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ライス・ライフ〜女の子に食べられた僕は獣に目覚めました〜  作者: 空超未来一
第5部【モノカラーの神編】 - 第2章 生きて軌跡をなぞる
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昨日の敵は今日の何者(2)

 強烈な悪臭が周囲を支配する。

 ヤツはまるで違う存在に昇華していた。

 二メートル以上肥大したリスの死骸に、成人男性に匹敵する大きさの植物が寄生している。


「ラフレシア、ですね。世界最大の花として知られる寄生植物ですけど……なるほど、リスの特性を取り込んで捕食機能を進化させたと」


 ルルが対象をことこまかに分析する。

 続けて、


「全身から唾液のような体液……粘着質ですね」

「生ゴミの塊になってたのは食べかすがくっついてたからだね。だとすると爆発したのは生ゴミから発生したガスと体液の分泌成分が原因か」

「生ゴミが消えた分、先ほどのような爆発を危険視する必要はない……」

「……でも体液が爆発する可能性は否めないときた」

「さすがお姉さん。鋭いですね」

「えへへ~、そうカナ~?」

「…………」


 身内が褒められるのは悪い気分じゃない。そう、悪い気分なはずがないのだ。

 だから別にこの胸のモヤモヤはラフレシアの悪臭のせいであって……。


「まったく、クサイったらありゃしないわ」


 片割れのララが眉根を寄せた。


「……ほう、気が合うなちびっ子」

「うるさい」

「さてさて~、来るよみんな!」


 足元の砂利が音をたてる。

 本来の姿を見せたラフレシアが動く。付着していた生ゴミから解放されたためフットワークが軽い。寄生先のリスの身体能力だろう。

 厄介なのは触手だった。


「……本体が動いている分、攻撃の軌道が読みずらいな!」

「少しでも触れれば大ダメージです!」

「気色悪いわ」

「だったら私にまかせて! 蜘蛛の糸・『斜陽』!」


 シュババッバババッ!


 ラフレシアを中心に四方から空に向かって鉄線が伸びる。それを支柱として何本ものワイヤー地面と平行に噴出した。まるで総合格闘技のリング場のようだ。

 巨大な虫かごがラフレシアを閉じ込める。

 当然、本体とつながっている触手は断ち切られた。


「へっへ~ん。これで触手は動かせないし、ワイヤーの外に出せないでしょ?」

「よっ、お姉さん!」


 相手の動きを封じ込めると同時に厄介な触手を切り落とした対応は素直に感服する。

 ……ルルほどではないがな。


「なにブスっとしてるのリュウ?」

「……別に」

「あ~、自分の出番とられたからでしょ~?」

「……バカ言え」

「そうよ、バカも休み休み言いなさい」

「ララちゃんもひど~い」

「名前を呼ばれるような間柄になった覚えはないわ。それにほら、ラフレシアの様子を見てみなさい」

「え?」


 四角柱の籠にとらわれたラフレシアはなぜか妙に落ち着いていた。文字通り手も足も出ない状況だと言うのにも関わらずだ。

 焦りが見られない。


「観念したわけじゃ……ないよね?」

「……だったら誰も苦労しねえよ」

「だよね~……」


 こいつが獣人ではないにせよ、生にしがみつく生き物には違いない。危機的状況に抵抗しないはずはないだろう。

 念のため『タカの眼』を使って調べてみるとするか……。

 左目に意識を集中させて開眼する。


「お兄さんはいったい何をされているのですか?」

「『タカの眼』だよ。リュウの友達にタカの獣人がいてね。色々あって、左目をもらったんだ」

「なるほどおー。お兄さん、なにか見えますか?」

「…………」


 この眼は遠くまで見渡せるほか、エネルギーなんかも映し出すことができる。

 ラフレシアのエネルギーの流れはおだやかだ。

 特に異常は見られない。


「……そこらの植物と一緒だな。地面に根を張りながら光合成している」

「もしかして爆発するためのエネルギーを溜めてる……?」

「……いいや、エネルギーを溜めている様子はないぞ」

「そっか~。それなら本当に諦めたのかな?」

「……おかしい」

「ルルくん?」

「ラフレシアのような寄生植物は基本的に根を張らないんです。それじゃあお兄さんが見てるものって……」

「――――後ろだ、ナツミッ‼」

「へ?」


 ザジュッ!


 肉が裂け、血しぶきが散った。

 ザクロが割れたときのように飛び散る鮮血カラーが視界の景色を染める。

 簡潔にいえば根っこの正体は触手だった。ワイヤーから出られないなら地中を通って攻撃すればいいという本能的な直感だろうが……。

 俺たちは一杯食わされてしまったわけだ。


「……調子に乗りすぎるからだぞ、ナツミ」

「リュウっ! 腕が……っ!」

「……ッ。こんくらいどうってことねえよ」


 地中から現れた触手はナツミを背後から襲った。

げっ歯類特有の前歯が触れる直前に触手を切り裂けはしたものの、俺は肩に深く傷を負ってしまった。腕を切り落とされなかっただけマシだろう。


「私の……私のせいで……っ」

「……次から気をつければいい」

「ごめん……ごめんねっ……リュウっ」

「ちょっと。アイツが逃げたわよ」

「籠の中から消えてます!」


 見ればラフレシアの姿はどこにもなかった。……なるほど。隙をついて地中に逃げ込んだってところか。

『タカの眼』を使ってもやつの気配を感じられない。完全に逃げられてしまった。

 追跡は困難だ。


「……してやられたな」


 深くまでえぐられた傷口がじゅくりとうずく。

 ここにとどまっていても仕方ないだろう。


「……とにかくあいつらと合流す――――」


 最後まで言いかけてハッとする。

 俺は重大なことを見落としていた。

 ラフレシアなんかどうでもいいくらいに、重大なことをだ‼


「ちょっ、リュウ⁉」

「いきなり走り出してどうしたんです⁉」

「全力も全力の全力疾走ね」


 後ろから何か聞こえてくるが、何も頭に入ってこない。

 なぜ、気づけなかったのか。

 出合ってしまう。

 あの二人が、再び出会ってしまうではないか。


 孤独な狼と、真っ暗な羊が。

 今、再び。


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