そうだ、プールをつくろう(3)
パシャアッ
「あははっ、やったな~! そりゃ~!」
「負けないです! やあ!」
「やりますね、リコちゃん! わたくしも頑張りますわ!」
「わたしもいますからねっ! それっ!」
夏。
冷た~いプールの水しぶきが、まぶしい太陽の光をうけてキラキラと輝かく。
バシャッバシャッと水をかけあう女の子たちの姿を、男が一目でも見たりすれば、間違いなくカメラのシャッターを何度も切ることだろう。
残念なことに、この場に居合わせている僕たちはそんなハイテクなシロモノなど持ち合わせていなかった。……いや、実際はそんなもの必要ないのかもしれない。
僕たち三人には、高貴で崇高な野望があるからだ。
その野望とは、生きとし生ける男の希望であり、人生の意味ともとれる伝説の、そう、ポロリ☆である。
この状況に至るまでいろいろなことがあったが、今はただ、純粋に、ポロリ☆を見たいから頑張って生きている。
『ポロリ☆計画』のリーダーである銀髪の忍者、シオンが作戦の内容を再度確認してくる。
「いいか、ウシオにリュウ。実行はプールで遊び終えた直後だからね」
「うん。遊び終えて油断しているところに、シオンが透明化の術を使って、女の子の水着のひもをほどくんだね」
「……それまで俺たちが女子たちの注意をひいていればいいんだな」
シオンの言葉に、僕とリュウは作戦の続きを確かめるように答えた。
完璧な僕たちの解答に、シオンは満足そうに笑顔でうなずく。
「うんうん、さすがだよ。じゃあ作戦を開始する直前になったらオレがウインクを二回するから、よろしくな」
「了解だよ!」
「……わかった」
作戦の再確認を終え、ふうっと息をつく僕たち。
そうこうしていると、プールで遊んでいるハナちゃんたちが呼びかけてきた。
「コーさま!、プールサイドなんかにいないでわたくしたちと遊びませんか?」
「そ~だよ! リュウもはやくきなよ~!」
「シオン君もどうですかっ?」
「おにいちゃんたち、遊びましょう!」
女の子たちに声をかけられ、顔を見合わせる僕ら。
そうだよね、せっかくなんだから遊ばないともったいないよね!
意思が通じ合ったのか、僕たち男はうなずき合ってプールに飛び込もうとした。すると、女の子たちが慌てて、
「コーくん、水着に着替えないとっ!」
「そうだよ、プールで遊ぶんだったら水着でしょ!」
「わたくし、コーさまの肉体美が見たいですわ!」
「おにいちゃんたち、はやく着替えるです!」
と、水着に着替えるよう促されてしまった。
確かに、このままプールに入るのは変だね。どうせなら、自分の好みにあったカッコいいやつにしようかな。
僕たちはこの世界で使える不思議な能力、服を何にでも変えられるという力をつかって水着に変身する。
「それっ!」
「……よっ!」
「よいしょっ!」
パアアアアアアッという力の抜けるような音とともに、僕たちの身体がまばゆい光に包まれていく。シュウウウウンッと光がちいさくなっていき、上半身をむき出しにした、男三人の水着姿があらわになった。
「へへーん、僕の水着姿はどうかな?」
「「「おおっ!」」」
まずは僕のほうに女の子たちの視線が集まり、歓声があがる。普段は黒い忍者服で隠されている白い地肌と、黒い水着が対照的でなかなか映えている。黒い水着の左右には、牙のようなするどい白いラインがデザインされていて、それがまたシャープな印象を与える。
さらに、ほどよく鍛えられた肉体が女の子たちの心をつかんだ。
「おにいちゃん、いつもと違ってすっごいカッコいいです!」
「そうだね~! いつもと違って男らしいね~!」
「こ、これって、褒められてるのかな……?」
『いつもと違って』と連呼され、普段がそんなにも残念なのかとショックを受ける。
ま、まあ、いいけどね! 気にしてないもんっ!
リコちゃんとナツミちゃんの評価に続き、次はイッちゃんとハナちゃんが口をひらく。
その表情はどこか熱を帯びていた。
「コーくん、混浴したときも思いましたけど、やっぱりいい身体ですねっ。なんだか興奮しちゃいますっ」
「そうですわね。わたくしも混浴の時にそう思いましたわ! コーさま、最高です!」
タラーッ
「あれ、二人とも、鼻血が出てるよっ!?」
「あっ、すみませんっ、つい」
「仕方のないことですわ。ああっ、いますぐ抱きつきたいです……。コーさま!(バッ)」
「ダメですっ! 抜け駆けはずるいですよっ!(ガッ)」
「ううっ!」
「あ、あははっ……」
イッちゃんとハナちゃんの珍しい鼻血や、謎の攻防を不思議に思いつつ、苦笑いを浮かべる僕。……その僕の隣では銀髪のバカが、ぐぬぬっと下唇をかみちぎりそうな勢いで、こちらをにらんでいた。
「なぜいつもウシオばかり……。ウシオ、コロス」
その声に反応し、女の子たちの視線がシオンにうつった。
「次はシオンくんの番だね~……って、え……?」
「あっ、銀髪のおにいちゃん、あたしとおそろいです!」
「そうだな、リコちゃん!」
キラっと白い歯を輝かせ、ウインクするシオン。
シオンの水着、それはある意味で伝説的なものだった。
リコちゃんの旧型スクール水着と対をなす存在、旧型の男子用スクール水着だ。男子水着の新旧の違いは、ふともも部分に布地があるかないか。それに加え、フィット具合が大きく異なることである。
まあ要するに、股の膨らみ具合がまったく違うのだ。
現にシオンの……、ソレは、すごく強調されていた。
うんうん。
ナツミちゃんが言葉を失うのも分かる。
にも関わらず、銀髪のバカは自信満々の表情で、彼の想い人であるハナちゃんに声をかける。
「ねえ、ハナ! オレの水着姿はどうよ!? ウシオなんかよりもすごい興奮するだろ!?」
「……はあ? バカなことをおっしゃらないでください。その水着姿でコーさまと比べないでもらえませんか?」
「ガーンッ!!」
本当に自信があったからか、いつもの罵倒よりもショックを受け、真っ白になっていく。
こいつは、今日一番のかわいそうな被害者なのかもしれない。
……合掌。
僕が冥福を祈っていると、ハナちゃんが顔をうつむけながら、こう付け足してきた。
「……まあ、その……、水着以外なら興奮しないこともありませんが……」
「……え……?」
「も、もう言いませんからね! さっきの一度っきりです!」
照れを隠すためか、そっぽをむくハナちゃん。
シオンがどこまで彼女の言動を理解したのかはわからないが、彼は打ち震えるほどの喜びを感じた。
「やったああああああっ! なんかわからないけど褒められた気がしたあああああああ! ハナああああああああああああ!(バッシャアアアアアアン)」
「ちょっ!? いきなり飛び込んでこないでください!!」
「ふんふんふんーん♪」
ハナちゃんのリアクションも気にせず、シオンは機嫌よく泳ぎ始めた。
シオンの水着チェックも終わり、ついにリュウの番がまわってきた。
……実のところ、僕はこいつが一番やばいんじゃないかと思っている。
モデルのような身長に、あの小顔。それに接近戦を得意とするリュウの肉体は、それはそれはひきしまっていることだろう。
女の子たちの視線がリュウにうつる。
それにつられて、僕もリュウのほうに目をやった。
「あわわ……」
「……なんだよ、ナツミ」
僕の思った通り、リュウの水着姿は見事なものだった。
小麦色の肉体はどこの部分を見ても、ひきしまっている。腹筋なんて六パックどころか、見事な八パックだ。パッキーンと割れている。
また、普段は囚人服に隠れて分からないが、すらっとした長い手足は女の子たちのこころをガシッとつかむだろう。さらに指も、美しいといえるほど細長く綺麗で、これまた女の子のハートをわしづかむスパイスとなっている。
……くやしいが、僕の完敗だ。
「……お、おい、大丈夫かナツミ?」
「……っ!」
リュウの姿を見て固まっているナツミちゃんに声をかけようと、彼が一歩近づいたその時。
バッシャアアアアアアン
激しい水しぶきをたたて、ナツミちゃんが気絶してしまった。
「……ナツミ!?」
「ナツミちゃん、大丈夫ですか!?」
「とにかくプールからひきあげましょう!」
「しっかりしてください、おねえちゃん!」
気絶して溺れかかっているナツミちゃんを、うんしょうんしょとプールサイドへとひきあげる。みんなの協力で、なんとか間一髪をまぬがれることができた。
……いや、それにしても、だ。
水着姿だけで相手を気絶させられるって、どんだけ美しい肉体なんだよ。
ま、まあ、ナツミちゃんが鼻血タイプじゃなくて、気絶タイプでよかったかもしれない。
真っ赤な血の海をつくらずに済んだのだから。
*
色々なハプニングはあったものの、楽しいひとときはあっという間に過ぎてしまい、気がつけば夕暮れ時になってしまった。
太陽がてっぺんにあったときは、干からびそうなくらいに暑かったものだが、今の時間帯はとても涼しい。一日中遊びつくした僕たちの間には、もう疲れたから帰ろうかという雰囲気が流れている。
――――そしてそのときは訪れる。
「さてみなさん、そろそろ切り上げしょうか!」
「「「ッ!?」」」
ハナちゃんがみんなに帰りましょうと提案してきた。
それと同時に、僕たち男の表情がパッと変わる。
そう、ついにポロリ☆の時が来たのだ。
僕たち男はそれぞれの顔を見合わせてから、シオンがウインクを二回とばす。
パチ☆パチ☆
――――さあ、革命が始まるぞ。
ザザーッ
女の子たちがプールから次々にあがっていく。
「楽しかったねっ」
「そうですわね。リコちゃんはどうでしたか?」
「人生で一番楽しかったかもです!」
「あらあら、それはよかったね~!」
和気あいあいと、楽しそうな会話が飛び交う。
確かに、これは隙だらけかもしれない。
この幸せを壊してしまうのは……。
……正直、相当心が痛む。
それはリュウもシオンも同じことだろう。
……だけど。
僕たちはやらなくちゃいけないんだ!!(主に己の欲望のため)
(透明化の術……)
スウウウッ
シオンの身体が消えていき、すぐに姿かたちが見えなくなった。あとは、僕たちが女の子の注意を引くだけだ。
僕はちらっとリュウのほうを見た。
リュウもこちらに視線を送ってくる。
どのようにして注意をひくかは、リュウと事前に打ち合わせていた。
やることは単純明快。
僕が『花火の術』をリュウに向かって撃ち、リュウが武器で花火を空に打つというものである。
つまり、僕が花火のもととなるボールを投げて、リュウがそれを空に向かって打ち、花火を咲かせるのだ。
さてと……。
「みんな、ちゅうも~く!!」
「「「ん???」」」
僕の大きな声に、前で歩いていた女の子たちが振り返った。
「僕とリュウが今からすごいことをします! ちゃんと見ててね?」
「「「は、はあ……」」」
突然のことに、眉をひそめる女の子たち。
ちょっと強引かもしれないが、仕方ないだろう。
それでは張り切っていきましょう!
「みんなを必ずびっくりさせるから! ねえ、リュウ?」
「……そうだな。この場にいる全員がびっくりするだろうな」
「じゃあ、いくよー! 花火の術!!」
ボッ!!
と、リュウにむかって火の玉が撃たれる。
それをリュウはなんということなく打ち返した。
((やった!!))
僕とシオンは心の中で喜んだ。
あとはポロリ☆する女の子たちを見届けるだけだ。
悟った顔で女の子たちのほうを向こうとした。
――――そのとき、僕の視界の端に、こちらにむかってくる火の玉がうつった。
「えっ!!!?」
バッと振り返ると、確かに火の玉がこちらにむかってきている。
このままでは僕が花火になってしまう!!
「豪火の術!!」
ゴオオオオオオッ
火の玉に炎の玉をぶつけ、なんとか相殺することに成功した。ぶつかった衝撃で無数の火の粉が飛び散る。
無数に散った火の粉の先に、うつむいたリュウの姿があらわれた。
作戦とは違うリュウの行動に、僕は不満をぶつける。
「おいリュウ、どうして真上に打ち上げなかったのさ。おかげで僕がきたねえ花火になるところだったじゃないか!」
「……っ」
「ん?」
「……ねえか……」
「なにさ? 聞こえないよ!」
僕が聞き返すと、リュウは顔をあげて答えた。
その顔は、夕焼けに照らされたせいなのか、真っ赤に染まっている。
「……俺にそんな恥ずかしいことができるか!」
「チキリやがったな、このチキン野郎!!」
ここぞというときに、やってくれたなこいつは!
「……あのときの俺はどうかしていた! こんな犯罪めいた事できるか!」
「貴様、男としての尊厳はないのか!」
「……お前らこそ、人としての尊厳はねえのか!」
「ぐっ!!」
ぐうの音も出ない……っ!
だが、僕たちはやってやるんだ!
僕たちがそうこうやりとりをしていると、
「ねえ~、なんの話をしてるの~?」
疑問に感じた女の子たちが会話に参加してきた。
「……ああ、実は――――」
まずい、ここでリュウが女の子たちにネタ晴らししたら、完璧な計画が崩れてしまう!
なんとかしないと!
そう思った矢先、突然リュウの声が聞こえなくなった。不思議に思っていると、リュウの口をふさいだシオンがスウウウッと姿をあらわした。
「ナイスタイミングだよ、シオン!」
「ああっ! なんとか間に合った!」
パチッとウインクをとばすシオン。
ヤロウ、カッコいいじゃないか……。
だが……。
実際のところ、この状況は非情にまずい。作戦の要となるシオンが姿をあらわしてしまった以上、他に誰も水着をほどく者はいない。
つまり、作戦はほとんど失敗したようなものだ。
だけど。
僕とシオンの瞳にたぎる炎は、まだ消えてなんかいなかった。
((必ずポロリ☆を成功させるんだ!!))
僕たちの気持ちが一つとなった、その時。
パチパチパチ
どこからか、そんな音が聞こえてきた。
誰かが拍手でもしているのだろうか。
もしも、僕たちの奮闘に対する拍手ならば、これほどまでに励ましになることはないだろう。
パチパチパチ
まだ拍手してくれているのかな。
なんともありがたいことだ。
僕とシオンはその音源のほうにむいた。
パチパチパチ
――――燃えている。
木製のプールに、火がついている。
「「HA?」」
僕たちの絶体絶命の状況に、さらなる試練が課される。
「も、も、も、燃えてますっ!!」
「みなさん、プールから離れてください! 危険ですわ!」
「わああああっ、あっつい!!」
ゴオオオオオオ
火の回りは早く、木製のプールが燃える勢いは一気に増す。
ゴオオオオオオオオッ!!
なにがなんだかわからないままプールから離れた僕たち一同は、目の前の光景に呆然とする。
「な、なぜに燃えてるの……?」
「……たぶん、さっきの火の玉の衝突が原因じゃないか? 飛び散った火の粉で火がついたとか」
「いやいや、そんなんじゃ燃えないでしょ!」
「……知らねえよ! 実際、目の前でファイアしてるじゃねえか!」
「あのさ、言いあってるところ申し訳ないんだけど……」
「「……なに(なんだ)、シオン?」」
「これ、放っておいたら森にまで火の手が回って、とんでもないことになるぞ?」
「「……」」
ゴオオオオオオオオオオ!!
炎が草木を食らって雄叫びをあげる。
……ただポロリ☆をしようとしただけのに、どうしてこんなことに。
炎の燃える音が、僕たちには悲しく空虚に聞こえた。




