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プロミネンス・ストーリー  作者: 秋保 あかさ
4章 金の烏と玉の兎
37/67

36 久々の休息

 ふわふわとした頭で、コーウェンは考えていた。

 あの洞窟に満ちていた魔力のようなものは、いったい何だったのだろうか。

 見た目は魔力そのものであり自分以外には視えていないようだったが、決定的に違うと言える要因は、それを肌で感じられなかったというところだ。

 だからディーアとレベルには、その存在さえ知覚できないようだった。

 ――いや、答えは得たはずだ。

 あれは、戦闘中に魔法が発動しなかった――正確には、暴走を恐れ発動できなかった時のこと。

 あの時に気付いた。

 ――これは、正真正銘の魔力(・・・・・・・)だ、と。

 以前ディーアやテールの魔力を、“音も飛沫も上がらない滝のようだ”と思ったことがある。だが、洞窟で視たものはその程度のレベルではなかった。

 肌で感じられないほどに静かな、神秘的とも言える魔力――もし本当にあれが魔力ならば、全ての魔法使いが目標とすべき、圧倒的なポテンシャルを秘めていることだろう。エルフの国最高の魔法使いであり、十二英傑筆頭と言われるディーアでさえ、遠く寄せ付けないほどの魔力だ。

 そして同時に、コーウェンが追い求めていたものでもある。

 特殊魔法の習得のため必死に手に入れようとしていながらも、上手く理解することができなかった魔力。

 ――あれは、俺の……。

 その時、何故か思い出した。

 ――『そこにあるのは君のものだ。それは君だ』

 リグルドを出発する時に、アーヤから耳打ちされたセリフ。アーヤが前世で大切にしていた『赤いハンモック』という本の、見開きに記されていた文章だ。

 意味不明な文章で始まるそのページには、まだ続きがあるそうだった。

 その中でも、飛び切り不思議な文章を、アーヤは教えてくれた。

 ――『ところで、左目は無事か?』




 ◆◇




「――ッ!」


 夢に出てきた“左目”という単語に反応し、コーウェンは目を覚ました。

 額には汗が滲んでいて少し不快感を抱く。ふと、息が小さく乱れていることにも気が付いた。恐る恐る左目へと手を添えると、縦長に折られた布らしきものが巻かれていた。誰かが治療してくれたのだろうか? あまり痛みは感じない。

 ベッドで眠っていたコーウェンは、ゆっくりと上体を起こした。

 そこはどこかの家だった。白い壁に囲まれた部屋で、本棚や箪笥が並べられている。極普通の民家であり、特別なものは感じられない部屋だ。

 次第に覚醒し始める頭が、コーウェンに疑問を感じさせた。

 ――ここはどこだ? どうしてこんな場所にいる?

 最初は何も思わなかったが、ベッドで寝ているということ自体がおかしい。

 そんな様々な疑問を抱くコーウェンの耳に、部屋の扉を開ける音が届いた。


「やあ、目が覚めたようだね」

「シルバさん……」


 現れたのはシルバだった。見知った顔の登場に、小さくない安心感をコーウェンは自覚する。

 シルバはゆっくりと歩み寄ってくる。そしてベッド脇に置かれた椅子へと腰かけると、コーウェンの左目を見て口を開いた。


「大変な目に遭ったみたいだ。左目は平気かい?」

「……はい。シルバさんが治療を?」

「いや、私ではない。……そうだな、聞きたいことがたくさんあるだろう」


 そう前置きしたシルバは、様々なことを説明してくれた。

 まず現在地だが、ここはエルフの国であり、シルバたちが隠れ家として使用していた民家だそうだ。この部屋を出ると、以前コーウェンが訪れたことのある部屋へと辿り着く。

 次に、コーウェンが眠っている間に起きた出来事について。

 洞窟から脱出したディーアとレベルの下に、シルバが手配した兵士たちが合流した。彼らは、レベルが残した道中の痕跡から、三人の居場所を掴んでいた。

 そんな彼らでタイミングを見計らい、洞窟内へと侵入。そこで、気を失っているコーウェンを発見した。

 コーウェンの怪我は、兵士たちが用意した小型馬車の中でレベルとディーア、そして一人の衛生兵が治療した。その道中は兵士たちに護衛され、行きと同じ五日間で帰還を果たした。ここへと辿り着いてからは、まだ三時間ほどしか経っていないらしい。そして当のコーウェンは覚えていないが、帰りの道中では何度か目を覚ましていたそうだ。

 そして現在、ディーアとレベルは今もこの民家にいるらしい。レベル曰く、まだ仕事は終わっていないから、とのこと。

 コーウェンは、行きの道中でレベルと交わした会話を思い出す。

 今回の依頼満了の目安は、コーウェンとディーアがそう判断することによって成されるとのことだった。それに基づいて考えると、確かにコーウェンが眠っている限りは、条件が満たされることはない。あくまでも目安であり重要な意味は持たないと思われるが、どうやらレベルは想像以上に律儀な性格らしい。いや、今回の場合は人情深いと言った方が適切か。


 コーウェンは、親切に説明してくれたシルバへと頭を下げた。


「ありがとうございました。おかげで、少しずつ頭も冴えてきたようです」

「いや、礼には及ぶまい。とにかく君たちが無事で何よりだ」


 シルバはそう言うと、満更でもなさそうに微笑んだ。

 その時コーウェンはふと、重要なことを思い出した。


「あの……、今回の件はどのような扱いを受けるのでしょうか」


 その問いにシルバは顎へと手を添えると、「そうだな……」と呟いた。


「正確には、まだ検討している段階だ。コーウェン君の実力は今回の戦争でも証明されているし、ディーア・シルエットに関しては言うまでもないだろう。そんな君たちが満身創痍の状態で帰還したことからも、警戒レベルは高い。……敵は吸血鬼だとも聞いているしな」

「……倒れてる僕の側に、その吸血鬼はいましたか?」

「いや、そのようなことは聞いていない。……ただ、今後の方向性については決まっている。結論から言うと、その吸血鬼の討伐は見送られることとなった」


 その言葉に、コーウェンはホッとする。

 コーウェンには、アイズと会話をした後の記憶がない。シルバのセリフからも彼があの場から離脱したことは理解できたが、討伐隊など組まれたら堪らない。アイズの心配はもちろん、もし彼が本気で抵抗しようものならば死者だって出るだろう。

 アイズがどこへ行ったのか、今後会えるとしたらいつになることかなど、様々な懸念はあったが、一先ずは安心だ。


「……僕もその判断は正しいと思います。ただ、疑問もあります。危険があるとは言え、簡単に討伐が見送られるとは思えないのですが」

「ほう……。まるで、討伐隊を組んでほしいかのような言い分だな」

「え? あ……、そういう意味では」


 シルバのその言葉に、コーウェンは慌てて否定の意を示す。

 シルバはその反応を見て、「冗談だよ」と楽しそうに微笑んだ。


「ははっ、コーウェン君は覚えていないようだが、君が言ったのだよ。帰り道の馬車で、君はうなされるように何度か目を覚ましていた。その時にディーア・シルエットにお願いしていたそうだ。『アイズを傷つけないでくれ』とな。……アイズとは吸血鬼のことだろう? 名を知っていたくらいだから、二人の間に何かあったのはすぐに推測できた。両者ともが生きていたという事実もあるからな」


 シルバは「当然それだけではないが」と、説明を続けた。

 彼が言うにはこうだ。

 エルフの国防衛戦を経て、世間のコーウェンに対する評価は、本人の知らないところでかなり高いものへとなっていた。大勢の冒険者や兵士が証言しており、その存在は救世主としての貫録を損なうどころか、人々が思い描いていた以上のものへと昇華されていた、とのことだ。

 そんな背景があるからこそ、コーウェンの片目を奪った存在に対してシルバたちが警戒するのは当然の成り行きで、それはコーウェンが思っている以上に、重要な事実として参考にされていたようだった。

 ――敵は強いぞ。

 その認識はとてもシンプルであり、かつ多大な影響を与えた。

 要は、『コーウェンほどの人物に大けがを負わせるほど、その吸血鬼は強い』という状況で、『コーウェンの発言から、もしかするとその吸血鬼とは和解したのかもしれない』という推測・裏付けが出てきた。

 だったら、『こちらから手を出すなど愚かな行為だ』という結論に達したわけである。

 だからこそ警戒レベルだけを高めつつ、こちらからは手を出さないという方針が決定した。そして今後の具体的な行動については、現在も検討中。


 ――これが、コーウェンが眠っている間に決められた、今回の事件への対応である。

 コーウェンが頭の中で話の内容を整理していると、シルバがゆっくりと椅子から立ち上がった。


「さて……。私から話せることはこれくらいだな」

「はい、ありがとうございました。僕みたいな子供に色々と教えていただいて……」

「気にすることはない。確かに君は子供だが、私はそう見るべきではないと考えている。……君に失礼だからな」


 シルバは「私よりも話したい人がいるだろう」と言い残すと、そのまま部屋から出て行った。

 コーウェンはシルバの後ろ姿を見送ると、思い出したかのように左目の怪我へと手を添えた。

 ――やはり、痛みは大したことない。

 意識を失った後、眠っている間に何が起きたのかは理解できた。だが、それでも謎は残っている。

 コーウェンは考える。

 洞窟の大空間への入り口で見つけた、あの血痕は誰のものだろうか。

 そして、血痕の主が所持していたと思われる折れた剣。

 龍系種ドラゴンの生首と、それを作り出した何者か。

 エルフの国で出会った青年が、あの洞窟へと我々を導いた理由。

 そして、不自然に残された、全ての理想とも言える例の魔力――。


「……『赤いハンモック』の見開きも不思議だ。誰が書いたんだろう」


 コーウェンは、例の魔力を魔力として認識した時、それが自らの追い求めていたものと同じなのだと感じた。理解しようとして、結局理解できなかった自らの魔力。あれは、まさにそれだった。

 ――『そこにあるのは君のものだ。それは君だ』

 あれは、俺の……?

 ――『ところで、左目は無事か?』

 いや、無事とは言い難いな……。


「ははっ、何やってんだか」


 コーウェンは、記憶上の見開きページへと受け答えする自分に思わず笑ってしまう。

 だがそれでも、状況が一致しすぎている。だからこそ、それが頭から離れることはなかった。

 コーウェンは右手へと視線を移す。

 魔力を練り、指先から放出する。それは一秒よりも遥かに短い時間で成される。

 そこにあるのは、毎日視てきた自らの魔力だ。荒々しく、猛々しい魔力。一見強そうであり、事実強い者でしか生み出せない魔力。だが、裏を返せば、それは自らで魔力の質をコントロールできていないのと同義だ。“魔力の上質化”が上手く行えない、才能にものを言わせるだけの未熟者の魔力。

 ――こんなものじゃない。

 コーウェンは目を閉じ、イメージする。

 理解できなかった魔力を。

 追い求めていた魔力を。

 洞窟で視た、理想の魔力を――。

 まるで“魔力”という魔法を発動するかのように、“魔力”を魔力へと投影するイメージ。

 コーウェンはゆっくりと目を開けた。

 そこにあったのは――。

 九割方完成していたコーウェンの特殊魔法は、残すところ、自らの魔力を知ることだけだった。だからこそ、きっかけさえ与えてやれば、それは姿を具現(あらわ)す。


 ――ああ。


「ああ」


 ――理解した。


「理解した」


 コーウェンは、まるで放出した魔力を掻き消すかのように、右手を握りしめた。


「――俺は、特殊魔法を理解した」


 悟ったようなその呟きは、誰の耳にも届くことなく虚空へと消えて行く。

 その時、コーウェンの上昇した聴力が、扉の向こうの足音を捉えた。それは少しずつ、こちらへと近づいてくる。

 やがて扉が開かれると、ディーアとレベルの二人が姿を現した。

 二人は装備を解除しておらず、いつでも戦えるという格好をしていた。シルバが言っていた、現在も警戒中という言葉が妙に現実味を帯びるのをコーウェンは感じた。

 そんな二人はベッドへと歩み寄ると、所在なさ気に悲しそうな表情を浮かべた。


「ウェン……。すまなかった」


 ディーアは開口一番謝罪の言葉を紡いだかと思うと、目を伏せた。

 コーウェンは微笑む。


「なぜです……? 僕は、全員が無事に帰って来れて嬉しいですよ」

「だが……。私は、ウェンを護ってやれないばかりか、自らの我が儘のせいでレベルまで危険に晒すところだったのだ。謝っても謝り切れない」


 そう言うと、ディーアは視線を戻した。


「だが私は、ウェンが、そうやって優しい言葉をかけてくれるのをわかっていた。そして、それが気遣いなどではなく、心からの本音だということもわかっている。今更謝っても意味がないことも、よくわかっている。……それでも私は償いたいんだ。だから、今は私が悪いと、そう認めてほしい」


 その声は、いつも通りの凛々しく力強いものだった。

 コーウェンは狼狽えつつ、レベルへと視線を向ける。その視線に気付いたレベルは、やれやれ、とでも言いた気に優しく微笑むと、小さく頷いた。


「……わかりました。確かに、僕は最初に言った通りあなたを護ることができて満足でしたが、それでもやっぱり怪我はしたくありませんでした。だから、ディーアさんが悪いです。……誓ってください。どんな方法でもいいので、いつか償うと」

「ああ……、ありがとう。誓うよ。いつか必ず償うと」


 ディーアは腰へと片手を添えると、「よし」と呟いた。吹っ切れたような表情を浮かべる彼女は、正真正銘いつもの雰囲気に戻っていた。

 そんなディーアを見て嬉しくなったコーウェンは、落ち着かないとばかりに布団を押し退け、ベッドから這い出た。

 長時間眠っていたことから、下半身には覚束なさが残っている。そんな違和感を抱えつつも歩き出そうとしたコーウェンは、突如左目の疼きに襲われた。ズキズキ、と刺激してくるその痛みに、彼の小さな身体がよろめいた。


「おいっ、大丈夫か?」


 傍にいたディーアが、咄嗟にコーウェンの身体を支えた。


「すみません。さすがに、動くと少し痛むようです」

「……あまり無理はするな」


 ディーアは、ベッド脇の椅子へとコーウェンを座らせた。

 その様子を見ていたレベルが口を開く。


「ディーアさん、もう一度、彼にあれを……」

「……ああ、そうだな」


 そう答えたディーアは身体を屈めると、コーウェンの額へと手を添えた。しばらくすると、ひんやりと気持ちの良かった彼女の掌が、少しずつ温かくなっていく。

 ――“あれ”って何だ?

 という疑問を浮かべつつ、コーウェンはされるがままに身を預ける。


「もしかして、魔力……ですか?」

「ああ、そうだ」


 肌を包み込むその感覚は、身に覚えのあるものだった。

 それは徐々に、額から体内へと流れ込んでくる。以前、魔法適正の有無を確かめるために、メリファが両手から魔力を流し込んできたことがあった。あの時は魔力に過剰に反応し痛みを感じたが、今回はそのようなことはなく、寧ろ気持ちの良い刺激が全身を駆け巡る。

 時間にして五秒程だろうか。

 やがてディーアは手を放すと、満足したようにコーウェンの頭を撫でた。


「終わりだ。気分はどうだ?」


 そう言われて、コーウェンは身体が少し楽になっているのを感じた。

 眠りすぎて気怠さのあった身体が、心なしかシャキっとしたように思える。比較的質の良い睡眠を取った直後のような、その程度の微々たる恩恵だが、確実に体力の回復を実感する。

 地球で一度だけ経験したことのある、酸素カプセルで得られる効能をコーウェンは思い出した。


「これって……」

「ふふ、言ってなかったな。私の魔力は、少しだけだが回復効果が望めるんだ」

「え、凄いですね」


 ふと、コーウェンはリグルドでディーアと交わした会話を思い出す。

 魔法というのは、個人がそれに抱く印象によって効果や威力が左右されるのだが、魔力の上質化が進むにつれその差が顕著に表れると言われている。

 コーウェンは、魔法に抱く印象を『幻想的な異能力』のようだ、と言った。

 メリファは、『便利すぎる道具』と。

 ネイルは、『精霊から借りる力』と。

 そして、ディーアは『生命エネルギーの活用(・・・・・・・・・・)』と――。


「……なるほど、本当に凄いです。ありがとうございます」

「いや、私の負担は大したことないからな。それに、他人の魔力を身体に流し込むわけだから、多用しすぎると良いことばかりではない」

「いえ、そんなの関係なく嬉しいです。……あっ――」


 そう言えば、とコーウェンは考える。

 この前の戦争で、短い睡眠にかかわらず寝起きの体調が優れていた、ということがあった。


(そうか……。あれもディーアさんが)


 コーウェンはディーアへともう一度礼を言うと、今度こそとばかりに立ち上がった。

 再び左目に痛みが走るが、予測できたこと、先ほどよりも足腰の違和感が少ないことから、よろけたりすることはなかった。


「おい、まだ動くな。怪我が治ったわけではないのだろう?」


 だが、ディーアはそう言うと、再びコーウェンを椅子へと座らせた。


「……でも、もう動けますよ」

「わかっている。だが動くなと言っているんだ。大体、立ち上がってどこへ行くつもりなんだ?」

「えっと……、行きたいところはないんですが……」

「ほら、だったらダメだ」


 何故だか、ディーアは譲ろうとしなかった。

 そんな頑なな彼女に助け舟を出すかのように、レベルが口を開いた。


「コーウェンさん。今は安心して、ここで休んでいてください。我々がいなくても、ここの警備は頑丈です」

「……そうですか。でも、少し申し訳ないです」

「ははっ、気にすることはないです。警備に就く者たちも仕事でやってますので。あっ、それとも彼らの力では不安ですか?」


 レベルは冗談だとわかる口調で言うと、小さく笑った。


「いえ、そんなことは」

「安心してください。今現在、ここの戦力は途轍もないものですから」


 レベルはそう言うと、自信満々といった口調で続ける。


「先日、冒険者についての説明をした際、『冒険者は一度受けた依頼を完遂する義務がある。例え、自腹で別の戦力を雇うこととなっても』という趣旨の説明をしたことがありましたよね。だから私は、ここへ帰ってきてから知り合いの冒険者を二人雇ったんです。……戦争が終わったことを知らず、帝国から駆けつけてきた二人組なのですが」

「……その二人が、今ここに?」

「そうです。その二人と、元々レイジェルド卿を『グリムガム』から護衛するために集まっていた人たちが、ここを護っています」

「そう、だったんですか。後で挨拶しておかないと」

「そうですね。それが良いかと。話を聞くだけでも勉強になると思いますよ。なんせ、二人とも“十二英傑”ですから」

「……えっ?」


 突然レベルが投下した爆弾に、コーウェンは間抜けな声を上げた。

 レベルは、まるで悪戯が成功した子供のように肩を震わせると、扉へと歩を進めた。


「では、外の警戒は十分過ぎるくらいだとわかってもらえたと思うので、どうぞゆっくりと休んでいてください。ディーアさんが、コーウェンさんと二人で話したいと言っていましたし」


 最期にそれだけを言い残すと、レベルは小さく頭を下げて退室した。

 コーウェンは、話があるらしいディーアへと視線を移しつつ、警備の全容を思い浮かべた。


 ――エルフの国の兵士たちで編成された護衛隊。そこへ特群の兵士が五人。

 ――シルバが長期契約で雇っている凄腕の冒険者。これはおそらく、ゼファーのことだと当たりを付けている。

 ――そして、レベルがつい先ほど雇った十二英傑が二人。


 それだけではない。

 ダメ押しとばかりにディーアやコーウェン、レベルに、未だ姿は見せないがこの民家にはネイルもいるのだ。

 ――戦争ができそうだ……。

 などと、コーウェンが頭の中で呟くのも無理はなかった。


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