懐かしさと出会う(3)
「あっ、どうも……。僕、ウシオっていいます」
突然登場して自分たちを助けた上に、あっけなく獣人を倒してしまい、ただただアミちゃんとギンは立ち尽くすだけだった。
どうしていいかわからない僕は、その場でぎこちなく苦笑いしている。
と、このままの状態でいるのはまずい。離れたところではいまだハナちゃんが大量のゾンビ相手に苦戦しているかもしれない。
「そ、それじゃ、僕はこの辺で……」
二人に背を向け、さようならと手を振る。
すると我に返ったアミがワタワタと動き出した。
「ちょ、ええ!? ウシオって! そんないきなり名前を告げられてもわかんないよ!」
「ごもっともなご意見だね。うんうん。それじゃ」
「逃げちゃだめ!」
「きゅっ!?」
いち早くハナちゃんのもとに駆けつけたい僕のマフラーをアミちゃんはぎゅっと掴んで離さない。
く、首締まってる……。
「ぎ、ぎぶ……ぎぶっ!」
僕の気道をふさがんとするマフラーを必死になって叩く。
「あっ、ごめん」
「うわっ!?」
アミちゃんが急に手を離したもんだから、反動で僕は顔を地面にぶつけた。
は、鼻ァ……。
強打した部分をさする僕の姿を、アミちゃんは唇に指をあてながら眺める。
「変な人だねー。ギンもそう思わない……?」
「…………」
「ギン……?」
アミちゃんがそう呼びかけるが、彼の反応は見受けられなかった。
いまだ、衝撃をうけて固まっている。
「……お……ぅ……?」
「んにゃ……?」
涙目の僕を、まるで行方不明だった猫と出会ったときのように見つめてくる。
何て言ったんだろう?
少し疑問に思った、次の瞬間だった。
「やっと見つけました、王よぉぉぉぉぉっ!!」
「えぇぇぇぇえええ!?」
ギンはぶわっと瞳をうるわせ、一心不乱になって僕に抱き着いてきた。
な、なにごとッ!!?
「どこに行っていたんですか王よ……ッ! 私は……いえ、私たちはずっと心配していたんですからねッ!!」
「ちょ、ちょちょむごっ」
すごい力で抱きしめられているのだが、どうしてだか心地よかった。男性とは思えないようなふわっふわの身体に、胸の辺りでこう弾力のあるマシュマロを押し付けられている感覚がある。
……って、ぇぇぇぇぇええ!!?
「おっぱいを確認!!」
「おっぱいっ!?」
僕の言葉に反応して、アミちゃんがきらっと目を光らせた。
そういえばこの子、おっぱいに興味があるんでした。
「はっ!」
ようやく自身を取り戻したギンは、僕の身体をバッと突き放した。その時に見た、ルビーのように赤い瞳が、すごく印象的だったのを覚えている。
「あんたは相変わらずですねこの変態王!!」
「本日二度目の地面とキッス!?」
僕の頬を、それはもうハエ叩きでハエをぶっ潰すように、手加減なく叩いた。力の抜けた僕は、重力に抗えぬまま地に伏してしまう。
色々な意味で、鼻血がこんにちはしそうです……。
ピクピク痙攣する僕に、ギンはふと疑念を抱いた。
「王よ。あなたはいつから髪を黒に染めたのですか……?」
「――――」
このギンの発言で、この状況のすべてを理解した。
どうして王宮の執事であるギンが、街に出てきているのか。
なぜ僕のことを見て死ぬほど喜んだのか。
一言でいえば、彼はシオンを探していたのだ。
そうして、シオンと瓜二つの僕のことを本人だと勘違いした。
……ここで、ギンの誤解を解くのもいいのかもしれない。
けれど、今の僕には他に優先すべきことがあるのだ。
先に心の中で謝っておく。
それから僕は嘘を演じる決心をついた。
「なぁ、ギンにアミ。色々話したいことはあるんだが、今はそんな悠長なことを言ってられる場合じゃないんだ」
「……と、言いますと?」
上品に手をお腹の前に添え、首をかしげて長い髪を揺らすギン。
僕は二人を正面から見据えてこう頼みこんだ。
「僕の新しい仲間が危機にさらされてる。力を貸してくれ」




