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ライス・ライフ〜女の子に食べられた僕は獣に目覚めました〜  作者: 空超未来一
第5部【モノカラーの神編】 - 第7章 血の鎧
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血の鎧を喰らう者(1)

 アイスちゃんの後を追い、再び彼女を見つけた時にはすでにウオと対峙していた。何やら言い争っているようだけど……、


「…っで、……の!!」

「そ……は、おま……」


 ここからじゃハッキリ聞こえない。

 ともあれ早く追いつくに越したことはない……なんて言ってる側から、ウオがシュリンくんを手元に引き寄せ首筋にクナイを突きつけた。それはさすがにまずいよね…!

 一秒でも時を止め間に合わせようとして――――アイスちゃんを中心に衝撃波が生じた。

 彼女の姿は見る影もなく、巨大な鳥がウオの頭上で雄叫びを上げる。

 あれは、ロック鳥…幻獣化したのか!


「やばいやばい…! このままじゃシュリンくんを襲うどころか、この先の街まで破壊しちゃうぞ…っ!!」


 ロック鳥は地上のウオに向かって得意の暴風を放つ。さすがのウオも体をかがめて飛ばされないよう耐えるのがやっとのようだ。

 シュリンくんはといえばちゃっかり距離を取っていたので大丈夫そう……でもなく、必死になって木にしがみついている。

 暴風を生み出し続けるロック鳥。空気中の水分が凝固した欠片がウオの全身を切り刻んでいく。ロック鳥は無駄な動きをみせず、ただウオが力尽きるときをじっくり待った。

 手も足も出ないところを見るに勝負あったかと思われたが――――形成が逆転する。


 ズシャァっ!!


「ギィイィ!?」

「……背後ががら空きだ」


 ロック鳥の首元に音もなく現れたもう一人のウオがクナイを大きく横に振った。ぱっくり傷口の開いたロック鳥はバランスを崩し地面へと落下していく。

 影分身か……!!

 目的を果たした分身は消え、暴風から開放されたウオが容赦なく追撃を仕掛ける。


 ギィン…っ!


「…っと! そう簡単にいかせないよね!」

「このタイミングであんたかよ…っ!」


 ロック鳥の前を遮り、僕はエクスカリパーでウオのクナイを受け止めた。

 刃越しに視線がはじける。


「とことんまで邪魔する気だね、偽物くん。人を殺す獣人を助けるだなんて、やっぱり変わり者だ」

「獣人だって親がいて姉弟がいて一生懸命生きてるんだ。見殺しにするわけないでしょ」

「だったら、獣人に殺されたやつの気持ちはどうなるんだよ?」


 ……アイスちゃんの友達・ネズが人間を食い殺した話をしているのだろう。

 たしかに、ウオの気持ちが分からないわけじゃない。たとえばイッちゃんがある日突然、見知らぬ獣人に殺されたのなら、僕は自分が何をしでかすか分からない。ついでにレンゲだとしても同じだ。

 獣人に限らず、大切な人を奪ったやつのことは死ぬまで許せない。

「……でも、それで復讐するのはおかしい」

「――――ッ」


 ピクリと、ウオの眉が動く。漂う雰囲気が一変し緊張が走った。


「……何も分かっちゃいないよ、あんた。話にならねえ」

「分かるよ。だって僕も大事な人をーーーー何度も失ってるから」

「聞かねえ、聞きたかねえ。ボクはもう、考えたくないんだよ。全部、めちゃくちゃになればいい」


 シュゥゥ……ッ


 ウオの輪郭を縁取るように白い煙が立ち上り始める。

 な、何が起こって……?


「目の前のそいつを倒せば、ボクはもうワンランク上へと進化できる。そいつみたいな化け物やあんたを倒すためにはどうすればいいのか、考えた」


 その結果がこれだよ、とウオが獰猛に口を引き裂く。


 パキパキパキ……ッッッ


 やつの皮膚から流れ出す血液が凝固していき、より分厚さを増していく。それはあっという間に全身を覆い――――僕のよく知る姿へと変身した。

 氷竜の鎧。

 ただし僕とは対象的な真っ赤な鎧ーーーー紅竜鎧の術。


「学ぶの語源が真似ぶのように、人は誰かを真似ることで成長する。癪に障るが、あんたの術をパクらせてもらったよ」


 血の混じった氷の鎧を纏い、ウオはぐっぱっと手のひらの調子を確かめる。

 ちらりと、目線をこちらに向けた。

 と思ったときには――――すでに僕の目の前に迫っていた。


「がぅああ……?!」

「……ただ腹パンしただけでそこまで吹き飛んでいく。圧倒的だな、おい」

「げほっげほっ…そんな簡単にやられは、しないさ……」


 痙攣する四肢を押さえつけ、丹田に力を込めて氷竜鎧の術を発動する。

 まるで真っ赤な水面に映る自分を見ているみたいだ。

 瓜二つの姿をした僕達は相手の出方を伺う。


「ピギャァァ……!!」

「…な!? アイスちゃん……!」


 合図を鳴らしたのは倒れたはずのロック鳥だった。傷は完璧に塞がっている。

 しかしダメージが大きいのか、フラフラと左右に揺れながら飛翔していった。


「……馬鹿が、隙を見せすぎだ……!」

「くそっ……!?」


 カチッ……


「……今のボクにも見えない速度で移動しただと?」


 時間を止めなければやられていた。僕はウオの斬撃を紙一重で交わし、反撃の体勢に持ち込んだ。


「隙を見せすぎは君の方じゃないかな!」


 ギィンッッ!


「隙があったところであんたの鎧じゃボクには追いつけない」

「くそ……!」

「それに……」


 カクっと、前触れもなくウオの動きが鈍くなる。まるでワザと攻撃を受けるために。

 絶対の強度を誇るエクスカリパーとウオの鎧が甲高い音を立て、


 ピシィ……ッッ!!


 名刀に亀裂が生じる。


「そんなエクスカリパーが……!?」

「この鎧はボクの血そのもので構成されているんだ。エネルギー消費が激しい分、密度はあんたに比べて圧倒的に高いさ」


 それに、と呟いた次の瞬間には、やはり僕の懐まで潜り込んでいた。


「最大出力も大幅に引き上がっている。あんたの鎧よりもね!」


 ウオの斬撃をすんでのところで受け止める。

 が、無理やり防いだせいでエクスカリパーに負荷がかかり――――粉々に砕けてしまう。がら空きになった僕の胴体にウオが前蹴りを打ち込んでくる。

 僕は視界の焦点を失い、そのまま数十メートル先まで転がった。肺で呼吸を繰り返すが、上手く酸素を取り込めず咳が収まらない。

 圧倒的な力の差。


「あんたは勝てない。ボクの鎧はあんたの鎧をそのままパワーアップさせたんだから」

地に伏す僕のそばでウオが見下す。


 彼の言うように、鎧の性能差がそのまま戦力差になるのは当然だろう。

 彼は知らない。僕にはまだ氷竜鎧や紅竜鎧よりさらに強固で鋭く、俊敏な力を持つ姿があることを――――竜の獣人。

 なるべく使いたくはないのだ。

 体力の消耗が激しすぎる上に、いつ自我を失い暴走するか分からない。ウオだけじゃなくアイスちゃんまで牙にかけてしまう可能性だって有り得る。


「キイィィ……ッッ!!」


 ふらついていたロック鳥が動ける程度には回復したらしく、その鋭く大きな鉤爪で天まで続く絶壁の欠片を鷲づかんでは、僕たちを潰そうと次々に投げつけ出した。

 ナイフの雨のような砕けた破片をなんとか回避するも、ロック鳥は息つく間もなく攻撃を続ける。


「はははっ、そんなちっぽけな氷の鎧じゃあ避けるのに必死みたいだね!」

「そういう君こそ自慢の紅竜鎧なんだったら正面からまともに浴びたって問題ないんじゃないかな!?」

「こう見えてボクは物を大事にする派なんだよ。できるだけ紅竜鎧に傷をつけたくない」


 切れ味抜群のエクスカリパーでも敵わなかったのに、傷つくわけあるかボケェ!

 ウオの天然っぷりについ突っ込んでしまう。

 もう……やるしかないのか!!


 ズゴゴゴ……ッ


 なかなか仕留められず頭にきたのか、ロック鳥は崖に爪を深くまで食い込ませ、とんでもない質量の岩をもぎ取った。

 真下にいる僕たちの体感からすれば、隕石そのものだ。


「……おいおい、オイオイ……ッ!」


 さすがのウオも顔が青ざめていく。

 こんなバカでかい岩が地面に衝突したら人間の街や獣人の村にもとんでもない被害が出るに違いない。

 ロック鳥がそんなことを気にするはずもなく、彼女は目の前の僕たちを潰すことだけを考え、行動する。

 カウントダウンもなく、巨大な岩石が降り注ぐ。


「くそが…まじでやりやがった……ッ!!」


 ウオはロック鳥に背を向け、一目散に逃げ出そうとした。



 ――――ドガオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォンンンンッッ!!!!!



 唐突に、なんの前触れもなく。

 加速して落下する岩石が空中で爆散した。圧倒的な質量が分散し、アラレのように降り注ぐ。

 逃げることしかできなかったウオは頭が真っ白になり、呆然と空を見上げる。


「なにが、起こって……」

「…………情けないな、ウオ」


 空から飛来するひとつの影。

 人の形を失いつつある僕を見て、ウオは言葉を失った。

 ひび割れた肌。ところどころからはサメのヒレのように突起している。

 空気が張りつめる。

 漲る力を放出し――――竜の獣人へと変身した僕は改めてウオに宣告した。


「君の世界のさらに上ってやつを見せてあげるよ」


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