08 今世の雨
学校が終わり校舎を出たコーウェンとアーヤの身体を、突然降り出した雨が容赦なく濡らす。季節外れの夕立だろうか、その雨の勢いは思いのほか強く、とどまるところを知らない。
隣を見れば、全身をずぶ濡れにしたアーヤが寒そうに身体を震わせていた。無理もない。季節は日本で言うところの春先だ。雨に打たれればまだまだ風邪をひく恐れだってある。
二人は現在下校中なのだが、両者の目的地は同じディスタート家だ。これは、コーウェンがアーヤに転生者の疑惑を抱き始めた時、意外にもアーヤの方から招待してほしいと言ってきた為だ。
彼女曰く『友達とは遊ぶもの』という理由らしいのだが、そんな日に限ってこの天候とは運がない。
そんなコーウェンだが、彼も全身に張り付く服を指でつまんだりと、不快さを隠そうとはしていない。
学校へと持参していた荷物を庇いながら、コーウェンはアーヤの身体を心配する。
「アーヤ大丈夫?」
「うん、でもちょっと寒い」
再度、身体を震わす。
「うーん、そうだな。雨宿りしよう」
「……雨止むの?」
「わからないけど、たぶん大丈夫だから」
コーウェンはそう言うとアーヤの腕を引き、目についた適当な建物の軒下へと移動する。そこは屋外廊下のようなスペースでとても広く、簡易的なベンチまで置いてある。
二人はそこへ腰かけると、先ほどまで自分たちが歩いていた大通りを見やる。石畳の道路を、大粒の雨が容赦なく叩く。水はけについてもしっかり考えて設計されたのであろう大通りは、よくよく見れば中央を最高にして小さく湾曲している。
外を歩く者は少ない。普段であれば大勢で賑わっているリグルドだが、今は数人が外套クロークを雨具代わりに行き来しているだけだ。
そんな耳を煩わす大きな雨音は、コーウェンとアーヤの間に沈黙を生んでいた。だが、特にそれが気まずいという雰囲気はなかった。
しばらくそのまま過ごしていると、唐突にアーヤが沈黙を破った。
「ねえ、ごめんね。こんな日に家行きたいだなんて言って」
「ううん、別にいいよ。そうだな……、家に着いたらお風呂に入りなよ」
「え、いいの?」
「うん、もちろん。風邪をひかれても困るからね」
「……ありがとう」
ディスタート家の浴槽はとても広く、十分に満足してもらえるだろう。こんな雨の日だ。おそらくメリファが湯を沸かしてくれているに違いない。
と、そこでコーウェンはあることを思いついた。
「ねえアーヤ、ちょっとごめんね」
「ん、何?」
「ちょっとね。嫌だったら言ってほしい」
コーウェンはそう言うとアーヤの髪の毛へと手をかざし、反対の手で髪の毛をすくった。そして、優しく指で髪の毛を梳かし始める。左手の掌に髪の毛を乗せて滑らせていき、右手をそこへあてがう。まるで美容師が行う“ブロー”のような動きだ。
そんな突然の行動にアーヤは照れくさそうな、それでいて訝しんだ表情を浮かべる。
コーウェンはそんな顔を極力見ないように努力しながら、その行為を続ける。
この光景を客観的に見ればとても奇妙なことこの上ないのだろうが、二人はまだまだ子供であり、そしてそれ以前の問題としてわざわざこんな視界の悪い日に注意深く観察している人など存在するはずもないのだから関係ない。
コーウェンの突然の奇行、だがコーウェンのことを友達として認めているのであろうアーヤは、それを黙って受け入れていた。コーウェンには白髪のようであまり好きではないと言っていた髪の毛だが、綺麗なのは事実で、それを触られるのは悪い気がしないのだろう。
その時、アーヤは自分の髪に起こった現象に気付いたようだ。
顔へとかかる髪の毛を指でつまみ、次は実際に後ろ髪を撫でる。そして、コーウェンの方を見て目を見開いた。
「ウェン? 髪が乾いてる?」
そう言うアーヤの視線は、コーウェンの右手へと注がれる。
コーウェンはそれを隠すことなく、アーヤの頬へと遠目にかざした。
「温かい……。これって、魔法?」
綺麗に切り揃えられたアーヤのもみあげを、コーウェンの掌から優しく放たれた温風が揺らす。
コーウェンはそんなアーヤの問いに微笑み、頷いた。
「凄い、魔法使えたんだ……」
「うん、少しね」
日本人として残っている謙虚さが無意識にそうさせたのか、コーウェンは控えめに肯定した。
それを聞いたアーヤはうらやましそうな目でコーウェンを見上げると、この年で魔法を使える異常さを問いただすわけでもなく、うらやましそうに口先をすぼめる。
「いいな……、私は魔法使えないよ。――実はね、六歳の誕生日にお願いして、魔法使いの人に適性があるか調べて貰ったことがあるんだ。でも結果はダメだった。まあ、お父さんもお母さんも魔法使えないから覚悟はしてたんだけどね」
「そうなんだ……。まあ、確かに魔法は適性がないと使えないからね」
「うん。それに比べてウェンってやっぱり凄いよね。頭が良くて、魔法まで使えるなんて……」
「まあ……そうだろうね。普通じゃないのは間違いないよ」
この年で魔法を使える異常さ、それはそれで間違いではなく、六歳児が魔法を使えるとなれば町中で噂されてもおかしくないほどだ。だが、それでも不可能ではないのだ。実際にコーウェンがまだ一歳になったばかりの時、コールとアメリアが、リグルドに住んでいる貴族の令嬢が幼くして魔法を使えるのが凄い、という趣旨の会話を交わしていたのを聞いていたことがあるのだから。
だが、コーウェンが使った魔法はもっと高レベルで、それなりに魔法の知識がある人間、もしくは魔法を実際に使える人間が見ればより驚くことだろう。
そもそも魔法とは、体外へと放出した魔力へ具現化したイメージを投影して発動する。
だから、イメージが複雑で強力なものほど具現化、投影に必要な魔力は膨大だ。
コーウェンが風魔法で起こした風はただの風ではなく、『温風』だ。そして、それをドライヤーのように掌から放出し続けた。つまり、魔力を垂れ流しの状態で維持していた、ということだ。
それらを鑑みるに、コーウェンはそれこそ六歳児には絶対にありえないほどの魔力を消費し続けていたことになる。
とは言えこれはそこそこの腕があれば不可能ではなく、なおかつ風の勢いをかなり弱めにしておいたおかげでコーウェンにとっては少し疲れた程度の消費なのだが。
そんな事情を知ってか知らずか、アーヤはコーウェンの顔を覗き込み小さく笑った。
「ウェンって優しいんだね。ありがとう」
突然話が変わったことに首をかしげると、アーヤはそれを察したのか、さらに続ける。
「だって、自分の髪の毛も濡れてるのに私のを乾かしてくれたじゃん。ウェンは乾かさないの?」
「ああ、うん、これはね……」
そこまで言うと、外へと視線を移す。
先ほどまでと変わらず、激しい雨が地面を叩いている。
コーウェンはただ、この寒さや匂い、感覚を味わいたかったのだ。思い出に浸りたかったのだ。
ずっと家に引きこもっていたコーウェンにとって、最後に雨に打たれたのは前世でのことだから。
「雨に打たれるのが久しぶりだったんだ。だからちょっと楽しいって言うか、普通に家に帰って、そこで初めて暖かい思いをしたいと言うか、そういうのにある意味趣を感じるって言うか――」
――その時、コーウェンの上昇した聴力が、激しい雨の中こちらへと近づいてくる足音を捉えた。
反射的にそちらへと顔を向けると、雨具を被ったメリファがこちらへと手を振っていた。いつも通りの笑顔で歩いてくる。
そんなメリファへと手を振りつつ、コーウェンは続ける。
「――こうやって、雨の中迎えがやってきて、一緒に帰るとか、そういうのが味わいたいんだ」
メリファが懐から出した大きめの雨具をアーヤと共に羽織ると、三人で手を繋いで家路を歩いた。
◆◇
「ふぅ、ありがとね。気持ちよかった」
ホクホク顔でそう言うアーヤは、湯上り直後で本当に幸せそうな顔をしている。
替えの服など当然持っていなかったアーヤだ。今はコーウェンの服を貸しているのだが、サイズがピッタリそうでなによりだ。
アーヤは、メリファから渡されたのであろう布製のタオルを首からかけ、ベッドの隣に置かれた椅子へと座った。
そんなアーヤの髪の毛はすっかりと乾いており、普段通りの艶と潤いが見て取れる。雨宿りの時にアーヤの髪を乾かした魔法は、普段メリファが風呂上がりのコーウェンに対して使用するものだ。だから、現在のアーヤもメリファに乾かしてもらったのだろう。
アーヤは背もたれに身を預けながら気持ちよさそうに伸びをすると、思い出したかのようにコーウェンに向き直った。
「ウェンはお風呂入らないの?」
自分だけが風呂に入った。それもこの家の主よりも先にだ。それに対しアーヤは罪悪感を抱いているのだろう。
コーウェンはそんなアーヤに良い印象を抱きはするも、悪く思うなんてことはなかった。――小さく首を振り、口を開く。
「服も着替えたし、暖はとったから大丈夫だよ」
「そっか……、でも本当はお風呂に入りたかったんでしょ? でもごめんね。――やっぱり、メリファさんの言う通りにしておいた方が良かったかな……?」
申し訳なさそうに言うアーヤに対し、コーウェンは激しく首を横に振った。
「そんなことないよ。いや、てか普通にダメだから」
――メリファの言ったこと、それを実行する気はどうしても起こらない。アーヤはまだまだ子供だが、転生者だと疑ってる時点でそんな選択肢が生き残る余地なんてないのだ。
――『コーウェン様、アーヤ様と一緒にお風呂に入ってはいかがですか?』
そう言い放ったメリファに悪気などなかったのだろう。六歳児である二人が共に風呂に入ることは、当事者同士が少し恥ずかしい思いをすることはあれど、客観的に見ればおかしな光景ではない。
だが、コーウェンは断った。理由は言わずもがなである。
だが、メリファは簡単には引かなかった。
全身ずぶ濡れのコーウェンがアーヤが風呂を開けるまでの間そのままの格好で待機しているなんてこと、コーウェン大好きなメリファが許すはずもなかった。
風呂に入るならば二人一緒に、入らないのなら今すぐ服を着替えて暖をとる。
メリファの言うことは正しいのだろう。だが、コーウェンは寒いのを我慢した後、風呂に入ることによって極楽を味わいたかったのだ。
結局、コーウェンはアーヤが風呂に入っている間、服を着替え暖炉の前に座っていた。
特別に風呂が好き、なんてことはないコーウェンだ。
身体の芯の芯まで温まってから風呂に入るなど、日課としての入浴以外では面倒なだけだった。
そんなことを思い出しながら、ふと思う。
アーヤはさっき、メリファの言う通りにしておいた方が良かったかな、とコーウェンに確認した。ということは、アーヤ自身は二人で入ることにそれほど抵抗はなかったのだろうか。
メリファがその発言をした時、アーヤは顔を伏せていて表情を伺えなかった。
(……アーヤは、俺がメリファの発言に対して頷いていたら……?)
コーウェンは首をかしげる。
アーヤを転生者だと疑うと同時に、彼女もコーウェンのことを転生者だと気付いていると思っていた。暗黙の了解でお互い何も言わないのだと。
だからこそ、中身が大人同士、一緒に風呂に入ることはありえないと思っていたのだ。だが、アーヤがコーウェンと風呂に入ることを嫌がらなかったらその前提は狂ってくる。
そうやって一人で首をかしげるコーウェンに対し、どう思ったのかアーヤが不安そうな表情を浮かべた。
「やっぱり……、ちょっと怒ってる? 私じゃなくてウェンがお風呂に入れば良かったよね」
「いや……、そうじゃないんだけど。ねえ、アーヤ――」
アーヤの目を正面から見据える。
「――今、僕に裸を見せることってできる?」
派生属性である氷魔法を無詠唱で発動するといった離れ業を見せたコーウェンは、生み出した大きめの氷を頬へとあてがった。
二人の間を気まずい雰囲気が漂う。
コーウェンが自分の失言に気付いたのは、セリフを言い放った後だった。そもそも、あの発言は転生云々関係なくダメだろう。
当然コーウェンには下心などなかった。ただ、自分の考えに裏付けがほしかっただけだ。
手を上げ、頬に触れる。――ジンジンと痛みが走る。
あの時の張り手は恐るべきスピードと威力だった。
いくら不意打ち気味だったとは言え、動体視力の上昇したコーウェンが避けられなかったほどだ。
(あれは転生を経験していない六歳児に許されたものではない……)
転生者ならば自分と同じように身体能力も引き継いでいるのではないか、そう思っていたコーウェンだ。予期せず、裏付けがとれた。
だが、なぜかコーウェンは嬉しい気持ちになれなかった。
「あの……、ウェン? 本当にごめんね? 突然だったから思わず……」
アーヤが申し訳なさそうに謝ってくる。今日一日で何度も見た表情だ。
「いや、こっちこそごめん。別に変な意味はなかったんだ」
「う、うん。わかってるよ。それなのに叩いたりしてごめんね?」
「……アーヤは何も悪くないよ」
何を言おうと、何度謝ろうと、アーヤは自分を責めているようだった。おそらく上昇した腕力で六歳児をひっぱたいたことに、事実以上の罪悪感を覚えたのだろう。
コーウェンは立ち上がり、窓際へと歩く。
コーウェンの自室は二階にあるのだが、ディスタート家の二階はかなり高い位置にあり、低めに設計された城壁の向こうを眺めることができた。
リグルドを出て少しのところに大きな森――北西の森が延々と広がっており、鬱蒼とした雰囲気が漂っている。視界のぎりぎり端にはこの町へと通じる街道が少し程度見えるだけで、それ以外は平原と森しか見えない。
このまま患部を冷やし続けていてもアーヤを不安にさせるだけだと判断したコーウェンは、開け放った窓から氷を外へと投げ捨てた。
やるせない思いからかなり遠くへと放り、その行方を眺める。
――その時、その先に不審な光を見た。
「おい、アーヤ!」
「ひゃっ、どうしたの? ごめんね? だから怒らないで?」
突然鋭い声を上げたコーウェンに、アーヤは何かを勘違いしたのだろう、間抜けな声を出し狼狽えている。
普段なら可愛らしいとも思えたのであろうその反応は、今では必要のない鬱陶しいものでしかなかった。
「違う、あれは魔法だ!」
「え、魔法……?」
アーヤの問いにコーウェンは答えない。
森の中、雨のせいで視界が暗いからかその光はよく見えた。そして、コーウェンの上昇した視力はそれを魔法だと判断したのだ。
魔物でも出て誰かが戦闘をしているのだろうか。だが、ここから森へは直線距離で二、三百メートル程しか距離がなく、そんな近辺で魔物が出るなんて聞いたことがない。
コーウェンの胸中を言いようのない不安が染め上げていく。
その時だった。――女の子のものだと思われる甲高い叫び声が聞こえたのは。
「あ、ウェン!?」
アーヤが叫ぶが、コーウェンの耳へと届いた時には既に窓から飛び降りていた。
地面へと衝突する直前、風魔法を無詠唱で発動し、勢いを失くした小さな身体は着地と同時に前転をし受け身をとった。雨によってぬかるんだ泥濘が容赦なく身体を汚すが、気にしている場合ではない。
無傷で自室の窓から飛び降りたコーウェンは、転がった勢いのまま走り出そうとするが、頭上から聞こえてきた声に思わず立ち止まる。
「ウェン! 私も!」
「わ、私も?」
コーウェンが上を振り向くと、アーヤが窓から身を乗り出して飛び降りようとしている瞬間だった。
制止しようとするがもう遅い。みるみる内にアーヤの身体が視界いっぱいに広がってきた。慌てて風魔法で勢いを殺し、受け止める。
様々な要因が重なった結果見事に受け止めることに成功したコーウェンだが、今の行動は容認できるものではなかった。
「アーヤ! 何やってるんだ!」
「ご、ごめん。でもウェンが悪いんだよ!? 突然怖い顔して飛び降りたら、普通心配するよ!」
自分の胸の中で怒鳴り返すアーヤに、コーウェンは一瞬怯む。
それを好機とばかりにアーヤはまくし立てる。
「それに魔法って何よ! ウェンのせいでまた濡れちゃったよ! それと受け止めてくれてありがとう!」
最早アーヤが何を言いたいのかわからない。だが最後にしっかりと礼を言う彼女に、コーウェンは思わず笑ってしまう。
そんなアーヤのおかげで少し冷静になったコーウェンは、自分の足元を見て、靴も何も履いてないことを思い出す。
「……そうだな。慌てすぎた。俺はこれから北西の森へ向かう。魔法の光を見たんだ。父さんや母さん、誰でもいいから呼んできてくれ」
突然変わったその口調は、簡潔に用件だけを告げる。
アーヤは驚きつつも、神妙に頷いた。
上昇した脚力が申し訳程度しかないコーウェンの体重を持ち上げ、前方へと弾けさせる。
腹直筋が収縮し、背筋に負荷がかかる。それと同時に全身を襲う浮遊感が、もの凄いスピードが出ていることを実感させる。
まるで早送りの映像を見ているかのような速さなのだが、その分顔に当たる雨粒は激しいものだった。町中で数人の通行人とすれ違うが、その顔を判別できるほど目を開けることはできない。
やがてディスタート家から一番近くにある出入り口――北門へと到着し、二十四時間開け放たれている大きな扉を通過した。
ここまで来れば森までは直線だ。
左手後方を見ると、堂々と建つディスタート家が見えた。
そう言えばリグルドを出るのは初めてだったな、とコーウェンは町の外から見る我が家の大きさに感心する。
だが今はそんなことを考えている場合ではない。思考を破棄すると、ラストスパートとばかりにスピードを上げた。
視界を覆う鬱陶しい雨の帳は、森へと入ることによって幾分か晴れた。
時刻はまだ夕方と言うには早すぎる時間だ。だが、鬱蒼とした森に重ねこの天候では十分に暗いと言える。
視力に頼ることを諦めたコーウェンは、耳を澄ませる。
ここまで近づけば声や音で簡単に目的地がわかると踏んでいたコーウェンだったが、木々を鳴らす雨音が邪魔でそう簡単にはいかない。
(くそ! ……ダメだ、冷静になれ)
全身を濡らす雨がより一層コーウェンを苛立たせる。
――悲鳴、叫び、怒号、戦闘音。
それらを必死に聞き分け、方角を探りながら近づいて行く。
やがて会話が聞こえるまでの距離までに近付いた。
「お前がこいつを殺したんだ! 大人しくしやがれ!」
「違う! 違う! 近づかないで!」
状況は理解できない。だが、間に入る必要は十分にあると感じられる内容だ。
コーウェンは声の在りかを完璧に把握し、そこへ飛び出した。
少し開けたその場所に女性――と呼ぶにはまだ早いくらいの女の子が一人、冒険者風の格好をした若い男が四人確認できる。
突然割って入った子供に対し、その五人全員の視線が集まる。
「何……やってるの?」
コーウェンは魔力を練りながら、そう問いかけた。