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プロミネンス・ストーリー  作者: 秋保 あかさ
3章 エルフの国防衛戦(下)
30/67

29 因果の剣士

 最初に知覚したのは、魔力の多量消費だった。

 激しい運動をした翌朝に筋肉が痛むのと同じように、その身を流れる魔力が万全でないことを脳が訴えかけて来る。

 ゆっくりと瞼を開けると、見覚えのない天井が視界に入って来た。どこかの小屋か何かだ。軽く眼球を往復させ、壁の上の方に設置された窓から明かりが漏れているのに気付く。対面側の壁へと確実に光を届けており、室内はなかなか明るいと言える。

 どうやら、雨は既に止んでいるようだ。


「朝、か……」


 脳が覚醒して来ると共に、コーウェンは自らが眠っていたことを悟った。

 昨夜、戦場からの帰還を果たした直後に、ディーアへと身体を預けた辺りからの記憶がない。あの時の疲労具合を考えれば、昼を大幅に過ぎていると言われても納得できる。

 横から抱き付いてきている腕をディーアのものだと確認したコーウェンは、その腕を優しく退けると、伸びをしながら上体を起こした。

 その時、身体に違和感を覚える。

 ――身体が軽い。

 昨夜の戦闘により多量の魔力を消費し、同時に戦場を駆け回り精神的にも肉体的にも満身創痍だったはずだ。実際に魔力は万全とは程遠い。だがそれがどういうわけか、身体だけは不自然に軽いではないか。夜早く寝床へと潜り込みメリファの挨拶と共に早起きをする、そんな日常とまるで変わらない、とても清々しい気分だ。

 まさか何日間も眠っていたなんて落ちではないだろうなと考えるも、そんなわけあるかと、コーウェンは深く考えずにベッドから降りた。

 真っ先に目についたのは、床に並べられた二人分の装備だった。魔物のものであろう血が大量に付着しており、乾いたことによってそれは赤黒くひび割れている。

 おそらくディーアが脱がしてくれたのだろう、今更になって、自らが昨夜とは違う格好をしていることに気付く。

 軽く手入れでもしようと装備を持ち上げた時、ガチャガチャという音に反応したのか、背後から可愛らしい小さな欠伸が聞こえて来た。


「ん……、もう起きたのか? おはよう」

「はい、おはようございます、ディーアさん」


 振り返り声の主へと挨拶を返すと、ディーアは目を擦りながら薄い掛布団を持ち上げた。


「……もう少し寝たらどうだ?」

「もう少しって、……戦わなくてもいいんですか?」


 健気に首を傾げながら問うコーウェンから視線を逸らすように、ディーアは持ち上げた掛布団を再び身体にかけた。「私の気持ちも知らずに……」などという小さな声を、コーウェンの上昇した聴力が捉える。


「どうせ魔力を消費し過ぎて、昨日みたいには戦えないのだろう? ……戦場になど、連れ出せるわけがない」


 いったいどうしたのだろうか。弱々しく紡がれるその言葉は、少しばかり不機嫌な印象を抱かせるものに変わっていた。

 そんなディーアの様子に対し小さな不安を感じたコーウェンは、手に持っていた装備を床に置くと、努めて平静を装いながら口を開いた。


「……確かに魔力は万全ではないです。でも不思議と身体は軽いですし、そもそも僕たちだけ待遇が良すぎますよ。少なくとも、二度寝をするつもりはありません」


 そう言ってから、コーウェンはここがシルバの手配してくれた小屋なのだと思い至った。

 そんなコーウェンの胸中とは別に、ディーアは体勢を仰向けに変え、しばらく何かを考えるかのように天井を見つめていた。やがて、窓から入り込み対面の壁を照らしている日光を指差し、口を開いた。


「……太陽の位置が低い。まだ早朝だという証拠だぞ」


 コーウェンはその発言に促されるように、ディーアが指差す窓へと視線を移す。

 確かにそうだ。この小屋は決して広いものではないが、それでも窓から入り込む日光が対面する壁を十分すぎるほどに照らし出しているのだから、その角度を鑑みても太陽の位置は低いと言える。故に、早朝だ。

 ――だが、それがどうかしたのか。

 そう言いたげに首をかしげるコーウェンを一瞥したディーアは、呆れたとでも言うかのように小さく息を吐いた。


「あのなウェン、私たちが戦場に出た時には既に辺りは暗かっただろう……。では聞くが、私たちは昨日どれだけの時間戦っていた?」


 そこまで聞いてから、コーウェンはようやくディーアの言いたいことに気が付いた。

 夜に開戦し、数時間戦場を駆け巡り、夜に帰還した。つまり――


「え……と、僕ってどれくらい寝てたことになりますか?」

「……おそらく、一時間と少しくらいだ。私も似たようなものだから眠たくて堪らない」


 魔力は例外とするが、起床直後から異様なほどに体調が優れていた。その為に気付かなかったのだが、戦場からこの駐屯地へと帰還した頃にはとっくに日付が変わっていたのだろう。夜に寝て早朝に起きた――ではなく、早朝に寝て早朝に起きたというわけだ。

 ディーアの、欠伸を噛み殺す声が聞こえて来た。

 昨日の戦いぶりや疲労具合から考えて、おそらく招集がかかるのは昼前くらいだろう。


「ん……、私も起きようかな」


 ディーアはそう呟くと気怠そうにベッドから足を降ろし、上体を持ち上げた。

 寝起きの髪の毛を撫でつけるディーアを見て、コーウェンは破顔する。


「何だかんだ言って、一緒に起きてくれるんですね」

「……当然だろう。あまり寝顔は見せたくないからな」


 などと言いながらも心底眠たそうにしているディーアに、コーウェンは若干の罪悪感を抱く。

 そんな思いを感じ取ったのか、ディーアは優しくコーウェンへと微笑んだ。


「昨日は何も食べていないからお腹が空いただろう。何か食べる物を貰って来てあげようか?」

「あ、それなら僕も一緒に行きます。少し外の空気に触れておかないと、いざ戦場へと出る時に気が委縮しちゃいそうですし」


 リグルドで初めてディーアから戦争の話を聞かされた時、コーウェンの胸中は闘争心で溢れていた。どういうわけか自らにとことん都合良く前世からの身体能力を引き継いだこの身体なのだが、その強さ、経験を他人の為に活かせる、それと同時に転生して来た隼人としての存在意義を示せるような気がしたからだ。

 だが、やはり戦争は戦争だった。

 気を付けていれば、死ぬことはおろか大きな怪我ですら心配する必要はないだろう。それが昨日の一日で実感した自らの強さだ。

 それでも周りの人間は死ぬし、自らが手にかける魔物にだって意志はある。

 戦場は鉄の匂いがすることを知ったし、時間が経ちその匂いが気にならなくなったことにも気が付いた。

 魔物の侵攻から一国を護る、などという大義名分を掲げていた為に忘れていたのかもしれない。これは、日本人として、地球人として、あれほどまでに嫌っていた戦争(・・)なんだぞ、ということを。

 それを経験してしまった今としては、やはり少し怖いのだ。

 隔絶されたこの空間でディーアと共に温かい時間を過ごしていると、戦場への一歩が踏み出せなくなりそうなほどに。


「それに、少し外の様子が気になります」

「ん? どういうことだ?」

「いや……、少しですけど、騒がし過ぎやしませんか? それとも駐屯地ってこれくらいが普通なんでしょうか?」


 言われてみれば、とディーアは外へと意識を傾けた。確かに男たちの野太い声が聞こえる。

 そんなものだと言えばそれで間違いなく、起床直後から耳が勝手に拾っていたこの音に対して何も関心を抱くことなく、無意識に聞き流していたことについてもおかしな点はない。

 だがこの小屋は、一つの都市とでも言えそうなほど広い駐屯地の、かなり奥へと設けられているのだ。

 それを新たな情報として鑑みれば、この声は、昨夜戦場から帰還を果たした時のあの歓声に匹敵、またはそれ以上の大音量で紡がれていることになるではないか。

 ディーアは訝しげに腰を上げると、服装を簡単に整え、コーウェンの足元に置かれた自らの装備へと手を伸ばした。


「すまない。ウェンも準備をしておいてくれ」

「……? ……わかりました」


 ディーアの疑念を鋭く感じ取ったコーウェン。

 小さな緊張感に包まれながらも慣れた手つきで装備を整えていく二人の耳に、小屋の扉をノックする音が届いた。


「……どうぞ」


 ディーアが装備の装着を終えると同時に入室を促すと、開け放たれた扉の前には、昨日と同じ格好をしたゼファーの姿が見て取れた。

 その両手には三人分の食糧――堅そうなパンと少量の干し肉を持っている。


「二人とも起きたか。準備も出来ているようだな」


 もう出陣か、と二人が首をかしげていると、ゼファーは小さく笑いながら朝食を配り始めた。


「まずは腹ごしらえだ。食え。そしてその後は――」


 ゼファーは自らが入って来て開けっ放しになっているドアを一度後ろ指に指すと、その手を握り込み、拳をこちらへと突き出した。


「――凱旋だ」




 ◆◇




 駐屯地からエルフの国へと凱旋を果たしたコーウェンは、メインロードを小走りで駆け抜けながら思わずため息を吐いた。

 展開が急すぎる。

 三人で朝食を食べながらゼファーから聞かされたのは、コーウェンとディーアが眠っている間に戦争が終結したという、あまりに唐突で信じ難い話だった。なんでも、絶え間なく流れ込んで来ていた魔物の群れがある時を境にピタリと止み、最終的には引き返す魔物の数が押し寄せる魔物の数を上回ったとのこと。

 それを好機と捉えた特群は、部隊自らが戦場へと降り立ち魔物の殲滅を開始。僅か一時間でこれの制圧を完了した。

 そんな話を聞かされ慌てて飛び出して来たコーウェンとディーアだったが、確かに戦場には累々と魔物の死体が積み上げられており、昨夜の大軍勢は跡形もなく消え失せていた。

 この場――エルフの国への帰還ルートも確保されており、辺りは終戦を喜ぶ民衆で溢れかえっている。


「ディーアさん……、こんなのって、あり得るんですか?」


 剣を掲げながら喜ぶ冒険者や、そんな彼らに酒らしきものを配っている女性を眺めながらのコーウェンの問いは、先ほどから微塵も衰えぬ疑念を多分に含んだものだ。

 コーウェンの隣を付いて来ていたディーアもまた、信じられないといった表情で口を開く。


「普通は……あり得ない。だが敵が魔物だということもあり、我々の常識では判断が難しい……。単純に魔物の数が底をついたってわけではなさそうだ」

「……僕もそう思います」


 ディーアの言い分にはコーウェンも納得だ。

 これほど大規模な侵攻があったのだから、それには大本となる明確な理由があったはずだ。それを解決しない限りは説明が付かない――話を聞く限りでは、そんな終結の仕方だ。


「……まあ、素直に喜びたい気持ちもあるんですが……」

「わかっている。それだと長老の予知に説明が付かないと言いたいのだろう?」


 ディーアの問いかけに、コーウェンは無言で頷いた。

 先ほど普通の終結の仕方ではないと言ったが、そう判断した根拠は他にもある。長老の特殊魔法についてだ。

 エルフの国の長老――テール・ティークスの予知では、コーウェンがこの国の救世主となる――正確には、『コーウェン・ディスタートを連れて来る』という最善策が導き出された。にもかかわらず、その当のコーウェンが行ったことと言えば、本来なら助からなかった部隊を無事に生還させたということくらいだ。当然これも立派な功績であり人命を多数救えたのだからコーウェンも満足だったのだが、その行動が戦争を終結に導く鍵となったかと問われたら答えは否である。

 それに、その予知では国の危機だと言わしめたほどの大侵攻だったはずだ。

 当然此度の戦争はとても巨大なものだったが、この場にコーウェンがいなかったとしても、彼らは自力で魔物群を打ち破れただろう。

 ならば最善策は『コーウェン・ディスタートを連れて来る』ではなく、『各国が結束してこれを迎え撃て』となったはずだ。


「解せない……。私たちの知らないところで、想定外の何かが起きているのか……。いや――」

「ええ、そういうわけでもないと思います。それだと、その“何か”は、長老の予知を掻い潜って発生したイレギュラー中のイレギュラーだということになります。あり得ないです……よね?」

「ああ。だとしたら、『コーウェン・ディスタートを連れて来る』という予知に従った結果、ウェン以外の誰かが戦争終結の鍵となる行動を起こしたと考えた方が現実的だな」

「ええ、おそらくそれで正解だと思います」


 冷静に考えてみれば、『コーウェン・ディスタートを連れて来る』という予知があったからと言って、コーウェン自身がこの国の救世主となるとは限らないのだ。

 コーウェンがこの国に来ることによって行動が左右された人物が他にいて、結果的にその人物の行動が戦争を終結に向かわせた、そういう可能性だって十分すぎるほどにあった。

 ディーアやコーウェンはもちろん、予知をした長老本人ですら盲点だったに違いない。


 コーウェンは、これ以上考えても無駄だなと、思考を切り替えることにした。

 別に、救世主と言われて舞い上がっていたわけではない。その救世主が自分ではないとわかって悔しいわけでもない。ならば、ここはやはり素直に喜ぶべきだろう。

 隣に立つディーアの手を握ると、優しく微笑み合った。


「一先ずは」

「ああ、一先ずは、これで落ち着けるな」


 たった一言ずつ交わしただけなのに、その瞬間コーウェンの身体の奥底から、とても強大で巨大な感情が複数湧き上がって来た。

 ――安心感、達成感、優越感。

 それはディーアも同じだったようで、握り合う掌に力がこもって来たのを感じる。


「ウェン、本当にありがとう。お前と出会えたことに感謝する」

「僕もです。訪ねて来てくれてありがとうございました。きっかけは戦争ですが、僕はディーアさんと出会えて良かったと、そう断言出来ます」


 コーウェンは少し気恥ずかしくなり、微笑みながらも小さく俯いた。

 戦争に勝利した直後に子供と大人が喜び合っているだけであり、周りの者たちにも二人を気に留めた様子は見受けられないが、それでも歳の差さえ小さければラブシーンと言っても憚らないような状況だ。

 改めて自らの状況を客観的に判断したコーウェンは、恥ずかしそうに周囲へと視線を彷徨えた。やはり変わらず二人を気にする者はいない。

 だが、コーウェンの視線は一人の青年へと吸い込まれるかのように止まった。

 何故だかはわからない。不思議な雰囲気を感じ取っただとか、特別な何かを見ただとか、そんな曖昧な表現でしか説明出来ないこの感覚は、この人生で二度目の経験だ。

 同時に、その青年もコーウェンの視線に気づき、こちらを見た。

 後ろで束ねられ前方へと流しているその長髪は、様々な色を反射しており、透明に近い髪色なんだと推測出来る。

 とび職のような恰幅の広い真っ黒な衣装の上に白いマントを被せており、腰には刀と呼ばれる片刃の武器が差されている。それは刀背の部分が沿っている特異な形状をしており、大きさは百七十センチの後半程であろう青年の身の丈に匹敵する。

 ――特長の日本刀。

 そんな言葉が頭を過ると同時に、コーウェンが感じていたのはアーヤを初めて目にした時のデジャヴ――何か特別な、普通じゃないという根拠のない確信だった。


「ウェン? どうかしたのか?」


 ディーアの声が聞こえたが、コーウェンは青年から視線を離さない。

 青年は自らを眺め続けるコーウェンに興味を示したのか、ゆっくりとこちらへ近づいて来た。


「あなたは、いったい……?」


 コーウェンは思わず、そう問いかけた。隣に立つディーアからは怪訝そうな視線を感じる。

 突然の問いかけに対し歩みを止めた青年は、考える素振りを見せずに言い放つ。


「――魔導師の友だ」


 飄々と軽い口調で即答した青年に対し、ディーアは眉根を寄せた。


「魔導師? ファウリッド・ミーレスのことか?」


 その問いに、青年は小さく微笑むだけだ。

 青年は突然話しかけられたことに全く戸惑いを見せず、コーウェンへと視線を固定する。


「救世主様だね。……君は、『キンウギョクト』を知っているかい?」

「……。何のことかわかりません」

「……そうか。だったら仕方ない」


 会話が会話として成立しない。

 それでもコーウェンは、何か言いたいことを見つけるかのように言葉を探した。

 この不思議な青年は、もしかするとアーヤに匹敵するくらい特殊な存在なのかもしれない。やはり変わらず根拠はないが、それでももう少し言葉を交わしておきたかった。

 そんな思いを感じ取ったのか、再び青年が口を開く。


「君は今、知りたいことがたくさんあるんじゃないか? 例えば、『コーウェン・ディスタートを連れて来る』という予知の本当の意味と、コーウェンがエルフの国を訪れたことによって行動を左右され、終戦の鍵となった人物について、とかさ」


 ――何を言っているんだ。

 コーウェンとディーアは、おそらく同時にそんな言葉を心の中で叫んだことだろう。

 偶然目に留まった不思議な青年。そんな彼が飄々と言い放ったのは、先ほどまで二人で議論を交わしていた内容そのものだったからだ。――本当に偶然なのだろうか、こいつは何者なのか、魔導師の友とはどういう意味なのだろうか。

 様々な疑問と同時に不気味な思いが湧き上がって来るが、一つ言えることがあるとすれば、この青年は重要な何かを知っているということだ。

 唖然としながら何も言い返せないコーウェンとディーアを交互に一瞥すると、青年はすれ違うように二人の間をすり抜け、去って行く。

 その時の、彼の耳打ち。

 ――『知りたいのならここを訪れるべきだ。そうしないと、君は間違いなく後悔すると思うよ』

 同時に手中へと忍び込まされた、一枚の紙。

 コーウェンはその間、何も動けずに青年の話に耳を傾ける形となってしまった。


「今の男……、知り合いではなさそうだが……」

「ええ、今のが初対面です。……それよりも――」

「ああ、気になるのはそれだな」


 ディーアが指差す先は、コーウェンの手に握られた例の紙だ。

 促されるように中を開けると、そこにはエルフの国と、その周辺地域を簡易的に表した地図が書き込まれていた。その中央から上――エルフの国の遥か北側に一つの目印が付けられている。方角だけを見ると、それは今回の戦争で魔物の軍勢が姿を現した方向と一致している。

 ――やはり、彼は何かを知っている。

 そんな確信を抱くと同時に、コーウェンの鼓膜へと聞きなれた声が届いた。


「ウェン君!」


 弾かれたように視線を向けると、そこには袖と裾をひもで縛り動きやすそうな格好をしているネイルの姿があった。

 彼女は軽い足取りでコーウェンへと歩み寄ると、「終わったね」と微笑む。


「ああ、終わった。――それよりも、一人で出歩いて平気なのか?」

「うーん、本当はダメなんだけど、今回は偶然、お父さんの隠れ家の二階から二人の姿が見えたから」


 そこまで言ってから、ネイルは二人の背後を確かめるようなしぐさを見せ、苦々しく微笑んだ。


「それで、さっき話してた人って……」

「ああ、不思議な雰囲気をしてたから、少し話しかけただけだよ」

「いや、そうじゃなくて、ね……」


 変わらず苦々しく呟くネイルに対し、コーウェンは首をかしげた。


「どうしたんだ?」

「あの、ね……。実はさっきの人、私知ってるんだ。不思議な人だったから、よく覚えてるんだけど――」


 そんな衝撃的な告白と共にネイルの口から放たれた言葉は、コーウェンに二年前のとある事件を思い出させた。その奇妙な繋がりと関係性にコーウェンは素早く後ろを振り向いたが、当然ながら、目的の人物は既にその場から姿を消した後だった。


 ――『あの人、二年前のあの日、私を森へと攫って行った人なんだよね……』


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