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案内人リコの試練

 ここは案内人を育成する学校、通称『ガイドスクール』。

 そこには仲のいい二人の少年少女がいました。

 男の子の名前はライくん。

 短い金髪に、きれいな碧眼へきがんの子。

 女の子のほうは、みなさんご存知、リコちゃんだ。

 彼女も金髪で、二つくくりをしている。

 二人はいわゆる幼馴染というやつで、いつも一緒にいます。

 ほら、今日も教室で仲良くおしゃべりしてる。


「ねえ、今日はついに最終試験ですね!」

「そうだなあ。これに合格すれば、おれたちも案内人だもんなあ」

「あたし、案内人になれても、うまくやれる自信ないです……」

「はは、お前はすぐに素がでるもんな」

「うう……。だから日常的に、言葉づかいに気をつけてるんじゃん!」

「ほらまた、口調がおかしいぞ~? お得意の”です”はどこにいったんだよ?」

「うう~っ!!」


 リコちゃんをからかい、ケラケラ笑うライくん。このやりとりも、二人にとっては日常茶飯事なんだ。

 おっと、ここで一応『案内人』について、簡単な説明を。

 この世界はある人間の女の子の、いわゆる”精神世界”というやつです。ご存知のとおり、人間の身体には脳や心臓、血液といったように、生きていくために必要な肉体的器官がある。

 ”精神世界”とは、まあ心の器官、精神的な器官とでも考えてほしいな。

 ここで話がころっと変わってしまうけど、この世には『生まれ変わる』という言葉があります。

肉体をうしなった魂が、他のものに移るというやつです。

 その過程で、人間や動物、ましてや植物に憑依するということだってあるんだ。


『ん、なんで僕お米になってんの!?』


 この物語に登場する僕ことウシオも、お米として生まれ変わった。

 最初はひどく焦ったものです、ええ。

 ……話がそれてきたね。

 ええっと、それで。

 僕みたいに魂のついた食物を人間がたべると、その魂はその人間の”精神世界”に迷い込むんだ。

 ……ややこしっ! 言ってる僕が混乱してきたよ!

 ん~、例えると。女の子に食べられちゃって、僕は今、女の子の精神世界にいるよねっていえばわかるかな?

 最初は立派な案内人になったリコちゃんに先導されるがまま、冒険してたんだけど。のちのちリュウやシオンたちと仲間になって、この世界の獣人、ライオネルたちとも出会って。


 ――――この世界が、僕たちの敵だってことを知った。


 ここでさっきの精神世界とはなんぞやという疑問につながってくるんだけど。

 要するに、心の器官であるこの世界では、僕たちのような存在からエネルギーを奪わなきゃいけないらしい。きっと、そのエネルギーで心の健康を保つんだろうね。

 それで、エネルギーを奪うのにもちゃんとした手順が必要で。この世界のところどころには宿屋や旅館があって、そこで僕たちを寝かせると、エネルギーをとれるらしい。

 だからこそ、そこまで誘導するための案内人という職業が大事になってくるんだなあ。

 ……紆余曲折な説明になっちゃったけど、これが案内人ってやつかな。

 あっ、長ったらしく説明しているうちに、リコちゃんたちの先生がきたみたいだ。


「ええみなさん、おそろいのようですね」

「「「は~い!!」」」


 席に座っている合計二十人くらいの子供たちが、元気にあいさつをかわす。

 なんだか、小学校みたいだ。

 こほんと先生が咳払いをしてから、


「それでは、案内人なるための最終試験、『ガイドテスト』を行っていきたいと思います!」


 きりっと高らかに宣言した。

 待ってましたと言わんばかりに、、クラス中に大きな歓声が響き渡る。

 説明ばかりで申し訳ないんだけど、ここでガイドテストについて、簡単にお話しさせてもらおう。

 ガイドテストとは、いわゆる資格をとるためのテストだ。このテストに合格することで、晴れて案内人になれる。

 リコちゃんたちはすでに、筆記のテストを終えているから、あとは実践のテストだけだ。


「さて、テストの概要については前々から言っていますから省略しますが、最後に確認のためちょっとだけ言っておきましょう」

「「「は~い!」」」

「ルールはシンプル。あなたが思う、最高の景色を写真におさめてきてください。制限時間は日没まで。大丈夫ですか?」

「「「は~い!」」」

「それではみなさん、起立してください」


 ガタガタッ


 イスをひいて、ぴっしりと立ち上がる。

 みんなの表情は、緊張でこわばりながらも、どこかわくわくしている。

 先生がふうっと、一息ついた。


「みなさん、頑張ってくださいね」


 その表情は、まるで子供を想う親のようだ。


 ――――そして。


「それでは、はじめ……っ!!」

「「「わ~~~~っ!!」」」


 一斉に、子供たちは教室の外へと、飛び出した。



 *



「それで、ライはどこにいくんです?」


 学校をあとにしたリコちゃんとライくんは、白い街と隣接している深い森のなかにきていた。

 ちなみに、学校は白い街のなかにある。

 ライくんは得意げな表情で、


「ふふーん。おれはこの森の北のところにある湖に行こうかなってよ」

「へー、湖なんてあったんですか」

「おーよ! おれしか知らない穴場なんだぜ! お前はどーすんの?」


 ライくんが質問すると、リコちゃんも自信満々な表情で答えた。


「あたしは、森の北にある崖にいくつもりです! あそこの眺めは最高なんです!」

「へえ、そんなところがあるんだな。っていうか、お前も北に向かうんだ?」

「はい! 一緒に行くです?」

「そうだな。お前はしっかりしてるようで、どこか抜けてるからな。おれが子守してやるよ」

「うう~っ! あたしはもう子供じゃないです!」

「はいはい、そうだな」


 ぷうっと頬をふくらますリコちゃんの頭を、ライくんは慣れた手つきでぽんぽんっとなでた。


「じゃあ、いくか!」

「です!」


 こうして二人は、森の北を目指して歩き出した。



 *



「うし、もうすぐでつくぜ! お前はどうすんの?」

「もちろん、ついていくです! あたしのはそのあとにするです!」

「そっか」

「ねえ、ねえ、今から行く湖ってどんなところなんです?」


 ライくんの目的地である湖の近くまでやってきたリコちゃんたちは、わきあいあいとしていた。まるで、旅行を楽しんでいるようだ。

 一応テストなんだけど、大丈夫だろうか?……まあ、この世界らしいっちゃ、らしいのかもね。

 リコちゃんの質問に、ライくんは快く答えた。


「どんなところかあ。水は底が見えるほど透きとおってキンキンにえてて。空気はおいしいし、夜になると蛍が輝くんだぜ! 家族とよく行ってたんだ!」

「ほえー。すっごくいきたくなったです!」

「はは、だろ? ほれ、すぐそこだぜ!」


 がさがさと草木をかき分けて、前へと進んでいく。

 その先には。


 ――――湖なんてものはなかった。


「……は、? なん……で?」

「ひ、ひどいです……」


 乾ききった地面には亀裂が入り、草木は枯れ果てて死んでいる。

 ライくんは目を大きく見開いたまま、


「お、おかしいだろ……? あんなに綺麗だった湖が、こんな……」

「ライ……」


 茫然自失になるライくんに、リコちゃんはかける言葉が見つからなかった。ただただ、心配そうに見つめるしかない。

 ライくんは、はっと我に返る。しかし、彼を待ち構えていたのは残酷な現実だった。


「お、れ……。写真、どこで、とればいいんだ……?」


 ライくんはひざから崩れ落ちた。

 そう、ライくんは思い出の場所を失っただけではなく、これからの人生も失いかけているのだ。今日のテストをクリアしなければ、案内人になれることはない。

 今しか、チャンスはない。

 だが、そのチャンスさえも失った。


「うう……。ひぐっ、ひぐっ」


 ライは嗚咽を止めることができなかった。

 涙が押しとどめなく流れてくる。

 そんなときだった。


「……だいじょうぶです」

「……え?」


 横から、聞き慣れた幼馴染の声がかけられた。

 顔を向けると、そこには子供っぽい胸をはったリコちゃんが堂々としていた。

 まるで、あたしに任せろと言わんばかりに。


「あたしに任せるです!」


 あっ、口にした。

 リコちゃんは続けて言う。


「これから行くあたしのお気に入りの場所の写真をとればいいですよ!」

「で、でも。それじゃあおんなじ写真に……」

「問題ないですよ! たまたま一緒だったってことにするです」

「……」

「だいじょうぶ。バレなきゃいいですよ!」


 むふーっと鼻から息をだすリコちゃん。ライくんにとって、これほど頼もしいリコちゃんの姿を見たことはなかった。

 彼女は再び、チャンスを与えてくれた。

 リコちゃんが手を差し伸べる。

 そして、しっかりとその手をつかみ――――立ち上がる。


「リコ。頼めるか?」

「はいです!」


 二人は再び、歩き始めた。



 *



「ここが、あたしのベストスポットです!」

「おお……っ」


 目の前の光景に、ライくんは思わず感嘆の声をこぼした。

 崖の下には青々とした海が一面に広がっており、照りつける太陽の光が反射して、キラキラと輝いている。それはまるで、大きな大きなサファイアのようだった。


「さ、遠慮なく撮るですよ!」

「……さんきゅな」


 パシャリッ


 無機質なシャッター音がひとつ。

 この出来栄えなら、合格は確実だろう。

 作り出された写真を眺めて、ライくんは改めてリコちゃんにお礼の言葉を述べる。


「リコ、ほんとにありがとな」

「いえいえ! 幼馴染として当然ですよ!」

「そうか。んじゃ、次はお前の番だな!」

「はいです! はあ、このカメラで撮るのが楽しみですよ!」


 と、リコちゃんが自分のカメラを取り出し、上にかかげ、眺めた時だった。


 ビュウウッ!!


「きゃっ!」

「うわっ」


 強いうなり声をあげ、強烈な風が吹き荒れた。

 そして、邪悪な風はリコちゃんの手もとからカメラを奪い去った。


「あっ、カメラが!」


 カメラはガシャンガシャンと音を立てながら。

 崖の下へと、まっさかさまに落ちていった。崖から下をのぞいたリコちゃんとライくんの視界に入ったのは、無残にも粉々になったカメラの残骸だった。


「そ、そんな……。これじゃあ、写真がとれないですよ……」

「リコ……」


 さっきのライくんのように、リコちゃんはぺたんと力なく座り込んだ。

 その瞳には、大粒の涙があふれている。


「う、ぐすっ……うえええんっ。ひぐっ」

「……」


 そんな様子を眺めていたライくんは、よしっと覚悟を決めた表情をとる。

 そして、リコちゃんに話しかけた。


「リコ、おれのカメラを使え」

「ひぐっ、…え? でも……ひぐっ」


 嗚咽交じりになりながら、なぜか迷いだすリコちゃん。


「それじゃあ、ルールをやぶったことになるですよ……」

「……そうだな」


 そう。このテストでは、自分のカメラで撮った写真を提出しなければいけないのだ。他の人のカメラで撮ると、撮影した人も、カメラを貸した人も失格になる。


「……ダメ! あたしはともかく、ライまで反則になっちゃうよ!」

「……はは、おいリコ。お前の”です”口調はどこいったんだよ?」

「今はそんなこと気にしてられないよ! とにかく、ライが失格するのはダメなんだから!」

「おれは……」


 ライくんは言葉を発することを一瞬だけ躊躇したが、意を決して言葉をつむぐ。


「おれは、お前と一緒に案内人になりたいんだよ」

「……え。今なんて……?」


 リコちゃんの目が大きく見開いた。


「……なんでもねえよ。借りを返したいていったんだ」

「借り?」

「ああ、もしお前がここの風景を紹介してくれなかったら、おれは絶対に希望を失ってた。それに、あの場所がなくなっても立ち上がれたのは、お前が元気をくれたからだ」

「……で、でも。ライまで失格になったらあたし……」

「大丈夫」


 とそこで、ライくんはリコちゃんのセリフを塗り消して、こう言った。


「大丈夫。バレなきゃいいですよ。……なんてな」

「……っ」


 それは、リコちゃんがライくんにかけた言葉だった。


「ほら、いつまでも泣いてるなよ。涙ふいて立ち上がれ?」


 すっと、リコちゃんに手を差しのべるライくん。

 そうしてリコちゃんは涙をぬぐい。



 ――――ライくんの手を借りて、立ち上がった。



「ありがとです、ライ」

「お互いさまってもんよ!」


 ふへへっとはにかみ合う二人。


「あっ、でも。さすがにおんなじ写真をとることのはやっぱり気がひけるですね」

「それなら、おれに考えがあるぜ!」

「ん? それってなんです?」

「それはだな――――」



 *



「では、テストの結果を発表をします」


 無事に写真をとりおえ、提出したリコちゃんをライくんは、ついに結果発表をむかえていた。


「き、緊張するですねっ」

「ああっ。二つの意味でドキドキだぜ」

「それってどういう意味です?」

「合格してるかどうか。それと、ーーーールールを破ったことがバレるかどうかだ」

「な、なるほどです……」


 ごくりと生唾をのみこみ、額から汗を垂れ流す二人。

 いよいよ先生が口をひらく。


「合格者は一名、ライくんです。おめでとうございます!」

「「――――っ!」」


 二人は息をのみ、顔を見合わせた。

 わああっと教室が歓喜の声であふれかえる。


「おめでとうです、ライ! これで今日から案内人ですね!」

「リ、リコ……」

「なにを暗い顔してるですか! もっと喜ぶですよ!」

「……できねえよ!!」

「ーーっ!?」


 突然ライが大きな声をだしたので、リコは黙り込んでしまった。


「おれはお前のおかげで合格できたんだ。なのにお前は失格してなんて、素直によろこべねえよ!」

「……で、でも」

「それに、おれはお前と一緒に案内人になりたかったんだ! なのに……くそっ!!」

「ライ……」


 しんと静まり返る教室。

 誰もが声をあげられなかった。

 だけど、意外にもその静寂はすぐに去っていくことになる。

 先生が声をだしたからだ。


「あのう、ライくん。お怒りのところ悪いのですが……」

「……なんですか。伝えたいことはもうないでしょう? 合格者はおれだけなんだから……」

「はい、確かに合格者・・・はあなただけです。しかし、案内人になれる人はひとりだけではありません」

「……はい?」


 ここで初めて、ライくんの表情が変わった。

 もちろん、リコちゃんもはてなマークを浮かべている。

 先生は一泊おいてから、はっきりとした口調で、


「リコちゃん。あなたの写真が評価され、特別に案内人になれることが決定しました」

「…え?」

「つまり、今回案内人になれることができたのは、ライくんとリコちゃんです。みなさん、拍手!」

「わあ~~~~っ!!」


 今度こそ、教室が温かい歓声でいっぱいになった。



 *



「まさか、おれたちの行動が全部つつぬけだったとはな」

「そうですね……。ズルしたこともバレバレでしたし。見ましたか、あの鬼のような表情?」

「まあ、いいんじゃねえか? 全部含めて、おれたちのことを評価してくれたんだしよ!」

「そうですね! これであたしたちも、晴れて案内人です!」


 リコちゃんとライくんはいつものように、仲良く話している。

 数日たった今、リコちゃんとライくんは自分の上官となる人のもとへと向かっていた。

 その後、さっそく仕事にかかる予定だ。


「はあ、今日からおれたちも案内人なんだな!」

「そうですね。うまくやれるか緊張するです……」

「おまえ、ふだんはしっかりしてるけど、たまに抜けるもんな!」

「もう、いっつもそればっかりじゃないですか!」

「ははは!」


 いつもと同じ風景。

 案内人になったら、こんな日々ともお別れなのだろうか。

 そう思うと、リコちゃんの胸はズキリと痛んだ。

 そんな時、ライくんがなあっと声をかけた。


「……実はおれさ。夢があるんだ」

「夢? 案内人になるのが夢じゃないんです?」

「ああ。おれさ、この白い街にいる王様のもとで働きたい。ほら、それにはまず案内人にならないといけないだろ?」

「そうですね。王様のもとで働くには、まず案内人にならなくちゃですもんね」

「おう。だからおれさ、いっぱい頑張るつもりなんだ!」

「うん、頑張ってです! あたし応援してるです!」

「……もし、夢が叶ったらさ。そしたら……」

「……そしたら?」

「――――、」


 ライくんが言葉を口にしようとしたその時だった。


「いい夢じゃないか。きっと叶うよ」


 ややって、リコちゃんたちの目の前に一人の男が現れた。

 黒い装束を身にまとった男の素顔は、フードに覆われていて見えない。

 ライくんは不審に感じ、リコちゃんの手前に出た。


「お前、誰だよ……」

「いやいや、これは失敬。私は君たちの上官になる、……クロというものだ。よろしく頼むぞ」

「あっ、それは失礼しました。おれ……じゃなくて私はライというものです。よろしくお願いします」

「あ、あたしはリコです。よ、よろしくお願いします」


 クロと名乗る上司に、挨拶をかわすリコちゃんとライくん。

 この男がのちのち、あんな悲惨な大事件をおこすことになるなんて、この頃の二人にはまったく想像もつかなかっただろう。


「話は聞いているね? 君たちには今からさっそく仕事をおこなってもらう。やることは当然、魂をもつ者たちを宿屋に泊めさせて精神エネルギーをいただくことだ」

「「は、はい」」

「よろしい。それと、毎晩私に報告をすることを忘れるな。私は君たちのすぐそばにいるから心配ない」

「「は、はい」」

「ふむ。それでは今から君たちを、魂を持つ者たちの近くまでテレポートさせる。準備はいいか?」

「……あっ、すこしだけ待ってもらっていいですか? リ、リコ!」

「……?」


 突然のことに困惑するリコちゃん。

 いったいなにかなと思っていると、ライくんがこぶしをつきだしてきた。


 ――――小指だけ立てるような、感じで。


「次会うときには必ず、立派な姿をみせてやる。約束だ!」

「ーーっ」


 にひひっと笑顔をうかべるライくん。

 それを見たリコちゃんは、にひひっと笑い返して、


「あたしだって、負けてないからね! 約束!」


 ぎゅっと小指を、固く、結んだ。


「……ふふ」

「クロさんもう大丈夫です! テレポート、お願いします!」

「あたしもお願いします!」

「わかった。お前たち、頑張れよ」

「「はいっ!」」

「……ぬっ!!」


 シュンッ


 クロがすこし力んだ声をだすと、手をかざされていたリコちゃんとライくんは、それぞれ別の場所へと消えていった。



 *



「ど、ドキドキです……」


 遠くへと転送されたリコちゃんは、不安を胸に抱えていた。

 さっきは威勢がよかったとはいえ、これから行う仕事は初めてなのだ。


 どんな人を案内するのかはわからないし、もしかするとマッチョの漢かもしれない。HAHAHAとむさくるしく、笑い声をあげる人かもしれない。


 ――――だけど。


「にへへ……っ」


 リコちゃんは懐から出した、大切な写真を見て勇気をもらう。

 これがある限り大丈夫だ。

 よく耳を澄ましてみると、どこからか声が聞こえてくる。

 たぶん、この人がリコちゃんの案内人だろう。


「括目せよ! これが全米が涙した……ばくてんだああああ(ボキイッ)ああううええええええ!!?」


 ……楽しそうですね。


「……よし、いくです!」


 リコちゃんは写真を懐に戻して、前に進み始めた。

 すこし歩くと、二人の少年少女の姿が見えてきた。男の子は黒い忍者服を、女の子はピンクのナース服を着ている。

 優しそうな人たちで、リコちゃんは思わず頬をゆるめた。


「これからどうしようか」

「そうですね、ここがどこかもわかりませんし……」


 風に乗って、そんな会話が聞こえてきた。


(さあ、あたしの出番だ……っ!)


 リコちゃんは二人の男女にむけて大きな声をだした。


「そっ、それに関しては問題ございましぇ……せん!」

「ん?」


 あはは、最初からやらかしちゃった、とリコちゃんは真っ赤な顔をしながら思った。


 ――――だけど、大丈夫。


「ええっと……君は……?」

「あたしはこの世界の案内人の一人、リコともうします! これからあなた方の旅路をサポートさせていただきます! ふつつかものではありますがよろしくお願いします!!」



 *



 これが僕たちと、リコちゃんの出会いだった。

 さてさて、ここで気になることはありませんか?

 そう、リコちゃんが大切に持っていた写真。

 勇気を与えていた写真。


 僕もまじまじと見たことはないんだけど、たまたまリコちゃんが写真を眺めているところをこの前見かけてさ。ちょっと、チラ見してみたんだ。

 そこには。


 ――――綺麗な海を背景にしてピースしている、満面の笑みを浮かべた金髪の男の子とリコちゃんが写ってたんだ。


 それを見た途端、僕まで笑顔になっちゃったね。


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