ランクアップ(3)
「生命!」
ナツミちゃんは唐突にランクアップを宣言し、光に包まれていった。
変身はあっという間に終わり、
「やった~! 思った通り”探偵”だぁ~!」
「……ナ、ナツミ?」
探偵の姿となって出てきたナツミちゃんは歓喜した。見た目は軽装な警察官の服の上に、探偵らしいコートを着ている。それに加えて頭のディアストーカーという帽子が、より探偵らしさを引き出していた。
「ねぇ、どうリュウ~?」
「……ど、どうとはっ?」
「えぇ~? かわいいとかさ~、似合うね~とかあるじゃ~ん!」
オシャレな姿になって上機嫌なナツミちゃんは、いつもより大胆にリュウへアプローチをかける。こういうことに弱いリュウは挙動不審になりながら必死になって答えた。
「……お、おう。に、似合うんじゃないか?」
「ほんと~? ……じゃあこれ、私につけて?」
「…………え?」
そう言って、クリスマスにもらったネックレスをリュウに差し出す。探偵のナツミちゃん、アグレッシブだね……。
一方、怪盗になったリュウはより一層シャイになったようで、
「……えっと、俺はそのっ! あのっ!」
とか言い訳して、なんとか逃げ出そうとしている。
その様子が面白くって、僕とシオンはアイコンタクトを取った。
「ほらリュウ! つけてあげな!」
「……あっ、ちょっ」
「いいから行けって!」
「……お、おい! 押すなよっ!」
シオンにドンと突き出されたリュウは、ゆでダコの様に顔を真っ赤にしてネックレスを受け取る。
「……は、恥ずかしいから目ェつむっとけって!」
「う、うん……」
いざとなった途端、ナツミちゃんも恥ずかしくなったらしく頬を染めながら目を閉じた。
リュウの腕がナツミちゃんのうなじへと伸びる。
「わ、わあっ!」
「ナツミお姉ちゃんたち、チュウするですか!?」
「しないとは分かっていても、ドキドキしますわっ」
青春ラブコメモードに突入したリュウたちの影響を受け、女の子たちは鼓動を高鳴らせた。
かくいう僕とシオンも冷や汗をかいている。
「……よ、よし。もういいぞ」
「あ、ありがと……」
「……お、おう」
目を開けたナツミちゃんの視線がリュウの瞳へと吸い込まれ、桃色の空気が流れ始めた。
「うっしゃあああああああ!! 次はハナの番だぜぇぇぇぇぇぇ!!」
「え? わたくしですか?」
耐えきれなくなったシオンが、強引に話題をとっ代える。
グッジョブだ、シオン!!
しかし、話を振られたハナちゃんは気まずそうに下をうつむいていた。
不思議に思ったシオンが尋ねかける。
「どうしたのハナ? ランクアップしないの?」
「えっと……その」
言いにくそうに口をもごもごさせてるが、何かの決心がついたようで、ハナちゃんは顔をあげた。
「実はわたくし、カンストしてますの」
「「「え?」」」
ハナちゃんは今、なんて?
耳に入った言葉が信じられなくて、シオンはもう一度問い直した。
「ラ、ランクアップしないの……?」
「ですから、わたくしの能力は上限に達しているんですわ」
「「「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!?」」」
つまりそれって、ポ○モンでいうレベル100ってことだよね!? 僕なんか、ちょっと前まではモヤシレベルだって言われたんだよ!?
女の子たちでさえこの事実を知らなかったようで、驚きに驚きまくってる。
「……ま、まあ。家を一軒建てられるくらいだからな」
「それも頑丈で住み心地が良いものをね」
「おまけに三分もかかってない」
今思い返せば、確かにハナちゃんってヤバいよね。っていうか、”ランクアップ”のことも知っていたり、能力もMAXだったりと――――ハナちゃんはいったい、何者なんだろう。
「そ、そういうわけですから、イネっ! 次はあなたの番ですわっ!」
「えっ? う、うんっ! 生命っ」
この話から逃げるようにして、ハナちゃんはイッちゃんにランクアップを促した。
光をはじいたイッちゃんが、僕たちの前に現れる。
「……あれ?」
イッちゃんを一目見てつい声を漏らしてしまった。
ランクアップしたはずの彼女の姿は何一つ変わっていなかった。




