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プロミネンス・ストーリー  作者: 秋保 あかさ
2章 エルフの国防衛戦(上)
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15 十二英傑

 十二英傑とは、十二年前――コーウェンが生まれる四年前――に王国を襲った、炎龍という龍系種(ドラゴン)に分類される魔物に対して組まれた討伐隊のことだ。元々は王国の軍隊が倒しに向かったのだが、目ぼしい対策がなかったために物量だけで挑むという愚策にはしってしまい大敗。それに教訓を得た結果、役割分担を定めた少数精鋭の部隊で挑むこととなった。だが、一つの軍隊にそんなに都合良く強者はおらず、それに加え個性まで求めたら余計に人材など見つからなかった。

 そこで頼ったのが冒険者だった。そもそも冒険者組合には国家間の隔たりはなく世界中の人間が所属しているので、人材という意味ではこれ以上ないほどの頼り手だった。

 そして、炎龍についての情報を集め審議した結果、組合は十二人のパーティで挑むのが得策と考えて世界中から強者を集めた。

 その時に声をかけられた十二人の内の二人がコールとディーアだった。

 組合が定めた役割はポジション化され、“席”という呼び方が定着した。そして、コールは遊撃剣士席(ジェネラル)という役割を与えられ、仲間と共に戦地へと赴いた。

 この時のコールは弱冠二十一歳で、十二人の中では断トツで最年少だった。だからこそ最弱と言われていたが、ディーア曰くその戦闘センスと才能は一、二を争うほどだったらしい。そして、十二人の中で唯一剣士の役割を与えられた人物だ。

 炎龍は全長で十メートルを超えておりそれでいて動きも速く、本来ならば剣士は使い物にならない。だからこそ、コール以外の討伐隊の中に近接攻撃を任せられた者は存在しない。

 ではなぜ、コールだけは剣士として迎え入れられたのか。

 それが、昨日の技と深く関係している。


 ――コール・ディスタートは、世界で三人目の特殊魔法の使い手。


 エルフの国の“テール・ティークス”、現選定魔法導師の“ファウリッド・ミーレス”、そして十二英傑の“コール・ディスタート”。この三人が世界で確認されている特殊魔法の使い手だ。

 元々コールは、とんでもない量の魔力を持って生まれてきた。だが、運命のいたずらか魔法適正がほぼ皆無だったのだ。だから魔法は使えない。

 だが、魔力を磨くことはできた。

 本来魔法適正とは、魔法のイメージ、具現化、投影にかかわる才能のことだ。だから魔法適正がなくとも魔力を練ることだけならば可能なのだ。

 そこで目をつけたのが、特殊魔法だった。

 特殊魔法は魔力の質が最重要視され、能力があらかじめ決まっているだけに具現化や投影を必要としない。だからこそ、コールはこれを修得できた。

 とは言え、適性のなさが全く関係しないというわけではなかった。コールに限り本来通り、多量の魔力を消費するだけで発動、とはいかなかった。その『魔力を消費する』という行為が上手くできないからだ。だからこそ、コールは魔力を放出するだけという、魔法使いならば誰でも簡単にできる行為に長い詠唱を必要とした。当然それだけでは強くなれないから、同時に剣術にも手を出した。この時に学んだのが翠伝流だった。つまり、本当にかじっていただけなのは一心流の方だったというわけだ。


 だが、コールは多量の魔力の他にも抜群の戦闘センスを持ち合わせていた。

 そこで彼が編み出したのが、『剣の動きを詠唱の代わりにする』という技だ。これはコールにしか成せない技であり、それを見た何人もの人間が挑戦したが誰も成功しなかったらしい。そして、それは当時の討伐隊も例外ではなかった。

 コーウェンがメリファに魔法を教えてほしいとせがんだ時、魔法について彼女は言っていた。『詠唱や特定の動作を挟むことによって発動するもの』と。それをコールは利用し、その特定の動作というものを剣術に当てはめたのだろう。

 戦闘中の剣筋、その手順、繋ぎ目の奇妙な空白、あれらは全て魔力を体外へ放出するための――特殊魔法を発動するための詠唱代わりだったというわけだ。

 そして、最後の一撃がコールの特殊魔法『付与』。

 これは特定のものに一つの現象を与えられるもので、好きにいつでも発動できるという軽い制限の代わりに、今後一切能力について変更できないといったものだ。

 本来ならば魔法に別の属性や特殊な効果を与えたりするものらしいが、魔法を使えないコールには意味がなかった。だからコールは、魔力そのものに『ダメージ』を付与したのだ。

 つまりあの時にコーウェンを襲ったものは、ダメージを受けるように改良されたコールの魔力だったのだ。


 ――これが、あの試合から一夜明けた今日、すっかり回復したコーウェンがディーアとコールから聞かされた話だ。

 内容は凄く刺激的で、自分の父親の大きさにコーウェンは終始感心していた。


「驚いたよ……。ディーアさんが十二英傑の一人だっていうのもだけど、父さんが特殊魔法を使えるなんて」


 心からの本音を呟くと、ベッドに横になり安静中のコールと、扉の前に立っているディーアが顔を見合せ、小さく笑い出した。

 自分一人だけ状況が理解できず仲間外れにされているコーウェンがそんな二人に苦情を言うと、ディーアがおもむろに口を開く。


「ふふっ、すまない。だが、そんな特殊魔法を受けて無傷だったのはいったいどこの誰だ? 十二英傑で唯一剣士として迎え入れられた男と剣術の試合をして、あそこまで健闘した――それも見方によっては勝利したのはいったいどこの誰だ?」


 その顔にはからかうというよりも、どちらかと言うと尊敬の念が見て取れた。コーウェンは気恥ずかしくなり顔を背けると、「あれは勝ちとは言えないでしょう」と呟いた。


「それに、無傷ではなかったです。ほら見てください」


 コーウェンは袖を捲る。


「ここに切り傷があります。ここは青くなりましたし、見えないですがここも少し痛みます。それに――」


 確かにコーウェンの腕には小さな傷が多数見受けられるが、それを見ていたコールは己の立場がないかのように顔を枕へと埋めた。


「ウェン……、悪い。慰めのつもりかは知らないが、それを見せられるとなんだか余計に堪える。しまってくれ」


 そんなコールの力のない声に、なんだか申し訳なくなったコーウェンは黙って袖を下ろした。

 それを見ていたディーアは口元に手を当て、肩を震わせている。そして我慢ができなくなったのか、やがて笑い出した。


「ふふ、あはは! 君は面白いなウェン。おっと、ウェンって呼んでも構わないか?」

「いいです、けど……」

「ありがとう。君も私のことは『ディーアちゃん』と呼んでくれ」

「ではディーアちゃんさん、気になったことを。この家に僕がいるってことも長老の予知でわかったことなんですか?」


 もしそうだとしたら、長老の特殊魔法は一概に『予知』とは呼べないほどに幅広い能力を有していることになる。これが地球ならばおまけ程度のものに思えたのだろうが、既にこの世界で八年以上暮らしているコーウェンには、探知系の魔法がいかに便利かが良く理解できている。 

 そんなコーウェンの問いに、ディーアは何を思ったのか眉を寄せ、口を尖らせる。


「いや、それは違う。コールがリグルドにいるとわかったのは、彼が炎龍との戦い後にこの地を任されたのを覚えていたからだ。王国出身の十二英傑は、本人の同意の元に国の重要都市を生涯守護するという役割を与えられたからな。それは一生、王国の別の都市の援護にでも呼ばれない限りその都市周辺から出ることを許されないといったものだ。当然、その代わりにその間の生活は保障――どころか、贅沢すぎるほどの扶養を受けることになるのだが。……そしてリグルドに着いてからは簡単だったよ、風の子さん。それと、やっぱり私のことは普通に呼べ」


 贅沢すぎるほどの扶養――コーウェンは部屋を見渡し、家の全容を思い浮かべた。なんだ、凄く心当たりがある気がする。


「『本人の同意の元』なんて言っているが、あれはほとんど強制だったさ。断れる雰囲気ではなかった。……まあ、当時既にアメリアとの婚約が決まっていた俺からすれば、確かに魅力的な提案ではあったがな」


 見ると、枕から顔を離したコールが自虐的に頬を引き攣らせていた。

 おそらく、そんな提案を受けたばっかりにエルフの国へとコーウェンに同行できなくなったことに、少なくない罪悪感を覚えているのだろう。

 昨日、気を失っていたコーウェンは思いのほか早く目を覚まし、コールからの許しが出たことをその日の内に聞いていた。だが、その時隣にいたアメリアやメリファはどこか納得のいかない、けれど認めるしかないという苦渋に満ちた顔をしていた。それも含めて、コール自身も本当は乗り気じゃないのだろう。


 コールは何も悪くないのだが、それでも何を言おうと逆効果だろう。


「ね、ねえディーアさん。早く魔法の特訓始めませんか? 戦いまであまり時間があるとは言えませんし」

「ああ……そうだな」


 この場の雰囲気に居心地が悪くなったコーウェンが言い出したのは、昨日の夜に取り付けた特訓の約束だ。十二英傑の一人であるディーアは、剣士がコールだけだったという情報から鑑みて魔法使いだ。そんな彼女から教わるのであれば、かなり有意義な時間を過ごせることだろう。


「父さんの怪我が治ったら、父さんに特殊魔法の修得方法を教えてもらうことになりますが、それまでよろしくお願いします」

「ん? 特殊魔法を修得したいのか? ……まあ確かに、可能ならばかなりの戦力になるだろうが……」


 ディーアは顎に手を当て何かを考え始めたかと思うと、こちらへと一本の指を立てた。


「ウェン、君は指を一本動かすのと、魔力を練るのとではどちらが難しく感じる?」

「……? そんなの――」


 ――魔力を練る方が難しいに決まっている。そう答えようとして、言葉に詰まった。

 そんなことを特に深く考えたりしたことはなかったが、改めて問われれば、答えはわからない。どちらもとても簡単なことで、魔力なんてまるで十一本目の指のように動かせる。

 そこまで考えて気付いた。――答えは、違いなんてない(・・・・・・・)


 その沈黙を正しい意味で受けとったのだろう、問うた本人のディーアと、隣でそれを聞いていたコールは信じられないように顔を見合わせた。


「凄いな君は……。いやはや、コールの例があるようにこれは特殊魔法とはあまり関係がないのだが、それでもそれだけ魔法適正があるのならば、ウェンはこの短期間で特殊魔法を修得できるかもしれない」

「そう、なんですか? ディーアさんは……」

「私は当然、指を動かす方が簡単に感じるぞ。よし、今日から早速特殊魔法にとりかかろう」

「……ん? でも父さんにあまり無理をしてほしくは――」

「違うんだよウェン――」


 言葉を切ったのはコールだった。

 左手で後頭部をかきながら、模様でも記憶しているかのように天井を眺めている。

 そんなコールに代わりディーアが言い放った言葉は、かなりの衝撃としてコーウェンに襲い掛かった。


「――私も特殊魔法を使える。能力は『使役』だ」








 場所を道場へと移したコーウェンとディーアは、二人で並んで座っている。

 先ほどディーアから聞かされた話は衝撃的だった。なんと、彼女は非公表の特殊魔法の使い手というではないか。能力は『使役』で、倒した魔物を自由に召喚し、自由に操れるものだという。これもコール同様、長老の『予知』なんかと比べるとあまり強大なものには思えないが、その分制限が軽く使い勝手が良いらしい。


 だが、驚きとは裏腹に、これがコーウェンにとってプラスになることは間違いない。ディーアはコールのような、魔法は使えないけど特殊魔法は使えるなんていう、変わり者の魔法使いではないからだ。

 コーウェンはそんなディーアから一歩分距離を開けると、座ったまま頭を下げた。


「特訓、よろしくお願いします」

「ん? ああ、こちらこそよろしく」


 そう言ったディーアも頭を下げた。

 そんな姿をコーウェンは意外に感じた。ディーアに対し、その凛々しい立ち住まいに気高いイメージを抱いていたので、もう少し冷たくあしらわれるのではないかと思っていたのだ。

 もしかしたら、先ほどの『ディーアちゃんと呼んでくれ』という言葉も存外冗談ではなかったのかもしれない。

 そうやって、適当に誤魔化したあの時の行動は不味かったのかもしれないと、コーウェンは眉根を寄せた。

 だが、よく考えてみれば、ディーアはコーウェンにお願いをしている立場なのでおかしくはない――というよりも、凛々しくて気高い人間は人に対して冷たいなどコーウェンの偏見でしかない。

 そうだ。『ディーアちゃん』なんてのも冗談に決まっているではないか。


 そんな思いを知ってか知らずか、顔を上げたディーアは不敵に微笑んだ。


「考えてみれば、私たちはお互いの強さについてしか知らないな。改めて自己紹介をしようか」

「はい、そうですね。ダークエルフってのも、最初は軽く受け入れたような素振りを見せましたが、実は凄く興味があったんです」


 そう言うコーウェンの視線は、ディーアの胸元で止まった。

 そこには、己の存在を激しく主張する大きな双丘があった。別にいやらしい意味などは決してなく、前世で友達から借りた本に出てきたダークエルフに、『胸が大きい』という設定があったから懐かしく思っただけだ。

 だが、当然ディーアはそんなことを知らない。黙って胸元を手で覆ったディーアに気付いたコーウェンは、自分の行動の無礼さに気付き、恥ずかしくなった。


「子供とは言え、男は男なのだな」


 そう言うディーアは、その行動とは裏腹にどこか嬉しそうに見えた。


「え、いえ、そうじゃないのですが……、言い訳はしません。申し訳ありません」

「ふふっ、なんだ、あれほど強くてもやはりウェンは可愛いのだな」


 そう言いながら、ディーアはニタリと笑った。その顔はとても妖艶で、コーウェンはドギマギする。

 子供とは言え、中身は大人だ。その微笑みはコーウェンの心を震度七で揺さぶった。


「――私は、君みたいな子供が性的に好きだ」


 コーウェンの心に断層が生じた。

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