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ライス・ライフ〜女の子に食べられた僕は獣に目覚めました〜  作者: 空超未来一
第5部【モノカラーの神編】 - 第0章 そこは秘匿の神地
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人ならざる者の幕間

 人知れず、その神は世界の変革を見つめていた。

 争うは、蒼紅の竜と黒き竜。

 交わるはずもない冒険者と王である彼らの最終決戦が始まり、世界が生まれ変わっていく。


「……とうとうこの日が来てしまったのじゃな」


 大地の神と畏敬される着物姿の彼女は、艶やかな赤の裾でみずからの顔を覆い隠した。見上げる空には憂いのないお月さまが輝いている。

 神はこの日が来ることを何百年も恐れていた。

 均衡のとれたこの世界は未熟ではありながらも争いがない。それはきっと、初めて松明をとった原始時代に似ている。

 だが、それらはすべて過去の話。

 革命がなされた今、世界の均衡は崩れ、命が芽吹く。

 しかし、彼女の唇は妙につりあがっていた。


「これでようやくワシも自由に動けると言うものじゃ」


 神の存在とは、世界の均衡を保つことにある。これまでの彼女は手を出したくても出せない状況にあったのだ。

 逆説的にいえば、世界の均衡が失われた今なら……。


「くくく……にゃはははははっ!」

「ご機嫌だねん、ガイアちゃん」

「ぬはっ!?」


 ここにいるはずがない、忌々しい声が彼女の背筋をなぞる。忍者すらおったまげる神の速度で彼女は声の主を探した。

 見間違いだと信じたかった。

 プルプルと彼女の八重歯が震える。


「貴様は……っ、ポセイドンッ!!!」

「お久しぶりだよーん、マイスイートハッげぼっ!!?」


 女児に襲いかからんとする真っ白髭のサンタクロースに触手の鉄拳がクリティカルヒットする。この世の悲劇が回避された瞬間であった。


「いたた……、さすがに加減ってものがあるんじゃないの……?」

「世界のバランスが崩れてるもんじゃから力を上手くコントロールできんのじゃ。というか、抱き着く貴様が二百パーセント悪かろう」

「そういえばそうだったわねん……」


 語調の乱れる真夏のサンタクロースじじい。いや、これが彼の通常運転か。

 しかして、彼女たちの再会は久方ぶりだった。それぞれの管轄するエリアに引き籠ってから、すでに百何年もの月日が経っている。


「わたすはガイアちゃんに会えてうれぴーのに」

「ワシは全く御免じゃけどな。貴様は相変わらずだの」

「陽気な美少女がわたすのポリシーだから」

「とうとうボケたな老年のじじい」


 ドンッッッ!!!


 地鳴りのともなった爆音が周囲を駆け巡る。大地は揺れ、森がざわめくものの、彼女たちはピクリともしなかった。

 ただ爆発の中心源を一瞥する。


「決着がついたようじゃの」

「リュウは負けちゃったのか。まあ、あの王に勝てるはずもないよねん」

「お主、リュウを知っておるのか?」

「ガイアちゃんこそ知ってる口ぶりね」

「まあの。ワシの寝床を荒らした悪ガキどもじゃ」

「奇縁も奇縁よなあ。あの中にはハイネもいるらしいし」

「ワシは知っておったけどな。というか、ワシ的にはハナがいたことが驚きじゃったが」

「ガイアちゃんの後継者さんね。結局どーなのよ?」

「さての。あとは本人次第じゃ」

「ふーん。わたすは興味深い子を拾ったけどね」

「ほお、お主が言うからには相当なのじゃな。やはりリュウかえ?」

「それは、ひ・み・とぅ☆」

「無意識にワシの触手がうずいておるのじゃが、悪いのは貴様だからの?」

「ごめんごめん、冗談ですうーっ!」

「語尾を伸ばすなじじい!」


 などなど神々は神らしからぬせめぎ合いを繰り返す。当然と言えば当然だ。彼女たちはあくまで神という冠を与えられただけのであるのだから。

 と、不意に。

 二人の神が口をつぐんだ。


「…………また世界が一つ形を変えたの」

「変わるたびに体が重くなるのはどうにならないのかね」

「仕方なかろう。力を取り戻すまでには時間がかかる」

「ハイネのやつ、大丈夫かしら」

「そもそも世界のバランスが崩れたのもあやつが翼を失ったからじゃ。記憶を失っていたとはいえ自業自得じゃの」

「ガイアちゃんは昔から厳しいねぇ~」

「ふんっ」


 鼻を鳴らしてそっぽを向く彼女。

 それから身を翻しては彼方を見据えた。


「行くのかい?」

「ここにおっても仕方なかろうて。ウシオたちが飛ばされた地域も地域じゃしな」

「あー、デスちゃん管轄の」

「『死』の神・デスパイア。意図的であれそうでなかれ、あやつのもとに飛ばされたのもきっと奇縁じゃ。ウシオにはまだ何か秘密があるはずだからの」

「そういえばマルリンちゃんは健在かね」

「あの小娘のことなどワシが知ったことか」

「まーた冷たい態度とって。マルリンちゃん、わたす、ガイアちゃんの三人がいてこそ天海地の均衡がとれてるんだから」

「ワシはもう行くぞ」

「やれやれ……」


 呆れる大男を背に、彼女はその場から姿を消した。

 向かうは、はるか彼方の火山地帯。

 そこは熱の漂う、死の花園。

 彼女は、月を眺めては嘲笑する。


 これまでの物語は、あくまで序章にすぎないと。


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