黄金の主人公(1)
戦いは前触れもなく始まった。
金髪碧眼の青年が僕に向かって剣を振りかざす。斜めから下へ、そのまま身体を回転させて遠心力を利用する。
対して僕は氷の剣を生成してこれに対処した。
「へえ、奇妙な技を使う獣人だ」
「というか僕は獣人だけど冒け――――」
「問答無用」
「人の話を聞かない人は嫌われるんだからねっ!」
ギンギンギンッ
金属と氷がぶつかり合う。
一見して僕のほうが不利なのように思われるが、絶対零度に近い氷は金属よりも強固だ。というか僕の場合は忍術だから、金属とやり合ってもまともに戦える。
金髪の青年の剣技は想像よりも凄いわけではなかった。
もちろん素人よりは剣の使い方を心得ているようだ。達人の域に達していないだけで。
絶え間なく続く剣戟の中、青年は喜々として目を見開いた。
「想像以上だ! 竜の獣人に変身せずともここまで戦えるなんて」
「そもそも僕はこのヘビの姿でやってきたもんでね。そう簡単にやられはしないよ!」
「面白い」
バギンッ!
刀身をぶつけあった反動で互いに距離が生まれる。
青年の息はあがっているものの、それ以上に僕の体力のほうが底をつきかけていた。イノシシの後の連戦だからね。
と、イッちゃんが駆けつけてくれ、
「えいっ」
「ひいんっ⁉」
でっかい注射器をお尻にぶっさされた。あまりのショックに気を失いそうになるが、一方で身体に力がみなぎってくる。
「お兄ちゃん、おしりに刺されて気持ちよさそう……」
「誤解だよルミナちゃん。誤解だからね?」
「おしり……気持ちいいんだ……」
「ルミナちゃん⁉」
いけない、このままじゃルミナちゃんの教育上よくない影響を与えてしまう。この戦い、なんとしてでも早く終わらせなくては!
決意も新たに闘志が燃え上がる。
シュババババババッ
僕の『核』たるものに染みついた、数少ないの術を発動した。
「氷竜鎧の術ッ‼」
ゴオオオオオオアアアアアアアアアアアッ!
魔法陣から氷竜が蘇り、僕をまるごと飲みこんだ。
獣人状態を解除し、人間に戻る。
そうして、僕は氷竜の力を身に纏い顕現した。
思考が冷え切る。
「さあ、さっさと終わらせよう」
「君は……本当に不思議な獣人だね」
困惑を隠せない金髪の青年。
青年はすぐに剣を握りなおした。その姿はまるで戦いを経てさらなる成長を遂げる剣豪のようだ。
青年は僕を見据えたまま、
「マルリン、いつものお願いできますか?」
「…………りょうかいです」
後ろの少女に何か知らぬ要請を出した。
そうか。もしかすると彼らはローエくんとナユタちゃんのような戦闘スタイルなのかもしれない。ナユタちゃんがローエくんに肉体強化の術をかけるように、マルリンと呼ばれた少女が青年に何かしらの術を施すつもりなんだ。
つまり、これまでの戦いは準備運動にすぎなかった。
うん、そうじゃなくちゃ面白くない!
「……マル、リン」
「どうかした、イッちゃん?」
「あっ、ううん。なんでもないよっ」
「お兄ちゃん気をつけて。なにかしてきそうだよ!」
「うん……っ!」
ルミナちゃんも薬草を回収したい気持ちでいっぱいだろうに、ぐっとこらえて目の前の敵に集中してくれている。本当に強い子だ。
――――1%
「……?」
「2、3、4、……10%稼働開始」
金髪の少女マルリンが妙な数字をつぶやく。すると、呼応するかのように静電気のような音が生じ始めた。
同時に金髪の青年に変化が起こる。
電撃が青年の身体を走っているのだ。
静かにまぶたを閉じていた青年の碧眼が、すっと見開く。
何一つ邪念のない表情で、
「行こう」
戦いは加速する。




