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ライス・ライフ〜女の子に食べられた僕は獣に目覚めました〜  作者: 空超未来一
第4部【斬首塔編】 - 第5章 大切な人は正義なのか
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百戦錬磨の果ての苦悩(3)

 瞬間移動を得意とするエアラに対し、リコとヒナタが立ち向かう。

 それぞれネコとイヌの力を持つ二人は機動力に優れていた。影から影へと瞬間移動するエアラの動きにも対応できている。


「早いね」


 さすがのエアラも少し驚いているようだ。

 実はというと、リコとヒナタの二人は各獣人への相性が抜群だった。リコはネコに、ヒナタはイヌに適合している(本当は猫や犬の種類の中でも三毛猫のように区分はされるのだろうが)。

 特に訓練をしているわけでもないのに獣人とは別の能力を開花させているのも適合率が高いことにあった。リコは『物体をすり抜ける能力』を、ヒナタは『物体を振動させる能力』をそれぞれ使用できる。


 シュッ――――


 不意をついてリコの背後へと瞬間移動したエアラは、


「もらったよ」

「リッちゃんっ!」


 その短刀をリコの心臓めがけて突き刺した。

 おいどんの心臓も止まってしまいそうだった。おいどんのせいでまた幼い犠牲者が出てしまったと。

 しかし、突き刺されたはずのリコはにっと口の端をつり上げた。

 よく見れば彼女の身体が半透明に透けている。


「残念ですね! わたしは物を透けられるんです」

「っ」

「ヒナタ!」

「任せてっ!」


 ヒナタは大きく肺を膨らませ、リコたちにむけて咆哮した。

 凝縮された空気が振動を伴って吐き出される。まるで衝撃波のようだ。彼女たちの背後にいるおいどんでさえ肌がびりびりする。

 破壊的なエネルギーが二人を襲うが、リコのすり抜ける能力はもちろん空気をもすり抜ける。

 エアラだけが衝撃を浴びることとなった。目の前にリコがいることで回避しなくてもいいのではないかという錯覚が生まれる。絶妙なコンビネーションだ。


 ドジャアアアアアアンッッ!!


 強烈な砂嵐が噴き上がった。

 リコとヒナタは駆け合い、手を取って喜ぶ。


「やった! 練習通り上手くいったですよ!」

「今までがんばってきた甲斐があったねっ!」


 なるほど、ここまでスムーズに連携を取り合えるのにはちゃんとした理由があったらしい。

 ふとしたときに彼女たちの姿が見当たらなかったことがある。おそらく他のみんなから隠れて訓練を重ねていたのだろう。

 こんな会話を聞いたことがあった。


『わたしたちはお兄ちゃんたちに助けられすぎです』

『そうだよね……。わたしたちも一緒に頑張りたいよねっ』

『ライだって戦ってるのに! わたしたちだって負けてられません。獣人の力にも慣れてきましたし、きっと役に立てるはずです!』


 たとえ守られるべき子供であっても誰かを救いたいという気持ちは芽生える。

 彼女たちと出会うまでは気づくことさえなかったことだった。

 …………一方で。

 ゼブブと対峙するルンとビイの戦いは熾烈を極めていた。


「アハハハハッ! おもしれえな偽物ッ!!」

「お前こそ、なかなかやるじゃんかッ!!」



 ドッッッッ!!!



 堕天使同士の衝突は想像を絶した。

 変身者が子供だから被害はまだマシなものの、力を完全に制御したあかつきにはこの世界の頂点に君臨するだろう。

 それもそうだ。

 ほぼ完全な堕天使として目覚めたルンを止めるだけで多くの人の協力と犠牲が必要だった。王宮の裏口でのあの出来事を乗り越えられたのだって奇跡と呼べる。

 その二体の堕天使がぶつかり合っているのだ。

 ベルゼブブとアザゼルの名の通り、魔界が目の前に広がっているかのようだった。

 青髪のビイは、


「…………あわわわわ」


 近くの木の陰で怯えていた。

 向こう側でも人形を抱きしめたメアリーが王宮の陰に隠れている。どうも似た者同士みたいだ。……いや、メアリーの本性に似ているわけがないが。

 おいどんの不安はどうも杞憂で終わりそうだ。

 彼女たちはおいどんが思っているよりも、ずっと強い。

 子供とは大人が知らぬ間に成長しているものだ。

 大人たちが知るよりも、ずっと。



 ――――しかし、おいどんは知っている。エアラやゼブブ・それにメアリーの底知れぬ力を。



「きゃあっ!」

「ヒナタっ!?」


 予感は的中した。

 悲鳴を上げたヒナタの腕から出血している。致命傷ではないが、あの傷の深さは子供にとって相当の苦痛に違いない。

 優勢だったはずのリコたちを襲ったのは言わずもがなエアラ本人だった。

 影から影へと移り変わる速度が加速していく。それは残像という次元の壁を超越し、まるでその瞬間にエアラが何人もいるかのような錯覚を引き起こした。

 まさしく影の上に存在を許された影分身のようだ。

 唐突な人数の逆転に、リコとヒナタの連携はあっけなく崩された。

 自分の身を守るのに精いっぱいだ。


「いいセンまでいってたんだけどね。ぼくには敵わない」

「リッちゃん……っ!」

「だ、大丈夫です! それよりヒナタこそ!」


 二人の少女は自分の身よりも双方の身を案じた。その姿はなんとも儚く、もろい。

 一方で、


 ビュオオオオオオオオオオオッッ


「くうっ!?」

「アハハハッ!! さっきまでの勢いはどうしたよ、えぇ!?」


 堕天使同士の衝突にも形勢が傾きつつあった。

 ルンは紛れもなく堕天使の獣人だ。一時的にリュウから能力を奪われていたとはいえ、時間のたった今では半分以上もの力が復活している。

 とはいえ、たかが半分以上なのだ。

 オリジナルのゼブブの力には到底及ばない。

 ゼブブは狂乱していた。


「おうおう、耐えるねえ! だったらこれはどうかなっ!?」

「なっ!?」


 猛威を振るっていた暴風が徐々に濁っていく。

 毒霧な色をした風がルンに迫りつつある。


「俺の能力はさあ、『物体を腐食させる能力』なんだわあ。この空気に触れたものはシチューみてえに溶けていく!」

「ぼ、ぼくの翼がっ!」


 能力を乗せた風がルンの翼の先に浸透していく。それは内部から細胞を分解させ、まるでウイルスのように蝕む。

 痛みを感じさせることなく、優しく殺す。

 それがゼブブ固有の能力だった。

 

(助けなければ……)


 おいどんは二人の能力の弱点を知っている。なにぜおいどんが育てたといっても過言ではないからだ。

 おいどんが指揮をとればあの二人にだって対抗できる。

 けれど。

 けれど。



 おいどんは、立ち上がることすらできなかった。



 この世界で最強と謳われるまで強くなったのは、おのれの最弱を包み隠すためなのだから。


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