2-俺の敗北!?
数分後、俺は撃沈していた。
「これに懲りたら2度と俺に挑もうなんて考えるなよ。」
そう言い残してガキは去っていった。
…クッソォ!あのガキ強すぎるだろ!
え?お前が弱いんじゃないかって?いや、あいつ完全になんかの武術とかやってるよ。ボクシング系の。
もしアイツがそういうのが得意だって分かっていれば、もっと穏便に済ませられた可能性もあっただろう。自分には勝てないと分かれば、挑んだりはしなかったはずだ。
…また?また繰り返す?
いや、人目につかないところでよかった。
危うく、中学生に負けた高校生が七不思議の1つになるとこだった。
まぁ、そりゃそうだよな。ある程度自分の強さに自信がなきゃ年上に突っかかってこないよな。
「はぁ〜 身体中がズキズキ痛い。」
ボロボロの雑巾みたいになった俺は、トボトボ帰ることにした。
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昔から俺はそうだった。
『このゲームで勝った方がジュース1本な!』
俺はこんなゲームもやらなそうなヤツには負けないと思った。
『あれ?かっちゃったー?』
偶然だ。こんなヤツには負けない。負けるはずがない。自分が勝つまで挑戦し続ける。でも勝てない。
結局俺が十数本も奢るハメになった。
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『テストの合計点で、勝った方が負けた方にに何でもひとつお願いできるってのやらないかー?』
お世辞にも頭良さそうには見えないヤツ。平均点の俺でも勝てると思った。
『あれれー?合計何点だぁー?』
100点は差があった。結局俺は、1週間そいつの雑用をやらされるハメになった。
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一時の友人の能力も、知るには関係が浅すぎた。
照岡輝という人間は、自分の力量を知ることはできても、相手の力量を推し量ることは全くできなかった。にも関わらず、負けず嫌いをこじらせた彼は、無謀にも挑み続けるのだった。
故に影ではカモと呼ばれ、時々悪知恵の働く人間が現れ、1通り巻き上げ終えては去っていく。やっと出来たと思った友達は偽物。自分を利用するためだけに現れた敵。
「俺たち友達だろ?」
友達…ってなんだ…?
金を巻き上げるのが友達…?
だますのが友達…?
人の必死の挑戦を嘲笑うのが友達…?
友達…とも…だ…ち……?
いつしか心は崩れていく。例え己の力不足が招いたことだと理解していても、例え自分の性格のせいだとしても、心が理解を拒む。
そして彼は────
1人に───────
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「あんまりいい思い出とはいえねぇな。」
また過去の忌々しい記憶を思い出してしまった。これが俺に友達が少なく、コミュ障になってしまった原因なのかもしれない。誰も信じず、誰とも関わらずに。己の心を守るために。
「男と話せるようになったのも大きな進歩だとは思うけどな?」
誰が聞いているわけでもないが、強いて言うなら自分へ。
高校に入り、同じ学校だったヤツらと別れた。この高校に俺の過去を知るやつはいない。その一心で、1年とちょっと頑張り続けてきた。
もっと仲のいい、友達のような存在が1人でもいてくれたら…
いや、友達ってなんだ?
…分からない。
「まぁ分かんねぇこと考えても仕方ないか。」
比較的、楽観主義者の彼は、そんな些細で複雑で小さなことなど気にしない。
彼が哲学者になるなど天地がひっくり返ってもありえないだろう。
その楽観主義は、あの暗い過去を経ても立ち直ることができた理由の1つともいえる。
平凡過ぎて友達がいない。これは間違ってはいないが、正しくもない。何かを語るということは、何かを語らないということでもあったのだ。