだ!」
「そうなんですか?私とヒビキも、今月入学するんです。同じクラスになれたらいいわね」
「は、はい!私、ディーナって言います!よ、よろしくお願いします!」
「アルマよ、こっちは、妹のヒビキ、よろしくね」
「ヒビキです。よろしく」
「はっはっは!もう二人も友達ができたな!よかったなディーナ!」
「うん!じゃあ、お部屋に案内してくるね」
「おう!」
結構長く話していたな、まぁ、友達ができるのはいいことだ。
「こちらが204号室になります。トイレは突き当たりを左です。では、夕食の時間になったらお呼びします」
「わかったわ。ありがとう」
アルマがお礼を言うと、照れくさそうにお辞儀をして、一階に降りていった。
「さぁ、部屋もとったことだし、かいものにいきましょう!」
「何を買うんですか?」
「あなたも女の子なんだから、女の子らしい服装にしないとね。それにパンツもブラも買わないといけないわ」
「わかりました。でも、服や、その、下着はアルマさんに一任しますよ」
「えぇ、もちろんよ。女神流のファッションを見せてあげるわ」
服か、下着はなるべく地味なものにしてもらおう。しかし、胸は小さいのだから、ブラなんて必要ないんじゃ無いのか?
僅かな疑問を残し、街へと繰り出していくのであった。
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