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少女は心が知りたい

作者: 猫神父

 私の名前は石塚拓海、とある研究機関で人造人間の研究をしている。

 私は、いや世界は罪を犯した。

 長きにわたる戦争…、そしてついには星の核にまでそれが響いてしまった。

 もうすぐこの星は終わる。

 けれど私達の創ったこの子は…、娘だけは生きて欲しい。

 研究所の友たちも同じ気持ちだ。

 皆で研究した亜空間転移装置。

 これを使えば、確率は低いがこの子は人類が引き起こしたこの星の死に巻き込まれないですむ。


 「この残酷な世界に生まれてしまった…、いや産んでしまった僕らが言う事じゃないけれど。」


 後ろに居る友たちの顔を見る。

 皆同じ気持ちらしい。


 「幸せに生きてくれ、A-007。いや、ミコト。我々は君の幸せを祈っている。」


 そう言った瞬間、巨大な地震が発生した。

 もうタイムリミットだ、この星が爆発する。

 立つのも厳しい揺れの中、私は亜空間転移装置の起動スイッチを押した。

 娘の入ったカプセルは発生した亜空間の中に飛び出していった。

 これでいい、こんな人類の自滅に彼女を巻き込むなんて愚かな事はしたくないから。

 超新星爆発、地球から逃げ出しているという話も聞くがこの規模…、果たしてどれだけの数が生き残れるか。

 いや無駄だろう、計算では銀河を一つ丸のみする規模の超新星爆発を人類は創ってしまったのだから。

 地球人類は誰一人生き残れないだろう。

 さぁ、愚かな人類諸君。


 「皆、潔く死ぬか。」


 友と笑い合い、私達はこの星の死ぬ音を聞きながら娘の幸せを祈るのであった。




***




 深い森の中、一人の少女が目を覚まし、カプセルから出てきた。

 きょろきょろと周りを見るその眼は無機質であるが何かを探してるかのようだった。

 そして少女は気づいた、自分が入っていたカプセルの中に袋が入っている事に。

 中を開くと多少の貴金属製品と手紙、そして小さなナイフであった。

 少女はそのナイフがただのナイフではない事を知っていた。

 自分を創り上げたマスター達が作った自分専用のナイフである事を。

 そして手紙を開き内容を読むとそのまま折り畳み、袋に戻した。

 手紙の内容は理解できる、けれどその少女には理解出来るだけだった。

 手紙の内容は今置かれている状況の説明、そして幸せに生きて欲しいという少女の創造者達の願いであった。

 少女には生きるという事は理解できる、けれど幸せになるという事が理解できない。

 理解は出来ないが…、少女は胸の中が温かくなるそんな感覚を覚えた。

 誤作動なのかとシステムチェックをしたが変調は無い。

 ならば問題ないだろうと少女は歩き出した。

 延々と続く森、初めて見る光景であるが、それは元からそうだ。

 少女は研究所の外を知らない。

 研究所で産まれ、研究所で育ち、研究所の中しか知らない無垢な少女。

 危険な物が無いかと知らない植物を見たらすぐにスキャンをしながら進んだ。

 成分、性質、生態。

 どれをとっても少女の知識にない植物ばかりだった。

 少女の知識は研究者たちによって様々な物を植え付けられている。

 けれど少女がいくら検索し、演算しても地球の生態ではない事がうかがえる。

 その種の起源を、惑星の起源を別としない限り産まれてこない様な植物ばかり。

 少女は創造者の一人である男に言われた事を思い出した。


 『未知を発見したらなるべく多くサンプルを得るんだ。そうすれば未知は既知へと変わる。君の体は確かに人間以上に頑丈だが、君の知識は得ただけの物、付け焼刃に過ぎない。だから様々な物を探求すると良い。』


 その言葉を思い出し、スキャンで得た中で有用な成分がある物をサンプルとして確保する。

 幸い袋の中にはいくつかサンプルを入れて置ける容器が入っておりその中にしまっておく。

 今はただの森の中だがどこかに人の居る場所があるかもしれない。

 そこで道具を使い未知を既知に変えようと考え出来るだけ採取した。

 そんな事を繰り返しつつ歩いていると、血の臭いと叫び声が聞こえて来た。


 「くっ!引け!引けぇ!!」


 少女の耳には女の声が聞こえて来た。

 鈍い金属がぶつかる音も。

 誰かが争っているのだろう。

 少女は自分が戦闘用にカスタマイズされている個体だと知っていた。


 『良いかい?本来、君はただの人工的に創造された普通の少女となる予定だった。けれど長引く戦争のせいで戦闘用に作り替えられている。だから今から君に戦術論を学ばせようと思う。私達の愛し子が死なない様に。』


 少女はそう言っていたかつての創造者の一人の言葉を思い出していた。

 こういう状況の場合の対処法、戦術論としては聞いている。

 まずは様子見と、音のする方へ隠れながら少女は無音で移動した。

 音のしたところにたどり着くと、少女の眼に映ったのは甲冑姿の人間達四人、それと少女の知識に存在しない幻想生物六匹だった。

 見た所、どうも甲冑姿の人間達の方が囲まれており、幻想生物、少女の知識で該当するのは昔話に出てくる妖怪、鬼だろう。

 この場合どうするか、少女は脳内でシュミレートした。

 甲冑、幻想生物共にこちらに気づいた様子は無い。

 どちらにも奇襲は可能、ただしどちらの戦力も不明。

 現状の様子から幻想生物の方が有利、けれど見た所幻想生物との交渉は不可能と思われる。

 両方をスキャン、多少の差異はあれど甲冑側は人間、幻想生物の表皮から持ちうる武器での攻撃は有効。

 甲冑側が人間であれば交渉し、未知を既知へと変える事が可能となる。

 交渉の為に、幻想生物の排除が最も最適解である。

 戦術シュミレートが完了した少女はゆっくりと左手を幻想生物の方へ向けた。


 「『エア・バレット』」


 音も無く、少女の左手から発射された圧縮された空気は一匹の幻想生物の頭部を粉砕した。

 これは魔法でもなんでもない、少女の左手に内蔵された空気銃である。

 幻想生物が突然の事に驚いてる隙にさらに撃つ。

 一発、二発、三発。

 これだけ撃てばバレるだろうと判断した少女はナイフを握り草むらから飛び出した。

 甲冑姿の人間達は音も無く現れた少女に戸惑っていたが、少女にとってそれはどうでもよかった。

 こちらを振り返った幻想生物の頸動脈を一太刀で斬った。

 首を押さえながら倒れたのを確認し、即座にスキャン。

 致命傷と判断し、最後の一匹を仕留めようとした時、少女は斬ろうとした腕を幻想生物に掴まれた。


 「********!!!!!!」


 何かを叫んでいたが少女には理解が出来なかった。

 少女は該当する言語を検索したが無し、ただの咆哮かはたまた少女の居た世界に存在しない言語か。

 至って冷静に分析していた。

 その姿を見て甲冑姿の人間達は焦ったように武器を構えて何かを叫んでいたが、少女にとってそれも些末な事。

 幻想生物が掴んでいる腕に組み付き少しばかり少女は力を込めた。


 ゴキリ。


 骨を砕いた音が響いた。

 また幻想生物は何かを叫んでいたがもう少女にとってそれはどうでもよかった。

 隙だらけになった幻想生物の首にナイフを当て、そのまま切り裂いた。

 生き物の命を奪う、少女にとってそれは何の抵抗も感じない当たり前の行為だった。

 甲冑姿の人間達は戸惑っていたが少女は自分に敵意がない事を示すためにナイフを仕舞った。




***




 「くっ!引け!引けぇ!!」


 どうしてこうなった!どうしてこうなった!!

 ここらは確かに鬼が出ると聞いて来た、けれどなぜここまでの上位鬼が居るんだ!!

 兄上に頼まれて兵を連れ鬼を討伐に向かいある程度の鬼を倒していた!

 けれど上位鬼が居るなんて聞いて居ない!

 兵も大半が殺された、今生きている兵だけでも連れてすぐに兄上に報告しなければならない。

 上位鬼一匹に対して必要なのは陰陽術師一個大隊、あいつらは存在そのものが隔絶した物だ。

 あんなものが六匹も居るのであればたかが200の兵隊など赤子の群れでしかない!


 「速く引け!急いでこの事を兄上に!皇都に報告するのだ!!」


 殿を務めながら兵を引かせるが…、ここで足止め役が必要だろう。


 「お前達も速く引いて皇都に報告に行け。」

 「すいませんね、姫さん。俺らあんた置いてけねぇんだ。」

 「そうそう、俺らはこれでも姫さん慕ってついてきた変わりモン。」

 「死ぬ時は御供しますよ。」

 「バカ者共が…、良いだろう。ここで黄泉路に付き合ってもらうぞ。」


 笑いあって刀を構える。

 至らないお飾りの姫だのと言われてきたがこんな良い部下が付いてきてくれたのだ。

 それだけで私の人生は良かった物だと言える。

 ならばこの部下達を少しでも長く生き永らえさせ、皇都に戻った兵達が上位鬼を倒せる者達を引き連れてくるのを待つのみ。


 「時間を稼ぐぞ!一秒でも長く、生きろ。」

 「「「応!!!」」」




 時間稼ぎにすらならんか…。

 壁に追い詰められ、全員疲労困憊。

 ここまでだ。

 しかしただでは死なん…。


 「皆、よくここまで仕えてくれた。最後に一太刀でも奴らに手傷を…。」


 皆に死と引き換えに挑むよう命じようとした時それは起こった。

 目の前に居た上位鬼の頭部が弾けたのだ。

 あんな事、皇都のどの術師でも出来る事じゃない。

 それは後三回ほど起こった。

 全員唖然としていたが計四回。

 それだけ起こればそれがどこから起きたのかが察しがつく。

 その方向を見た瞬間、飛び出してきたのは五歳位の少女だった。

 銀色の髪、赤い瞳、質素な服。

 まるで作られたかの様に愛らしい少女は持っているナイフで目の前の上位鬼の首を斬り裂いた。

 熟練した技術、そう思わせるほど美しい光景だった。

 戦場であるというのにその少女に見惚れていた。

 けれどすぐにそれは焦りに変わった。

 上位鬼が少女の腕を掴んだのだ。

 あの位の子供の腕など枯れ枝を折るより容易い。


 「お前達!急いであの子供を救出するぞ!!」


 そう叫んで持ってた刀で少しでも緩めばと斬りつけようとしたが少女はそのまま鬼の腕に組みついた。

 そして、骨をへし折った。

 ありえない、上位鬼の骨は巨大な丸太を大勢でぶつける位の衝撃を与えなければ折れる事すらない。

 それをただの少女が組み付いてへし折るなど…常軌を逸している。

 唖然と見ている間に少女はそのまま鬼の首を斬っていた。

 わけがわからない、ただの少女にそんな事が出来るわけがない。

 この子供は魑魅魍魎の類ではないのか?

 もしかしたらこのまま私達も襲われるかもしれない、そう警戒していると、少女は持っていたナイフを仕舞いじっとこちらを見てきていた。

 敵対する風でなくただ、見ていた。

 私はこれでも皇都の戦姫、眼を見れば相手が何を考えているかわかる位の洞察力はある。

 けれどその子供の眼は、虚ろだった。

 なんの感情も無い、ただただ虚ろ。

 目の前で鬼を倒した事だってもしかしたらただの気まぐれでこちらも殺されるかもしれない。

 けど、彼女は攻撃の意思を全く示していなかった。


 「言葉は…、わかるか?」

 「わかる。ミコトは交渉の為にあなた達を助けた。」


 涼やかな声だった。

 けれど、声にも感情が入っていなかった。

 無機質、それが一番妥当な言葉であろう。

 ミコトというのは彼女の名前だろうか?

 しかし交渉か…、交渉しようという意思があるならこちらと敵対する気は無いだろう。


 「こちらは命を助けてもらった身だ、最大限譲歩しよう。」

 「ここの該当座標、知識、研究道具の使用許可が欲しい。最低でも座標、知識が欲しい。研究道具は用意や権限が難しいと判断、出来うる限りで構わない。」


 知識と研究道具はわかる、それ位なら私の持つ権限でも多少融通が聞くはずだ。

 だが『ざひょう』とはなんだ?初めて聞く単語だが、理解が出来ない。


 「知識とはどの程度の物かわからぬが、皇都の図書館の閲覧許可、研究道具も私の権限で多少の用意は出来る。けれど『ざひょう』とはなんだ?初めて聞く単語で理解が出来ない。」

 「座標とは現在地の事、ミコトはこの地域の事を何も知らない。ミコトは天文学も修めているが見える範囲に該当する星座がない。現在地の把握は必須である。」


 まるで陰陽術師が使う高位の式神の様な喋り方をする少女だが、ここまで精巧な、それも人を模し上位鬼を倒せる式神など私は聞いた事が無い。

 けれど彼女が欲する『ざひょう』というものが理解が出来た。

 『てんもんがく』や『せいざ』などの、また不可解な言葉も出てきたがとりあえずあれだ。

 つまり彼女はこの辺りの住人でなく、ただたまたまここに居合わせた迷い子なのだ。


 「なるほど、ここは皇都高天原近郊の森、山鎚の森だ。ここから北上すれば皇都高天原に着く。命を救ってもらった恩もある、皇都までそなたを案内しよう。」

 「…わかった。ミコトはあなたに着いていく。」


 見た目はただの幼い少女だが、腕は確かだ。

 ただ多少無知なとこがあるがこの子供を連れ帰れば問題もあろうがそこは私がなんとかしよう。

 そういえば私は彼女に名前を名乗っていなかったな。


 「そう言えば名を名乗るのを忘れていた。申し訳ない。私の名前は天照比奈姫あまてらすひなひめと言う。」

 「ミコトの個体名称はA-007。ミコトの創造者達マスターはミコトをミコトと読んでいた。」


 『こたいめいしょう』というのも『えーぜろぜろなな』というのも『ますたー』というのもわからない単語だ。

 けれどミコトと言う名前、それはとても彼女を想ってつけられた名前である、そう感じた。

 誤字脱字など、ご指摘があったので修正しました。

 他にもあれば遠慮なく言ってください。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 新着の短編リストで見掛けて読ませて頂きました。 物語のプロローグとして続きが読みたいような出だしでした。 一言欄の書式に関しては、ご参考までですが、『なろう』で一般的な書式と思います。因…
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