3-俺が平凡じゃなくなる!?
ようやく家の近くまで帰ってきた。そしてふと気づく。
「な、なんかやけに静かだな」
普段、この時間帯は、遊んでいる近所の子供やご飯の準備をする気配があったはずだ。人だって少しは通っていた。
「心の傷が深すぎて気づかなかったけど…結構ヤバくね?」
想像してみて欲しい、全く人気がない街を。車も通らず少し暗い中を電灯が照らしている様子を。
「か、かなり不気味だし」
まるで、何かが起きる前触れのような、嵐の前の静けさのような、俺だけ取り残されてしまったかのような。
「と、とにかく家に!」
怖くなった俺は駆け出した。
安心したかった。
悪夢のようなこの空間から脱出したかった。
家に入れば、自分の部屋にいれば、何かに守られるような気がして。
「悪夢のような場所とは失礼だなぁ。折角キミを呼んであげたのに」
ふと後ろから声が聞こえる。
俺?呼んだ?どういうことだ?
「だからぁー、この世界はボクが作ったもので、そこにキミを呼んであげたって言ってるの!」
「さ、さっきから俺の心を読んでくるお前は何者だあー!」
振り返った俺の目にうつ……あれ?何もいない。
え、ガチホラー?
「ホラーじゃなーい!もうちょい下だよ!しーたー!」
下?
「うぉ⁉︎」
目線を下に落とすと、そこには…妖精…みたいなやつがいた。
「ボクは妖精みたいじゃなくて妖精だー‼︎」
──────────────────
なるほど、状況はある程度把握した。この自称妖精は『フェア』。
妖精だからって安直すぎるだろ。
「ふん!安直で悪かったね」
どうやら心も読めるらしい。
手のひらくらいの大きさのフェアは、紫色のツインテールにクリクリとした目。フリフリの付いた水着みたいなのを身につけている。あとボクっ娘だ。
ちょっと未だにこれが現実とは信じられていない。
というか、信じる方が無理がある。
あと、いくら俺でも、さすがに手のひらサイズの女の子にドキドキしたりしないからね?ちょっとしか。
…女の子って意識したら、だんだん頭が真っ白になってきたぞ?
「そ、そ、そ、それで?ふぇ、フェアさんがぼ、ぼくにな、な、なんの用でしょう⁉︎」
声が裏返ってしまった。コミュ障、早く治したい…
「よくぞ聞いてくれたね!」
「ふぁ、はい⁉︎」
は、恥ずかしい。帰りたい。
「うーん、これじゃあ話がすすまないなぁ。それ!」
彼女はそう言って指を鳴らす。すると、俺の頭の霧みたいなのが晴れていくような気がした。
「い、今俺に何をしたんですか?」
…普通に話せてる⁉︎
「ふふーん。すごいだろ?もっとボクを尊敬しなさい!」
「はい!」
まさか、こんなところで俺のコミュ障が治るなんて!人生こんなこともあるもんだな!
今まで良いことも悪いことも無かった人生。ここで俺にも運がまわってきたってことか!
「あ、あの〜。喜んでるところ悪いんだけどね?これ、今ボクと話しやすいようにやっただけだから、元の世界に戻ったら効果消えてるからね?」
え。
「のぉぉぉおおぉぉぉ!」
やっぱりそんなうまい話はないのか?
まぁ「俺だから」なのかもな…
「ま、まぁ、そんなにガッカリしないでよ!そんなことよりもっといい話を持ってきたんだからさ!」
「?」
いい話?俺のコミュ障が治る以上にいい話なんてあるのか?
「それがあるんだって!ちなみに、何だと思います?」
逆に問おう。何故この状況で、俺が何か分かると思ったんだ?ヒントもないしな。
てかまた心を読まれてしまった。
この世界では嘘とかはつけなさそうだ。今のところつく気もないが。
というか、心を読まれるってことは、変なこと考えられないってことだよな?
って、あぁ考え出したらもう止まらない…
「ちょっ!輝さん⁉︎こんな時になに想像してるんですか⁉︎」
「しょ、しょうがないだろ⁉︎男子高校生の頭の中なんてこんなもんだよ!」
あぁ恥ずかしい。
「も、もう話が進まないよ。」
──────────────────
「それで?俺はなんでこんなへんてこりんの場所に連れてこられたんだ?」
未だに話が見えてこない。全く、誰のせいだと思ってるんだ。
俺のせいだ。
「へんてこりんって…じゃあ言っちゃいますよ?」
ゴクリ。
「私は……」
「な、なんだってぇー!」
「ま、まだ言ってないよ」
これ、やりたくなるよね。
お約束の一つだ。
「それで?何をするために連れてきたんだ?」
「もー、なんでこう話の腰を、え、あ、はいそうですね。で、でわ。ご、ゴホン」
ドキドキ。
「ボクは」
ドキドキドキドキ。
「キミの願いを叶えにきたのです!」
…って
「ええええぇぇぇぇぇぇええぇぇ⁉︎」
ね、願いを叶えてくれる?
マジで?
本当に?
「うん!何でも、1つだけ!」
これが噂の『平凡の誘惑者』ってヤツか?
本当だったのか?
ただの噂だと思ってたけど、とうとう平凡な俺の所にも来たってことか?
「ほ、本当に願いを叶えてくれるのか⁉︎」
「はい!」
なるほど。
ふっ。一般人ならここで悩みまくるところだけど俺は違う。
ここで答えるべき回答は1つだ。
「叶えら」
「あ、叶えられる願いを増やしてくれーとかは無しですよ?あと世界のバランスもとんなくちゃいけないので、無茶すぎるお願いも無理です」
な、なんやてぇ!?毎回アニメとか見てて回数増やしてもらえよ!って思うけどルール違反だったのか⁉︎
まぁそりゃよく考えたらそうだけどさ。いくらでも願いを叶えられたらチートだ。
「さあ、なんかありますか?輝さん?例えばー、コミュ障を直してくれ!とか、スポーツ万能にしてくれ!とか、最強の頭脳をくれ!とか」
むむむ。いつも脳内でシミュレーションしてることだけど、いざ本当に自分に起こるとなかなかいいのが浮かばないもんだな。
「まぁ、1つだけだしね!じっくり悩んでよ!」
欲しいもの?
能力?
誰にも負けない何か、とか?
…負けない?
俺は負けたくない?
何に?
俺より強いヤツ?
どうすれば?
俺が強ければ?
…いや…戦わなければ?
そして、答えにたどり着く。俺にはこれがピッタリな気がする。
俺が…欲しい…力は…!